2018/08/16 17:30

日本のフェスの未来を考える! ──岡村詩野音楽ライター講座生レヴュー

OTOTOYが主催するオトトイの学校にて、音楽評論家として活躍する岡村詩野のもと、音楽への造詣を深め、「表現」の方法を学ぶ場として開講している「岡村詩野音楽ライター講座」。2018年5月期では「音楽産業における現代のフェスの課題と未来」をテーマとし、日本の音楽フェスの現状から課題や問題点を明らかにし、音楽フェスの未来について考え、原稿を執筆しました! アジアにおける日本のフェスの位置づけ、チケット価格の問題、フェスの地域性などあらゆる視点から、“フェス"というものを考え執筆した原稿を掲載。ぜひ記事を読んで、主要な音楽産業として定着したフェスについていま一度考えてみては?

>>麻生潤(SYNCHRONICITY)×岡村詩野の対談<<

『音楽産業における現代のフェスの課題と未来』

>>> 『新しい世代へと繋ぐフェスのバトン 』(Text by 高久大輝)

>>> 『行けないフェスの使い道』(Text by 渡邉誠)

>>> 『日本のフェスを救う500円の学生』(Text by イチタユウタ)

>>> 『365日フェスの鍵を握るお・も・て・な・し』 (Text by 廣瀬 美紀)

>>> 『国民的知名度を持つアーティストのフェス出演について』(Text by ともっち)

>>> 『目の前の音楽を楽しむことこそロックフェス』(Text by 加藤孔紀)

>>> 『個性を活かしたおらがフェスで音楽ファンの心を掴め』(Text by 大島望)

>>> 『ジャンルの壁を越えていくフェス本来の役割』(Text by 浅井彰仁)

>>> 『日本のフェスが直面するvsアジアの時代』(Text by 杢谷栄里)

>>> 『音楽フェスの新たな在り方について』(Text by 青柳純也)

新しい世代へと繋ぐフェスのバトン(Text by 高久大輝)

ゆとり世代に与えられたものは、つまるところ時間だった。僕らはその与えられた時間に、SNSで炎上する有名人を見た。差別的な発言を謝罪する政治家を見た。SEALDsが声を挙げるのを見た。それでも、変わらない現実を見た。僕らの世代の大多数が与えられた時間の中で見つめ続け、無意識に閉塞感に包まれていった。高度経済成長の波の中で希望と不安を抱えて生きることも、バブル崩壊後のわかりやすい暗闇を生きることもできずに、ぬるい平和の中を少子高齢化の影と共に生きた。そして、僕らは無自覚に開き直った。何かを大きく変えることなんてできないという覆し難い諦念を抱えながら、自分の半径5m以内で得る満足感にこそ価値があると。フェスは、そんな僕らと大きくなった。

ゆとり世代がフェスと共に育ったことは数字からもわかる。2013年に経済産業省が発表した「ライヴ・エンタテインメントに関する調査研究報告書」(2011年までのデータ)によれば、観客動員数自体は2006年(156万人)をピークに緩やかに減少傾向が見え、1987年生まれからがゆとり世代とすると、まさにその世代が二十歳を迎えようというタイミングと重なる。因みに僕自身もその一員で、与えられた時間の中で見つめ続けた僕らがSNS映えによる満足感や一体感を得ようとすることは必然だと、振り返って思う。また僕らの世代の少数派である、SEALs創設メンバーの1人、奥田愛基氏もフジロックへ出演した過去もある。そう考えるとフェスは僕たちの鏡として機能しており、フェスの未来を考える助けになるはず。

