DOOBEEISは、2010年12月にリリースされたファースト・アルバム『DOOBEEIS』のリリックはそのままに、トラック・メイカーもこなすMC・HIDENKAの地元の盟友BooTのバンド・サウンドを加えて、早くもセカンド・アルバム『9th Dope』をリリースした。HIDENKAとGOUKIというベテラン2人からなるラップの掛け合いと、BooTが繰り出すダブ処理されたサウンドとの混合物は、リスナーを底なし沼に引きずり込んでいく。BooTの重いダブ・サウンドが運んでくる2人のリリックは、生活のスピードを一瞬鈍らせる媚薬のように語りかけてくる。インタビュー後に覗いたヒップ・ホップ・イベント『触』のリハーサルでは、DOOBEEISだけ周りの出演者と違う雰囲気を纏っていた。佇まいは決して派手ではない。しかし、人の心に訴えかける熱があった。謎に包まれたHIDENKAとGOUKIに自身のルーツやラップへの思いを聞いてみた。
インタビュー & 文 : 和田 隆嗣
DOOBEEIS meets BooTの新作はダブ/レゲエが溢れている
DOOBEEIS meets BooT / 9th Dope
【Comment from DJ YAS、鎮座DOPENESS、OLIVE OIL】
10ヶ月の吉祥寺滞在中に偶然なのか? 必然なのか? 2人のラッパーに出会った俺は彼等のライブにDJとして度々参加している。それは興味を抱かずにいられなかったからだ。俺の準地元・吉祥寺は音楽好きが集まる街。そこで着実にヒップ・ホップ・パーティーを仲間達と開催し発信し続ける男GOUKIと、DOPEなトラック・メイキングも光る風来坊HIDENKA。2人による進化系グループDOOBEEISには、第3の男アンジーというベース&トラック・メイカーというスケットが加わるライヴは、これから増々楽しみである。その前にこの音源は必聴だ。ーDJ YAS(KEMURI PRODUCTIONS)
粋な男のやりとり。DOPEなまどろみ。素敵な爽快感。ヤベー
ー鎮座DOPENESS(KOCHITOLA HAGURETIC EMCEE'S)
生音の波は細かい色付き。縦の滝しぶき。声はイルカ。出たり潜ったり。カタマリは自由。だから空気にも色を付ける。
ーOLIVE OIL(OILWORKS)
より説得力のある録音物になっている
——『9th dope』というタイトルの由来は?
HIDENKA(以下、H) : 今作でサウンドを扱ったBooTの人達が「9つのドープはどう? 」って言ってきたので、「それにしようよ」って。
——BooTの方々はHIDENKAさんのお知り合いだったんですよね?
H : 数年前に郡山へLIVEに行ったんですけど、その日のサウンド・システムを担当していたんですよ。そこからですね。
——前作『DOOBEEIS』を12月にリリースしたばかりですが、今作はどういったタイミングで制作に入ったんですか?
H : 『DOOBEEIS』と同時進行で作っていましたね。BooTの人達にオリジナルの音源を渡して、曲を書き直してもらったんです。リリックは同じなんですけどね。
——なぜ、バンド・サウンドを入れたいと思ったんですか?
H : 元々俺1人でBooTのメンバーと活動していたんですよ。それが面白かったので、DOOBEEISでもやっちゃおう、しかも音源も出しちゃおうってことで始めたんです。
——1人でBooTのメンバーと活動していた時はいつですか?
H : GARBLEPOOR! でやっていた時のバンド・ヴァージョンですかね。東京では2、3回しかやっていなくて、後は俺とBooTの地元福島県・郡山市での活動が多かったですかね。その流れで、DOOBEEISにも波及していったんです。
——その時のGOUKIさんから見た、BooTの印象はどうでした?
GOUKI(以下、G) : HIDENKAから地元にやばいバンドがいるって聞いていたんですけど、会ったことがなかったんですよ。音源はチェックしていたんですけどね。実際に会って音を聞いたらやっぱりヤバかった。
——今作でイメージしたのは、サウンドの通りレゲエ、ダブでしょうか?
