INTERVIEW : Kensei Ogata

2025年11月26日。ハンディ・レコーダーと安価なコンデンサ・マイクで録音されたフォーク・アルバム『せまい宇宙』がリリースされた。それは高校生の月野恵が自宅で作成した真の“ベッドルーム・ミュージック”であり、そのギターの繊細なタッチと歌声、圧倒的なソング・ライティングが大きな話題を呼んだ。『せまい宇宙』の録音監修、ミックス、マスタリングを務めたエンジニアKensei Ogataに、これからのシーンの展開や音源の在り方を語ってもらった。記事中に埋め込まれているアルバムのトラック番号をクリックすると視聴することも可能です。記事を読みながら、こだわりのサウンドをぜひ聴いてください。
取材・文:菅家拓真
フル・アルバムをつくる意味──開始、the Still、cambelle、Sisters In The Velvet
──今年はどんな一年になりましたか?
KenseiOgata(以下、Ogata):物量で言うと、去年と比べて倍以上になりますね。京くんとか恵さんの弾き語りがあったのもあり、曲数は多くなりました。
──プレイリストをみて驚きました。とはいえバンドの曲もかなりやっていますよね。
Ogata:例えばcat meowsの“summer cut”はイレギュラーで、ドラムは打ち込みの音源を持ち込んでもらったんですが、そうするとオケは家で1日とかで録れちゃいます。ですが、他のバンドはほぼドラムの録音をしてる印象ですね。やっぱりドラムを録ることの意義はかなり大きいです。
cat meows:メンバーの脱退、活動休止などありながらも歩みを止めず、2026年からは新体制での活動再開が予定されている。2024年10月にリリースした「生活-ep」のエッジの効いた歌声や太いギター、邦楽的なエッセンスが見事に融合した楽曲が国内外から評価され、インドネシアのレーベルGerpfast recordsからカセットを販売するなど、活動の幅を広げている。高揚感のある“midori”のサビのメロディや、新章を期待させる“summer cut”は必聴。
──個人的に今年のインディー・シーンは豊作だったなと思いますが、大きな流れを感じることはありましたか?
Ogata:やっぱり、アルバム作ったバンドが多かった。コンパクトでもいいからアルバムっていう形態をみんな意識してるんだなと感じました。
──去年の雪国の『pothos』がつくった流れはあるかなと思っていて。シングルよりも、作品集として一発出した方がいいんだなと周知させましたよね。
Ogata:あれは流れを変えたと思いますね。最初からアルバムでバンドの世界観を提示するみたいな。『pothos』リリースの当時は、ちゃんと真摯な姿勢が周りにも伝わってる感じはすごい見えたし、その時に僕も「やっぱアルバム作った方がいいんじゃない?」みたいなのをXで言ったんですよね。そういう話から開始の『杏露を泳ぐ魚たち』は僕に依頼をしてくれて、『pothos』の影響でアルバムを作りたい気持ちになったって言ってましたね。
存在感を醸したパワフルな話題作
開始:マキシマムな印象のサウンドでありながらも、間を意識して作られたポップで愛嬌のあるメロディーと、オルタナティヴでブルージーなフレーズの往復が癖になるバンド。今年リリースされた本作は粒揃い。なかでも凄まじいスピードでプレイヤー・エクスタシーが走り去る“スマートボーイズ”や、ファズ・ギターが好きな人にはたまらない“香川生花店”は音に殴られたい人におすすめ。
──開始めちゃくちゃ良かったです。すごく衝撃がありました。
Ogata:最初に自分たちでセルフ・レックで2曲出してるんですけど、その後にアルバムどうしようってことで僕に来たみたいですね。
──それで商業スタジオで撮るってなった時に、一発目と思えないぐらいの遊び心があったのがすごい良かった。シューゲイザー的なサウンドでありながら曲もコンパクトだし、やれること詰め込んで冗長になる前にバッと終わる潔さみたいなのを感じたんですよ。
Ogata:30分ぐらいのアルバムでね。まだ続いてもいいしでもあそこで終わるのがちょっと物足りなさというか、寂しさを感じてもう一回聴きたくなる。ちゃんとアルバムの中で世界観が1本の筋が通ってるのも良かったですね。
──全体をまとめる力もすごくありますよね。Ogataさんがやってるバンドは結構特にそうな気がしますけど、雪国をはじめとして、cambelleもインディー・ポップとしてめちゃくちゃ上質で素晴らしかったです。
Ogata:cambelleの『Magic Moments』、すごく良かったですね。ミックスはアルバムのドラムも叩いているMagic Sonのドラムで、Kamisadoやチョコパのサポートをやってる山本直親くんがやってるんですが、僕はその前の段階の録音を担当しました。
──ドラマーがミックスした音のまとまり方、ピークの抑え方を感じます。
Ogata:彼はすごいちゃんとセンスがあるというか、オタクっぽいリファレンスに対する知識があって、そういう寄せ方ができるタイプの人な感じがしますね。
cambelle:東京を拠点に活動するスリー・ピース・バンド。温故知新ということばがピッタリな11月にリリースされた10の楽曲群は、60年代ポップスの空気感を纏い、分離感とまろやかなパッケージングを両立させた一枚。パステル・カラーの情景をうまく表現した歌詞や、決して耳が痛くならないバランスで組み立てられた、コーラスやピアノ、シンセサイザーなど、ウワモノの近い帯域の棲み分けに注目してほしい。
──あとはインプットで言うと、the Stillの『Undercurrent』。2枚組で28曲、すごいヴォリュームですよね。はてなブログのセルフ・ライナーノーツを読んだんですけど、どのようにしてつくったんですか?