10代〜20代でアナログからデジタルへの移行を経験したゆとり世代の次に訪れるのは、ストリーミングが当然の、現実とインターネットの間をシームレスに跨ぐデジタル・ネイティブの世代だ。今年、フジロックがYouTubeでストリーミング配信されることが発表され注目されているが、今後そういったデジタルとの連携やVRなどの最新技術との共存が求められてくるだろう。同じように少子高齢化の中生きる世代として、次の世代へフェスのバトンを繋げたいのなら、音楽業界の腰の重さによってCD・データ販売からサブスクへの移行が海外と比べ大幅に遅れたことも踏まえ、僕らの世代が責任を持って新しい世代に向け変化を選択していく必要がある。僕は今年、〈フジロック〉でケンドリック・ラマーを観る。〈サマーソニック〉でチャンス・ザ・ラッパーを観る。日本がこの先も海外のアーティストを観ることのできる場所であって欲しいという願いも込めてだ。ただ、コレが明確な変化 / 正解と言いたいワケではなく、各々が未来の若者を想像して参加するフェスを選ぶことに意味がある。もちろん、参加しないことも選択肢だ。僕らの消費活動は、積み重なり未来を作る。(高久大輝)

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行けないフェスの使い道(Text by 渡邉誠)

皆さんは、HEREという日本のロック・バンドをご存じだろうか?彼らは、どこのレーベルにも所属したことがないインディーズ・バンドである。結成10年となる今年、〈史上最大規模フリーワンマンライヴ開催プロジェクト〉と銘打ったクラウドファンディングで、ひと月も掛からず目標金額の倍にあたる400万円の支援を集めた。目標達成を受けて、今年9月のZepp Diver Cityでのワンマン・ライヴと来春に全国5都市を回る入場料500円のツアーを発表した。今やアーティストは、大きな広告費用に頼ったりノルマに縛られなくてもパフォーマンスをリスナーに届けることができるようになった。

先日〈フジロック・フェスティバル〉が、はじめての試みとなるYouTubeによる生配信を発表した。このような近年のストリーミングやサブスクリプションの浸透は、普段ライヴに足を運ばなかったりCDを購入しなかった「隠れたリスナー」の存在を顕在化させた。いままで潜在的な存在でしかなかったファンも、アルバム制作やライヴ企画の支援者となり得る時代になったのだ。

そんな時代だからこそ、リスナー自身がこだわりのフェスをはじめてもいいのではないか?〈グラストンベリー・フェスティバル〉も、もともとは個人がはじめた小規模のフリー・コンサートだ。日本でも、ひとりの高校生がオーガナイザーとなり、企画から交渉や広報までやってのけた例がある。2013年に渋谷のライヴハウス4カ所で開催された〈ROCK GOD DAM〉だ。「インディーズを身近に」という想いのもと、中高生チケットの割引販売や会場内完全分煙などの施策を打ち出し、若年層をライヴハウスに呼び込むことを目指した。さらに特筆すべきは、文化祭ノリで終わらせないようMyspaceやYouTubeを利用してラインナップの拡大を図った点だ。国内だけにとどまらずアメリカ、ギリシャ、ドイツを含めた37組ものアーティストが参加した。皮肉にも日本のインディーズ・シーンの問題を浮き彫りにする動員結果となったが、あるべきひとつの道を示したともいえよう。

「フジロックは高額だし、遠くて休みも取れない」と毎年嘆くあなたは、まずラインナップに並ぶ250組以上すべての曲を聴いてみては? 気になった曲があったら、関連記事を探してみたり過去のアルバムや影響を受けた曲を調べてみるのもいい。意外なインディー・バンドの発見があるかもしれない。近くでライヴの予定がないなら、クラウドファンディングでライヴ企画を立ち上げてみるのもいい。会場がライヴハウスである必要もない。さあ〈マイプレイリスト・フェスティバル〉開催だ。(渡邉誠)

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日本のフェスを救う500円の学生(Text by イチタユウタ)

 「学生のチケット代全国一律500円」

これがこれからの日本のフェス、音楽文化を支える500円になると考える。などと書くと、正規料金で購入した人達から不満の声が上がるだろうか。だが、それは通常枠とそれ以外の枠の差別化をすれば解決できる。大事なことは、社会人になる前に様々な音楽・芸術文化に触れさせることだと思う。

