
ミュージシャン、ドラマー、そしてフォトグラファーとして活動する高西知泰のソロ・ユニット、Flower Triangle。2000年に半野喜弘がA&Rを務めたレーベルcurrentよりデビューを果たし、日本のエレクトロニカ黎明期より活動を続ける彼が、5年振りの新作フル・アルバム『march』をリリース! 本作は、写真家として「風景」「記憶」をキーワードに制作されたもの。 色々な楽器を演奏/録音しては、エディットを繰り返し、ゲスト・アーティストの録音を経てさらにリアレンジを繰り返しながらトラックを制作。 アンビエントを基軸に、ヒップホップやダブ等の要素をアーティスト独自の解釈で表現し、新しい音楽の作品世界を構築しています。写真家が奏でる電子音、生楽器、声が鬱然と織り成す6篇の風景音楽詩。
FLOWER TRIANGLE / march
1. butterfly
2. pulsation
3. season
4. one drop
5. tamayura
6. birds
7. River Or The Moon ★
★まとめ購入された方には、ボーナストラックとして、naph+畠山地平+高西知泰+ellyによる即興バンドAll The Flogs Are Our Week Endの未発表音源「River Or The Moon」をプレゼント!
高西知泰 INTERVIEW
この夏より広島を拠点に活動している電子音楽家、Flower Triangleこと高西知泰が6年ぶりとなるアルバム『march』をリリースした。耳あたり抜群な音の質感であるとともに、大らかな雰囲気が漂うエレクトロニカ作に仕上がっており、このアルバムを聴いているとたまらない心地よさにすっぽりと包まれる。彼は写真家としても活動しているが、だからこそこの柔和な世界観を生み出せるのかもしれない。本作の聴後感は、時間を気にせずに自分の好きな風景写真をパラパラと眺める感覚に近い。
『march』というタイトルから連想できるとおり、このアルバムには孤独、悲しみも込められている。だけど、どちらかと言えば残るのは温かさや希望のように感じられた。そして、現実に立ち向かったり抗ったりする力強さもある。インストゥルメンタルが中心とはいえ、さまざまな思いを落とし込んだ繊細なサウンド。それは彼の性格をそのまま表わしているのだろう。インタビュー時の穏やかな語り口にそんなことを思った。宮内優里、cokiyu、miaouあたりが好きなリスナーはもちろん、多くの人に聴いてほしい一枚だ。
インタビュー&文 : 田山雄士

何年かかってでも、できたときに出せればいいや
——音楽家としての最初のリリースは半野喜弘さんがA&Rを務めたレーベル、currentからの音源になるんですか?
そうですね。2000年に本名名義で出したのが最初です。ほぼ今のエレクトロニカに近くて、そのときは大学生でした。
——以前からエレクトロニカが好きだったんですか?
いや、それまではずっとバンドでドラムを叩いてました。当時はオルタナ系のバンドに加えて、打ち込みが入ったCORNELIUSのようなバンドもやってて、そのCORNELIUSっぽい方のバンドは他のメンバーが打ち込みなどで曲を作って持ってくるスタイルだったんですよ。当時、僕はそういうことがまったくできなかったんですけど、メンバーがやってるのを見てるうちに「面白いな」って。一応、小っちゃい頃にエレクトーンをやってたから、基本的な鍵盤は弾けたんです。それで影響されるままに打ち込み機能付きのローランドのシンセを買ったのがエレクトロニカに入るきっかけですね。
——そこで興味を持って、今の音楽性にシフトしていったんですね。
はい。ちょうどAphex Twinやμ-ziq、Luke Vibertなんかが盛り上がってきてるときに自分もシンセを始めたんです。日本だとCORNELIUSもそうですし、TRANSONIC RECORDS(以下、TRANSONIC)も好きでした。TRANSONICのレーベルのライヴを広島から東京まで観に行ったこともありましたね。
——そのTRANSONICのライヴって、誰が出演してたんですか?
