2026/05/03 19:00

『CULTURE DRUG ORCHESTRA』ができるまで──対談:笹川真生 × エンジニア・池田洋

笹川真生の4枚目のアルバム『CULTURE DRUG ORCHESTRA』は、前作『STRANGE POP』のオルタナティブをさらに濃縮した怪作となった。その狂気と包容力が混濁したマーブル模様のサウンドに潜む謎を探るべく、ミキシングを担当しているエンジニア、池田洋を招いた対談を実施。取材のなかで滲み出すお互いへの信頼と、それに伴って遠慮なく行われる“汚し”。ふたりのチーム内で行われる異様な制作プロセスをお見逃しなく。

オルタナティブ全開の一作

インタビューはこちら
そもそも僕らは自由だった──笹川真生が『CULTURE DRUG ORCHESTRA』で発する警告とは?

対談:笹川真生 × 池田洋(hmc studio)

L:笹川真生,R:池田洋

インタビュー・文:菅家拓真
写真:Kana Tarumi

真生君を驚かせるために何ができるか?

──お二方はどのようにして出会ったんでしょうか?

笹川:リズム・セクションの録音をしたくてドラムの音がいいエンジニアを探していたところ、やけにドラムの音が良いエンジニアがいるなと思い、お声かけしたのが池田さんだったんです。

──そして、池田さんが笹川さんのエンジニアリングを担当するようになったのは、前々作であるセカンド・アルバム『サニーサイドへようこそ』に収録された“異邦人”と“日本の九月の気層です”の2曲からなんですね。この2曲でドラムとベースの録音をしたということでしょうか?

ふたりがはじめて手を組んだセカンド・アルバム

笹川:そうです。それ以降、全曲のミックスをお願いしています。私は10代の頃からミックス/マスタリングまで一人で完結させていて、割とクオリティには納得していたので、せっかく頼むのであれば、信頼をおける人がいいなと思ったんです。

──そこから『STRANGE POP』に続き、今作もお願いしたというわけですね。今作はすごいスピード感で制作が進んだとお聞きしています。池田さんにデータが渡るまで、楽曲のイメージはどのくらい共有されるんでしょうか?

大きな話題を呼んだ前作

笹川:曲ごとにバラバラなんですが、今作は音源ができ次第、池田さんに投げていたので、あまりイメージを伝える時間はありませんでした。その曲を作った時に私が聴いていた音楽を送ったりはしていましたね。

池田:毎日パラ(トラックごとに個別に書き出したオーディオ・データ)が送られてくるみたいな感じでした。でも、最初にまとめて3曲ぐらい送られてきた。

笹川:それくらいの心は見せないとダメだと思って、最初はちょっとまとめて送りました。今回は早めにパラを出します、という意思表示で(笑)。

──ハイパーポップ的なシーンは、それこそ以前の笹川さんのようにセルフで完結させる方も多い印象ですが、そういったジャンルでミックスを担当するにあたりプレッシャーを感じることはありますか?

池田:それはもう、真生君の作品に限らず、全ミュージシャンで感じています。デモ超えが一番難しい。一番かっこいいのはデモで、それをどう超えるかが最初の戦いです。昨今のベッドルーム・ミュージックのように、内省的なものを聴いてもらうカルチャーが世の中に浸透していった。そんななかで音のクオリティで勝負をすると、なんでもかんでも綺麗に整いすぎますよね。それがよくないことは重々承知しているので、そこの難しさはあります。

笹川:池田さんの音は別に整ってないんですよ(笑)。

池田:本当にそうです。めちゃくちゃですよ。本当に(笑)。なんなら、よりジャンクにしようとして真生君からもらったやつにノイズ足しちゃったりしてる。

──綺麗にするだけがミックスじゃないですからね。ノイズを消すこともあるんでしょうか?

池田:ないですね。

笹川:綺麗にする方向は完全にない。

──最高ですね(笑)。

笹川:「ちょっとやりすぎかもです」とかも言ったことないです。

──そこは、3作やってきた信頼みたいなところなんでしょうか?

笹川:そうですね。やっぱり初めの頃は、池田さんとしても一抹の遠慮はあったかなと。

池田:あはは(笑)。あったな。

笹川:セカンド・アルバムを聴き直すとそう思いますね。なんか綺麗めだな、みたいな。

──池田さんがミックスをするとき、どのようなことを考えているんでしょうか?

池田:熱量を保ったまま届けばいい、かな。真生君は自分でミックスをしていたので、非常にデモの完成度が高いんですよ。いろんなミュージシャンを相手にしてますけど、もう群を抜いていて。だからまず、デモ超えでありながら、真生君を超えることが僕の議題なんですよね。

笹川:ありがとうございます。

池田:まず僕は、真生君を驚かせるために何ができるかしか考えてないんですよ。そこから先の顔は全然考えていない。オーディエンスは置いてけぼりです。その先の人に届けようとすると、たくさんの顔が思い浮かんでくるので焦点がブレちゃう。目の前の真生君にサプライズを起こせているのであればもう大丈夫、っていう考え方でやってます。

この記事の筆者
菅家 拓真 (Kanke Takuma)

レコーディングを少し齧りました。 脳みそみたいな音楽が好きです

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