私は高校生の時、2カ月程アメリカのボストンにいたことがあった。その時、ボストン交響楽団や、後に来日することになるブルーマン(パフォーマンス・アート・グループ)等のチケットが学割によって約8ドルで購入ができた。美術館に至っては無料入場だ。学生に対する芸術面への待遇のよさを肌で感じた。これによって、普段あまり聴かなかったクラシック音楽へ興味を持ち、舞台が好きになり、美術館へも行くようになった。確実に私の人生は豊かになった。別にアメリカの真似をすることもないが、ただ、日本は学生が芸術に触れるハードルが高い、もしくはその機会が少な過ぎるが故に、若い時代に貴重な体験をしないまま大人になってしまったりする。音楽フェスも学生にはハードルが高いアートのひとつだ。

日本4大夏フェス来場者の10代の割合はどれも全体の5%以下だ。学生に数万円のチケットは苦しい……。

最近は「保護者同伴なら中学生以下無料」のフェスが増えている。一見、学生が優遇されているように思われるが、よく考えてほしい。思春期真っ只中の中学生が家族とフェスに行くとはなかなか難しいように思う。つまり、現在の「保護者同伴なら中学生以下無料」というのは主に小学生以下の子供を持つファミリー層を取り込むための措置なのだ。小・中学生の為とは言い切れない。

前述通り、いまこそ望まれる大切な事は、社会人になる前に様々な音楽・芸術文化に触れることだ。1つの音楽バンドを聴きに行くよりも、沢山の音楽に触れられるフェスは絶好の機会だ。1度参加すれば“人を虜にする”要素は山ほどある。もちろん、一方で課題(伸びしろ)もたくさんだ。それらの課題を本気で解決しようとする若者も出てくるかもしれない。34歳の私が新しい音楽・文化に出会うことと、16歳が出会うソレの感じ方は大きく違う。本気で自身の将来を考える学生の時期に、たくさんの音楽フェスを見せてあげることが結果的に将来の日本の音楽フェス、ひいては日本の音楽文化を支えていくと考える。ちなみに、500円は高校生のお昼代平均値。交通費・宿代を気にせず日本全国のフェスに行って欲しい願いも込め、思い切って500円を提案してみたい。(イチタユウタ)

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365日フェスの鍵を握るお・も・て・な・し(Text by 廣瀬 美紀)

打ち上げ花火のように1年における限られた時間を彩り、世界を熱狂させている音楽フェス。音楽フェスのひとつにアメリカの音楽レビュー・サイト『Pitchfork』主催の〈Pitchfork Music Festival〉がある。世界のインディー音楽シーンを牽引する『Pitchfork』の祭りは、今年で12回目を迎え、「親密さを大事にしたい」という編集長リチャードソンのコンセプトの元、本拠地シカゴにて3日間でおよそ5万人という動員規模を維持しながらも、他都市での展開(2011年よりパリ公演)を成功させている。日本でも音楽専門誌『MUSICA』発行人の鹿野氏による〈VIVA LA ROCK〉は、埼玉県最大規模のフェスとして昨年は3日間の開催でおよそ6万人強を動員。2018年もチケット全日ソールドアウトとなる盛況ぶりであった。

両フェスに共通している特長は、主催が音楽メディアであり、フェス開催期間外も自社メディアを介した継続的なプロモーションがなされていることだ。オンライン・チケット・サービス『EventBrite』の口コミレポートによると、SNS上で音楽フェスに関する投稿は、54%がフェス開催前、29%がフェス開催後に行われているという。

また、アメリカ最大級の開催規模を誇る〈コーチェラ・フェスティバル〉は、専用アプリを通したライヴ動画配信、出演アーティストの代表曲をまとめたプレイリスト(Apple Music)機能などをいち早く導入し、一年を通して効率的なプレ / アフターサービスを行う。さらに、〈コーチェラ・フェスティバル〉の特筆すべき点は、会場に足を運べなかった人々に対しても、VRやYouYubeを介したウェブキャストを行っている点だ。各種メディアの有効活用によって、地域や時間的制約を超えた幅広い想定顧客へのアプローチを実現している。

