2019/05/13 21:00
「正直に言うと、私は飽きていた。私の作った曲を私が歌うことに。」
シンガーソングライター、白波多カミンが5月12日(日)下北沢 風知空知で開催したバースデーライヴを終えた翌13日朝に公開したブログの冒頭には、そう綴られていた。
昨年に続き、白波多カミンの誕生日当日の5月12日に開催されたバースデーライヴ「1988 vol.2~all cover song Live~」は、タイトルが示す通り、全曲カバーで構成されたライヴとなった。そうしたコンセプトで行った理由と心境を吐露したのが、冒頭の言葉から始まるブログだ (※このページ下部に改めて転載している)。
初夏の陽気となった日曜の午後早くから行われたライヴは、開演時間に相応しく「ランチ」(くるり)からスタートした。1年振りの下北沢 風知空知でのワンマン・ライヴに登場した白波多カミンはこれまで見たこともないくらいの長髪を右肩の方に下ろしていた。ギターを弾きながら、のんびりとした穏やかな空気が漂う中、大瀧詠一作詞・作曲、吉田美奈子やラッツ&スター等多くのアーティストが歌った「夢で逢えたら」へ。曲が終わるごとに観客たちは皆、どんな曲が歌われるのかを静かに見守っている。
そんな視線の中、「Automatic」(宇多田ヒカル)「守ってあげたい」(松任谷由実)「さすらい」(奥田民生)、さらに「Romanticが止まらない」(C-C-B)と有名曲を披露(「Romanticが止まらない」を弾き語っているアーティストを始めて見た)。「守ってあげたい」ではところどころユーミン調に聴こえる歌いまわしがあるなど、曲ごとの思い入れが素直に出ているところが、何か微笑ましく感じられた。
その一方では、「人形が好きなんだ」(山本精一)、「プロポーズ」(笹口騒音ハーモニカ)「最後の朝顔」(ゆーきゃん)といったインディーズ・アーティストの曲も歌われた。オーバーグラウンドとアンダーグラウンドが混在したセットリストは、そのまま白波多カミンというアーティストの成分表示をされているようで、興味深かった。また、2曲続けて歌われた「いつもそこに君がいた」(LAZY LOU's BOOGIE)「GHOST SWEEPER」(奥井雅美)、本編最後の「君をのせて」(井上あずみ)といったアニソンも、そのルーツをうかがい知れるコーナーとなっていた。
アンコールの拍手が起こっている間、バスドラとスネアがセッティングされたので、ゲストがいるのかと思ったのだが、登場したのは白波多カミンのみ。なんと、ドラムセットに座り“叩き語り”でツジコノリコ「Magic」のカバーを披露して、「どうもありがとうございました! とても幸せです!」と、満面の笑顔で深々と会釈してステージを終えた。1時間半のライヴの間、彼女が何を想いながらステージ上にいたのか。改めてブログを読んでみてほしい。
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正直に言うと、私は飽きていた。
私の作った曲を私が歌うことに。
もちろんすきでやってる。私の場合、ライブは日々の生活とは全く異質のもので、私を自由にする。ライブは実際に体がある場所から自由になることだ。「行きたい場所」と呼んでいるが、精神の中に場所みたいなところがあって、そこに行くために、丁寧に何曲かを歌い、そこにたどり着く。
最近は、その道順を知ってしまって、見慣れた道を進むのに飽きてしまったみたいだった。
長い間歌って培ってきた勘とすこしの技術とたくさんの集中力があれば、そこに行ける。
と思っていた。
カバー曲だけのライブを、しかもワンマンライブにしようと思ったのは、自分の曲を歌うことに飽きていたからだ。
せっかくなら誕生日にしてやろう。
それがいい。
と、思ったのだった。
決めた時は心からわくわくした。自分へのご褒美だ。好きな曲だけを歌える日なんて、最高だ。
しかし、本番前日の私は、猛烈に後悔していた。
「なんてこと決めちまったんだ。うあーー!!やべーー!!くそーー逃げたい!!」と思っていた。
他人の作った曲だけでライブをすることは、自分の作った曲を歌うライブとは全く違う行為だと気づいた。
今回の場合、
路上とか、流しとかでリクエストを聞いて演奏するのではない。
“私のライブ”で全曲カバー曲なのだ。
“私のライブ”である必要があると思った。白波多カミンのワンマンライブなんだもの。
そして、選曲をした曲を歌う必然性が必要だと思った。全曲に必ず。
好きな曲だからという理由の先に答えがある気がした。
どうすればライブが成立するのか、わからないまま当日をむかえた。
ライブが始まった。
ライブ中の私の頭の中はたくさんのことが並行していた。
あぁ、この曲は素晴らしい…このフレーズが最高なんだ。この曲はこのコードが、あぁ、そう、エロい。あ、この曲をよく聴いていたのは幼い頃だ、場所は車の中だ。この曲を前に歌ったのは、友達の結婚式だった。などなど。
お客さんが見える。聴いてる。私は歌っている。
私の個人的な記憶や気持ちが全ての曲にあり、それが私を支えて時間はあっという間に過ぎた。
ライブが成立していたか。
それは、分からない。
お客さんが決めることだ。
ただ、常に一瞬一瞬に夢中でいたことは確かだ。たとえば、「何故私はこの曲を歌っているのだろう」という気持ちになったりは一切しなかった。
それはすごく幸せな体験だった。ものすごく。申し訳ないくらいに。来てくれた人ありがとうね。一緒に居てくれて。聴いてくれて。うれしかった。
こうして、私の誕生日は終わった。
自分の歌を歌うことに飽きていた理由が分かった気がした。
自分自身に「白波多カミンはこういう歌を歌う人」というイメージがあり、その中から自由になれずにいたことなのだと思った。
確かに分かったことは、「行きたい場所」はひとつではないということ。また、道順は無数にあるということと、道でなくても進んで良いということ。
もう~飽きちゃったんだ~なんて言わないよ絶対~
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取材・文:岡本貴之
〈白波多カミンBirthday Live「1988 vol.2」~all cover song Live~〉
2019年5月12日(日) 下北沢 風知空知
〈セットリスト〉
1. ランチ(くるり)
2. 夢で逢えたら (大瀧詠一)
3. Automatic(宇多田ヒカル)
4. 人形が好きなんだ(山本精一)
5. Romanticが止まらない(C-C-B)
6. 守ってあげたい(松任谷由実)
7. いつもそこに君がいた(LAZY LOU's BOOGIE)
8. GHOST SWEEPER (奥井雅美)
9. さすらい(奥田民生)
10. プロポーズ(笹口騒音ハーモニカ)
11.Hyperballad (Björk)
12. からっぽの世界 (ジャックス)
13. 最後の朝顔 (ゆーきゃん)
14. 君をのせて (井上あずみ)
EN. Magic (Tujiko Noriko)
・白波多カミン オフィシャル・ウェブサイト
http://shirahatakamin.com/
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