2010/02/18 00:00

「ハイプ」という概念は、ただちに捨てないと大損する

日本において「KITSUNE」というキーワードは、良くも悪くもすっかり「お洒落なもの」の代名詞として変化を遂げたが、ゆっくりと時間をかけて市民権を得た怜悧な活動スタンスは、やはり特筆すべきものがある。フランスはパリに拠点を置く異才クリエイター集団KITSUNEは、音楽レーベル、クラブDJ、ファッション・ブランド、アーティスト、アーキテクチャーなど様々な顔を持つことで知られているが、どれも一貫しているのは、野性的とさえ称される「嗅覚の鋭さ」だ。こと音楽業界に関して言えば、もはや無視することは許されないほど影響力が強い。

2003年にリリースされた『Kitsune Love(輸入盤)』に端を発し、彼らの存在とセンスを世に知らしめたコンピレーション・アルバム『KITSUNE MAISON』は、「いま聴いておくべき音楽が丸ごと詰まっている!」と手放しで絶賛され、昨年通算8枚目を発表するに至った恒例の人気シリーズ。筆者としても、かなり久しぶりに過去の『KITSUNE MAISON』を聴き返してみたのだが、正直驚いた。今となってはシーンの中枢に君臨するバンドや、ジャーナリストからも高評価を受けるミュージシャンが、ゴロゴロと名を連ねているのだから。

ほんの一部を抜粋するだけでも、デジタリズム、ホット・チップ、メトロノミー、ブロック・パーティ、シミアン・モバイル・ディスコ、クラクソンズ、ボーイズ・ノイズ、ザ・ゴシップ、ファイスト、フォールズ、ハドーケン!、クリスタル・キャッスルズ、フレンドリー・ファイアーズ、イェール、ラ・ルー、ジェームズ・ユール、ザ・ドラムス、デルフィック……etc。ちょっとしたフェスティヴァルが成り立つぐらいの錚々たる面子ではあるが、件のコンピレーションで紹介された以降の、彼らのブレイクと躍進ぶりはご存知の通り。所謂「ニュー・レイヴ」や「フレンチ・エレクトロ」のムーヴメントは短命に終わったが、それは知性の足りないメディアが勝手に騒ぎ立てたに過ぎず、KITSUNEは決して単なる「ハイプ製造機」なんかではないのだ。

GILDAS & MASAYA

後塵を拝するUKの音楽シーンに、救世主あらわる?

何よりの証左として、この集団はまたしても手垢の付いていない脅威の新人バンドを発掘した。12月のブリティッシュ・アンセムにて初来日も果たした、北アイルランド出身のトゥー・ドア・シネマ・クラブである。アレックス・トリンブル(Vo,G)、ケヴ・ベアード(B,Cho)、サム・ハリデー(G,Cho)の3人からなるドラムレスのバンドで、原曲では打ち込みを取り入れてダンス・ミュージック的なビートを構築しているが、ライヴにおいてはサポートのドラマーが参加することで、10代ならではの疾走感とダイナミズムを加速させていたのが印象に残っている。満を持してのデビュー・アルバム『ツーリスト・ヒストリー』も完成し、日本国内ではtrafficとP-vineの協力のもと、新たに設立されたプロジェクトKITSUNE JAPONからの、記念すべき第1弾の作品としてリリースされるという。

「KITSUNEは過去7年もの間、常に新しい才能を世界へ発信してきた。(中略)今後はKITSUNEに所属するアーティストのアルバムを、より多くの日本の人たちに知ってもらい、アーティスト育成に集中できるようにするため、KITSUNE JAPONを立ち上げた。最初に送り出す目玉作品は、トゥー・ドア・シネマ・クラブというバンドの素晴らしいアルバムだ。2010年の音楽シーンで起こる最高の出来事になるだろう。本当にクールな若者で、歌、メロディ、ライヴ、すべてがファンタスティック! これはもうミュージシャンというか、“マジシャン”の領域だね」

そう熱く語るのは、パリ在住のKITSUNEの中心人物ジルダ・ロアエック。これまでの活動で、メジャーとインディー、バンドとDJ、ライヴ・ハウスとダンス・フロア、ありとあらゆるジャンルや境界線を壊し、最先端のカルチャーをクロスオーバーさせてきたジルダが、トゥー・ドア・シネマ・クラブに没入したのも無理はない。デス・キャブ・フォー・キューティー譲りのジェントルな歌声と美メロ、ブロック・パーティのように軽快なカッティングを刻むギター、ラップトップから放出される機械的なビートに寸分違わず合わせる演奏スキル、それらすべてを兼ね備えた彼らは、まさに「アンファンテリブル」という言葉が相応しいほどだ。とにかく異常なまでの音楽的リファレンスの豊富さは、プロデュースを手掛けたエリオット・ジェームス(カイザー・チーフス、ノア・アンド・ザ・ホエール、リトル・マン・テイト等)による功績も大きいだろう。無数の若手バンドが解散し、2009年はアメリカに完全敗北を喫したイギリスだが、今年こそは怒濤のリベンジを実現してくれるのではないかと期待している。トゥー・ドア・シネマ・クラブは、必ずやその最前線に立っているはずだ。

Two Door Cinema Club

キツネの嗅覚は衰え知らず

そして、一部の好事家からは既に見放されつつあったKITSUNEを取り巻く環境も、急激に好転し始めている。従来とは趣きの異なるコンピレーション、『Kitsune Tabloid』(KITSUNEがリスペクトしているアーティストへオファーをかけ、独自の選曲でストーリーを語ってもらうという新聞仕立てのミックスCD・シリーズ)のパート2でフィーチャーした、フランスを代表するロック・バンドのフェニックスが、なんと先日開催された第52回グラミー賞にて、「最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞」を受賞するという快挙を達成。史上初のフランス人アーティストの受賞であると共に、長年アメリカとイギリスの英語圏のアーティストが独占していた同賞の記録を、完全に塗り替えてしまったのだ。もちろん、フェニックスが『Kitsune Tabloid』で編集長に指名されたのは、グラミー受賞のおよそ1年前である。KITSUNEの先見の明は、一体いつまで衰えないというのだろうか? 全世界のリスナーは、これからもフレンチな狐につままれるのだ(お後がよろしいようで)。(Text by Kohei Ueno)

KITSUNE PROFILE

KITSUNEはファッション・ブランドとしての“KITSUNE”のデザイナーMasayaKurokiと音楽レーベルとしての“KITSUNE”のディレクターGildas Loaecとアート・ディレクションを勤める “Abake”により構成される。MasayaKurokiはフランスにて一級建築士の資格を持ち、Gildas Loaecは13年前からダフトパンクのマネジメントを担当している。4人のデザイナーからなるAbakeは、セント・マーチンズやロイヤル・カレッジ・オブ・アートで教員をしている。マルタンマルジェラや、フセイン・チャラヤンのアートワークも担当し、主にKITSUNEのビジュアル面を支えている。説明不要の名作コンピレーション第一作目。 新しいアーティストの才能をいち早く発信するというコンセプトは名曲の寄せ集めコンピレーションの概念を覆した。フレンチ・エレクトロと呼ばれるきっかけにもなりKITSUNEの代名詞ともいえる作品が誕生した。

KITSUNE LINE UP!!!

■ Compilation Series

■ Album Series

■ Single & Remix Series

この記事の筆者
上野 功平 (ekatokyo)

音楽と服と猫とお菓子とロングヘアーにオブセッションを抱く、Negative Creepなライターです。レーシック手術後、カワイコちゃんスカウターの精度がアップしました。

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