いまは自分で歌うのが楽しい
──今作の制作はいつ頃ですか?
イエナガ : 僕がデモを作りはじめたのは去年の夏頃かな。録音は去年の12月に “瞳” と “22” を録って、今年の2月に “優しい幽霊”、“アンセム”、“(tandem)” を録りました。
──収録曲について順にうかがいます。1曲目は “瞳” です
イエナガ : “瞳” は新規の人たちに届いてほしいと思って作った曲です。尺とか音とかフレーズとか、すべての要素にこだわって、最高のシングルを作ろうと取り組みました。リファレンスも新規の人たちの心を掴むことを意識して、indigo la Endとか、Grapevineのメロディの感じとか。あと、Sound Scheduleって言われることもありますね。
──2曲目は “22”。タイトルはイエナガさんの月収らしいですが、手取りですか?
イエナガ : 手取りです(笑)。この曲はサウンドがメインで歌詞とかにはこだわりがなかったので、仮タイトルがそのまま残りました。1曲目の “瞳” が音源として新規の人たちの引っ掛かりを求めた曲だとしたら、この曲はライヴで僕らをはじめてみる人たちに向けて作った曲です。ライヴでお客さんがしっかりとリアクションをとれる場面を設けることが大事だな、という意図で。
──colormalってライヴでみると、歌メロとかはキャッチーだけど、バンド全体では「こいつら何者なんだろう?」という得体のしれなさがありますよね
イエナガ : そういう印象を払拭して、楽しく聴いてもらうことも是としているよ、ということを示す曲です。
──3曲目の “優しい幽霊” はこのEPのなかで唯一ソロ時代からあった曲です。これを再録した理由は?
イエナガ : この曲にはバンドの歴史が詰まってるんですよ。ソロ時代に作ったときも、もうサポートを入れてライヴをやることが決まっていて、ライヴでやることを前提に作った曲です。その後、ライヴでの演奏を繰り返すにつれ、全員ちょっとずつフレーズが変わっていって、3年かけてこのかたちになりました。初期のころはスタジオでメンバーにフレーズの指示を出そうとしても上手く噛み合わなかったりした曲でもあり。今回の収録で、ようやく成仏した音源になりました。
やささく。: ギターについて言うと、イエナガがそもそもギタリストなので、それが正解やんみたいなフレーズが既に入っていることが多いんですが、そこにたいしてイエナガが思いつかないようなフレーズを入れられたらいいなと思って、どの曲もやっています。この曲はギター・ソロが2回あって中盤のソロが僕で。ライヴで演奏する回を重ねるなかで確立されたフレーズを今回録りました。
イエナガ : ライヴをみたひとに「いいバンドだね」ってすぐに理解してもらえる、そういう「顔」の部分を担っているのは、やささく。のギターだと思っています。この曲はそれが端的に出ている。
──歌詞は音楽の才能についての思いが込められたものになっています。これは当時どういう心境で作ったのですか?
イエナガ : これは、その冬に最初のライヴをやることが決まっていた、2018年の夏から秋口くらいに作った曲です。インターネットを通じて仲が良かった笹川真生や君島大空が躍進をはじめた時期で。その頃に彼らの音源を聴いて「もう無理だな」と。なにか変わったことをしようとしても、もう戦えないなという感覚を味わった時期で。その上で、いまさらバンドでスタートすると。でも、ある種の諦念めいた気持ちでもあるんですが、良い曲・良い歌メロを作るというのはまだ自分の土俵として残されてる、という感覚はあって。自分でそれを選んだけど、この曲の歌詞は、選んだというより、そこしか残ってないという切実さとして表現されています。
──でもcolormalはそこから現在まで活動続けていて、結果も残しています
イエナガ : 当時は、輪に入れない、自分は主役にはなれないけどまわりから見守っている、という気持ちを歌にしたけど、時間がたつと僕らより先に活動をやめてしまった人たちもいて。いまになってみると、そういう人たちの心情に寄り添う内容でもあったんだと再確認したというか。自分でも当時思っていなかった視点があるなと、今回の音源を聴いて感じました。

──インタールードである “(tandem)” を経て最後が “アンセム” です。これはバンドのアンセムにしたいという曲なんですか?
イエナガ : そうではなくて、マツヤマが入籍したタイミングで2人を祝おうと思って作った曲です。あとは2月に予定していた東京でのワンマンが延期になってしまったので、せっかくだからそこに新曲を持っていこうという意図もあって。
──マツヤマさんはこの曲ができた経緯は知ってたんですか?
マツヤマ : 弾き語りのデモが来たときは知らなかったです。その経緯は後から知り、4月のワンマンの1曲目で演奏し、ちょっと恥ずかしかったですね(笑)。この曲はレコーディングのときにイエナガが歌った最初のテイクがあまりにも良くて、ブースで聴いてて涙出そうになりました。横にいた田井中と「すげー良くね」と言い合ってたのを覚えてます。
田井中 : 先に録った “瞳”、“22” と、“優しい幽霊”、“アンセム” の録音は、間が2ヶ月くらい空いていて。“アンセム” の録音のときはバンド全体の成長が実感できました。ドラムも、“優しい幽霊” と “アンセム” は変わったことはせずに、良い曲が良い曲として聴こえることを意識して叩きました。僕はこの曲がEPのなかでいちばん気に入ってるので、ぜひ聴いてほしいです。
マツヤマ : このEP全体に言えることですが、リズム隊は前に出ずに、歌を聴かせようという意識が強かった。自分も弾かないところは弾かないくらいの気持ちで。
イエナガ : 今回の4曲は「ザ・歌メロ」みたいな選曲になっていて、メンバー全員、今回は、演奏のエゴを出すよりも、曲のためにという意識で統一されていたと思います。

──イエナガさん、このEP前後からヴォーカルに対する意識が変わってませんか?
イエナガ : かなり変わってます。東京のワンマンの前に大阪のSOCORE FACTORYでゲネプロをさせてもらったとき、店長のかさごさんが、普段使っているものとは違うマイク(ゼンハイザー e935)を試させてくれて。それが僕の声質にとても合っていることが分かって。それまでのマイクだと楽器隊の奥にいたヴォーカルが、そのマイクでは前面に出て、主役にならざるを得なくなりました。僕はどうしよう……って気持ちだったんですけど。
でもこの変化があって、メンバーも、これだけヴォーカルが抜けて出てくるんだったら、じゃあこう弾こうって、バンド全体の音のバランスが変わりました。そうなると自分もヴォーカルと向き合う必要がでてくる。最近は歌うことを楽しんでできるようになりました。レコーディングの歌録りも、モニターで楽器の音をすごく小さく自分の声を大きく聴くようにセッティングを変えて。それがいちばん上手くいったのが “アンセム” だったと思います。
──「自分で歌うつもりじゃなかった」と言っていた活動初期とくらべると大きな変化ですね
イエナガ : 大変化ですね。リスナーってやっぱり歌をいちばん聴いていると思います。それに対して照れ隠しなく100%向き合うようになりました。このEPは歌メロ中心の曲で構成されているので、ヴォーカルの成長も含めて、すべてが目標に対して噛み合ったなと感じています。“優しい幽霊” を作ったのは、これからライヴ活動をはじめるぞという、自分の歌がいちばん嫌いな時期だったんですけど、その頃に作った曲を「いま自分で歌うのが楽しい」という状態で録りなおすことができて、本当に歴史のある1曲になったなと思います。
──いい話です