「音楽に筋を通したい」蓮沼執太が考える“歌うこと”の意味とは?

蓮沼執太

 蓮沼執太がどんな活動をしている人物なのか、簡潔に紹介するのはなかなか難しい。自身の作品をコンスタントにリリースしながら、映画や演劇、CM音楽などを制作。他アーティストのプロデュースや楽曲提供を行いながら、美術館での個展まで開いてしまう。振り返ってみると、蓮沼執太というアーティストの活動の振り幅は、多才の一言では済まされないほど広い。

 活動の幅だけではない。電子音楽のソロからキャリアをスタートさせ、バンド編成、10人以上のアンサンブルと、編成や構成楽器が様々に変わっていくため、「どういう音楽を演奏する人なのか」を説明させづらくしている。


蓮沼執太 / メロディーズ

【配信形態】ALAC, FLAC, WAV, AAC, MP3
【配信価格】まとめ購入 2,057円 / 単曲 257円

【Track List】
1. アコースティックス
2. 起点
3. フラッペ
4. RAW TOWN
5. ハミング
6. テレポート
7. クリーム貝塚
8. ストローク
9. ニュー
10. TIME

※まとめ購入するとデジタル・ブックレットがついてきます。

蓮沼執太 / RAW TOWN

彼は常に新しいことに触れ、その思考や過程を(時には失敗も)まるごと我々に見せてきた。蓮沼執太がやってきたことは、音楽を通して行う実験と思われがちだが、彼が出す音は決して難解なものではない。どんな編成であっても、丁寧に練られたアレンジとどこか人懐っこさがあるメロディーが親近感を抱かせてくれる。

 ニュー・アルバム『メロディーズ』は、収録されている10曲すべてを本人が歌う、“意外”のポップス作となっている。現在蓮沼執太のモードと、今作を作るに至った経緯について話を聞いてみた。

インタヴュー&文 : 原田 星
写真 : 大橋祐希

他ジャンルとの共同制作で活動の幅が広がっていく

――坂本美雨さんのプロデュースNegicco赤い公園への楽曲提供といったミュージシャンとの関わり以外にも、青森国際芸術センターでの個展や、自らのコンサート企画「ミュージック・トゥデイ・トーキョー・2015」など、2015年もかなり多角的な活動をしていました。

自分から活動の幅をグイグイと広げているというわけでもなくて、色々な方から来た仕事を受けることで活動の幅が自然と広がっているようなところがあるんです。なので、僕はいつも音楽を作り続けているという意識です。色々な方面からの共同作業で自分が手広い活動をしているように見えるのかもしれない。

――作品を出して全国のライヴハウスを回って、また作品を出して…… というルーティンのバンドと比べると、演奏の形態も演奏する場所も、かなり自由度が高いように見えるんです。

確かに自由にはやらせてもらっています(笑)。自分の主とする以外の環境の人と話すと、制作においての価値基準の違いが感じれて面白いし、刺激的です。他ジャンルであればあるほどこだわる部分が違って「そこでそんな作業を丁寧にするの!?」みたいな意外な発見もあるんです。

――美術館などでライヴを行うことも多いですが、そういう場所でライヴをやることについてはどう考えているんでしょう。

美術館のように普段音楽が立ち上がっていないところで、ステージング、照明、演者やスピーカーの配置を考えながらライヴをやったり、なにができるかを考えるのは好きですけど、やっぱりライヴハウスやコンサートホールのような音楽をやる場所があるので、そっちで音楽を聴いたほうが絶対にいいと思ってはいますよ(笑)。でも、普段音が無いところに音楽を作る、という制作は僕のライフワークです。

自分は「アルバムを作る人」という感じがある

――前作は15人編成の蓮沼執太フィルで録音されたもので、今回はすべての曲を自分で歌うという挑戦をしていますよね。毎回コンセプトを用意して新しいことをしているのがすごいと思って。

