2025/12/24 18:00

実験的録音、取捨選択について──セソマット、viewtorino、Modern Jazz War、エスキベル

Ogata:最近だとセソマットが4曲のEP「4Matt」出したんですけど、意外と誰もやっていない感じでよかったです。00〜10年代くらいのインディーの感じ。ギター主体だけどいっぱい要素があって、ギター・ポップとオルタナの間みたいなことをやってる。大学4年生くらいの年の子たちがやっているとは思えない。すごいセンスですよね。

──貪欲に吸収してきたんだろうなという感じが伝わってきます。彼らはとにかくセルフ・プロデュースが上手いですよね。編曲やジャケットにも一体感がある。

Ogata:ちゃんとデモを作れるタイプのバンドで、ここまで考えられるのすごいなと。インターネット・ネイティブのインプット量の恐ろしさを感じます。

UKロックやインディー・ロックを取り入れた意欲作

セソマット:ジャケットも相まって、最初に“貴様に!”聴いた時、「ビビットな音」という言葉が浮かんだ。これはアンサンブルに対して、一つの主役の音が際立つよう、鮮やかなスポットライトを当てる、あるいは主役の音を、さらに音で装飾するかのような印象からくるものだった。決して無闇に派手な音というわけではなく、あくまで堅実なポップスの骨組みの上で、軸となるサウンドを自由に移動させる破天荒さがおもしろさの要なのかもしれない。

──こういう方向性で飛び抜けられるのはいいことですよね。Ogataさんがやっている音楽制作ユニット viewtorinoのEP「Bandwagoner」はどうでしたか?

Ogata:久々に曲を書きましたね。本当はちゃんと長いスパンで考えてたんですけど、僕が忙しすぎて10日ぐらいで、0ベースから4曲仕上げることになって。そこから3人で手分けしてつくりました。ギリギリなのはよくある話なんですけどね(笑)。

──手法としてはthe Stillとは対極的になりましたね。

Ogata:このペースで作ってみると、なにも考えず、できたものが全てになりますね。もちろん真剣に妥協せずやりましたけど、結局自分は自分だなと思いながらやりましたね。全ての決定がその時のベストだなと思って進めるしかないと思いました。

viewtorino:ドリームポップ、UKロックやエレクトロ・パンクなどから影響を受け、ギタリスト、エンジニアとして活動するKensei Ogataの鋭い視点が盛り込まれた音楽ユニット。10年ぶりのリリースとなった本作は、リバース・ギターによる穏やかな波のようなテクスチャーとウィスパー・ヴォイスで構成された一枚となった。

──バンドだと特に面白かったのがModern Jazz Warの“Holes in Modernity”。かっこよかったです。

一発録りで作られた、衝撃のポスト・パンク

Modern Jazz War:タフなノイズ・バンド。ジャズの即興性、アンビエントを鍋に入れて火にかけ、文字通りハード・ボイルドにしたような強度を感じる。劇伴的な、インダストリアルな質感の、倒錯的で目が回るサウンドが好きな人はぜひ。

Ogata:これはもう、ヴォーカル以外は一発録りですよ。4人を1部屋にぶち込んで、アンプも全部鳴らして撮るっていう

──セッションですね。被りの管理が大変じゃないですか?

Ogata:もう被り上等でやりましたね。フィードバックが鳴ってるっていうのが大前提のプレイでインプロの部分も多いから、みんなでせーので合わせるしかない。部屋の中で鳴ってるギターの音量とか帯域のバランスも、アンプで鳴ってる段階で音量を揃えた上で、ドラムについたてを立てたり、ドラムをセンターに置いてシンメトリーな状態にして、ドラムのオーバーヘッド・マイクに被る音とアンプの場所を計算して置いてからの、一発でした。

──いやー、信じられない(笑)すごい現場ですよね。

Ogata:そうですね。やれること少ないのかなって思ってたんですけど、意外とドラムも好きな音にできるしどうとでもなるなと。ベースは被りが怖いのでラインで録音して、あとからリアンプしたって感じで。これこそ人間味みたいなのがちゃんと音とプレイに乗ってるからやって良かったですね。バンドも仕上げてこないとできないことですから。

──こうやって見ると、音楽性に合わせて柔軟に手法を変えてるんだなと感じました。エスキベル『Sines』でも、おもしろいことをやってますよね。

実験的な録音が施されたエスキベル2ndAL

エスキベル:日本情緒、歌謡的な要素を取り込んだ、ザラついたテクスチャーのヴォーカルに、ローファイ、アンビエントなどの実験的で自由な音楽が混ざった独自の世界観をつくりだしている。“いい音”を飛び越えた“おもしろい音”への探究心が、Kensei Ogataのエンジニアリングによって引き出され、突出した作品性を生み出している。