バンドの金字塔となった、超大作
Ogata:最初に僕がフリーのエンジニア始めたくらいから一緒にやってるんで、5、6年分の集大成ですね。途中でずっと録り続けてるなってことに気づいて「あれ? リリースとかってどうなってんの?」って訊いたら2枚組のアルバムとしてリリースしますって言われて。EP4枚とかでもいいんじゃない? って一応言ったりしたんですけど、一発で出した(笑)。姿勢としてもかっこよかったし、バンドにとっても金字塔みたいになってるんでいいのかなと。
──細かく出してフィードバックをもらう、みたいなこともせずにやり続けるわけじゃないですか。自分たちの要素が濃縮され続けるのって怖くもありますよね。
Ogata:確かに。最後の方でミックスを一気にやり直す時間とかもあって。5,6年前にやってることと今やってることが違いすぎるから、2週目みたいな(笑)。しかも一辺倒の曲が28個あるわけじゃなくて全部バリエーションが違う。バンドが違うくらい楽曲の幅もあるのでおもしろいです。
the Still:結成10周年を迎えた4ピース・バンド。ジャンルで形容し難い超大作がリリースされたが、その姿勢は限りなくオルタナティヴであり、ポップで普遍的な土台を元に作られたであろうことが窺える。長い時間をかけて熟成されたルーツや遺伝子、制作とともに移り変わった時代の変遷は、バンドの歴史であると言っても過言ではないように思える。
──11月にリリースされたSisters In The VelvetのEP「Mother's Octave」はかなり反響がありましたよね。
Ogata:Sisters In The Velvetはライブハウスで出会ったバンドです。営業をしたのはそれが最初で最後なんですけど、ライブがめっちゃかっこよくて、一緒にやろうよって言って関係がスタートしました。あれはクリックなしで撮ってるんですよ。テンポチェンジとかも激しいので、3人でせーので録りました。その時点でギターはライン録りの仮テイクで、それに合わせて本番のテイクを録り直すっていう。これができるのもバントが仕上がってる証拠だと思います。
Sisters In The Velvet:ピッチ・ベンドや高音成分を削ったラジオ的なサウンドなど、前衛的な音を適切かつ衝動的に差し込み、的のど真ん中を射る姿勢がカッコいい。ずるいですが、録音方法を知ってから聴くとより一層生々しく一体感のあるサウンドに感じてしまいます。彼らのルーツや当時のシーンを記録した2020年に実施のOTOTOYの連載「早く時代がついてこい!」のメール・インタビューも併せてどうぞ。
──クリックなしとは凄まじいです。シングルだと印象に残っている音源はありますか?
Ogata:それこそcat meowsは面白かったなあ。ドラムは打ち込みでやるって聞いて、最初は僕が音作りをしてみたんですけどフロントマンのヨシダさんが作ってたデモのドラムの音の荒々しさに全然追いつけなくて。ヨシダさんのやつくださいってお願いしました(笑)。
──結構エフェクティヴな感じになりましたよね。
Ogata:そうですね。マキシマイズ感っていうか、音の粗さみたいなものがデモの音にはちゃんとあったんですけど、エンジニアが上手いことやろうとすると全然それになれなくて、その人の感性が出力されてるんだなと...。
──活動休止してましたが再開するとのことですごく楽しみです。













































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