コンセプトというよりも、アルバム制作にはルールを作っています。僕が音楽を始めた頃は、フィールド・レコーディングとか電子音を主体に曲を作って、リリースごとに前作をアップデートするような制作スタイルでした。今は録音もすごく簡単にできますし、表に出していないものも含めて、個人的にいろんなタイプの音楽を作って録音はしているんです。例えば、ダンス音楽で環境音とアナログシンセサイザーで作った電子音の音楽なども作曲していました。こういう状況の中で、アルバムという記録物を作るんだったら、どれだけ面白いものが作れるかということを目指しています。

自分の中では音楽を作るときにも聴くときにも、アルバムっていう単位は消えていないですね。自分は「アルバムを作る人」という感覚がある。

ベーシックな部分では曲順にこだわる、無音部分の曲間を一生懸命に考える。「ジャケットの絵が上がってこない」とか「印刷は○日後」みたいな自分が手を動かさない作業の工程も含めて、ものを作っている感じがフィジカルだし、アルバムを作るとフレッシュな気持ちになるんです。ものづくりという観点で言うと、ライヴよりもフィジカルだと思っています。アルバム全体でひとつの作品、という意識です。

――制約もあって、新しい挑戦もある。もちろんそこでは失敗も生まれる。でも、蓮沼さんは失敗しているところも含めて人に見せていると思うんです。過程も見せることが大事だと思っている?

うまく行かないとか、思い通りに行かないことは生きていれば当たり前で、それを成功とか失敗と判断していないです。うまくいかなかったことは、次にうまくいくためのヒントになるというか。そこはポジティヴに考えてます。

でも、ワーク・イン・プログレスみたいなことは、(蓮沼執太)フィルをやっているときのある時期に意識的にやっていたことでした。作品が出来上がる過程を重要視していたんです。今ではそこまでプライオリティを置いてないんですが、すべてが結果ありき、という考えだけでは動いていません。いまは頭を固くしないで楽しくやろうとすることで、素直に活動しています。

作った楽曲に対して、自分が歌うことで筋を通したい

――蓮沼執太という音楽家を見て、自分は「作曲家でありプレイヤーでもある」という位置づけで見ているところがあります。でも、今回は全編自分で歌っています。自分が歌うことについてはどう考えているんでしょうか。

僕はいわゆるシンガーソングライターではないので、全曲にゲストヴォーカルをフィーチャリングするようなことでもいいわけです。作った曲の中には自分では出せない音程があるとか、当然身体的な限界もある。上手下手の話で言ってしまうと「起点」という曲は歌詞を書いているイルさん(イルリメ)が歌ったほうがいいとか。

でも、自分の身体を使って声を出すことは、作曲家として必ずやらなきゃいけないことの1つだと昔から思っていたんですよね。

――それはなぜ?

リスナー視点ですが、職業作曲家は他の誰かに歌ってもらう(演奏してもらう)カタチみたいなものがあると思うんです。作った曲に似合う歌声の人に歌ってもらったりとか。それは理想の楽曲のイメージがあるからですよね。でも僕は自分自身が歌うことで、作った楽曲、音楽に対して筋を通したいという気持ちがある。 

例えば、デヴィッド・グラブスとかジム・オルークとか細野(晴臣)さんだって、本業がシンガーではないけれど自分で歌っているわけですよね。もっと数えられないくらいそういうミュージシャンがいますし、そして皆さん素晴らしいヴォーカルです。彼らに多大な影響を受けてきた自分も、作った曲を自ら歌うことがやって来ざる終えない、というものが考えにあるんです。

――シンガーじゃないけれど歌わなきゃいけないというあまのじゃくな考え方なんですか?

ひねくれてやろうと思っているわけではないんです。そういうオルタナティヴなルールがあると自分で思い込んでるんですよ。音楽を作り続ける上で、自分自身の身体(今回は声)と向き合うこと、という意味です。それはかなり自分自身にとって素直でなければ出来ないことです。正直に自分自身を受け入れてから、作品化していく行為、という考え方です。

音楽への姿勢や音作りは当然挑戦をしている

――今回はポップ・ミュージックを作っている。新しいことをやろうとすると過激なものを作ってしまいがちだと思うんだけど、そうはならなかった?