たしかレーベル・コンピのリリース・パーティーで、FANTASTIC EXPLOSIONや岸野雄一さん、常磐響さんといった方々が出演されてましたね。フィッシュマンズ、竹村延和さん、半野さんも同じ時期によく聴いてました。学生だったし、バイトして入ったお金を全部そういう人たちのCDにつぎ込んで(笑)。その頃にどっぷり聴いてた音楽は、今も変わらずに大きな影響を与え続けてくれていますね。

——半野さんと知り合ったのもそのタイミング?
そう! CDに本人の窓口的なメールアドレスが載ってたんですよ(笑)。最初は本当に一ファンみたいにメールを送りました。そしたら、わりと返信をしていただけて、嬉しかったですね。僕、大学のゼミで現代文化論というのを取ってたんですけど、そこで半野さんの『詩人の肖像』っていうアルバムをテーマにプレゼンをしたこともあるくらいのファンでしたから。それで「実は僕も音楽をやってるんです」という話をして、自分の音源が入ったMDを渡したんです。
——その頃にはもう音楽家の道を考えてましたか?
漠然とですが、考えてました。ライヴ・ハウス、クラブを問わず、いろんなイベントに出てましたよ。パンクの人たちといっしょにやってたりもしてた。結局、2つのバンドはメンバーが就職の時期に差しかかったこともあって、終わっちゃいましたけどね。
——今の自由な活動スタイルはそこで培われたのかもしれませんね。
そうかもしれないですね。フィッシュマンズの存在も大きいです。今回のアルバムのタイトルは『march』なんですけど、実は仮の段階では『SEASON』だったんですよ。僕なりにフィッシュマンズの「SEASON」を作ってみようと思ってて。
——そうだったんですね。出来上がったアルバムには「season」という曲が収録されてて、10分弱の大作になってますけど、これが最初に作った曲だったりしますか?
そうです。「season」は6年前に作り始めた曲ですね。時間が経つうちにいろいろ変わって、こういう形に落ち着きました。過去3枚のアルバムはパッと作ってパッと出してきたし、次は時間をかけてみてもいいのかなって。「何年かかってでも、できたときに出せればいいや」みたいな感覚になってきたんですよね。
リズムの乗せ方がズレてても、大きなうねりの中でハマる
——アルバムに大らかな空気を感じるのはそのせいかもしれないですね。前作とまったくテイストが違うじゃないですか。
違いますね。音は変わらずにやわらかいんだけど、以前はテンポが速かったりリズムが攻撃的だったりするものが多かった。
——速いと言える曲って、今回は「pulsation」くらいですよね?
はい。自分の中でほとんど意識はしてなかったんですけど、結婚とか年齢とかが影響してるのかもしれないです。
——年齢を重ねると妙な落ち着きって出てきますよね。子供っぽくありたいところはずっとそのままがいいんですけど。
そうですよねぇ。早く息子と野球がしたいんですよ(笑)。プロ野球とかは観ないんですが、自分でやるのが好きで。

——観るのもいいけど、やるのも楽しいですよね。前作との変化で言うと、歌が収録されてる「birds」が印象的でした。歌を入れたのは初めてですか?
初めてですね。男性の方は大阪でお芝居をやっていた今西(良次)くんという人で、ヴォーカリストではないんですよ。音楽とのセッションで詩を即興で詠むパフォーマンスなんかをされてて。
——ライヴ・ペインティングのようなニュアンスですか?
そう、その詩ヴァージョンみたいな。今回はヒップ・ホップを1曲やってみたかったんですよ。女性ヴォーカルがいて、男性ラッパーがいる構図。あれをやりたかった(笑)。昔からヒップ・ホップのリズムがすごく好きなんですよね。サンプリングのリズムって人力では出せないグルーヴで、ドラマーにとっては心地よかったりするんです。ヒップ・ホップっぽいリズムの曲はこれまでも作ってたんですが、ラップや歌ものはやってなかったし、チャレンジしてみました。
——自分が歌いたい気持ちはなかったんですか?
