2015/03/13 21:40

甘くメロウに、まるで夢見るDSD——
INO hidefumi + jan and naomiが紡いだ極上の一夜を配信開始!!

INO hidefumi + jan and naomi

サウンド&レコーディング・マガジン主催のDSD一発録り企画「Premium Studio Live」。その第9弾として、INO hidefumi + jan and naomiによる『Crescente Shades』が発表された。ローズ・ピアノの名手として知られるINO hidefumi、そしてGREAT3のベーシストでもあるjanとnaomiによるフォーク・デュオが奏でたのは、きわめてメロウでドリーミー、ときにアシッドな香りすら漂わせる極上のアンサンブル。オリジナル曲はもちろん、Crosby, Stills, Nash & Youngや大瀧詠一のカヴァーなど、ヴァラエティ豊かな10曲が演奏された。そんな一夜限りのセッションを、OTOTOYでは5.6MHz dsdおよび24bit/48kHzで配信開始。「Jazz The New Chapter」で知られる気鋭の評論家、柳樂光隆によるレコーディング・レポートとともにお届けする。


溶けあう3つの音、まどろみのアンサンブル
INO hidefumiとjan and naomiが紡ぐメロウな一夜

INO hidefumi + jan and naomi / Crescente Shades
【配信形態】
[左] DSD (1bit/5.6MHz) + mp3
[右] ALAC/FLAC/WAV/AAC (24bit/48kHz)
※DSDの聴き方
※ハイレゾとは?

【価格】
2,000円(税込)(まとめ購入のみ)

【収録曲】
01. A Portrait of the Artist as a Young Man
02. watch
03. Manai
04. Smooth Operator
05. 思えば世界はあまりにも美しい
06. MAY I
07. (Wouldn't It Be Nice) To Fall Asleep In The Library
08. Our House
09. ナイアガラ・ムーンがまた輝けば
10. END OF THE WORLD

Recording Engineer 米津裕二郎(Prime sound studio form)
Recorded by TASCAM DA-3000
Recorded at CRESCENTE STUDIO

2本のギターとINOのローズがまどろむように重なり合っていく

INO hidefumi + jan and naomiのスタジオ・レコーディングを見た。この日はサウンド&レコーディング・マガジンが企画しているPremium Studio Liveの9回目で、ここでの録音が後々、高音質で配信されるということだった。正直に言うと、サイケデリックでメロウなフォーク・デュオ、jan and naomiと、フェンダー・ローズ奏者のINO hidefumiとの共演と聞いて、最初はその組み合わせにピンと来なかった。世代も違えば、ジャンルも違う。心地よくメロウなサウンドを奏でるということは共通しているのかもしれないが… なんて思っていたが、開始前に3人がそれぞれ音を出しはじめた時点で、「そういうことか!」とすぐにこの組み合わせが素晴らしいものになることはわかってしまった。チューニングのための音出しの時点で、それぞれの出す音色がすでに溶け合っていたからだ。

INO hidefumi

冒頭はjan and naomiのデビュー・シングルでもある「A Portrait of the Artist as a Young Man」。naomiのスウィートなウィスパー・ヴォイスとjanのコーラスをINO hidefumiのローズが包み込む。この1曲でINOの素晴らしさに気付かされることになる。この時の彼はピアニストでもなければ、鍵盤奏者でもない。ローズ奏者としか言いようがない演奏を聴かせてくれた。ハンマーがトーンバーを叩き、柔らかく揺らぐような音を出すローズを、その揺らぎの残響を最も心地いい状態で引き出すために、音数を絞り、柔らかいタッチで、鍵盤を押していく。目の前の景色がとろけていくような錯覚を起こしそうになるほどのローズの響きが、2人の声だけでなく、この楽曲自体にハマりまくっていた。この時点で、ここにいた誰もがこのセッションがスペシャルなものになることを確信していたように思う。そして、完成した音源は、オリジナルに勝るとも劣らないものになっている。2人の歌とINOのローズの相性の良さは抜群で、それは後ほど、披露されたシャーデーのカヴァー「Smooth Oparator」でも僕らを夢見心地にさせてくれた。

jan(左)とnaomi(右)

