2021/08/04 17:00

コンパクトながら、定位、リバーブ感をしっかり捉えるスピーカー、TD307MK3

高橋 : このへんで、オーディオの話もすると、今回は山本さんからECLIPSEのTD307MK3を聴いてみないかと言われて、僕はECLIPSEのスピーカーは大好きなので、是非ということで、サブウーファーのTD316SWMK2を含めて、お借りしました。307シリーズは僕は初代も、MK2も持ってたんですよ。その後、TD510MK2を買って、今も仕事場のメイン・スピーカーはTD510MK2です。なので、久々に307シリーズと再会したんですけれど、TD510MK2見慣れているので、改めてすごいコンパクトな筐体だなと。TD307MK3は容積的にはTD510MK2の1/4くらいに見えますね。

ECLIPSE TD307MK3

山本 : 6.5センチ・ドライバーですからね。

高橋 : でも、小さいことには利点があって、デスクトップで使うスピーカーは目の前の大きなPC画面に阻まれて、ステレオ・イメージがうまく出ないことが多いんですよ。ところが、TDシリーズは、真ん中に障害物があっても自然に聞こえる特性がある。それも小さければ小さいほど良いんですよね。レコーディング・スタジオで、TD307MK2を卓の上に置いて、使ったことありますが、卓の後ろ側に回った時にも、結構、ちゃんとした音がしてるんですよ、裏側で聴いても。

山本 : それは重要な指摘だと思います。前回聴いていただいたAirplusみたいに音像が前に張り出してくるというタイプではないと思いますが、ECLIPSEシリーズは、障害物があっても立体的なステレオ・イメージが綺麗に出てくる。

本コーナー第1回目、ニール・ヤング『Harvest』回ではAIRPULSE A80を使用
第1回ニール・ヤング『ハーヴェスト』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

高橋 : それで、今回はTD510MK2がある部屋にTD307MK3も設置して、切り替えて聴き比べてみました。自作の同じパワー・アンプを2台使って。すると、『Late For The Sky』のさっき言ったようなスタジオのなかでバンドがいて、ドラムが後ろの方にいて、ピアノが横にいて、リンドリーがアンプをすごい音で鳴らしている……というような配置の感じは、TD510MK2よりTD307MK3の方がわかるんですよ。

山本 : その感覚はおもしろいですね。

高橋 : TD307MK3はTD510MK2に比べると、サイズが全然違うので単体では低音はあまり出ません。そこでサブウーファーのTD316SWMK2を足して、何日間か試行錯誤しました。サブウーファーはどこをクロスオーヴァーにするのか、どれくらいの音量で鳴らすのか調整しなくてはいけないんですが、うまく調整できたら、TD510MK2と切り替えても遜色がない。バランス的にも、あれ? 今どっち聴いてるんだっけ? と思うようなところまでいけました。そういえばいままで307シリーズのコーン素材は紙だったんですよね。

サブウーファーのECLIPSE TD316SWMK2

山本 : そうですね、TD307MK3でコーンがグラスファイバー素材になりました。

高橋 : そのせいか、音の質感もより癖がなくなった感じがあります。空間の奥行きや障害物に負けないステレオ・イメージという点では、TD510MK2よりも良いかもしれない。

山本 : 僕もTD307MK3は振動板がパルプからグラスファイバーに変わったのはすごく大きいと思っていて。ペーパー・コーンは強度が取れないので、音量を上げて、あるレベルを超えるとリニアリティ(直線性)が悪くなる感じがあって。

高橋 : がさつく感じですよね。

山本 : そうですね。TD307MK3はすごいスムーズに伸びる感じがあって、そこはすごくよい改良点だと思います。ECLIPSEは音が立ち上がって消えるまでの、音楽波形をいかに正確に再現するか、時間軸方向の正確さをこだわっています。いわゆるタイムドメインという思想なのですが、このECLIPSEのスピーカーはそれを重視するサウンド・エンジニアとかミュージシャンに愛用者が多いんですよ。オーディオ・マニアは再生周波数やダイナミックレンジがどれだけ広いか、そういうところに耳がいきがちなんですが、ECLIPSEはナチュラルな音、音が生まれて消えるまでの時間軸の推移をいかに正確に再現するかに重点が置かれている。これは音楽を聴くうえで、周波数特性やダイナミックレンジ特性以上に重要なポイントかもしれません。すべてが揃っているのがベストあることは間違いないですが。