ないですね、歌はヘタクソなので(笑)。今西くんは昔から知ってたんです。あるとき彼のパフォーマンスを観て、自分の曲で歌ってほしいなって思った。いわゆるヒップ・ホップのラッパーの言葉とは根本から違うのがよくて、リズムの乗せ方がズレてても、大きなうねりの中でハマる面白みがあるんですよね。この曲の女性ヴォーカルの方の江口(智恵)さんも、イベントで対バンしたときに意気投合して、その場で「今度歌ってください」と声をかけました。

——「pulsation」も面白い曲で、ゲーム・ミュージックっぽいですよね? ベースが歌ってる感じが。
あー、ゲーム・ミュージックは好きですね。僕は今のゲームではなくて、ファミコン世代なんです。8ビットの音が好き。ちなみに、あのベースっぽい音はギターで弾いてるんですよ。エフェクトは特に噛まさずにコンプかけるくらいで、低い位置で単音弾きしてます。
——2005年にリリースされたアルバム『miniascape』の中の「clockwork egg」もそういうサウンドでしたもんね。
まさに(笑)。僕、今でもヤマハのFM音源がメインなんですよ。80年代に出た有名なYAMAHA DX7というシンセがあって、ファミコンとか当時のゲーム機の音ってその技術で出てたんです。それが好きだから、今のシンセはどうしても苦手。学生時代に中古で買ったその廉価版のラック型のやつをいまだに使ってますね。電子音はすべて手弾きです。
——生音がかなり多いエレクトロニカですよね?
ギターもベースもサンプリング素材程度には自分で弾いてますしね。ドラムはスタジオに行って、マイク立てて録音してます。ピアニカはライヴでもメインで使うようになってきてるし、コルネットっていうトランペットみたいな管楽器も僕が演奏してます。
——多才ですね。生音がちりばめられてるおかげかもしれないですが、アルバムからは希望や温かい眼差しを感じました。高西さんがめざした青写真はどういったものだったんですか?
僕は写真をやってるので、最初の段階では写真と音が合わさったようなものをイメージしてました。あとはさっき言ったフィッシュマンズの「SEASON」っていう曲の影響ですね。それに加え、季節がめぐる感じを出したかったというか。そのくらいです。あまり深く考え込まずに作ってました。
力強さも意識的に込めてる
——なるほど。アルバムのタイトルは震災と関係してますか?
してます。実は2011年の3月11日までにはほぼアルバムが完成してたんですが、1曲目の「butterfly」のヴォーカル録りだけがまだだったんですよ。「butterfly」は天野奏さんという女性に歌ってもらってて、徐々にイメージも固まってきてたんですけど、震災後に彼女から「これまでのはナシにして、今歌いたいものがあります」と連絡が来まして。新たに詞と歌を送り直してくれたんです。
——じゃあ、ガラッと違う内容になったと。
変わりましたね。震災を受けて、すごくシンプルで力強い言葉に。
——タイトルも震災後に変わったということですか?
そうですね。「birds」の歌詞はだいぶ早くに出来上がってたんですが、3.11のあとにあらためて聴き返してみると壮絶で、聴いてたら涙が出てきちゃって。だから、それまでは『SEASON』という仮タイトルが付いてたんですけど、ちゃんと考え直そうって思ったんです。『march』には「3月」以外にもいろんな意味を持たせてるんですよ。「行進」とか「国境」とか、「march of time」だと「時の流れ」という意味になったり、あと、イギリスの古い慣用句で「3月のウサギのように気が狂っている(Mad as a March hare.)」というのがあって、『不思議の国のアリス』の「三月ウサギ」ってキャラクターの由来らしいんですけど、そのテイストも含めてたりします。
——タイトルもサウンドも、今に合ってると思います。こんなにやさしい音のエレクトロニカ作もひさしぶりに聴きました。
ありがとうございます。でも、そういうやさしさの反面、「march」って実はマッチョな語源があるらしいんですよ。「国境」って争いごとがあって決まるわけじゃないですか。「行進」も戦いに行くということ。つまり「デモをする」の意味もあるんです。
——深い意味が込められてて、いいですね。
音の耳あたりはすごく穏やかでやさしいんですけど、僕の中では狂気だとかそういった力強さも意識的に込めてるんです。

——音楽もそうですし、高西さんの撮る写真にも強い意志や温かい目線を感じます。最後に写真の話もお聞きしたいんですが、写真家として活動するようになったのは、音楽よりもあとですよね?
