2026/05/03 19:00

今作で描かれた、身体性と精神性の揺らぎ

──“懐古主義わたし”では、声優の平塚紗依さんをフィーチャーされています。

笹川:この曲は途中に呪文を詠唱するようなセクションがあるんですけど、まずそこから思いついたんです。その時点で「これは絶対に平塚さんがいい」と思って。もし平塚さんにお願いできないなら、この曲はアルバムに入れなくてもいいかなと思うくらいだったので、すぐにオファーさせていただきました。この曲はたぶん、自分だけでは完成しないという感覚が強くあったんですよ。そうなった時に、少なくとも歌ってもらうのはミュージシャンではないな、という気がして。もともと平塚さんの声がとても好きでしたし、実際に歌ってもらったらばっちりハマりました。

──この曲も、まずタイトルから付けたのですか?

笹川:そうですね、パッと思いつきました。この曲には、自分が青春時代に夢中になっていたカルチャーからの引用がたくさん散りばめられていて、そういう意味ではこの「懐古主義」という言葉には少し自嘲も入っているのかもしれません。

僕自身、ずっと2010年頃の同人音楽の質感が大好きで。自分は結局のところ、当時の感覚を再構築し続けているだけ……と言えなくもない。そういう意味で「懐古主義」という言葉が出てきたのかなと思います。

──おっしゃるように、さまざまなオマージュが随所に散りばめられています。その再構築の仕方にオリジナリティが宿っているのかなと思いました。

笹川真生 - 懐古主義わたし feat. 平塚紗依 / Mao Sasagawa - Archive Heaven feat.Sae Hiratsuka
笹川真生 - 懐古主義わたし feat. 平塚紗依 / Mao Sasagawa - Archive Heaven feat.Sae Hiratsuka

笹川:前作『STRANGE POP』あたりから、だいぶ自分に正直に作れるようにはなっていたんですけど、今作ではより、自分が影響を受けたもの──ゲームや音楽、小説、ネットカルチャーに対して嘘をつかずにいられたなと。嘘をつくのって、好きなことに対してどこか後ろ暗さがあるということじゃないか、と今は思っているんですよ。自分の好きなものを好きだと自信を持って言うためにも、それをあえて隠さずに出せた、という感覚ですね。

──僕自身は音楽にせよ映画にせよ文学にせよ、引用が散りばめられた作品が大好きなのですが、一方で「オリジナリティがない」などと言われることもあるわけじゃないですか。そういう意味での後ろめたさが、これまでにあったのかなとも思ったんですが、そこはどうですか。出し方によっては、パクリだと言われたりもするじゃないですか。

笹川:そこはすごく難しいですよね。「あ、これはあれだな」とか、「これが好きなんだろうな」と伝わる作品は、僕も音楽に限らず大好きです。でも、非常に危うい言い方をすると、許せる作品とそうじゃない作品があるじゃないですか。ひょっとしたら、僕自身も「そうじゃない」方の作品だと思われることはあると思うんですけど(笑)。

──たとえば本作収録の“かみさま”には、ゴダールが『気狂いピエロ』のラストシーンで引用したランボーの詩の一節が入っています。ゴダールもまさに夥しい引用をあざといほど散りばめていく映画監督でしたが、そこが「ポップ」にも感じました。

笹川:そう。なので、良し悪しの判断基準が「軽薄じゃないかどうか」という話でもない気がしていて。最近、The Novembersのケンゴマツモトさんに薦めてもらった、アラン・マバンクの『割れたグラス』っていう本を読んだんですけど、それがものすごい量の引用なんです。しかも、いろんな映画や書籍のタイトルみたいな表層的な引用ばかりなのに、読んでいて「なんだこいつ」とはならないんですよね(笑)。一つひとつに対する愛がちゃんとあって、それが最終的なアウトプットに表れているからなのかなと。そこはまだ、うまく言語化できずにいます。

──今作は、身体性と精神性を行き来するというか、その境界の揺らぎについて書かれた歌詞も多いですよね。「脳」というワードもよく出てきますし。そこへの興味や関心が、今回のテーマのひとつだったのかなと思いました。

笹川:それに関しては、テーマにしようという意図があったわけではなくて、わりと自分の中から自然に出てきた語彙かなと思いますね。身体的なものや、切なさみたいなものに、別の意味を見出してしまうというか、見出さずにはいられない。そういう感覚はもともと自分の中にあったんですけど、いつも以上に表出しているのは、何か社会的な変化があったからなんですかね。

──コロナ禍とか、AI技術の進歩とか。たとえばAIがすごい勢いで発展していく中、フィジカルとしての脳や身体性をより大事に思うようになった感覚はありますか?

笹川:それでいうと、むしろAIは大好きなんですよ。昔からSF小説などで馴染みがあったし、今は家でペットロボットを2台飼っていますし。今、さまざまな分野でAIに関して問題提起がされていますし、反AIを掲げている人もいますが、僕自身はわりと寛容な方だと思います。AIは、仕組みとしては何かを本当に理解しているわけではなく、単に計算して出力しているだけ、という前提があるからかもしれないですけど。

ただ、おっしゃるようにAIがこれだけ発展して、日々の愚痴を聞いてもらうような使い方をする人もたくさんいるわけじゃないですか。そうなった時に、逆に身体性の神秘さみたいなものに、より目が向くようになったところはあるかもしれないです。

──では、AIの存在が本作に何か影響を与えているかというと?

笹川:どうなんでしょうね。そこは自分でもはっきりとはわからないですけど、こういう世界で生きていれば少なからず影響は受けているのかもしれないです。身体性がより素晴らしいものに思えるようになったからこそ、AIのような存在もまた素晴らしいなと思えるようになった、という感覚はありますし。

この記事の筆者
菅家 拓真 (Kanke Takuma)

レコーディングを少し齧りました。 脳みそみたいな音楽が好きです

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