続く、「watch」ではjan and naomiのアシッドなフォーク・サウンドが堪能できる。囁くように、生で聴いていると時にかすれるようにさえ聴こえる声で歌うnaomiのヴォーカルには、不思議なエモーションが宿っている。それは昂ったり、沈んだりするのとは全く違うもの。同じ体温のままで、聴き手の気持ちが揺さぶられるような、不思議な魅力のある声に、ささやかなギターとベース、そして、INOのエフェクティヴなシンセが最小限の音で寄りそう。CSN&Yの名曲「Our House」のカヴァーもハイライトのひとつ。2本のギターとINOのローズがまどろむように重なり合っていく。時に単音を瞬かせるINOのローズがさりげなく楽曲を彩った。

近年はアルバム『NEW MORNING』で歌にも取り組んでいるINOの歌が聴けるのが、「ナイアガラムーンがまた輝けば」。意外に思えるかもしれないが、ライヴではシュガーベイブや小坂忠の曲を歌い、自身のアルバムに鈴木茂をフィーチャーしたりと、INOははっぴいえんど系譜の日本のポップ・ミュージックへの愛情を幾度となく表明していた。その歌唱も大瀧詠一への愛情が滲む。ラストはINOのメロディカで、カレン・カーペンターも歌った名曲「End Of The World」をカヴァーして〆。空間に淡い水彩の絵の具を塗るように音を奏でるjanとnaomiのセンスを体感してほしい。

空間の高さや奥行き、さらには個々の音の響きだけでなく、減退していく音の消え入るさままでをリアルにとらえてくれるDSDで録音するために、3人がそれぞれに音の鳴りや響きにこだわり、そのテクスチャーだけでなく、心地よくゆらゆらと空間を漂う持続音を効果的に使うなど、とにかくメロウで、気持ちのいいサウンドが追及されていた。そのために、敢えて、INOが使うすべての楽器を、ローズに内蔵されているスピーカーから音を出したりと様々な工夫がなされていたが、それが的確にとらえられている音源には驚きを禁じ得なかった。特にnaomiの声のその息遣いや色気、そしてINOのローズのふわっとっ立ち上る柔らかな音像が、現場以上の心地よさで再生されている。CDにならないのが残念に思えるほどの作品が生まれてしまったとさえ思う。日常に寄り添ってくれる"Quiet( Corner)"な心地よい陶酔感を是非、DSD / ハイレゾで味わってもらいたい。(text by 柳樂光隆)

Sound & Recording Label

PROFILE

INO hidefumi
エレクトリック・ピアノの名器=RHODESの名手として知られるキーボーディスト / シンガー・ソングライター。2004年に"1レーベル・1アーティスト"をコンセプトにした音楽レーベル「innocent record」を設立し、2006年にリリースした自身の1stアルバム『Satisfaction』が世界中で大評判となる。藤原ヒロシとのユニットや小泉今日子のアルバムに参加してきたほか、近年はTOWA TEIが主宰するMACHレーベルからの音源リリースや鈴木茂との共演を行うなど、活動の枠をさらに広げている。
>>INO hidefumi Official HP

jan and naomi
GREAT3のベーシストでもあるjanがnaomiと2012年末から開始しているオルタナティヴ・フォーク・デュオ。2014年2月にプロデューサーにDr.Strangeloveの長田進、エンジニアに清水”Shimmy”ひろたかを迎えた7インチ・シングル『A Portrait of the Artis as a Young Man/time』をリリース。DJ Peacokに“シド・バレットがイルカに乗ってヴィンセント・ギャロを訪ねた際に生まれた音のよう”と評されるなど、各方面より絶賛される。続く10月には5曲入りEP『jan, naomi are』も発売している。
>>jan and naomi Official HP

[レヴュー] INO hidefumi + jan and naomi

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