2009/12/14 00:00

去年立ち上げられたばかりのレーベル、kiti。麓健一の『美化』が第1弾作品。次の作品を期待していたところへ、女性シンガー・ソング・ライター、mmm(ミーマイモー)のフル・アルバム『パヌー』がやってきた。彼女は22歳の現役大学生なのに、懐かしい雰囲気を持っている。自主制作音源『five till』がCRJ-tokyoのチャートにランクイン。今年の夏には、にせんねんもんだいが主宰するレーベル、美人レコードのコンピに参加するなどし、多方面で話題となり、現在じわじわと注目されてきている。ジャズ、ブルースや昭和歌謡を思わせる色鮮やかな彼女の音楽は、優しくて淡く、強烈な個性を持った歌声はとても魅力的だ。心を震わして歌う彼女のメロディーをじっくり味わって欲しい。

インタビュー&文 : 小林美香子

「マジカル・オムニプス号」のフリー・ダウンロードはこちらから (期間 : 12/17〜12/24)

昭和歌謡は聴いていない

—なぜmmmという名前をつけたのですか?

例えばxxxや! みたいな雰囲気で付けたくて、mという文字が好きだからmmmにしました。恥ずかしがりなので、本名とは違う人格を作り出したくて (笑)。

—高校時代は、アメリカの音楽学校に行ってらっしゃったそうですね。

専攻はジャズ・フルートでした。フルートはmmmではやっていませんが、今の活動にも影響していますよ。

mmm以外にもされている、マリア・ハトはどんなバンド?

編成は、わたしとドラムとベース&ギターの3人です。mmmの曲をバンド形式でやっていますが、mmmの曲じゃない3人の曲を最近つくっているところ。活動を始めて2年くらいです。

—今作のプロデューサーはHOSEの宇波拓さんなのですが、出会ったのはいつ頃ですか?

今年の夏前。レーベルの方がお願いをしてくれました。ゲスト・ミュージシャン(中尾勘二、下田温泉等)も、宇波さんにお任せしました。最初は私の知り合いを呼びたいと思ったんですけど、宇波さんの気が知れている仲間で、囲んでくれました。

—ゲスト・ミュージシャンと一緒にレコーディングをしてみてどう感じましたか?

とても疲れました(笑)。みなさんすごいキャリアの持ち主で、初対面だし、年上なので、すごく緊張したんです。でも、すごく楽しかったです。

—今作のアルバム・タイトルの『パヌー』はどのような意味なのでしょうか?

小さい頃に生き別れた兄のニックネームなんです。私はパヌー兄ちゃんに会いたくて、ずっと探しているんです。連絡先もわからない・・・。全部の曲を考えながら目を閉じたら、『パヌー』っていう文字が浮かんだので、それに決めました。実話ですよ。本作はパヌー兄ちゃんに捧げたいんです。

—本アルバムを通して聞いた時に、昭和歌謡っぽいと思いました。昭和歌謡の影響は受けていますか?

よく昭和歌謡とか、イギリスのちょっと古いシンガー・ソング・ライターっぽいねとか言われるのですが、それらは全然聴いていないです。でも、雑食に色んな音楽を聞いています。3月に自主制作盤を出してから、ライブをやるうちに歌い方も変化していきました。『パヌー』録音後には、曲の聞かせどころがやっとわかって、今は強弱とかを気にして歌うようにしています。

どんなに悲しい時でも、幸せだと言っとかないと、辛いですから

—曲は、どのように作るのですか?

夜中に酔っぱらっている時か、朝起きて、シャワーを浴びた後の素っ裸の時に作っています。すごく気持ち良いですよ(笑)。いつも先にコードが浮かんで、少し歌ってみてから曲が出来始めます。メロディが出来た時点で、ぽつぽつと歌詞が浮かび始めて、そこから言葉を選んでいきます。メロディとか曲の1番がっしりしたところが出来たら、あとは適当に書いたり消したりを繰り返します。

—1曲目「byebye」は重たく感じましたが、2曲目「マジカル・オムニブス号」からは音色も鮮やかになって、軽やかに感じました。

あーよかった(笑)。私の曲はすぐに暗くなっちゃうから。宇波さんに2曲目は、とりあえず、わいわい明るくして下さいと頼んだんです。彼のおかげでアルバムは、暗いけど、暗すぎず、ちょっと灯しがある音になりました。2007年あたりに作った曲は私の感情もどろどろしていたので、その感情がまんま反映されたのが多いんですが、最近作っている曲は少しはアップ・テンポでそこまで暗くないみたい。変われたのかも。でも今でも暗い曲はすぐできちゃう。当時作った「あまのじゃく」や「byebye」を聴き返したりすると、よくそんなことを言えるねって突っ込みたくなります。