すなわち、音楽フェス成功の秘訣は、開催期間外の時間も含めた潜在顧客への継続的なアプローチにある。アプローチの手法は、『Pitchfork』のようなディスク・レビューでも、『MUSICA』のような書籍を主とした音楽情報発信でも、動画配信やプレイリスト機能でも良い。各種メディアを用いた日常的な情報発信が、潜在顧客を現場(=フェス開催地)に動かし、ひいては音楽の価値を高める糸口となるだろう。

〈フジロック〉や〈サマーソニック〉など既に大型フェスとしてブランド力を持つ音楽フェスは多い。まずは大型フェスがブランド力を活かして、音楽番組やライヴ動画配信などのプレ / アフターサービスに乗り出してみては? 『Pitchfork』のように、フェスが垂直分断された音楽ジャンルの垣根を横切りながら、時代の空気に即した音楽と人々を365日媒介する存在となる未来に期待したい。(廣瀬美紀)

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国民的知名度を持つアーティストのフェス出演について』(Text by ともっち)


昨年、〈ロック・イン・ジャパン・フェスティバル〉や〈ライジング・サン・ロック・フェスティバル〉にB'zの出演がアナウンスされ、大きな話題を集めた。日本のフェスの傾向として、国民的な知名度を持つアーティストが時折ラインナップに加わり注目を浴びる。B'zに関しては2007年のサマソニが大型フェス初登場だった。一方で、そういったアーティストがラインナップからは大きく浮いた存在となってしまっているともいえる。

「邦楽」に絞ったフェスのラインナップの例として、〈ロック・イン・ジャパン〉や〈ライジング・サン〉は、基本的には「邦ロック人気」の中心となっているアーティストが出演する。〈フジロック〉では上記のような人気アーティストを中心に、加藤登紀子などのベテラン・アーティストが毎年のように出演する。日本のフェスは他にも数多くあるものの、傾向としてラインナップはそれぞれのフェスの個性に沿った、フェスの空気を壊さないアーティストの出演が発表されている。 
しかし空気を壊さないアーティストでラインナップを固めた結果、出演者が偏ってしまったとも受け取れるフェスが増えてしまったことが現状でもある。もっと誰もが知るビッグネームから、一部のシーンで人気のアーティストや無名の新人など、ラインナップがバランスよく揃えられてもいいはずだ。

たとえば、宇多田ヒカルをヘッドライナーに置いて、高木正勝が3番目に大きいステージに出演し、早い時間帯に実力ある無名のバンドや、とちおとめ25などのご当地アイドルが多くの人の目に触れるようなフェスが1つはあってもいい。


ただその一方で、今度はフェスごとの個性が失われるという面もある。しかし、結果として出演者が偏ってしまっているフェスが多い中、バランスよくブッキングする機会を増やしてみるのも今後日本のフェスの歴史が積み重なっていく上で、必要なチャレンジなのではないだろうか。ラインナップの範囲を広げればキリがないが、国内のアーティストはキリがないほど存在しているのだから。


国民的アーティストの出演に抵抗がある人もいる。2007年の〈サマーソニック〉ではB'zの出演がアナウンスされた時は批判されていたが、当日B'zの出番が終わると、長いキャリアに伴った彼らの実力に圧倒され逆に絶賛されている声が強かったことをハッキリと覚えている。そしてB'zを目当てに来た人が、出演するアーティストを一通りチェックしてから来たという話も聞く。ファンを多数持つ国民的なアーティストのフェスへの出演の機会が増えれば、他のアーティストにとってもファンを増やす良い機会なのではないだろうか。(ともっち)

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目の前の音楽を楽しむことこそロック・フェス(Text by 加藤孔紀)

「ROVOかっこよかったな!」。隣で観ていた50代くらいの男性に話しかけられて「はい!」と返事をした。2016年〈フジロック〉2日目昼、ライヴ終了後の出来事。日頃、出会うことの少ない年齢の離れたリスナーと感動を共有できてうれしかった。

