「そういうものだよな」と思わないと抱きしめられない気がして
──前作のアルバム『Redemption』から約二年半が経ち、2025年の9月に、沖縄で慰霊の日を過ごすなかで紡いだ“夏の祈りのなかで”が配信限定リリースされました。『Redemption』はレベル・ミュージックと仰っていましたが、今回「愛するたびに」のようなラブ・ソングを書こうと思ったきっかけはありますか?
片平里菜(以後、片平):前作は「大手レーベルに所属していた時のラブ・ソングを書いていた自分からの反動」みたいなものがあったんじゃないかなと。他には、ロック・バンドとかハードコア・パンクの先輩たちに影響を受けていた自分が出てきた感じがあります。なので、『Redemption』を経て、今はフラットになってるんじゃないかなと思います。
──フラットになって、ラブ・ソングに回帰したと。
片平:そうですね。20代の頃は、自発的にラブ・ソングを書くこともあれば、やはり求められて書くこともありました。当時は自分が思っている以上に、自分のパブリック・イメージや、“女の子は泣かない”のような共感ソングのイメージが独り歩きしている感じだったんですよね。でも今回は、何の反発もなく、自然と書きたいラブ・ソングが書けた。自分の素直な女性としての一面を出せたかなと思いますね。
──『Redemption』みたいなことを、今の情勢だからこそもう一度やろうみたいな気持ちにはならなかった?
片平:今ももちろん、『Redemption』の頃の考えは変わってないですね。社会的メッセージが強い部分はずっとあって、そういった思いを持ち続けているし、社会情勢とかもひっくるめて、思いを伝えられるラブ・ソングにはしたかったです。
──そこで、愛や平和といった普遍的なことを歌ううえで、目指す姿はありますか?
片平:とても漠然とした大きなテーマなのでいろんな解釈ができると思いますが、まずは恐れがないこと。もちろん、生きるために警戒心を持つことは自分を守る上でとても大切な要素なので、それを悪だとは思わないんですけど、不必要に恐れることがなく、自由であること。それは私にとって、「作りたいものを作る」ということなのかと思っています。
──先日のライブで荒井由実さんの“ひこうき雲”をカバーされていましたが、荒井由美さんは自身の音楽について、“よみ人しらず”でありたいと語っています。普遍的なモチーフを歌うにあたり、やはり片平さんらしさは大切な要素でしょうか?記名性の低い楽曲にしようと思うことはありますか?
片平:私には荒井由実さんほどの達観性はないかもしれないです......。すごいですね、その話。やはり「片平里菜が歌う“愛するたびに”」になっていると思うんですけど、リリースされたら自分の手から離れて、いってらっしゃいみたいに、そこを切り離せたらもっと自由になれるのかもしれないですね。ハッとさせられました。
──当時の楽曲と今の楽曲、決定的な違いはありますか?
片平:片平:たとえば“女の子は泣かない”がリリースされたのが21歳で作曲したのが19歳、20歳です。曲をつくったのはもっと前なんですけど、当時は直接的な歌詞しか書けなくて。ひとつ引っかかる言葉をみつけて、それをモチーフに一気に書くみたいな感じでした。だから「女の子は泣かない」は題名が先にあって、タイトルから物語を広げる感じで作りましたね。でも今回の“愛するたびに”は、語感の気持ちよさを気にして作りました。「あい」っていう響きは、英語だと自然と一人称として使われているわけで、「愛」としての意味は重いけど、聞き馴染みがあってスッと入ってくる。そんな歌詞になってます。
──ライティング的な側面でも成長があったということですね。当時の曲を聴いてみると、〇〇だよねとか、〇〇なの?みたいな歌詞が結構多い印象を受けました。
片平:そうですね、多分それが分かりやすかったのかな。訴求力、没入感がありますよね。でも今はもっと奥ゆかしい表現が好きなんです。詩的で、曖昧で、でも曖昧さがとても心地が良い。想像を聴き手に委ねられる奥行きが好き。そういう気分です。
──例えば12年前の楽曲“愛のせい”でも「愛」ということばを使っていますよね。改めて同じ愛というテーマで書いてみて、気づくことはありますか?
片平:同じ愛という言葉がタイトルになっているけれども“愛のせい”は、戦ってるみたいな緊張感がある。これはネガティブなのかわからないけど......。
──さらに別の楽曲と比較すると“愛するたびに”の引き算のあるアンサンブルや歌い方は「Darling」に似ていますよね。
片平:確かに。 “Darling”をリリースした2020年前後くらいから自分の声と向き合い始めて、ミニマルな発声になってると思います。パワフルな歌い方ももちろん武器にしつつ、その時の自分の年齢や体に合った歌い方を模索していきたいなと思った時期です。
──音数を減らし、削ぎ落としたアレンジにしたのは、リファレンスになる楽曲があったり、心象の変化はあるんでしょうか?
片平:もともとシンプルなものが好きで。 海外のインディーズやフォークの人は、歌とアコギだけで音源を成立させてしまう。楽器が何本入ってるのか、パッと聴いてわかるくらい明瞭な楽曲が好きで、いつかやってみたかったんですよね。
──片平里菜バンドとしてのワンマン・ツアーの影響はありますか?
片平:メンバーの影響もかなり大きいです。ベースは浜田将充さん(IdolPunch、LEARNER BOYS、Riddim Saunter)、もう二人はギターの高橋飛夢さん(THOMAS MARQUARDT、THE ZOOT16)とドラムのマコトU.S.Aさん(上上Brothers 、THOMAS MARQUARDT、THE ZOOT16)。このふたりがやってるTHOMAS MARQUARDというバンドは引き算が上手で、歌とエレキ・ギター、ドラムの編成なんですけど、最小編成なのにすごくグルーヴ感があって、余白がちゃんと音楽になってる感じが心地いい。それで、彼らのライブを見た時に、この中で歌えたら、すごく気持ちいいだろうなと思ってお誘いしました。ツアーも楽しくて、その先で「愛するたびに」をレコーディングすることになりました。
──歌詞には、愛に彷徨って、傷ついて、遠ざけ、疑って、逃げて、抱かれ、とありますが、この葛藤はご自身の実体験なんでしょうか?
片平:身から出た感じはありますね。 自分の今までの実体験もあるし、なんというか「そういうもんだよな」みたいなところもある。その両方ですね。
──大人ならではの諦めみたいな部分もちょっと含まれていると。
片平:「そういうものだよな」と思わないと抱きしめられない気がして。人って間違うし、失敗するし、ダメだと分かっててもそっちに行っちゃう時だってある。それを悪いと言ってしまうと生きづらいじゃないですか。
──そう思わないと抱きしめられない、大事な考え方ですね。カセットのデザインの方でもオレンジの青のグラデーションがあって、MVの夕暮れ的なグラデーションのモチーフはなんでしょうか?
片平:じつは夜から朝にかけてのその時間帯のイメージなんです。きっと夕方の方がノスタルジックな気持ちにはなると思うんですけど、眠れなくって過ごしていた夜が朝になるみたいな解釈です。この曲なら別れ話でもしてるのかもしれないですね。MVは屋上で、本当に朝の四時とか五時くらいに撮りました。

























































B-064.jpg?width=350)
