In search of lost night vol.11

In search of lost night vol.11
第11回 : 雪国 Interview
アーティスト、DJ、オーガナイザー、クラブ・スタッフ、レーベル・オーナーへのインタビューや、ある一夜の出来事のレポートなどを更新していく連載【In search of lost night】。今回は、2025年1月15日に雪国主宰レーベルである”Pothos Records”よりリリースされた、雪国の1stEP「Lemuria」について。
今回、雪国のフロントマンである京 英一と、レコーディング・エンジニアのKenseiOgata、そして雪国の世界観を構築する上で大きな役割を担う、ドラムスの木幡 徹己の3人にインタヴューを実施。「Lemuria」のサウンドに隠された秘密に迫りました。
INTERVIEW :雪国(京 英一、木幡 徹己)、Kensei Ogata

冷ややかで透き通った、冬の空気のようなサウンドを奏でるインディー・バンド・雪国が、1stEP「Lemuria」をリリースした。昨年6月にリリースされ、インディ・シーンに大きな衝撃を与えた1stアルバム『pothos』に次ぐ今作は、よりミニマルに、より緻密に作り上げられており、インタヴューをしていく中で、雪国の中でも記念碑的な作品になるのではないかと感じた。
2003年生まれ、東京・郊外で育った彼らが奏でる音楽には、情報で溢れる社会へのささやかな反抗を垣間見ることができる。このEPを聴けば、美しいだけではない、ただならぬ信念を感じることができるだろう。
取材&文 : 菅家拓真
撮影:岩崎 眞宜
後戻りしなくていいくらい、狙って録りました
──1月15日に雪国の1stEP「Lemuria」がリリースされました。前作から引き続き、Ogataさんがレコーディングをしていますね。雪国とOgataさんの出会いについて訊かせてください。
京:Ogataさんにメールしたのが始まりです。実は『pothos』の前に幻のEPがあったんですけど、その時にドラムの録音をOgataさんにお願いしました。
Kensei Ogata(以下、Ogata):その時はドラムを録るだけで、ミックスとかギター録りは自分たちでやると言っていて。だから僕はスタジオの手伝いだけする感じでした。
京:当時はできるだけ安く作ろうとして「宇宙ネコ子」や「17歳とベルリンの壁」が利用していた〈STUDIO CRUSOE〉でドラムとベースのレコーディングをOgataさんにお願いして、それ以外は自分たちで録りました。6曲くらい録ったんですけどうまくいかなくて、 “海を忘れて” のシングルしか出せなかった。ありがたいことにあのシングルは結構話題になったんですけど、同時に、レコーディングはお金と時間をかけないといけないなと思いました。
──Ogataさんから見て、雪国の活動はどう映っていますか?
Ogata:自主性が凄いと思ってます。アルバムが出る前は怯えているようにも見えたんですけど、いざ完成したら自分たちでリリパを主催したりしていて。そういう姿勢があったからこそアルバムも完成したんだなと。
──MVも自分で作ったんですよね。
京:そうですね。自分で勉強して作りました。作曲者本人が作る方がイメージが伝わりやすいんじゃないかな。
木幡:たぶん、委託するより良くなってるよね。
──「Lemuria」の制作はいつ始まりましたか?
京:『pothos』の最後のレコーディングが2023年の12月だったんですけど、そのギリギリまで『pothos』の曲を作っていて。
木幡:一週間前とかまで作ってたよね。歌詞も前日にできるみたいな(笑)。
京:それで、レコーディングやアレンジでギターを触る時間が増えると自然と曲ができる。そこでできたのが “Blue Train” と “時間” です。だから『pothos』の制作の後半と並行して「Lemuria」の制作が進んでました。
──曲の構成がとてもシンプルだと思いました。デモの段階では他のメロディーが入っていたり、コーラスの部分を歌っていたり、みたいなことはありますか?
京:今回は最初から必要な構成が見えていたので、デモの段階からコンパクトでした。
木幡:『pothos』の時はホワイトボードに曲の構成を書き出してから削ったりしたんですけど、「Lemuria」ではそういうプロセスは無くなったし、プラスしていく工程は全く無かったです。
──なるほど。Ogataさんは無駄を削ぎ落としていく雪国のスタイルを、エンジニアとしてプレッシャーに感じることはありますか?
Ogata:あります。音数が少ないとごまかしが効かないので怖いんですけど、今回は後から帳尻を合わせるみたいなことはしないと決めて挑みました。『pothos』も一応理想の音を狙って録ってはいたんですが、ミックスした音源を聴くと録り音からは乖離があって、帳尻を合わせてる音になってしまったなと。
京:今回の大事なところですよね。『pothos』の時はすり合わせも足りてなかったけど、後戻りできないっていう自覚も足りてなかったかも。
Ogata:録音した後にミックスで帳尻を合わせた後にできたのが『pothos』だとしたら、その音像を最初から狙って鳴らして録音しよう、というのが今回の「Lemuria」です。
木幡:『pothos』をリリースした後にサイゼリヤで決起集会をして、次はもっと考えて録音しようという話にまとまりました。Men I Trustみたいにドラムを極限までミュートして、プレーンな脱力した音を録っていけば理想の音にになるんじゃないかなって。
Ogata:Men I Trustの音を目指すならということで、ドラムの倍音を削りまくって、完全に狙い通りの音を作りました。

木幡:音色に対しての不満は一切なかったよね。
京:うん。俺はギターの音が最高すぎて勝ちを確信した(笑)。
Ogata:『pothos』の時は、リテイクのことを考えて録音段階では空間系のエフェクトをかけていなかったんですが、今回はエフェクトをかけながら録りました。後戻りはできないけど、もう戻らなくていいくらい確定してたので。
──かなりストイックにレコーディングに挑んだんですね。サウンド的なコンセプトも訊かせてください。
京:音像は主に(木幡)徹己が決めてます。
Ogata:そうだね。ミックスの時も徹己君が一番言ってくれる。
木幡:ドラマーがいうのも珍しいですよね。でも、ドラマーだからこそ客観的に聴けてるんじゃないかな。
Ogata:俺と京君でミックスしてると、2人ともギタリストだし、客観性がなくなる瞬間がある。そういう時に見てもらうとバンド全体の客観性が保たれる感じがするよね。
木幡:僕はマイ・ブラッディ・ヴァレンタインとかレディオヘッドとかを曲として見ることができなくて。ギターの尖った音やプレゼンス感を削りたくなってしまうんですよね。自分の音楽のルーツがUKなので、雪国としてはアンサンブルで抑揚をつけて、優しい尖り方をしたい。
京:オルタナティヴ・ロックが1を基準として1以上を出す音楽だとしたら、雪国は0と1の間で、1をピークにして抑揚をつける、というのを作曲段階から意識しています。