Ogata:そうですね。僕は2曲だけミックスをして、それ以外は録りまでだったんですけど、録りの段階で変なことずっとしてて。

──ミックスで頭を抱えさせてたかもしれないですね(笑)。

Ogata:「これどうすんの? 」みたいなのも録ってたので、これ何になるんだろうとか思いながら撮ってる素材もありました。

──ポストで見たんですが、アンプの前にシンバルを置いて擬似的にドローンを再現したりもしていましたよね。

Ogata:そうです。ギターのアタックや高音成分を削りたいっていう目的だったんですけど、モニター・スピーカーのテンモニの高域の出力を抑える為にツィーターにティッシュを被せる方法があるんですよ。今回はその代わりにシンバルで完全に遮音させつつ、ドローン(持続音)も撮っちゃうみたいな感じでやりました。案外うまくいっておもしろかった。レゾネーターっぽいみたいな状態にもなりつつ音が伸びていくんですよ。

──ミックスが怖い素材ですよね(笑)。

Ogata:そうですね。フレーズだけ取り除きたいとかが無理なので、後戻りできない状態で、変な素材は変な素材のままミックスにぶち込まれてるはずです。

──しかしわざとらしくないというか、おもしろい音だけど奇を衒っているような質感はないですよね。曲のノイズにはならないよう、耳を澄ませたらおもしろい音が聴こえてくる。

Ogata:そのバランスで彼らはやってますね。

──もっとちゃんと聴かれたら、また評価が変わると思います。

Ogata:僕に依頼してくるときのリファレンスや、僕が過去に担当したバンドで何が良かったか、みたいな話をするとエスキが一番多い気がしますね。

──バンドをやってる人たちは気づいてるんですよね。

Ogata:嬉しいですよね。ミックスしてる年齢バンドの米久保くんは若手エンジニアとしても活躍していますし、彼もすごいですよ。

──the Stillの録音ではエレキギターのナットにドライバーを挟んで弦高をあげ、ラップスチールみたいにしているポストも拝見しました。

Ogata:昔知人から、ラップスチールを再現するためにギターにも使えるアタッチメントをもらったんですけど、何かしらで弦高をめっちゃ上げればいいんだって気づいて、ドライバーを挟みました。

──あくまでバンドのエレキ・ギターとしての体裁を保ちながら全く新しい音を出すっていうのは意味がありますよね。

Ogata:ラップスチールは結構カントリーっぽい趣向で取り入れたかったんですよ。普通のギターのスライドだと、ギラつらついたフレットと擦れる音が入っちゃうんで、それがないようにしながら、後でボリュームを書くみたいな感じで作りましたね。長時間したら普通にネックに負荷がかかるからあんまりやらない方がいいんですけどね(笑)。

──Wang-Wang(旺旺)の『Twilight』の録音は硬派な感じですか?

Ogata:そうですね。Wang-Wang(旺旺)も順当に録りつつ、同世代の音楽の影響下にあるものをやってるっていうのが意外となかったんで、それはちょっと面白かったかもしれない。00年代感というか、スーパーカー直系の影響下の音楽とかを録ったのは、意外とやらなかったなと。

浮遊感のある轟音が包み込む、Wang-Wang(旺旺)の1stAL

Wang-Wang(旺旺):絶妙な温度感の柔らかいリバーブで包まれたオルタナティヴ・ロック・バンド。英詞で郷愁を誘う雰囲気が特徴。活動休止を経て3人での「断続的活動』を開始すると発表されている。

──たしかに。共通言語がある上での録音は精度が高いですからね。Beachside talks『Hokorobi』は意外とスタンダードに録ってるんですか?

Beachside talks:今活動しているバンドのなかでも飛び抜けて多角的にオルタナティヴで、底が知れないバンドだ。シューゲイズ、ドリームポップなどの影響を受けながら、オートチューンを用いたり、R&B、ダンス・ミュージックを取り入れてみたりなど、様々なジャンルを彼らの色で覆い尽くす、約二年の制作期間を経てつくられた代表作をぜひ。

Ogata:そうですね。Wang-Wang(旺旺)もですけど、ドラムとベースはスタジオでやって、あとはもう家で録ってます。

──ギターは家でライン録り?

Ogata:そうです。KemperかOXっていうキャビネット・シミュレーターがあるんですけど、それを使うことが多い。Beachside talksはスタジオで撮ることもあるんですけど、ほぼ8割ぐらいは家で撮ってます。フィードバックとか図太い感じのやつはスタジオでアンプを鳴らすんですけどね。

──アンシミュも質がいいですからね。やっぱりしっかり形になるんですね。

Ogata:そうですね。コントロールしやすいし、アンプに別に固執しなくていいかなみたいな。取捨選択すればいいかなとは思いますね。

──コストと相談して選べるのもいいことですよね。単体で聴いたらやっぱアンプの方がいいなと思うかもしれないけど、シンセみたいな現代的な音と合わせるとなると変わってくると思います。

Ogata:そうなんですよね。モダンな処理を施していく過程で結局削っちゃう部分があるんだったら、最初からある程度整理されてるやつの方が扱いやすい。それでも少ない楽器数で納得いく音の情報量をしっかり確保したいみたいなときはマイクで撮ることを勧めるかも。

──簡素に録って後から情報量を増やすのは難しいですからね

Ogata:そうですね。Sisters In The Velvetと雪国、エスキベルみたいな、ギター主体のバンドはアンプで録ってます。

この記事の筆者
菅家 拓真 (Kanke Takuma)

レコーディングを少し齧りました。 脳みそみたいな音楽が好きです

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