2009/11/28 00:00

京都から発信される、キツネの嫁入りという現象

先日、ダニエル・ジョンストンの来日公演が発表された。
twitter全盛の昨今、その盛り上がりは手に取るように伝わってきたのだけど、なぜ彼がここまで熱狂的に受け入れられるミュージシャンかというと、アメリカの雑多なシーンにおいてもあまりにオリジナルな個性を放つミュージシャンだからだろう。さてそれでは、日本でオリジナルなミュージシャンと言われて思いつくのは誰だろう?
京都という土地においてそれを自らの土地に伝える軸となっているのが、彼らキツネの嫁入りである。彼らのイベント『スキマ産業』にはこれまでウリチパン郡トクマルシューゴ、ICHI、石橋英子×アチコや長谷川健一など、大阪発・名古屋発・東京発など地域を問わず「他でどこにも鳴っていないこと」にこだわったイベントづくりを続けている。この「他でどこにも鳴っていないこと」が、キツネの嫁入りというバンドのキーになっているのだろう。

どこの国で生まれたのかわからない音。ひとたび彼らの音楽を聴けば、誰もがそういった感想を持つだろう。まだ見ぬ音楽を探している人ならば、彼らの音源を聴いてみるべきだ。試しに「群れをなす」と「忘却」という2曲を聴いてみてほしい。対をなすような2曲だが、アコーディオン、木琴、アコギやジャンベが鳴り響き、どちらもそこでしか生まれ得なかった風景が広がってくる。京都のバンドという先入観すらも、もはや必要ないかもしれない。
彼らが奏でる音楽は、よくありそうな日常のうたではない。浮世離れした非日常でもない。ともすれば隣り合わせになりそうな、リアルな非日常感がある。歌い手の歌詞や体験に「共感する」というよりも、非日常さえもすぐ隣に存在するもののようにして感じる。それが、キツネの嫁入りという不思議な現象のことなのではないだろうか。

ボーカル・マドナシの毒の強いユーモアに、時に優しく、特に不思議な調べを奏でて世界を開く楽隊。この場所に、精霊が宿っているかのような不思議な感覚だ。京都に流れ着いた3人組。彼らが今後どういった旅を展開するのか、次の情報が気になるばかりだ。
(text by 南日久志)

ここにしか鳴らない音楽たち

Is and Always Was / DANIEL JOHNSTON
アメリカが生んだ現代最高のソングライターのひとり、ダニエル・ジョンストン。新録音源としては2003 年の『フィア・ユアセルフ』(スパークル・ホースのマーク・リンカスとのコラボレーション)以来6 年ぶりとなる待望のフル・アルバムが遂に完成! なんとプロデューサーは元ジェリー・フィッシュのメンバーにして、ベック、エールやポール・マッカートニー等とのコラボレーションでもお馴染みのジェイソン・フォークナー!

In Your Dreams / GREGORY AND THE HAWK
グレゴリー・アンド・ザ・ホークは、ototoyが今最も注目しているアーティストの一つ。NYの女性シンガー・ソングライター、メレディス・ゴドルーのソロ・ユニット、グレゴリー・アンド・ザ・ホークが07年に自主リリースしたアルバムに、06年リリースのEPをカップリング!

Rum Hee / トクマルシューゴ
ロング・セラーとなったサード・アルバム『EXIT』から、さらに大きな飛躍を遂げたポップ・ジーニアス、トクマルシューゴの新境地を示す作品。表題曲「Rum Hee」は、メロディ、アレンジ共に秀逸で、絵本の中を覗いているようなドリーミーさも含んでいます。現在のバンド編成での再録となった「Vista」、「Parachute」や、オオルタイチやDEERHOOFによる「Rum Hee」のリミックスも収録されています。

サマードレス / 石橋英子×アチコ
PANICSMILEの石橋英子とKARENのアチコによる注目のデュオが放つ2ndアルバム。歌とピアノのみから繰り出されるサウンドは無限大に広がり、誰も聴いた事がない新しい歌ものを生み出しています。豊田道倫、柚木隆一郎(EL-MALO)の参加や、竹村延和、千住宗臣(PARA, ウリチパン群)や蔦木俊二(突然段ボール)によるリミックスも収録した豪華な内容。

PROFILE

キツネの嫁入り
マドナシ : vocal / guitar / whistle
ひーちゃん : chorus / accordion / xylophone / piano / triangle
カギ : chorus / drums / djembe / bongo / jingle

様々な意味で飽和状態にある京都インディーズ・シーンにおいて、自分たちの嗅覚のみを信じて、独自のスタンスで活動してきたキツネの嫁入り。2006年、それまでの活動をリセットしたマドナシとひーちゃんが新たな楽器を手にした事で始動。2007年マドナシと幼少の頃から交流のあったカギ加入。京都中心に活動。スキマ産業というイベントを主催。石橋英子×アチコ、トクマルシューゴ、uhnellys、Djamra、タテタカコやウリチパン郡といった、多種多様なアーティストを関西に招き地元アーティストとの交流の場を作り、自分達の感じる匂いのみを信じて、独自のブッキング・独自のイベントとして確立。アコギ、アコーディオンとジャンベというアコースティックな編成にも関わらず、ロック・イベントや、プログレ・バンドとの共演などが多いのは、キツネの嫁入りの音楽の幅広さ、奥深さを物語っている。変拍子を織り交ぜた楽曲には、常に一歩下がって世の中を眺めた感のある言葉が和の匂いを持った歌として楽曲を彩る。ラブ・ソングやなんとなくのハッピー・ソングは誰それに任せ、二人称を使用せず、普遍的かつ懐疑的なテーマの多い歌詞は、時として自分の事を指されている錯覚感から、コアなファンが多いとか。音源では、京都の盟友バンドLLamaの吉岡氏をエンジニアに、ウッド・ベースの藤井都督氏が4曲参加し、パーカッションのカギがドラムを、ひーちゃんがピアノで数曲アレンジしている。音楽が身近なものになりすぎた今日この頃。便利なものが便利であることが当然になってしまった昨今、僕たちは生きていくうえで、この日常に潜む忘れかけたこと、目を背けたことを「キツネの嫁入り」を聞いて思い出す必要がある。京都木屋町Urbanguildを中心に大阪・東京・福岡と幅広く活動中。

LIVE SCHEDULE

  • 2009/11/30(月)@木屋町Urbanguild
  • 2009/12/12(土)【スキマ産業vol.22〜キツネの嫁入りレコ発〜 LLama×キツネの嫁入り 2マン】@木屋町Urbanguild
  • 2009/12/26(土)@福岡voodoolounge
  • 2010/1/8(土)@新代田FEVER
  • 2010/1/24(日)【スキマ産業vol.23】@木屋町Urbanguild
  • 2010/1/31(日)@姫路cafe & dish EASE
  • 2010/2/21(日)@shin-bi
  • 2010/3/7(日)【スキマ産業vol.24】@木屋町Urbanguild
この記事の筆者

[レヴュー] キツネの嫁入り

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