
2000年以降、テクノ/エレクトロニカはテクノロジーの発展も伴い急激な変化をしてきた。それゆえはやり廃りの激しいジャンルであるにも関わらず、今回紹介するPROGRESSIVE FOrMは10年近く時代に流されず、また逆行する事もなく、一定の距離を保ち、常に革新的なアーティストを発掘してきたレーベルだ。最近の楽曲はもちろんの事、レーベル黎明期の作品は今聴いても驚くほどの斬新なアイデアと非常に高い完成度を持っている。
そのレーベル・オーナーであるnik氏にレーベル設立のきっかけや、坂本龍一やのミトが絶賛するとの出会い、そしてめまぐるしく変化する音楽業界の中、革新的な作品をリリースし続ける秘訣について聞く事ができた。
インタビュー&文 : 池田義文
自信を持ってリリースできるクオリティの高いものを出していこうと考えていました。
—2000年にPROGRESSIVE FOrMを設立したきっかけを教えてください。
nik : 2000年当時、京都外語大に音と映像で面白いことをやっている大学生がいるという話を聞いて、早速デモをいただいたんです。それが青木孝允君と高木正勝君のユニットであるなんですね。そのデモに感銘を受けて、これは絶対に形にしようということでレーベルを始めました。
—PROGRESSIVE FOrMの由来は?
nik : 特にないんですよね(笑)。当時1文字だけ小文字とか、そういうのがおもしろい風潮にあり、Rを小さくし「PROGRESSIVE FOrM」というのがしっくりきたんです。
—2000年当時のエレクトロニカ・シーンはどのような状況でしたか?
nik : 日本ではciscoさんがRIVERTHというレーベルがあったり、HEADZさんが海外アーティストの招聘を頻繁に行っていたのが印象的でした。当時は先日のリリース・パーティを行った青山のCAYという箱が、先進的なイベントを頻繁に開いていました。エレクトロニカのアーティストもイベントも盛り上がり始めという所でしたね。
—PROGRESSIVE FOrMを始める時には、そういう地盤が固まりつつあったということですね。
nik : そうですね。おそらくエレクトロニカ自体は90年代から盛り上がってきて、同時並行的にPCそのものやソフトウェアの発展で作り手の自由度が上がりました。そのことで、新しいものが生まれてくる気風が広がっていたと思います。

—設立当時からレーベル・カラーはありましたか?
nik : レーベル名の「PROGRESSIVE FOrM」そのものがある種のコンセプトではあるのですが、それ以外特にコンセプトはありませんでした。ただ、世の中に発表するからには自分たちなりに自信を持ってリリースできるクオリティの高いものを出していこうと考えていました。
—レーベルからリリースする作品はnikさん自身が探しているのでしょうか? それとも送られてくるデモの中から、探し出すのでしょうか?
nik : レーベルが回転し始めると同時にデモが集まってきたのですが、最初の頃は青木君や高木君のつながりからリリースをすることが多かったです。半野喜弘さんは以前からの知り合いで、様々な場所で会うことが多かったので協力していただきました。やはりアーティスト同士のつながりが非常に大きいですね。
—は、どのような経緯でリリースすることになったのでしょうか?
nik : 2003年に2枚目のPROGRESSIVE FOrMのコンピレーションを出すときに、新しいアーティストを多く入れたいと考えました。その頃ちょうどおもしろいデモが集まり初めていたんです。その中でもの楽曲には大きな可能性があると感じました。そのデモを色々なアーティストに聴いてもらったんですけど、どこでも「この人いいですね! 」という話になりました。その後2年空いて、2005年に久々にデモ音源が届いて聴いてみたら、非常に素晴らしい出来でした。それでリリースしたのが彼のファースト・アルバム『』です。
—今や伝説となっているのsonar sound tokyo 2006のライヴはどうでしたか?
nik : sonar sound tokyo 2006における新進的な音楽とアートを取り上げる「Extra」というプログラムを担当していたのですが、そこでちょうど、ausとら若いアーティストにLiveをしてもらいました。その当時ののライヴは、今の鍵盤とラップトップ2台というやり方ではなく、ラップトップのみでした。ただそれに加え、GAME BOYをリアル・タイムでサンプリングして加工して音を出しており、非常にアグレッシブなライヴでした。

音楽に嘘をつかなければ続けていけると思います。
—レ—ベル発足から約10年経ちますが、変化してきた事はありますか?