H : そうですね。BooTのサウンドが僕たちと上手く合いました。元々ハード・コアの固いドラムの人達だったんですけど、ウッド・ベースやミックスもやり出して、そこから俺たちの曲を聴いたイメージで、曲を作ってくれたんです。そこに合ったリリックを俺が乗せる。この作業の繰り返しでした。
——前作との1番の違いは何でしょうか?
H : 生音と俺らのラップが重なったところが、前回とはかなり違ってますね。そこが聞き所になっているかなって思います。生音と合わせるってことで、俺らもかなり練って作品を構築することが出来ましたね。
——以前インタビューで、普段やらないようなスタンダードなやり方をテーマにしたとおっしゃっていましたが、今作もそのテーマは変わっていないですか?
H : リリックはそのままなので、テーマは変わってないですけど、このバンド・サウンドによって前作では出せなかった空気感が出ていて、より説得力のある録音物になっていると思います。音源としてもかなり良いですね。
G : 自分がこれまで出して来た作品の中でも、大分特殊な作品ですね。サウンド的な意味でいえば。
——変わったことを狙ってやったわけではなく、自然とやりたくて始めた感じですか?
H : そうですね。しかも、お互いに音から入っていって、その感じも知っているからスムーズに制作に入っていけましたね。
——お2人ともレゲエ、ダブの要素は好きだったんですか?
G : 俺はGARBLEPOOR!の影響で色々教えてもらいましたね。
H : 基本は何だってやってみよう精神なんです。ブルースも好きでしたしね。だから1曲1曲をひも解くと、地獄の世界みたいですよ。要素が多過ぎてね。
——お2人の音楽のルーツはどこにあるんですか?
H : 音楽と青春を共にしたのと同じくスケート・ボードも深い関わりを持っていました。人も音楽も広がりを見せたのは、スケート・ボードの影響が大きかったですね。小学校5、6年生から始めて高校生の時は、もうかなりやりこんでましたね。スケボーって、カルチャー的にも音楽が凄く入ってくるんですよね。スケボーの先輩達と地方に行く時も、車の中で知らないヒップ・ホップを聞かせてもらったりしてましたね。
G : 俺は夜更かしですね(笑)。ラジオかな。ヒップ・ホップに入るよりも、買ってもらったアコースティック・ギターで、ビートルズとかサザンを練習してましたね。昔J-WAVEで「何時何分にかかってた曲を教えて下さい」って電話すると教えてくれてたんですよ。それでCD買ったりしてましたからね。ヒップ・ホップは地元の友達と遊びから始まった感じです。
——その熱さはまだありますか?
H : 結構ありますよ。以前に東久留米にライヴに行った時なんかは、俺らと同世代の奴らが盛り上がっていましたからね。生き残っていますよ。生活する場所が違うだけで、同じ意識がこもり続けているんですよね。今の自分を見ているみたいで恥ずかしかったですよ(笑)。あれからずっと続いているんだなって(笑)。
人に聞かせることを普通にしたい
——日本語ラップのシーンは多様化し、それぞれのリアルが存在しているように思えます。お2人のリアルとは?
G : 歌詞で歌っていることが全てですね。例えば、いい景色を見た時とか、気持ちのいい音楽を聴いた時とか、友達と良い話をした時とかにリリックを書きたくなりますね。思った瞬間に、歌詞にしたくなります。もちろんガクっと落ちた時にも、歌詞を書いたりもします。それも私生活で起きているリアルなことだから。
——サウンドを作る際は、相談しながら作業されるんですか?
H : 時代とかを気にしないで、その時々のグルーヴや基盤を再構築したりして、そこで出来上がったものを「これ、いいじゃん」って言って選んでいます。とことん音を作り込むので、その中から自然に選べるんですよね。
——今作のサウンドはBooTの皆さんが、作られたものなんですか?