いまや音楽にとってSNSの「シェア」は大きな役割を担っている。そのとき体験したことを誰かに共有したいと思うからこそ、投稿を行う人が多い。また、近年のロック・フェスでは「インスタ映え」をキーワードに、映えるロケーションを用意したり、ハッシュタグを付けて投稿したらグッズがもらえるなど、SNSを意識した取り組みも多い。だが、観客の意識がSNS(フェスの外)に向けば向くほど、その時その場を楽しむことへの意識が乏しくなっているようにも感じる。

そこで、もしロック・フェスにスマホを持たずに参加したらどうなるか考えてみた。スマホがなければSNSにはアクセスできないし、写真も撮影できない。けれど、そのぶん、その場をより楽しむことに意識が向く。リアルタイムでSNSに投稿したいとか、どんなことを投稿しようとか、いい写真を撮りたいとか、そういったことを考えることがなくなるのだ。アーティストがどんな演奏をしているか、隣で観ている人はどんな風に楽しんでいるかなど、その場により集中することで、フェスという音楽体験を一心に楽しむことができる。

そうやって楽しんだ音楽体験は、誰かに共有したいと思ったとき、多くの情報と感情を伝えることができ、受け手側の気持ちを動かすことができる。手段は様々あると思うが、中でも誰かに直接伝えることは、伝える側の表情やテンションがわかって、聞いた人の記憶に残る。まさに「ROVOかっこよかったな!」は、その場で出会った男性本人の口から直接聞いた言葉だったため、とても印象深かった。

ロック・フェスという音楽産業において、SNSが重要な宣伝媒体であることは確かだ。ただ、よりフェスが魅力的なものになっていくうえで、目の前にいるアーティストの演奏や観客を含めたその場の体験への集中、そしてライヴの感動を直接誰かに伝えることなど、そういった対面のコミュニケーションの質が改めて大切になってくると感じる。筆者自身の自戒も込めて、自身の好きな音楽をフェスでどう楽しみ、どう伝えていくかいま一度考えてみたい。(加藤孔紀)

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個性を活かしたおらがフェスで音楽(Text by 大島望)

西川貴教が“滋賀ふるさと観光大使”に就任したことを期に、「音楽を通して地元に恩返しを」としてはじめた〈イナズマロックフェス〉(滋賀県草津市)は、徐々にその規模を拡大し、昨年にはのべ10万人超を動員した。福岡県糸島市で長年続く〈サンセットライヴ〉では、「美しい糸島の自然に触れた人々に、その自然を守りたいと思ってもらいたい」という当初の開催目的も果たされつつある。これらは“町おこし”を念頭に企画されたフェスのうち、そのコンセプトを見事に実現させた成功例だ。

T.M.Revolution / INAZUMA ROCK FES. 2016 (Day 1)
T.M.Revolution / INAZUMA ROCK FES. 2016 (Day 1)

現在、地方では町おこしをコンセプトとして掲げたイベントが次々と企画され、各地で地元を盛り上げるきっかけを作ろうと奮起している。ところが、その目的を達成し、地元に貢献できているフェスはどれくらいあるだろう?

「○○でしか味わえないフェスを」と銘打ったものの、結局は背景の海や山といった代わり映えのない景観頼み。地方開催の多くのフェスではこのような傾向が見られ、そのため差別化もされず集客で苦戦を強いられている。客の立場で考えれば、わざわざアクセスの悪い土地へ何時間もかけて出向かなくとも、もっと楽に行ける大都市で好みの音楽はいくらでも聴けるのだから当然である。主催者好みのアーティストを呼んで自然の中でフェスを開催すれば、人が集まり、経済が回り、閑散としていた町に活気が戻る…… とは限らないのが現実だ。

この現状を打破するには、地域の人々や自治体にもっと深くアプローチする必要がある。たとえば冒頭に挙げた〈イナズマロックフェス〉は、地元の農業高校と共同で近江米の生産プロジェクトに乗り出した。教育面で大きなメリットをもたらすだけでなく、収穫した米をフードに採用し、来場者に草津産の農産物をアピールする。また、無料エリアが開放され、多くの人々が気軽に琵琶湖の畔で賑やかな雰囲気を楽しめるようになった。〈サンセットライヴ〉では、地元アーティストの専用ステージを設けたことで地域性を色濃くしている。同フェスの環境保全活動への取り組みに賛同したアーティストが無名有名にかかわらず毎年出演を希望するため、上演内容もバラエティに富み、全国の音楽ファンの心を掴んだ。