高橋 : やっぱり定位とリバーブ感を聴くには抜群に良いですね。TD307MK3は特に良いと思います。

山本 : ECLIPSEのこだわりのおもしろさが、よりコンパクトで点音源に近いTD307MK3の方が濃厚に出るという感じですかね。

高橋 : そう言えると思います。コンパクトさを生かして、サブ・スピーカーとして持っていてもいいし、もしサブウーファーのTD316SWMK2があれば全然メインでもいける、そんなポテンシャルのスピーカーではないかなと思います。アル・シュミットがレコーディングしたルームの自然なリバーブ感とかは、このECLIPSEのスピーカーで聴くと本当によくわかる。

山本 : そういえば、アル・シュミットは生前ECLIPSEのスピーカーをプライヴェートで使っていたみたいですよ。

アル・シュミット『TD712ZMK2の音の鳴り方が好き(Love)で、本当に驚いた。』ECLIPLSE公式ページより
https://www.userlist-eclipse-td.com/endorser/schmitt/index.html

時を超えるアル・シュミットのサウンド

高橋 : プレイリストの後半にはアル・シュミットが手がけた1970年代の作品を続けて入れました。大ヒット・アルバムのジョージ・ベンソン『Breezin'』(1976年)、アル・ジャロウ『Glow』(1976年)、ジョアン・ジルベルトの『Amoroso』(1977年)。

トミー・リピューマとアル・シュミットの黄金タッグによるボサノヴァのクラシック

ジャズ・ギタリストが放った、“歌心”も備えた名作

フュージョン・ヴォーカルの傑作

山本 : この3作品はキャピトル・スタジオで録っていますね。今回、アル・シュミットについて書かれた資料に当たっていて知ったのですが、『Breezin'』は全部ファースト・テイクだそうです。しかも、アイソレーション・ボードも立てずに、ジョージ・ベンソンはドラムの隣に座って弾いて、歌ったようです。よくそれでこんなナチュラルなサウンドが録れたものだなと思います。“This Masquerade”のヴォーカルは、あとでオーバーダビングするものだとアルは思っていたそうですが、本人が「ギターを弾きながら今歌う」と言い出して、大慌てでヴォーカル用のマイクを取りにいったという逸話があるようです。しかも、倉庫のいちばん手前に置いてあったのがいちばん安いマイクで、それで録ったらめちゃくちゃ音が良かったという。

高橋 : アル・シュミットはエンジニアとしてマイキングの神様みたいなところがあって。イコライジングとかで後からどうにかするんじゃなくて、どのマイクをどこに立てるかだけで音が作れる。

山本 : そうですね。だから録りの時点でマイキングをキメたら、あとはどれだけ良い演奏してもらうか、ほぼそれがレコーディングの全てという感じだったんだと思います。レオン・ラッセルはアル・シュミットのことを「なにもしないエンジニア」と呼んでいたそうですが、そうやって事前の準備だけで抜群に良い音を作っていたということですよね。

高橋 : 演奏がはじまる前までが彼の仕事ということなんでしょうね。フィル・ラモーン、トム・ダウドなどと並ぶ、20世紀を代表する、間違いなく5本の指のなかに入るエンジニアですよ。そういえば、トム・ダウドとアル・シュミットは昔ニューヨークで同じスタジオで働いてたんですよね。トムの方が少し先輩。エンジニアとしての方向性は対照的とも言えますが。

山本 : マイキングは無指向性の、良いマイクを使って「かぶり」を積極的に使うというのが彼の録音ポリシーのなかであったようですね。

高橋 : それは言うは易しで、やってみると難しいんですよ。特に良いマイクほど他の楽器の音も部屋の鳴りも拾ってしまう。アーコスティックの計算ができてないと本当に収拾が付かない。安いダイナミック・マイクの方が余計な音を拾わないから使いやすかったりもするんですよね。でもこの世代のひとたちはあとで手直しはできないという時期に音作りをはじめてますからね。『Breezin'』はクラウス・オガーマンのオーケストレーションが素晴らしいですが、ジョアンの作品も同じクラウスのアレンジでという感じでセレクトしました。ジョアンもアル・ジャロウも、あるいはジャクソンの『Late For The Sky』も本当に歌がすばらしい。それぞれの声質に合わせたヴォーカル録音という感じがしますね。