nik : しっかり実力のある人は今でも残っていますし、新たな才能も出てきています。4月に渋谷のseco loungeでのリリース・パーティを行ったのですが、その時にや、DRACOという名義で、NUMB、SAIDRUM、そこにタブラ奏者の吉見氏、シタール奏者の井上氏に出ていただきました。NUMBとSAIDRUMはRIVERTHの最初の頃からの知り合いで、その頃と変わらずに素晴らしい音楽を演奏していて、一方でAmetsubのような若いアーティストが同時にいたのが非常に印象的でした。さらにここ数年では、音楽自体もよりクラッシックやアコースティックの要素を取り入れたサウンドが生まれて、広がりが出てきていると思いますね。コンピューター・ベースから、より生楽器や歌を使用する比率が多くなってきました。ただそれまではこういった環境の音楽にとっては思考錯誤をしていたような時期もありましたね。
—具体的にそれはいつ頃ですか?
nik : ちょうど2005年から3年くらいは不毛の年だった印象があります。要は海外も含め興味深い新譜のリリースが減少傾向にあった印象があり、よって、海外アーティストの招聘イベントがぱったりとなくなってしまって、こういうジャンルがまとまって聴ける注目深いイベント少非常に少なくなった印象がありますね。
—レーベル発足当時にエレクトロニカと言われていたものと、現在では少し意味合いが変わってきていると思うのですが、nikさんにとってProgressive(革新的)さとはどんな事ですか?
nik : 実は先日Super deluxeで行われたTokyoMaxUsersGroup presents "Bridge"というイベントに行きました。そこで、蓮沼執太君と一緒にmasato tsutsuiという映像作家が出演していました。彼の映像のバリエーションとクオリティが圧倒的に素晴らしくて、それを見てを見た時の印象に近い好印象をうけました。ただ音でいうと、今は2000年くらいと根本的に変わってきていて、昔だったらテクスチャーというかnon-beatでメロディが若干あるかないかくらいのものでも、質が高ければ受けていたんですけど。今は楽曲として整っているものが求められてきているのではないでしょうか。

—前回のPROGRESSIVE FOrMのイベントを見て感じたのですが、一方でより肉体性を強めたエレクトロニカも出てきていると感じました。
nik : そうですね。青木君なんかは特にそういう方向に進んでいると思います。彼は元々ブラック・ミュージックがすごく好きだったので、例えばロー・ビートのかっこよさを追求しているようですね。
—そのあたりにもまたベクトルの違ったProgressiveさを感じたのですが。そう考えるといい意味でPROGRESSIVE FOrMのカラーというのはあまりないのかなという気もします。
nik : そうですね。言ってしまえば何でもありなんです(笑)。ただ何でもありなんだけど、独自の路線を貫いているのかなと思いますね。
—そのあたりは感性ですか?
nik : 感覚でしかないですね。PROGRESSIVE FOrMに関しては極力お金儲けに走らないようにしないと、方向性がぶれてしまいますから(笑)。
—ある意味で矛盾している部分でもあるとは思うのですが・・・ その辺りをうまくバランスをとって続けていく秘訣はありますか?
nik : 音楽に嘘をつかなければ続けていけると思います。細々ですけど信じて音楽を続けていけば、関心を持ってくれる人もいると思います。ただ世の中もどんどん変化していっているので、これからどういうメディアやフォ—マットで作品を出していくかということも非常に重要な要素になってくると思いますね。
—そのフォーマットの変化が楽曲に影響を及ぼしていると感じる事はありますか?
nik : あくまで現状ですが、そこまでは感じていません。「弘法筆を選ばず」というように、よいと言われる作品はフォーマットに関係なく、注目を浴びると思います。実は2000年くらいにエレクトロニカが盛り上がっていた時期に売れたCDの枚数と、の2nd Albumの売り上げ枚数はそれほど変わらないんです。メジャーのアーティストで昔100万枚売れていた人が、今は1万枚いかないということはあると思うんですけど、こういった環境の音はいい作品であれば売り上げはそれほど変わらないんです。ただそれでも、多少は世の中の煽りも受けるので、その辺りを感じて対応しつつ運営していく必要がありますね。例えば配信に関しては、着実に増えていっているのは確かですし、ネットだからこそ出来ることもありますから。
—最後に、今後のPROGRESSIVE FOrMの予定があればお願いします。
nik : リリース以外に幾つかまとまったイベント予定しています。10/30(金)〜11/1(日)にLiquid roomでDe La FANTASIAというイベントを、今年は制作という形で担当します。今年から新たに始めていくフェスの1回目です。sonar sound tokyoを進めていく上で色々な障害があって、それならば自分たちで1からイベントを作って、育てて、5年10年先をいくイベントを作ろうという話を有志でしていたのですが、ようやく今年1回目が開催されるます。素晴らしいメンツになっているので、是非いらしてください。