「珍しい特産物でもない限り、田舎はどこへ行っても同じ」と言う人は多いかもしれない。だが、私たち一人ひとりに個性があるように、各土地にもそれぞれ違った魅力があるのだ。音楽の力を借りて町おこしをするのであれば、興す対象である町の食、風土、教育、そしてそれらを創る住民たちといった土着文化の個性を最大限に活かそう。そうすることで「ここでしか味わえない」特別なフェスが生まれるのだ。(大島望)

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ジャンルの壁を越えていくフェス本来の役割(Text by 浅井彰仁)

フェスはまだ見ぬ音楽を体感できる場所だ。名前は知っているけど曲はよく知らない、あるいは、名前すら分からないアーティストの演奏に心奪われてしまう。そんな体験を出来るのがフェスの魅力であるし、自分はそれこそが一番の醍醐味だと思っている。だが、実際には「フェス向きの楽曲/ジャンルにスポットが当たってしまうあまり、フェスに向いてないジャンルの音楽が淘汰されてしまう」という事態が起こっている。たとえば、クラシックがフェスの現場で見られることはほとんどない。アンビエントや実験音楽といった、ビートが省かれたようなジャンルもあまり見られない。つまり、フェスに向いているか否かで、ジャンル間に溝ができてしまっているのだ。

現在、先にあげたようなフェスに向いてない音楽はそれぞれ独自でフェスを開催している。〈STAND UP! CLASSIC FESTIVAL〉というフェスはクラシックに特化したものであるし、ドイツで開催されている〈Berlin Atonal〉というフェスは実験音楽、電子音楽のアーティストがラインナップされたものである。これはクラシック、実験音楽などがジャンルの特性ゆえに、大型のフェスに出られず、もともとそのジャンルを好きな人だけを呼んでジャンルに特化したフェスを開催しているのである。しかし、これでは特定のジャンルを好むリスナーが集まるだけの閉鎖的な空間となってしまい、他ジャンルとのクロスオーバーは起こりえない。

Berlin Atonal 2016 - Official Review
Berlin Atonal 2016 - Official Review

いま必要とされているのは様々なジャンルを横断したフェスだ。リスナーがクラシックや実験音楽を観にフェスへ行けと言っているのではない。目当てのアーティストを観るための移動中、通りかかったステージで聴こえた音楽に耳を傾ける。次のアーティストまでの空いた時間、あるいは休憩中に聴こえた音楽に耳を傾ける。そうして出会った音楽がクラシックや実験音楽に興味を持つきっかけとなることに意味があるのだ。そして、そんなふうにしてオーディエンスの聴く音楽の幅が広がっていくことでフェス本来の役割が果たせるのである。ジャンルの垣根を越えた音楽と出会える可能性をオーディエンスに残しておくことを怠ってはならない。

フェスに向いているかどうかで、ジャンル間に隔たりが生まれてしまうのは由々しき事態である。そのため、シーンのトレンドを意識するだけでなく、見落とされてしまいがちな音楽をこぼさず掬い取る、懐の広さが現在のフェスには求められるのではないだろうか。(浅井彰仁)

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日本のフェスが直面するvsアジアの時代(Text by 杢谷栄里)

去年の話だが、〈フジロック〉と同日開催の〈Panorama〉を選んだ友人がいる。今年は〈Mad Cool〉に行くらしい。毎年、〈Clockenflap〉と〈LanewaySG〉にも行っている。一方、〈フジロック〉は行かなくなったと言い、〈サマソニ〉もたまにしか行っていない。この友人のように、日本のフェスと海外のフェスを比較して、自身の置かれた環境、出演者や交通、宿泊を含めた種々の条件を加味して、フェスを選ぶ人が増えている。実は、私もそのひとりだ。

