2011/05/05 00:00

環ROYが新作『あっちとこっち』を発表した。今までありとあらゆるトラックに独自のライミングを乗せ、ヒップ・ホップを表現してきた環ROY。彼のラップは煙たくもなければ、イリーガルでもない。けれども日本語ラップの概念を軽く飛び越え、より多くの人に届ける環ROY。前作『BREAK BOY』から1年、間隔を空けずに制作された今作は、今までの活動をレポートしているようにも聞こえた。ラップをより生活に近い存在として、捉え楽しんでいる。ヒップ・ホップの、そして音楽の可能性を常に試行錯誤しながら、ラップを愛し続ける本人にインタビューを行い、今何を考えているのか聞いた。

インタビュー&文 : 和田 隆嗣

3rd Albumとなる環ROYの新作を特典付きで配信

環ROY / あっちとこっち
ラッパーとして、生活者として、様々な感情の機微に触れ人物像と共に時代性を浮き彫りにするフィーチャリングなしの全13曲。このアルバムは絶えず1つのことだけを言っている。それはとても大切な話だから、ぜひ理解してほしい。

【参加アーティスト】
三浦康嗣(□□□)、PUNPEE(PSG)、Himuro Yoshiteru、Bun、EeMu(LHW?)、Eccy、JIGG、SHIRANUI、Y.G.S.P

【特典】
アルバム購入者には、歌詞ブックレットが同梱されてきます!

環ROY INTERVIEW

——本作の題名『あっちとこっち』の由来は?

環ROY(以下、環) : 特に意味はありません。語感でつけました。アルバム・タイトルは最後につけたんですが、制作を振り返ってみて1人で思い詰め過ぎてたかも... と思ったので、タイトルくらいは軽いノリでつけてみようと思いました。最初は『ゆくえの行方』だったんですが、意味深すぎると思って『あっちとこっち』にしました。でもこれも意味深って言われます。

——過去作と比べると伝わり易いヒップ・ホップとして表現されているように思いました。

環 : ヒップ・ホップに対してストリクトリーな表現に寄せて行きたい。ってのが今回の自分のモードでした。そのほうがセンスよく、色んな人に伝わるのかなって思えました。ヒップ・ホップが大好きでラップをはじめた訳ですし、自身が生活者としてより素直になったということに起因しているのかもしれません。

——ヒップ・ホップに対する愛情を常に歌ってきましたが、今作もその思いは変わっていませんか?

環 : 大好きですが常に歌ってきたつもりはありません。カテゴリとかは関係無しに、これまで以上に多くの人に伝わりうる音楽を、自分の出来る表現で行おうした結果、ヒップ・ホップで伝えることになったのが今作だと思っています。

——ヒップ・ホップは伝わりやすい?

環 : わかりません。ラップをしている、表現をしているからには伝わるほうがいいと思うので伝わり易くなるよう努力します。

——トラックは、ベーシックなものが多いですよね。

環 : 現在、2011年、色々な価値観が並列化してきているように感じます。なのでどんなモノがベーシックなのか分りませんが、色々な人に色々なトラックを200曲くらい聴かせてもらい、その中から選ばせて頂きました。

——制作期間はどの位だったんですか?

環 : 1年位です。1曲作って、次の1曲を作るというように制作していました。震災の前日に完成しました。

——「フルメタルラッパー」の歌詞で、ヒップ・ホップが音楽の市場の中で、次のステージに上るべきだと歌っているのは?

環 : そんな風に歌っているつもりはありません。ヒップ・ホップはとても可能性のある音楽だと考えています。今より多くの人にコミットメント出来るよう僕は挑戦していきたいし、分りあおうとする姿勢が日本におけるヒップ・ホップの発展に繋がるんじゃないかな、って思ってる。と歌っています。

——四つ打ちのパーティーに多く出演しているNEW DEAL(HITOSHI OHISHIのソロ・プロジェクト)とのライヴ・セットなど、シーンを越えた活動を行ってきた故に、ヒップ・ホップのシーンで改めて見えたことがあったのでしょうか?

環 : 色々な人がいるなと思いましたね。あたり前なんですけど。社会見学っていうか実地訓練っていうか、クラスタが違う様々な人間と接する。ということを肌で感じることが出来たのでとても有意義な経験だったように思います。

——NEW DEALとの活動は、ヒップ・ホップの裾野を広げる為に行っていたものだったんですか?

環 : 結果的にそうなっていれば幸いなんですが、実際はどうなのかよく分らないです。そう解釈してくれる人が居たのならありがたいことだと思います。いまは、「ただやりたかったから、やった」と言いたいし、そう思いたい心境です。

——フリー・スタイルはまだ活発にやってらっしゃるんですか?