あとからですね。23歳のときです。それ以前は写真を撮るのも撮られるのも見るのも、まったく関心がなかったんですよ。そんな中、本屋でバイトをしてたときに、森山大道さんのエッセイがたまたま目に入ったんです。で、パラパラと読んでみたらすごくよくて、その場で買ったっていう(笑)。最初は森山さんの写真よりも文章が面白かったんですよね。もともと写真には興味がなかったので、文章からでした。森山さんの文章を踏まえて彼の写真を眺めるにつれて、いつの間にか「写真っていいな」と思えるようになってましたね。
——それで自分で撮るようにもなったと。
そうなんです。森山さんがコンパクト・カメラ、モノクロ・フィルムを使って街を撮るというスタイルだったから、僕なんかでも入りやすかった。きっかけが森山さんという人はけっこう多いらしいですよ。僕の写真家としての活動っていうと、最初の方は仲間内でグループ展とかをやってて、初めて個展をやったのはカフェ・バーみたいなところでした。そういうことをやってるうちに自分の写真を「いいね」って言ってくれる人が増えてきて、2005年にはポストカード・ブックを提案してもらえたんです。初めての公式作品がその8cmCD付きの『トレモロ』ですね。ちょうど同じ頃に、MiO写真奨励賞っていう写真公募展でグランプリをいただけたのも大きかったです。
——音楽と並行して、写真もどんどん本格的な活動になっていったんですね。
音楽と写真、どっちも本気でやってるんですよ。僕としては写真の方でも、音楽と同じように純粋な評価をしてもらえたら嬉しいですね。
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PROFILE
Flower Triangle フラワートライアングル
(aka TAKANISHI Tomoyasu 写真家 高西知泰)
ミュージシャン / フォトグラファー
1978年愛知県生まれ。広島、大阪、東京と居住を移し、現在、広島在住。幼少の頃よりエレクトーンで音楽の基礎を学び、14歳でドラムを始める。1998年より広島で本格的に音楽活動を開始、ドラマーとしての活動を続けながら電子音楽の作品制作も始め、2000年、半野喜弘(Ragiq)に見出されソロの音楽作品でcurrentよりアルバム・デビュー。2001年から2007年まで大阪で活動する。この間、currentより2ndアルバムリリース後、FLOWER TRIANGLE名義でnovel soundsよりアルバムをリリース。クラブ、ライヴ・ハウス、ギャラリーやカフェでのライヴ、映像作品や短編映画への楽曲提供/制作や、展覧会での音楽作品の発表など、精力的に活動を続ける。 2007年より東京在住。ドラマーとしてもバンドAll The Frogs Are Our Weekendで活動し、2010年6月kiti labelより1stアルバム『flop』リリース。同年8月、ライヴ・アルバム『frogs in the soup』をiTunes 限定リリース。2003年以降、写真家としても活動しグループ展、個展、イベント等で写真作品を発表。 2005年CD付きポストカード・ブック「トレモロ」発表。 2006年MiO写真奨励賞グランプリ受賞。 2007年アムステルダム写真美術館とKLMオランダ航空主催によるPaul Huf Awardにノミネートされる。 最新作は、音楽とのインスタレーション写真展「has gone」(2011@ルーニィ247フォトグラフィー)。2011年 SNAP-SHOTシリーズにより、Photoカードが25点、販売開始となる。