このような事例は、日本のフェスは、海外、特にアジア圏で開催されるフェスとの競合状態にあることを示している。近年、日本から距離的に近い中国、韓国では、経済成長と文化開放に伴い、先に経済発展を遂げたシンガポールを含めて、日本人が羨ましいと思うほどの多種多様で魅力的な音楽フェスが行われるようになってきている。日本には来ない出演者、観光名所的な夜景をバックにステージが作られている〈Clockenflap〉〈LanewaySG〉、野外にも関わらず音響が抜群にいい〈Concrete and Grass〉、世界遺産・万里の長城が会場〈YinYang〉というように。

冒頭の友人は、アジアを含めた海外フェスを選んでいたが、その一方で、〈フジロック〉のWebページは表示言語に繁体文が選べるように、日本以外のアジアの人たちが日本のフェスを選ぶということもある。日本の音楽フェスが生き残るためには、アジアの中の日本という位置づけで考える時期に来ている。そのためには、どうすればいいのだろうか。

やはり、日本はもちろんのこと、アジアの状況に注視し、シーン、流行、需要、国策を把握すること、その上での差別化を図ることが重要になってくる。たとえば、日本でも人気の高い落日飛車(Sunset Rollercoaster)、HYUKOH、アメリカでも高い評価を上げているRich Brianなど、アジア各国のバンドや彼らを生み出したシーンはおもしろく、日本では洋楽に位置付けられるバンドと遜色もないバンドも多々いる。逆に、日本のバンドでもceroやHomecomings、シャムキャッツのようにアジア開催のフェスに出演する、あるいはアジア・ツアーを開催して、現地での人気を集めるバンドもいる。

落日飛車 Sunset Rollercoaster(from 台湾)- Greedy @ りんご音楽祭2017
落日飛車 Sunset Rollercoaster(from 台湾)- Greedy @ りんご音楽祭2017

日本国内のシーンや需要だけを見ていると、やがて日本だけがアジアから取り残され、時代から取り残された前時代的な情景だけが残る。その情景を求めてアジアの人たちが来てくれるかもしれないが、日本の観客はそこにはいない、といった状況が生まれてしまうかもしれない。集客の面ではそれでいいのかもしれない。だが、日本のフェスは、アジアから、他の海外からも取り残されて、よりガラパゴス化が進む危機感が募る前に、今以上に目線をアジアへと向けて開放してみてはどうだろうか。(杢谷栄里)

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音楽フェスの新たな在り方について(Text by 青柳純也)

1997年、はじめて〈フジロック〉が開催されてから、約20年に渡る歴史において度々言われているのが、「もうフェスは厳しい」という指摘だ。そうした論調の中のひとつを紹介しよう。

「今年で4大フェスが全て開催10周年を迎え、岐路に立っているのも確か。昨年、〈フジロック〉と〈サマーソニック〉が、開始以来はじめて入場者が減少となった。今年も〈フジロック〉は横ばい(〈サマーソニック〉は例年より1日多い、3日間の開催だった)で、洋楽系のフェスを中心に観客数の頭打ち傾向は明らかだ。ロック・フェスティバルが今後も夏の国民的なイベントとして残っていくために策はあるか」(『日経エンタテイメント!』文 / 日経エンタテインメント! 編集部)

「ファンを食い合って共存は困難」「フェス・ブームは一過性のもので長くは続かない」といった趣旨のこの『日経エンタテイメント!』誌の指摘は、いまにはじまったことではなく、実はフェス開催の歴史と共に続いてきた。また、11年続いてきた〈LOUD PARK〉が今年は開催されなかったこともフェスが厳しい現状を迎えている転換期として象徴的な出来事とも言える。

しかし、ぴあ総研によるとフェス市場は2011以降、市場規模、動員数ともに拡大が続いている。音楽業界全体がこれからもライヴ・ビジネスが中心であることに変わりはないだろう。フェスが国民的イベントとして定着した理由はライヴ以外のレジャーや食事、ファッションなどの楽しみを新たな価値として提供したことにある。