環 : 前程はやらなくなりましたね。

——フリー・スタイルで勝ち上がって名前が知られることと、作品をしっかり出して行くことの違いってありますかね?

環 : 作品は物理的にCDやデータなどの録音物を発表するので、その場で行われるだけの即興とは根本的に違うと思います。どっちもいい所はありますし一長一短だと思います。でも、自身に関して言及するのならば、歳を重ねる毎に自分の役割が見えてくるような気がするので、僕はそれを踏まえた活動をしているつもりです。

——いわゆるベースが太く、ファンクやソウル、和物がふんだんに使用されているドープ・サウンドと言われるラップや、ギャングスタ・ラップなどを好むヒップ・ホップ・リスナーは多くいますが、環ROYさんのラップはどんな人に届いていると思いますか?

環 : 自分ではちょっと分からないですけど、それぞれの場所と時間で、それぞれに暮らす様々な生活者に届けばいいなと願っています。

ラップする度に成長出来ている

——一般の生活者の方々(日頃からクラブに行っていない人や、日本語ヒップ・ホップを普段から聞いていない人々)に向けてのメッセージなどは、作品の中で意識して歌っていますか?

環 : そもそも何が一般的かと言うのは断定出来ないんですけど、多くの人にコミット出来る楽曲であれば良いなと、以前よりも強く願って作るようになりました。普遍性とはなにか? って問いに繋がることだと思うので意識していると思います。

——もっと多くの人に聞いてほしい?

環 : 音楽をやっているからにはそうですね。多くの人に受け入れて貰うということは、多くの人を受け入れるということでもあるので、とても難しいことだと思うんですけど、それに挑戦するってのがいいのかなと思っています。理想論なんですが、そう考えるようにしています。

——長年ラップをされてきて、「人に分かり易く伝える」という部分は変化しましたか?

環 : 構造的な部分を抽出して話すと、人に伝わり易い作詞構造ってどういうものなんだろうって考えるようになりました。あとは聴きとり易い発音についてとか。そういうのは様々な文脈を経ながら超然と存在していると思うんですね。あたり前のことなんですけど、あたり前のことをどうやるかって考えるようになってきていると思います。

——ということはリリックの内容で勝負している?

環 : 以前よりは作詞に割く時間は多くなりましたね。

——以前にDINARY DELTA FORCEにインタビューした時に、ヒップ・ホップは「1番正直な音楽だと思う」とおっしゃっていたんですが、環ROYさんはどうでしょうか?

環 : 何を指して正直と言っているのか分らないので分りません。関係あるのか分らないですが、ラップは他の音楽に比べて、かなり口語的な歌唱表現なので、その部分でまだまだ掘り下げていくことができるだろうって希望的に考えています。

——リリックの内容よりも、リズムありきのライミングがかっこいいとされる風潮を最近感じますが、いかがでしょう?

環 : それも1つの正解として受け入れて行く。っていうムードが多くの人に広まっていった結果だと思います。色んな人が色んな方法でコミットすれば、より発展すると考えているので、それも素敵な事だと考えます。

——環ROYさんやサイプレス上野さんの世代は、すぐ上の世代に日本語ラップの先駆者達がいたりと、上下左右と様々な人間関係に囲まれた世代だと思います。そして環ROYさん自身も、影響を多く与えてきた存在だと思うのですが、日本語ラッパーとしての重責を感じる瞬間はありますか?

環 : なんか以前はそういったことを勝手に感じて考えこんじゃってたと思います。けど前作の『BREAK BOY』を発表し、そういった気持ちを吐露した結果、ほとんど浄化されたような気がしています。むしろそうなるために作ったんだと思います。なので今回の制作では、よりフラットになれたし、エゴもかなり減ってきたように思います。なのでちょっと大人になれたかなぁと思っています。ラップするたびに成長出来ている気がするので凄くありがたいなと感じています。

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REPUBLIC vol.7 映像作家100人 2011リリース・パーティー
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Profile

ラッパー。2006年に1st Album「少年モンスター」でソロ・デビュー。2010年には2nd Album「BREAK BOY」をリリース。2011年には3rd Album『あっちとこっち』を発表する。またソロと並行して様々なアーティストとコラボレート、共作名義にて5枚のミニ・アルバムと3枚のレコードを発表している。Sense of Wonder'08、FUJI ROCK FESTIVAL'08 '09、KAIKOO POPWAVE FESTIVAL'10、ASIAN KUNG-FUGENERATION presents NANO-MUGEN CIRCUT.2010などに出演。その他、全国各地のクラブ、ライヴ・ハウスにてパフォーマンスを行う。

この記事の筆者
和田 隆嗣 (Wakf)

DJとかやってます。 和田隆嗣です。 ototoyを盛り上げながら、音楽を楽しんで行きます!!

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[インタヴュー] 環ROY

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