たとえば、ディストーションで音を歪ませたから過激かというと、それはもう記号化された過激であって、本当の過激ではないですよね。自分に正直に作ることのほうが、今は過激なことだと思うし、自分が歌うことだって自分史の中でみたら相当過激です(笑)。

歌ものを作ったら「売れ線だね」みたいに言われることもあるけど、僕であればすごく調和の取れた聴き触りのいい電子音で作られたインスト音楽を作ったほうが売れるかもしれないわけですよ。

姿勢や音作りに関しては過激というかやんちゃなことをしているし、挑戦しているつもりなんです。先端的のもの、最新の音楽を作ったという自負もある。でも曲がポップなんで、そう見えないのかもしれない。過激=ノイズという時代ではありません。ノイズはどこにでも内在しています。そもそもポップという考えは、現在性がとても高くなくてはいけません。今のトレンド、技術、社会情勢までも入ったものが、最新のポップになり、多くのオーディエンスに聴かれると思います。ポップという言葉でここで言う過激なものということが存在しない、ということはあり得ないと思います。

――歌詞についてはどう思っているんでしょうか。自分で書いた歌詞がほとんどですが。

メロディが最初にあって、その上に歌詞をつける作業をしているから、作曲とはちがう段階の行為になっています。言葉と音が分離していて、後から言葉でイメージを付けてあげるみたいな。

そこに日本語の響きが持つハーモニーやリズムも大切にしつつ、さらにナラティヴに物語として歌詞が存在するように作っている感じです。今回は歌謡曲にしようって気持ちがすごくあったので、特に。

――蓮沼さんの曲の中には「時」という言葉が出てくることが多いと思っています。自分が時について歌うことが多いことについてどう思います。

僕は音楽を使い、社会や政治に対する怒りだったり愛を歌ったりするような人ではない。もちろん言葉は自分から出てきますし、音楽の歌詞や現代詩も好きです。その上で自分の音楽にどうやって言葉のイメージをのせるのか?というと「時」や「世界」など、わからないことや探求を歌っていることが多いです。想像力を信じる歌詞というか。

――蓮沼執太フィルでは、過去に自分が作った曲を多く再演していましたが、今作もそういう広がりが出てくる可能性はありそう?

ライヴでは、ギター、ベース、ドラム、僕と、コンパクトな編成のアレンジで演奏する曲がほとんどです。例えば、(蓮沼執太)フィルでリアレンジをして演奏するような変化は無いかもしれませんが、歌をフィーチャーしたアルバムなので、その歌自体がどんどん変化をしていって違う響きになっていければ良いなと思います。

>>蓮沼執太も出演〈HIGH RESOLUTION FESTIVAL at SPIRAL〉の情報はこちらから

蓮沼執太の過去作品と参加作品

坂本美雨と蓮沼執太クルー / LIVE “Waving Flags” <24bit/96kHz>
【配信形態】 FLAC、ALAC、WAV

【配信価格】 単曲 500円(税込) / まとめ価格 3,000円(税込)

【Track List】
1. ドア
2. ピエロ
3. Q&A?
4. VOICE
5. おとぎ話
6. ZERO CONCERTO
7. ONEMAN
8. =
9. HIRUNO HOSHI
10. ONGAKU
11. Waving Flags
12. やくそく
13. The Other Side of Love
14. The Never Ending Story

蓮沼執太フィル / 時が奏でる
【配信形態】 FLAC、ALAC、WAV、AAC、MP3

【配信価格】 単曲 205円(税込) / まとめ価格 1.234円(税込)

【Track List】
1. ONEMAN
2. Earphone&Headphone in my Head - PLAY0
3. ZERO CONCERTO
4. Triooo - VOL
5. YY
6. wannapunch! - Discover Tokyo - Sunny Day in Saginomiya
7. SoulOsci
8. Hello Everything

V.A. / Music for a Dying Star - ALMA MUSIC BOX x 11 artists
【配信形態】 FLAC、ALAC、WAV、AAC、MP3

【配信価格】 単曲 257円(税込) / まとめ価格 2,057円(税込)