フェスは音楽に付加価値を付けて存続してきたが、依然として都市型・地方フェスの両者が交通機関の整備を課題として抱えている。人が集まる会場では混雑は避けられず、フェスが巨大なビジネスモデルとして確立されてから問題視され続けてきた。そこで、交通機関の整備という課題解決の糸口となるサービスがライヴ・ビューイングやVR / ARなどの映像配信だ。

チャットモンチーやBABYMETALなど有名アーティストのライヴ・ビューイングも記憶に新しく、μ'sのファイナル・ライヴは海外10か国30会場で開催されるなど生で音楽を体験すること以外でも集客が望めることが明らかになっている。ビューイング会場ではグッズ販売も行われアーティストを生で観るライヴ会場と変わりはない印象も受ける。このような体験の提供は既存の枠組みに囚われず、新たな需要に応えたサービスだと言える。

さらに、映像配信の導入は主催者側の利点にもなる。会場を抑えることが困難な人気アーティストが平日にライヴが行うといった事態は主催者として本意ではないはずだ。

映像配信なら時間や会場による制約を受けることはない。日本の各地域・海外を含めた多くの人に生の体験と同様、もしくは、それ以上の価値を提供できるようなサービスを届けることができる。これによって交通機関の整備という課題も改善していくはずだ。

フェスが生き残る策として、生での体験に拘り既存のサービスに付加していく形ではなく、映像としてリアルタイムに共有できるメディアへとフォーカスしていくことが望まれるのではないか。

ライヴ・インタビュー等の映像配信は〈百万石音楽祭〉や〈METROCK〉でも既に行われている。今年から〈フジロック〉は、4つのステージで行われるアーティスト・パフォーマンスの一部、出演アーティストからのメッセージ・インタヴュー動画をYouTube配信することが決定している。新たな取り組みに視聴数が集まれば、音楽フェスが新たに提供する価値として今後ますます、映像配信が広がりを見せていくに違いない。映像配信が広がり、交通機関が整備された先に、いかにVR / ARといった視聴媒体で生に近い体験を届けるかに焦点が当たっていくはずだ。

移動費などの経済的な側面だけでなく、事前準備や翌日の疲労に悩まされることもなく、自宅に居ながら、快適な環境とこれまでよりも多くの人とのコミュニケーションを可能にする映像配信の導入は、フェスを開催する際に考慮する主催者側と参加者側の課題を解決していくことが期待できるサービスだと言えるだろう。

これからもテクノロジーの発展、有効利用が、音楽体験の進化を促し、音楽フェスの可能性を拡大してくれることを楽しみにしたい。(青柳純也)

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【受講生募集中】音楽ライター講座、夏期短期集中編、受講者募集中!

音楽評論家として活躍する岡村詩野のもと、音楽への造詣を深め「表現」の方法を学ぶ場、それが「岡村詩野音楽ライター講座」。ここにはプロのライターを目指す人から、ライティングの経験はないけれど音楽が好きで「表現の幅を広げたい!」という人まで、幅広いバックグラウンドを持った参加者が集まっている。

2016年、2017年と2年連続で開催し、ご好評をいただいた『夏期短期集中編』を今年も開催します。短期集中講座ならではの、より丁寧で濃度の高い授業を行い、音楽を表現するための基本的な部分から応用までを、2日間でみっちり学びます。

ひとつのアーティストに寄り添い、その音楽を深く解釈をし、あなただけにしか生み出せない原稿が執筆できるようになることを目指します。その結果、講座を通して「ライターとして1番大切なもの」を学んでいただきたいと考えています。

また9日(土)の夜には、講師を務める岡村詩野も参加する交流会を行いますので、この機会にぜひ様々な質問をぶつけてみてください。

「音楽ライターになりたい」、「好きなアーティストの素晴らしさをもっとうまく伝えたい」「この夏、なにかをはじめたい」なんてことを思っているあなたをお待ちしております! もちろんライティング初心者の方も大歓迎です! ぜひお気軽に音楽ライターへの第一歩を踏み出してみませんか?

>>岡村詩野音楽ライター講座 夏期短期集中編 詳細・お申し込みはこちら!

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