2026/05/01 18:00

分離の良さと低い重心を両立させることができた秘密

──“日照り”の冒頭の音はどうやって作られたんでしょうか?

石井:Ogataさんが教えてくれたカセットMTRでずっと録音してたものをエディットした音ですね。トークバック用のマイクの音をテープが止まるまで流し込み続けてて、それを秦一が組み合わせてくれました。

カセットMTR TASCAM PORTA2

横山:ローファイで人が作ってる感じをさせたくて。始まるぞ、みたいな雰囲気だけ出すみたいな。

石井:シガー・ロスとか、秦一の車で聴いたボン・イヴェールの影響が大きくて。特にシガー・ロスの「Olsen olsen」の最後の雑踏の音みたいなことがやりたかった。こういう音って、バックグラウンドやその場の空気感の想像が掻き立てられるじゃないですか。ガヤが一番その空気感を感じられるなと。

──エスキベルはスタジオ・ワークの雰囲気を入れたわけですね。

横山:ノイズみたいな点でいうと、“日照り”はモジュラー・シンセでリズムを刻んでいて。

Ogata:サビでフィルターを開くのが良いよね。

“日照り”でサビ入り前後のモジュラー・シンセサイザー

──他にもドローンっぽいシンセの音が入っていますね。どのようにして作ったんでしょうか?

横山:このシンセ/アンビみたいな音も全部ギターで作ってるんですよ。Chase Blissの「Lost + Found」で作りました。

Chase Bliss「Lost + Found」

Lost + Foundによって変調されたシンセ的ギターサウンドと、Chroma Consoleによる逆再生サウンドで作られたドローン

石井:不意にこのEPのテーマを訊いた時に、秦一が「ギター最近おもろいわ」って言ってて(笑)。ちょっと前ぐらいに 2人でシンセサイザーにハマった時があったんですけど、それがきっかけになったのか、ふと「ギターおもろくね?」ってモードに切り変わったんですよね。

──今回は特に、アコギのリズム楽器みたいな側面が出つつ、きちんと豊かなボディの箱鳴りが入っている。しっかりアコギを生かすためのスペースが確保されてる印象を受けました。

Ogata:それはめっちゃ嬉しいです。ちゃんと太い音で入れています。チャキッとした音もあるけど、それも全然埋もれてはない。

横山:“日照り”と“生き続ける”はアコギを主役にしています。アコギのトランジェント(アタック感)でリズムを作るみたいなことを意識していて、“日照り”の途中ではガッド・ギターのピチカートも入っています。

──この柔らかいバイオリンみたいな独特の音はガットだったんですね。

Ogata:ピチカートだと音量が出ないので、かなりゲインを上げていて。パラで聴くとヘッドフォンの音漏れが結構入っているんですが、これは許容しています。

“日照り”のピチカート奏法と、音漏れ

石井:綺麗なものはいくらでも作れるので、いい音のために粗をどのくらい受け入れるかですよね。

──アコギの干渉しやすい帯域はどのように棲み分けましたか?

Ogata:キックの音をすごく下げたんですよ。普通は60〜85Hzくらいのところを35Hzまで下げて、そこにベースをいれて100Hz前後をギターに譲ることで実現しました。「キックのピークの周波数を変えよう」が今回の僕の勝手なテーマです。

──結構ルーズなキックだなと思いました。ゲート感があまりなくて、余韻が残ってるのに煩わしくない。どうしてこれが実現できたんだろうと。

Ogata:実はゲートはうっすら入ってるんですけど、この録音が始まる前にASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤(正文)さんのプライベート・スタジオにお邪魔する機会があって。そこでお互いのリファレンスの話になったんですが、後藤さんはレディオヘッドの“House Of Cards”を参考にしていると伺ったんですよ。

──なるほど。

Ogata:後藤さんのスタジオはすごく低域が聞こえるスタジオなんですが、そこで改めて“House Of Cards”を聴くと、今まで聞こえてなかったというか、感じ取れてなかった低音を感じました。今まで低音が効いてるイメージがなかったのは、キックの重心が低すぎたからだとそこで理解したんですよ。ナイジェル・ゴッドリッチは中域をすごく綺麗に整理する人だから、それがかなりヒントになりました。そこで全部ハマったんですよね。

横山:Ogataさんが後藤さんのスタジオから帰ってきたとき、完全に理解しましたって言ってましたね(笑)

──それでキックのディケイが許容できるようになったのは革命ですよね。

Ogata:そうですね。あとはスネアのディレイも良い。リアンプして、BOSSの「DM-2」を秦一君にいじってもらったので、途中でピッチも変わっていて。

BOSS「DM-2

“日照り”スネアにかかってるディレイ

横山:これも良い気持ち悪さですよね。

──今回の柔らかい質感のサウンドは意識的に作られたんでしょうか?

Ogata:録りの段階で整理はしてたかも。今回の録音はマルチ・マイクを使わないことをテーマにしていて。普段は一つの楽器に対して役割の違うマイクを2本以上使うことが多いんですが、アコギはノイマンの「KM84」、エレキはROYERのリボン・マイク「R-121」か、SENNHEISERの「MD 441」 を使ってます。441はボーカルでも活躍してくれました。

SENNHEISER「MD 441」

ROYER「R-121」

横山:441は本当にいいマイクですよね。マイクはアンプに対してかなり遠くに置いていて、高音を抑えて録っています。ギター側でトーン絞ったりもしてるのでトランジェント感は欲しくなるんですが、そこはアコギに任せてる感覚ですね。

石井:そこは口裏合わせずとも俺もギターのトーンは下げていて、みんなが無意識下でトータルの音を意識しながら作っていた感じがします。

この記事の筆者
菅家 拓真 (Kanke Takuma)

レコーディングを少し齧りました。 脳みそみたいな音楽が好きです

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