【Track List】
1. ALMA MUSIC BOX No.07 -- ALMA MUSIC BOX
2. the signals 〜くらやみのレクイエム〜 -- mito(クラムボン)
3. Limbo -- milk(梅林太郎)
4. #31-#40 -- 蓮沼執太
5. sea ice -- 伊藤ゴロー
6. Waves of The Frequency -- 澤井妙治
7. the blossoms close at sunset -- Steve Jansen
8. lost star -- 湯川潮音
9. Thoughts of Colours -- Throwing a Spoon(トウヤマタケオ×徳澤青弦)
10. Chascon 5850 -- 滞空時間
11. あわい -- 高木正勝
12. alma712 -- Christian Fennesz

V.A. / Why not Clammbon!?~クラムボン・トリビュート(24bit/48kHz)
【配信形態】 FLAC、ALAC、WAV、AAC

【配信価格】 単曲 399円(税込) / まとめ価格 3,500円(税込)

【Track List】
1. Folklore(24bit/48kHz) -- ストレイテナー
2. ある鼓動(24bit/48kHz) -- 蓮沼執太フィル
3. アホイ!(24bit/48kHz) -- salyu×salyu
4. 大貧民(24bit/48kHz) -- レキシ
5. 華香るある日〜clommbon loves clammbon ver〜(24bit/48kHz) -- ハナレグミ
6. SUPER☆STAR(24bit/48kHz) -- NONA REEVES
7. ロッククライミング〜Let's Roooooock Mix〜(24bit/48kHz) -- Buffalo Daughter
8. 5716(24bit/48kHz) -- downy
9. 246(24bit/48kHz) -- GREAT3
10. はなれ ばなれ(24bit/48kHz) -- TOKYO No.1 SOUL SET
11. 海の風景(24bit/48kHz) -- HUSKING BEE
12. 雨(24bit/48kHz) -- 青葉市子
13. ハレルヤ(24bit/48kHz) -- Mice Parade
14. バイタルサイン〜Tetsuya Komuro Remix〜(24bit/48kHz) -- クラムボン

LIVE INFORMATION

〈HIGH RESOLUTION FESTIVAL at SPIRAL〉
蓮沼執太の公開録音 - Spiral Ambient
2016年3月11日(金)@スパイラルホール
時間 : Open 18:30 / Start 19:00
料金 : 前売 3,000円 / 当日 3,500円
※前売券の販売状況によって、当日券の発券を行わない可能性があります。
チケット発売日: 2月6日(土) 12:00

蓮沼執太のメロディーズ・ツアー
2016年3月26日(土)@福岡 ROOMS
時間 : Open 18:00 / Start 19:00
料金 : 前売 3,300円(税込) / 当日 3,800円(税込・1ドリンク別途)

2016年4月24日(日)@ビルボードライブ東京
1stステージ
時間 : Open 15:30 / Start 16:30
料金 : サービスエリア 6,400円 / カジュアルエリア 4,900円(1ドリンク付き)
2ndステージ
時間 : Open 18:30 / Start 19:30
料金 : サービスエリア 6,400円 / カジュアルエリア 4,900円(1ドリンク付き)

PROFILE

蓮沼執太

 1983年、東京都生まれ。ソロ活動での電子音楽、楽曲を書き下ろし自ら歌唱、映画舞台広告などの音楽制作、他ミュージシャンのプロデュース。蓮沼執太チームを結成したバンド編成、蓮沼執太フィルのような様々な器楽による大編成のアンサンブルなど、幅広い音楽的アプローチを行う。

 また『作曲的|compositions - space, time and architecture』(国際芸術センター青森2015年)、『have a go at flying from music part3』(東京都現代美術館ブルームバーグパヴィリオン2012年)など、個展形式での展示作品の発表。

 2014年はアジアン・カルチャル・カウンシル(ACC)のグラントを受け、アメリカ・ニューヨークに滞在。2015年に帰国をし、更なる新しい音楽を探求する活動を展開している。

>>蓮沼執太 オフィシャルサイト

この記事の筆者
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