2013/05/20 00:00

the chef cooks me ~真っ当なポップス~

the chef cooks me

2003年結成、度重なるメンバーの脱退、加入を経て、現在はシモリョー(Vocal、Keyboards、Programming、Songwriter、etc…)、ニーチェ(Guitar)、ジマ(Drums、Percussion)、ウラリョウイチ(Bass)の4人組として活動中。2012年にASIAN KUNG-FU GENERATION主催のライヴ・イベント『NANO-MUGEN CIRCUIT』や同イベントのコンピレーション・アルバムに参加する等、結成から10年という節目を超えたいま、よりアグレッシヴに活動の場を広げてきているようだ。今回、OTOTOYの企画するイベント『お腹が痛い Vol.04』にて、彼らのライヴを初めて体験した。

 ステージにはサポート・メンバーを合わせると10人。このバンドを主宰するシモリョーが指揮を執り、各プレイヤーが一堂に音を鳴らす遊戯にも似た瞬間はいわばバンドのイントロダクション。ショーの始まりのそれについて、バンド名がバンド名なだけに、“前菜のようなものか”、と解釈してしまったのはあまりに安直かもしれないが、せっかくの10人編成、フルコースのご馳走をお腹いっぱい堪能した後で、“お腹が痛い”と、このイベントの真髄(なのではないか?)を確かめたくなるところである。そんな筆者のしょうもない戯言に込めた期待感とは当然無関係にステージは進行していく。  管楽器、ピアノが加わったサウンド・アレンジメントは、90年代Jポップ・コンシャスなカラフルなムード。それに呼応するかのようにギターのカッティングも爽快で、ハッピーな空間が演出されていた。演奏自体にも安定感があり、多くの楽器がひしめくなかでもコンパクトにまとめられていたのには好感が持てた。エフェクターやシンセの捌き方からみても音色のチョイスに凝っている印象があり、ウインド・チャイムもあくまで譜面に対して忠実に鳴っているように聞こえたのも良かった。  そんななかで残念だったのは、歌声があまりよく聞こえなかったことだ。コーラスも含めて歌や声がもう少し聴こえてくると印象も変わったかもしれない。また、後半途中のMCでは、なにか世迷言を並べているようで、そこから続くパフォーマンスがこれまでの流れに関係なく不自然かつ冗漫に感じて抵抗があったのも確かだ。観客は盛り上がっていたし、もしかしたら体制批判や熱のこもったメッセージ、喜怒哀楽を表現することが、このバンドにとっての本懐なのかもしれないが、少なくともこのバンドの魅力として私が感じたのは、真っ当なポップスを高品質で届けることの出来る可能性だ。次のアルバムに向けて作られた新曲と思われる、前半に演奏した楽曲のような手触りを求めたい。(肥後幸久)

the chef cooks me ~音楽と生きたいという強い意志~

the chef cooks me

この日、the chef cooks meことシェフは3組目の出演。サックス/トロンボーン/トランペットの管楽器3人と、キーボード、コーラス2人のサポートメンバーを加えた10人がステージ上に並ぶ姿は、これから楽しいことを起こしてくれることを十分に予感させた。

 客席に背を向けたシモリョーが各楽器へと指揮を振り1曲目の「Golden Target」で幕が開ける。ポップスとオーケストラの融合、なんて簡単には言い表せないが、正に音楽の楽しさを体現したかのような楽曲で1曲目から会場を盛り上げていく。前を向き歌いながらも後ろのコーラス隊や右の管楽器隊に手を振り指揮を振る姿は、まさにTarget=目標へ先導するようで観客も引き寄せられていく。新曲だという2曲目、まさかの歌詞忘れというハプニングが起きつつも“ototoyとい~”と主催者の名前で歌詞を埋めるという機転で笑いを起こす場面も。コーラス隊とのハーモニーが美しい曲だった。次も新曲だったが、<ケセラセラ(なるようになる)で行こう>という歌詞が繰り返されるのが印象的だった。  「ototoyって何か知ってます? 音楽配信サイトだけど、俺はまだダウンロードしたことない。クレジットカード怖いし(笑)というかネットが怖い(笑)」と、和ますようなMCが始まったかと思えば、突然「音楽のジャーナリズムなんかに、ネット上の戯言なんかに負けない!」と感情をあらわにするシモリョー。そのままの勢いで「Song of sick」を、<伝える術は歌だけ ジャーナリズムなんかじゃない>、と歌詞を改変し、声が裏返りそうになりながら叫び歌っていた。楽しいだけでは生きていけない辛さ、鬱屈とした気持ちを、それでも音楽と生きたいという強い意志とバイタリティで撥ね退けているようだった。  お前等も一緒について来いと言わんばかりに、客席を歌い歩きゴミバケツを被りだすパフォーマンスと、それに応えるかのように最高潮に盛り上がる会場、ラストに「Dumping song」を演奏し大きな余韻を残して駆け抜けていった。

 秋頃に新譜をリリースするというthe chef cooks me、今から待ち遠しく、またその勢いを止めず走り続けて欲しい。(大谷匡史)

<セットリスト>
1. Golden target
2. 新曲1
3. 新曲2
4. Pascal&Electus
5. 適当な闇
6. Song of sick
7. Dumping song

[ライヴレポート] Deerhunter

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