また10/30(金)に名古屋のclub MagoでNikakoiとMOODMANを主軸としたイベントを、11/3(火・文化の日)に京都のWORLDでNikakoi/半野喜弘/を主軸としたイベントを開催しますのでこちらも是非いらしてください。
EVENT SHCEDULE
PROGRESSIVE FOrM Catalogue
AOKI takamasa
1976年大阪府出身、現在はドイツ・ベルリン在住。2001年初頭に自身にとってのファースト・アルバム「SILICOM」をリリースして以来、コンピューター/ソフトウェア・ベースの創作活動を中心としながら自らの方法論を常に冷静に見つめ続け、独自の音楽表現の領域を力強く押し拡げる気鋭のアーティスト。近年では自身のヴォーカルを全面に取り入れた作品やFat Cat RecordsよりリリースされたTujiko Norikoとのコラボレーション・アルバム、op.discでの4/4リズムを用いたミニマルトラックへのチャレンジ、英国BBCラジオ・プログラム [One World]への楽曲提供(The Beatles 'i will'のカヴァー)、YCAMでのコンテンポラリー・ダンサー/映像作家との共同制作など、その活動のフィールドはさらなる拡張を見せているが、青木孝允自身の表現が持つ存在感は常に確固たるものであり寸分の揺らぎも感じさせない。
Ametsub
2003年、PROGRESSIVE FOrMのコンピ「forma 2.03」に20歳で参加、2006年、1st Album 「Linear Cryptics」をリリース、sonarsound tokyo 2006に出演する。その後、Vladislav DelayやBlue Foudation、Calm、竹村延和、Numb、AOKI takamasa等との競演も重ねる。2007年には渚音楽祭、また野外フェスティヴァルSense Of Wonderにも出演、多くのオーディエンスを魅了したライブはスペースシャワーTVの放映に選出される。d.v.dのJimanica(drum)とのコラボレーションも始まり、Jimanica×Ametsubとしてのアルバムが2007年にリリース。初ライブではPARA、クラムボン、toeと共演、同年秋には渚音楽祭への出演も果たす。 2008年夏にはアイスランドでのライブも敢行。美しい独自の世界観と、壮大な情景を描写する様な音楽性は、今後の活動に期待が高まる。
eater
2002年4月、細野春臣氏の主催するレーベ ルdaisy warld discのコンピレーション『V.A/strange flowers』に参加、現在は前 述daisy warld discから来春予定でリリースの自身の1stアルバム、サブライム・レコー ドのコンピレーション・アルバムへの参加、及び半野喜弘氏の主催するCirqueよりリ リース予定のコンピレーションへの参加が予定されている。また今後、AOKI takamasa、渡辺満 (Dr/multiphonic ensemble)とのセッションを通じたバンドも視野 に入れており、様々な楽器やプレイヤーとのコラボレート、また生演奏とコンピュータ 、それぞれの可能性の追求を通じて、独特で個性的なeaterワールドの可能性を模索 する。
Nao Tokui
1999年よりDJ、2001年よりMax/MSPでの音楽制作、及びソフト開発 をスタート。ベルギーPocket/Music Manより1st 12inch『Nao Tokui&TNT/We All need』を発表。2002年にはスイスSpeaker Attack『V.A/Deck Shark Series Vol.4』 にも楽曲を提供。同年夏にNao Tokui (ex.clickety and clack) 名義でPROGRESSIVE FOrMに合流、ヨーロッパツアーにも参加。その後Jan Jelinek, arovane, kit clayton, Pole, Richard Devine, Kid606, SUTEKH等との共演を重ねる。また工学者 として人工生命、複雑系等に関する研究に従事し、進化的計算手法の音楽やデザイン への応用を模索中。本年3月に音楽・映像の為の新しいビジュアル・プログラミング 環境 "SONASPHERE" を公開、アート/工学両分野で反響を呼んでいる。そして2003年6 月、待望の1st album『MIND THE GAP』をリリースする。
nq
1977年生まれ。ドイツ・ドルトムントを拠点にその活動を続けるnils quakによるプロジェクト。様々な要素を感じさせつつもシンプルかつ独特な質感でまとめあげられたその楽曲群を彼は「装飾や感情を単なる機能的な要素としてのみ成立させたものではない」と言い、また「その中に潜む美しさやその違いを如何に形付けていくか? ということを主題とした実験である」とも言う。ドイツという環境が育んだ、今後の活動に大きな期待を寄せたい楽しみなアーティストである。