G : そうですね。すごいBooT感が出てましたよ。でも、きっとこのDOOBEEIS meets BooTのライヴを東京でやるのと、地元の郡山でやるのではサウンド・スケープ感が違うと思いますね。
——BooTの方々は郡山市で活動を続けられてたんですか?
H : そうなんです。兄弟2人のユニットでやっています。ウッド・ベースとドラムをAnn-Gがやって、ギターをMAR420がやっていますね。
——鎮座DOPENESSは、上京して来た時は、これで食っていこうという気持ちだったんですか?
H : 食っていこうというよりも、好きだからやっていこうってくらいでしたね。そうしたらたまにお金をもらえるから「もらっちゃったー」みたいな(笑)。やりたいことを、ずっとやりたいなっていう気持ちで、まだまだ追求している段階ですけど。東京に来てから流れでラップをし始めて今まできてますけど、俺にとって1番重要なのは、音楽をやり続けるっていうことなんです。それでレーベルや色々な人と知り合えましたし。せっかく自分達で曲作ったんだから、人に聞かせようっていうスタンスで活動していますから。稼いだことなんてないですよ(笑)。金は凄い欲しいけどね。金を稼ごうなんて考えたら、いきなり何も出来なくなりそうで... 曲を録りまくって、良いもの出来たから聞いてよって言って、人に聞かせることを普通にしたいだけなんです。それで「いいね」って言われたら、「いいでしょ」って(笑)。
聞いてくれる人の良き嗜好品になってくれれば
——ライヴに対する意識はどうですか?
H : 最近は音源を出したってこともあって、ライヴのことしか考えてないですね。でも色々な障害をつぶしていかないといけないんです。
G : ライヴに関しては開始20分後から調子良くなっていくんで、最低でも40分はやりたいですよね。
H : 難しいですよ。DJセットとは全然違いますから。良い時はいいし、悪い時は悪いですからね。
——良い時とは?
H : 全てが真ん中に集まっていて、サウンド・システムとの相性がよければいいんですけど、そこが上手くいかないと自分達も対応出来ないんですよ。バンドとしての経験値を上げて、その中でも自由さを見つけてやっていきたいですね。まだDOOBEEISは生まれて1歳なんでね。どんどん成長していきたいですね。
——ラップのキャリアとしては、どのくらい経つんですか? ラップのスタイルが変わった時はありました?
H : キャリアは10年以上ですかね。4バースを迎えたって感じです。スタイルに関しては、聞こえ方が変わっていたりしているかもしれないですけどね。
G : 環境は変わってきますから、リリックの内容も変わって来ますよ。だから、これからもいろいろ変わっていくだろうし、いろんなものを作りたいなって思いますね。
——時代や世の中に対する葛藤、不条理を感じ取れる内容がリリックにも表れている気がするのですが。
G : 自然と感じ取るものだと思いますけどね。
H : どっちかというと、そういったものを潰そうとしていますね。乗り越えなきゃいけないと思うんですけど、その毒をどうにか変換して生きる力に変えたいと思うんですよ。重く受け止めていると、そればっかりを考えるようになっちゃいますからね。悔しいんで、どうにかくつがえすまでやり続ける。でも、自分の中に矛盾も生まれてきている気がします。意識を張りめぐらせているのに、見て見ぬふりする疲労感であったりとかね。
——歌詞を聞けば聞く程に引きつけられるのですが、又一方でリズミカルですよね?
G : 書いたものがビートに乗っただけではなく、ラップで踊りたいですからね。
H : もっともっと音楽的になりたいですね。
——DOOBEEISが今後訴えかけるものは何でしょう?
H : ダークの良さを感じとってほしいですね。暗いだけじゃない、その中にある光も感じてほしいです。
G : 出来るだけ爆音にして、お香でも焚きながらリラックスして気持ちいい環境で聞いてほしいですね。聴いてくれる人の良き嗜好品になってくれればと思います。
——今後BooTの皆さんを東京に呼んで、ライヴをやる予定はありますか?