山本 : ジョアン・ジルベルトの“'S Wonderful”のストリングスの使い方もいいですよね。そしてアル・シュミットのほぼ最後の仕事だと思いますが、メロディ・ガルドーの最新作『Sunset In The Blue』(2020年)から1曲“If You Love Me ”。ラリー・クラインがプロデュース、ストリングス・アレンジをヴィンス・メンドーザが手がけたこの曲と“'S Wonderful”を交互に聴いてみると、2曲の間は40年以上の時間差があるわけですが、音の質感とかステレオ・イメージの表現に大きな違いがないんですよね。どちらもふるいつきたくなるような素晴らしい音で。アル・シュミットの仕事の偉大さを改めて実感しました。

アル・シュミットの最後の仕事

高橋 : はい、僕もこの2曲列べて「同じだなぁ」と思って聴いていましたよ。

山本 : ポピュラー・ミュージックの、ストリングスを使ったひとつの理想的なサウンドみたいなものなのかなと。プレイリストのギャビー・モレノとヴァン・ダイク・パークス“Across The Borderline”(『¡Spangled!』)、2019年のレコーディングですね。

ライ・クーダーも参加の、グアテマラの歌手を起用した奇才、ヴァン・ダイク・パークスの作品

高橋 : ギャビー・モレノはグアテマラの女性シンガーです。ヴァン・ダイク・パークスは最近、中米の音楽に傾倒してますね。そして、この曲ではジャクソン・ブラウンがデュエットしています。この曲は違うんですが、アルバムの大半はアル・シュミットがミックスしています。

山本 : この曲ではライ・クーダーがスライド・ギターを弾いてますね。そういう意味では、今回はすばらしいスライド・ギターのプレイヤーたちの存在が見え隠れしているセレクションですね。

高橋 : そしてすばらしいルーム・サウンドということですね。TD307MK3は、アル・シュミット的なルーム・サウンドを聴くには最高のスピーカーだと思います。音が前に出てくるというよりも、音の一番奥が見えるという感じ。

山本 : それはすごくよくわかる。メロディ・ガルドーとか、ジョアンのヴォーカルのうしろ、その奥にあるストリングスとか広がっていく感じがよく出ますよね。

高橋 : これで1本2万円台ですよね。ヘッドフォンで聴くのが主体という人が部屋の空気を鳴らす良さを知る最初のスピーカーとしてもお勧めできます。

山本 : 本当にそう思いますね。サブウーファーのTD316SWMK2は約12万円。合わせて17万円くらいですから、低音をしっかり感じ取りたいという方はこの2.1chシステムに発展させることをお勧めします。ヘッドフォン・リスニングでは絶対味わえない広大なステレオ・イメージと豊かな低音が楽しめます。

高橋 : 若干、ウーファーを値段的に高く感じるというのであれば、他の低価格のサブウーファーと組み合わせても良いと思いますよ。

山本 : 音をうまくまとめるならECLIPSEどうしの組合せのほうがうまくいくと思いますけどね。いずれにしても、オーディオを強化することで、いい音でロック名盤を楽しむ醍醐味を多くの人に味わってほしいと思います。

『Late For The Sky』24bit/192kHzハイレゾ版配信中

今回の機材──ECLIPSE TD307MK3+TD316SW MK2

今回、音源の視聴で使用したのはECLIPSEのなかでも、手軽かつコンパクトなサイズ感ながら、ECLIPSEがこだわりる「正確な音の再生」を味わえると、長らく人気のコンパクト・モデル、307シリーズ、その最新機種となる、TD307MK3。あわせて使いたい、同社のサブウーファー・ラインナップのなかでもエントリークラスにあたるTD316SW MK2の組み合わせ。

TD307MK3は、機能の追求から生まれた独特の卵形構造はそのままに、前モデルとなるTD307MK2Aに比べ、明瞭性、空間再現力、スピード感、中域・低域再生の向上(特に空間再現力と低域再生)を目指して開発。また文中にあるように、振動板にグラスファイバーを使用するなど上位機種のテクノロジーも採用し、さらなる性能の向上が行われた。