RYOICHI KUROKAWA
映像/音響アーティスト。レコーディング、インスタレーション、上映、ライヴ・パフォーマンスなど様々な作品形態をとる。デジタル生成された素材とフィールド・レコーディングによる映像と音響で構成された、時間軸を持つ彫刻にはミニマルと複雑系が美しく共存する。黒川良一は音と映像を一つの単位として扱い、そのオーディオ・ヴィジュアル言語によるコンピューター・ベースの作品を構築し、音響と映像のコンポジション、またそれらの同期や相互関係が、映像/音響間に介在する距離を着実に埋めている。その非常に美しく緻密で繊細な映像と音で構成される作品は国内外で高い評価を得ており、多くのフェスティバルや展覧会へ招聘される。
Shuta Hasunuma
1983年、東京生まれ。常に変化を恐れず様々なアプローチで挑戦する気鋭アーティスト。アメリカWestern Vinylより『S/T』(2006)、『OK Bamboo』(2007)を発表。『HOORAY』(2007)をPROGRESSIVE FOrMから発表。英雑誌「WIRE」や世界各国ウェブ・マガジンに取り上げられ注目を集めている。2008年夏にHEADZより4枚目のアルバムを発表。
stereo plasma
ドイツ・デュッセルドルフを拠点に活動を続ける作曲家ANDEAS RESCHによるプロジェクト"STEREO PLASMA"。自身が「クリックス・アンド・ラウンジ」と呼ぶ、グリッチ/エレクトロニカ/アンビエントといった音響音楽や、ミニマル・テクノのリズム感、そしてラウンジ/モンドのポップな感性を再構築した革新的でモダンなインスト・ミュージックを奏でる。サウンド・デザイナーとして20年以上に及ぶ彼のキャリアが遺憾なく発揮されている。
Takashi Wada
1982年生まれ、東京出身。デトロイト・テクノやジャズ、アート・ロックなどのエッセンスを混ぜつつつも、しっかりとした音楽の素養をベースに、小気味の良いビートとエモーショナルなメロディーでどこまでも心地良い空間的な響きを幅広い音楽性で表現する注目のアーティスト。1999年、16歳でニューヨークに留学しジャズと出会いジャズ・ギターやボサノヴァなど音楽理論を学ぶ。同時にギターとドラム・マシーンに歌を重ね、シンガー・ソング・ライター的な作曲活動を開始。2002年、19歳の時にパリに移住。パリでは大学に通いながらジャズ・ギターとクラシック・ピアノを学び、同時にコンピューターでの作曲を始める。2004年、ドイツonitorレーベルよりデビュー・アルバム「meguro」を若干21歳でリリース。風景を描写したアンビエント的なアプローチを中心としたこのアルバムから国連のアニバーサリー・フィルムやテレビ番組に収録曲が使われることになった。そして2009年8月、待望の4thアルバム「Labyrinth」をリリースした。
Tree River
岐阜をベースに活動を続ける鶴見 健太によるソロ・プロジェクト「tree river」。FENNESZを思わせるデジタル・ノイズとアコースティック、それらサウンドの勢いが表れている。その潔さは、彼独特のオリジナリティーとなって、気持ちよさにつながっている。ギターとラップトップ音楽の次のステップを確実に提示してくれるであろう才能を感じさせる。
Yoshihiro HANNO
電子音楽からアコースティックな映画音楽まで幅広い創作活動を世界規模で実践し、独自のスタンスと視点で音楽を描く孤高の音楽家。1997年にベルギーの音響レーベル<サブ・ローザ>より<マルチフォニック・アンサンブル>名義で発表されたアルバム『キング・オブ・メイ』の独創的なサウンドで大きな衝撃と共にシーンに登場。このアルバムで半野の存在は一躍注目の的となり、翌年には元ジャパンのミック・カーンとのコラボレーション作品が日本、イギリス、アメリカで発売される。更に、1998 年には映画の世界にも進出しアジア映画の巨匠、ホウ・シャオシェン監督作品『フラワーズ・オブ・シャンハイ』の音楽を担当。半野にとって初の映画音楽となったこと作品は、カンヌ映画祭コンペ部門の正式出品作品として映画祭に招待され絶賛された。同行した半野も現地プレスから”新しい映画音楽作家の発見”と評された。これ以後、現在までにジャ・ジャンク監督作品『プラット・フォーム』(ヴェネチア映画祭最優秀アジア映画賞、ナント映画祭グランプリ、ブエノスアイレス映画祭グランプリ)、行定勲監督作品『カノン』、ユー・リクワイ監督作品『オール・トゥモロウズ・パーティース』(カンヌ映画祭出品作品)等を手掛け、映画音楽作家としての国際的評価も高い。2000年、坂本龍一が主催する団体CODEに参加。また読売テレビ・ドラマ”永遠の仔(出演中谷美紀/テーマ曲坂本龍一)”の音楽を担当、その斬新なサウンドが話題になる。この年には自身が主催するレーベル<シルク>もスタート、ここから発信された最新のコンピュータ・ミュージックは海外でも大きな評価を得ている。