G : 3月25日(土)に池袋BEDでリリース・パーティーやります。是非このサウンドを生で感じにきてください。
リアル・シット・ヒップ・ホップ
BONG BROS / VIRGINAL DISCHARGE
京都、滋賀の同世代を中心としたMC(RACY、B-COSMO、TURKEY、小鉄、P.E、NAUGHTY DADDY、MOTOACCE、MOMIO、E5)、DJ(DAN、TAKASHI、GAJIROH、MIYATEN、DAMBO、294)、TRACK MAKER(BoNTCH SWiNGA、M.A(ラッパー兼任)、B-C(ラッパー兼任))達、総勢16名からなるHIP HOP集団「BONG BROS」がシーン最前線へ投下するクルー処女作。
ISSUGI FROM MONJU / The joint LP
日々の断片を切り取るかのようなリリックや、時にジョークを飛ばすように、時にシリアスに内面を切り出す言葉に東京特有のにおいを感じさせる。Udekikiの名のごとく中毒性を持つリリシズムとフロウは聞くたびに耳に染み込んでくる。Producerは16FLIPを中心にBudamunky、Malik、MASS-HOLE、PUNPEE、Gradis Nice as K-MOON、というISSUGIにドンピシャなDreamteam。いまだ一枚の作品に集まる事がなかったこのメンバーだが各アーティストを知るものなら、この一枚が起こす化学反応に察しがつくだろう。
QN from SIMI LAB / THE SHELL
今後のヒップ・ホップ・シーンの鍵を握る存在として注目されるSIMI LAB。その中心人物、QNがソロ・デビュー。 とても10代とは思えないビート・アプローチとラップ・スキルを持つQN。SIMI LABの中核を担う人物だけにグループの正体を知るには、まずは彼の作品を聴くべきだろう。今作には、SIMI LABからOMSB'Eats、Deep Ride、MARIA、Earth No Madが参加。加えて、同じ相模原からSD JUNKSTAのKYN、そして山梨の人気グループstillichimiyaから田我流、その他にもKKD、RATLAP、E.M. a.k.a ELMORE等が参加。
LIVE information
「DEEP THROAT」
2月19日(土) @新潟BARM
Live : DOOBEEIS & VJ iroha、4WD PRESIDENT、MDB
DJ's : BUSHMIND、DJ ITAO、3268、RIDDIME∞EYE、MIYAMAN
「GARDEN」
3月26日(土) @池袋Bed
PROFILE
DOOBEEIS
世間知らずのマリアッチ
二つの黒い影が近づいてくる。HIDENKA(ヒデンカ)とGOUKI(ゴーキ)によるヒップ・ホップ・グループ、DOOBEEIS。奇妙な名義を使い分けて活動している為、その実態を知る者は少ないが、様々なトラック・メイカーとのコラボレーションや、各々過去の活動によって得てきたストリート・プロップスは計り知れない。シーンの内外でボーダレスに活動し、ヒッピーやジプシーのように気の向くまま音楽の旅を続ける。まさに音楽中毒者が待ち望んだアルバムの完成である。混沌とする現実社会に落とされた自由のひとしずくは、みるみるうちに辺りを浸食していく。まるでロード・ムービーのように情景の浮かぶ「DOOBEEISサウンド」を携えて、唯一無二の音楽の高みを目指す。DOOBEEISが持つ世界感は一朝一夕に作り出されたものではない。天井から垂れ落ちる水滴が、長年をかけて洞窟の中で見事な石柱をつくり出す様なものだ。
BooT
Bass & DrumのAnn-GとGuiter & Dub EffectのMAR420からなるDub Session Band/ Riddim MakerであるBooTsoundはレゲエ。ダブ。ヒップ・ホップ。ジャズ。ブルースの煙を吸い込み、ドープさ。生っぽさ。ダブ加減。ザラつき。中毒感。アナログ感を絡ませ、吐き出した煙は表と裏、破壊と創造、ロウとカオス、相反するモノが一つとなり繰り返されるリズム・セッションと鳴り止まないダブ・ワイズから楽曲は常に生まれ続けている。BooTはさらなる音楽への追求し夜な夜な活動している。