作曲家、Hidetoshi Koizumiによるアンビエント/ミニマル・ミュージック・プロジェクト“Hybrid Leisureland”。2010年にはフランスの老舗アンビエント/エレクトロニカ/トランス・レーベル “Ultimae recrods” からも作品をリリースしているHybrid Leisureland彼の新作アルバム『Variable』が、24bit/48kHzの高音質音源で到着した。知的で流麗なフレーズと共にノイズ、空気音までも取り入れて独自の世界観を表現する作品は海外での評価も高く、正に現代のアンビエント・ミュージックといってもいいだろう。ゆっくりと音の流れに身を任せて聴いてほしい。
Hybrid Leisureland / Variable
フランスの老舗アンビエント / エレクトロニカ・レーベル、Ultimae Recordsから2010年に日本人として初めてアルバムをリリースするなど、ヨーロッパでの活動で知られるHybrid Leisureland。 ノイズ、生活音、空気音までも取り込み、透明感のなかにも人間的な温かみ、悩みも感じさせる、日常から溢れ出た詩情に満ちた11の作品を収録した現代のアンビエント・アルバム、いよいよ到着。
【販売形式】HQD(24bit/48kHzのWAV)
【販売価格】200円 / 2,000円
美は乱調にあり ー均衡の中の破綻ー
本作『Variable』を再生してから続く、平穏な心象風景のような展開に突如影を落とすのは、6曲目「Idly」。何の前触れもなく眼前に投下されたトラウマのように、不穏にうねるシンセサイザーに包まれながら、女性の声による無垢なハミングが生々しく聞こえてくる。いわゆる「メロディアスなメロディー」の体をなさずに、無秩序に、しかし心地良さそうに歌うその声はリラックスしきっているが、曲全体の空気としては何かが破綻しかかっている、もしくはすでに破綻してしまっているかのように、澄み切った憂鬱が漂っている。デヴィッド・シルヴィアンの『Blemish』にも通じるその世界観は、突如カット・アウトされ、元の平穏な場所に嘘のように連れ戻される…。
Hybrid Leisurelandは、美しく繊細なアンビ エント音楽を生み出すHidetoshi Koizumiによるソロ・ユニットである。浮かんでは消える幻想的なシンセや、ドミナント・モーションに代表される安定したコード進行の反復を低BPMで配置するあたりは、アンビエントの王道を行くサウンドだ。そこに、ピアノやオルガンのフレーズが執拗に反復され、交錯していく様は、スティーヴ・ライヒの影響を物語っており、そういった身体性と非身体性のバランスが特徴といえる。
そう思って聴けば、本作は良質で静謐なアンビエント作品以外の何物でもないが、しかしアルバムのど真ん中に配置された「Idly」を無視することはできない。それは、いわば「均衡の中の破綻」という美を表現しているかのようであり、その意味ではエリック・サティの影響も現れている。アンビエントという世界では避けては通れないサティは、一聴すると装飾を排したシンプルで美しいピアノ・ソロ作品を多く残したが、その本質は、調性を失いかけたメロディーとコード進行が、破綻寸前の「乱調の美」を体現していたことにあったように思う。
たとえば、耳鳴りのようにその存在を主張し続けるシンセが幾層にも重なり合う「One Size」では、ときにはシンセが半音でぶつかり合い、音が割れ、うねりを増していく。その中で、次第に平衡感覚を失い、静かに墜落していくかのような快感を覚える瞬間がある。また、「Snack Desert Moon」では、手のひらですくった水が指の間からこぼれ落ちるように、ピアノが一音一音無秩序にぽろぽろと奏でられ、その美しさには思わず嘆息してしまう。
本作は、BGM化することもできるし、その音の一粒一粒を吟味してみることもできる。そんな風に、ひとたび視点を変えれば、本作の印象は至極移ろいやすい(=Variable)。素朴さと破綻した美は、紙一重なのである。(text by 青野 慧志郎)
LIVE INFORMATION
BIGJOINT
2012年9月29日(土)@渋谷club asia
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前作『The Nothings of The North』が世界中の幅広いリスナーから大きな評価を獲得し、坂本龍一の2009年ベスト・ディスクに選ばれるなど、現在のシーンに揺るぎない独特の地位を築き上げた、東京を拠点に活動するAmetsub。スペインのL.E.V. Festivalに出演する等、国境を越えた活動の元、3年ぶりの今作はライヴで披露した楽曲を中心に纏められ、これまでの作品と比べて圧倒的な広がりが存在している。
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PROFILE
Hybrid Leisureland
5歳でピアノを習い、16歳から音楽制作を開始。2006年にはフランスのUltimae Recordsから、ヨーロッパ・日本でデビュー。外資系ファッション・ブランドのパーティーや、野外夏フェスティバルなどで幅広くライヴを行う。知的で流麗なフレーズと共にノイズ、空気音までも取り入れて独自の世界観を表現。ミクロの世界を散歩してるような音楽を体験してください。