—「あまのじゃく」を初めて聴いたとき、シンプルな曲なのにとても印象に残りました。特に終盤部分の「ちくしょう」というフレーズが強烈に印象に残りました。

この曲は、日本に帰ってきてまだ2年とか、人生上手くやれてなかった時期に出来た曲。「ちくしょう」っていう部分は、昔は「悔しい、ちくしょう!」だったんだけど、最近は「どうにもならないなぁ、ちくしょう」と思って歌っています。

—「短くて幸せな曲」はタイトル通りに幸せが伝わってくる曲。この曲は逆に、日本に帰ってきて、しばらく経ってから作られた曲ですか?

この曲も、「あまのじゃく」と同じ頃に作りました。当時、七針にしか出ていなかったのですが、急遽秋葉原CULB GOODMANの友達の企画の穴埋めで呼ばれて、その時に猛スピードで作ったんです。

—「あまのじゃく」と「短くて幸せな曲」は違う時期に作られた曲なのかと思いました。

どんなに悲しい時でも、幸せだと言っとかないと、辛いですから。小さい頃やっていたクラシック音楽は、お手本があったり、楽譜があったりして、自由にやれないのが苦痛だったのですが、今は、急に即興しても良いし、とても自由だと感じています。なので、1人でやり始めてから、音楽をとても好きになったんです。

—最後に、今後の展望を聞かせてください。

パヌー』を出した後には、美人レコードから新しい音源を出します。今は曲を作りつつ、来年に入ったらレコーディングをして、春頃に出す予定なので、楽しみにしていてください。

懐かしさを感じるうたものをご紹介

パンパラハラッパ / 松倉如子
元はちみつぱい/アーリータイムス・ストリングス・バンドの渡辺勝、二階堂和美の才能に狂喜した渋谷毅氏がもっぱら惚れ込んでいる天性爛漫治外法権な狂喜のシンガーの登場! 矢野顕子や大貫妙子も髣髴とさせるがその中にも少女性と幼女性が見え隠れして魔性の臭いを漂わせる。曲ごとに変化する雰囲気/演技力は鬼気迫るものが。 スウィング、ムード歌謡、フォーク等の要素を完全に松倉ワールドに染め上げてるところは エゴラッピン〜小島真由美好きにもたまらないはず。

夏は来る / 森ゆに
元APOGEEのサポート・キーボーディスト、森ゆにの1stミニ・アルバム。ピアノと歌のシンプル且つ奥行きあるサウンド、女性の凛とした強さ・美しさと、不安定さとが同居するアンビバレンツな世界観には、強くシンパシーを感じられる事でしょう。

ニカセトラ / 二階堂和美
洋邦問わず幅広く支持を得ている歌い手、二階堂和美。彼女の新作は全曲カヴァーでありながら、しっかりと”二階堂和美色”に染められている。小さい頃に合唱で歌った、TVやラジオで流れていた、そんな馴染み深い選曲と、優しく伸びやかで時にアグレッシヴなヴォーカルは、日本の季節や情景、また個人の記憶を連想させる。涙腺を刺激する温かいうたは、聴く人を選ばないだろう。力みや計算とは縁のない、自然体で輝きのある音楽。自然に出てくるものだからこそ、惹きつけられ、揺さぶられるのだと思います。お洒落にアレンジされたカヴァー・アルバムが溢れる昨今だからこそ、是非聴いて欲しい一枚です。

PROFILE

mmm
CD-R作品ですでにCRJ-Tokyoチャートでは初登場一位を獲得するなど話題を集めていた、その若さに不釣合いなほどに薫り高いうたを紡ぐ注目の女性シンガー。若干22歳とは思えないほどの強烈な個性を放つ憂いを含んだ歌声、爪弾かれときに掻き鳴らされるガット・ギター、フォーク、ジャズ、ブルース、カントリー、オルタナティヴや昭和歌謡などを思わせる独特の楽曲で、すでに確率された強烈な個性を感じさせる。NATSUMENの山本達久をはじめとした多くのミュージシャンからも多くのラヴ・コールを受ける注目の才能。東京八丁堀にあるギャラリー兼イベント・スペース「七針」、高円寺「円盤」を中心に活動中。

『パヌー』レコ発ライヴ
2010/1/16(土)@三軒茶屋Grapefruit Moon
スペシャル・ゲスト : HOSE
当日は『パヌー』録音メンバーを迎えたバンド・セットでの演奏予定。

この記事の筆者

[インタヴュー] mmm

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