ECLIPSEのタイムドメンと言えばすぐに浮かぶこのフォルム


対してサブウーファー、TD316SW MK2は上位機種同様の「R2R TWIN DRIVER」構造をはじめ、独創の最新テクノロジーが投入されている。サブウーファー設置においてネックとなる“低音の遅れ”を解消するべく、ハイスピードで正確な重低音の再生を目指した“キレ”の良いサブウーファー。

サブウーファー、ECLIPSE TD316SW MK2


どちらも同ブランドが提唱する「正確な音の再生」=「ソフトに収録されているアーティストや録音エンジニアが込めた想いを、何も付け加えず、何も消さずに、伝えたい」をコンセプトに設計され、インターネット経由の映像・音楽コンテンツの普及、さらにその質(ロスレス・ハイレゾ音源、4K映像)が向上したことで、さらに重要になりつつある、そうした制作側の“意図”を正確に伝える、そんなスピーカーとして開発された。またこの2つのスピーカーで構成される5.1ch(TD307MK3が5本、TD316SWMK2が1本のセット)のホーム・シアターセット、TD307THMK3も存在する。(編集部)

その他、ECLIPSEブランドの詳細は下記、ブランド公式ページにて
https://www.eclipse-td.com/

スピーカー
ECLIPSE TD307MK3
型名 TD307MK3
カラーバリエーション ブラック/ホワイト
希望小売価格 27,500円(税込)/1本
スピーカーユニット 6.5cmコーン型フルレンジ、グラスファイバー
再生周波数帯域 80Hz~25kHz(-10dB)
能率 80dB/W・m
許容入力(定格/最大) 12.5W/25W
インピーダンス 8Ω
角度調整 通常時:-25°~30° 左右方向360°
天井面取付時:25°~-90° 左右方向360°
壁面取付時:0°~90° 左右方向360°
外形寸法(mm) W135×H212×D184
質量(1本) 約2kg
付属品 保護ネット×1個、落下防止ワイヤー×1本

サブウーファー
TD316SWMK2
カラーバリエーション ブラック
希望小売価格 121,000円(税込)/1台
形式 水平背面対向式フロア型(密閉型)
スピーカーユニット 16cmコーン型ウーファー、パルプ×2
再生周波数帯域 30~200Hz(-10dB) ※BASS MODE L.P.F.200Hz時
定格出力 125W(T.H.D. 1%)
ローパスフィルター 40Hz~200Hz(ON/OFF切替付)
位相切替 0/180°(リモコン or 前面パネル切替)
モード切替 BASS/DIRECT(リモコン or 前面パネル切替)
高調波歪率 0.05%(50Hz 1/2定格出力時)
S/N 80dB以上
入力 LINE(Stereo)1系統/Speaker Level 1系統
入力感度 50mVrms(125W出力時)
入力インピーダンス LINE 入力時10kΩ/Speaker Level入力時3kΩ
出力 LINE(Stereo)1系統/Speaker Level 1系統
消費電力 45W
待機電力 6W ※主電源ON/リモコン待機時・AUTO OFF時
外形寸法(mm) W399×H360×D384(突起部含む)
質量 約23kg
付属品 ACケーブル×1本、リモコン(電池含む)×1個、フット×4個

『音の良いロック名盤はコレだ!』過去回

第1回ニール・ヤング『ハーヴェスト』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

著者プロフィール

高橋健太郎

文章を書いたり、音楽を作ったり。レーベル&スタジオ、Memory Lab主宰。著書に『ヘッドフォン・ガール』(2015)『スタジオの音が聴こえる』(2014)、『ポップミュージックのゆくえ〜音楽の未来に蘇るもの』(2010)。

山本浩司

月刊「HiVi」季刊「ホームシアター」(ともにステレオサウンド社刊)の編集長を経て2006年、フリーランスのオーディオ評論家に。自室ではオクターブ(ドイツ)のプリJubilee Preと管球式パワーアンプMRE220の組合せで38cmウーファーを搭載したJBL(米国)のホーン型スピーカーK2S9900を鳴らしている。ハイレゾファイル再生はルーミンのネットワークトランスポートとソウルノートS-3Ver2、またはコードDAVEの組合せで。アナログプレーヤーはリンKLIMAX LP12を愛用中。選曲・監修したSACDに『東京・青山 骨董通りの思い出』(ステレオサウンド社)がある。

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