2022/12/08 18:00

JBLスピーカーとウェストコースト・サウンドの時代

高橋 : では、そろそろオーディオの話をしますか。

山本 : 1980年前後、ロック/ポップス好きの若い人たちのオーディオ装置は1本ゴキュッパ(59,800円)のスピーカーとロッキュッパ(69,800円)のプリメインアンプの組合せが基本みたいな共通認識がありました。25cmウーファーの3ウェイ・スピーカーをサンスイやトリオ、パイオニアのアンプで鳴らすみたいな。大学生がそんな大型スピーカーの本格システムで聴いていたというのは、今の若い人は信じられないと思いますけど。

高橋 : サンスイの AUシリーズ、そういう時代か。

山本 : そうそう、当時の憧れでした。僕は中古でAU-907を買って威張ってました(笑)。

高橋 : 僕も当時 AU-707を買ったな。

山本 : パンク、ニューウェイヴが本格化する前、無理して買ったそういうシステムで多くの音楽好き大学生がウェストコースト・サウンドを聴いていた。で、サークルの先輩に「こういう音楽聴くならJBLだぞ」って説教されたのを鮮明に覚えている(笑)。

高橋 : サンスイのアンプでJBLを鳴らすというのが一つのスタイルでしたよね。

山本 : 当時はサンスイがJBLの輸入元でしたからね。

高橋 : 山本さんの初JBLはなんですか?

山本 : SP-LE8Tです。8インチのフルレンジ・ユニットをサンスイ製の格子模様のキャビネットに入れたものです。

高橋 : 僕は使ったことないけど、当時の音楽好きにはLE8Tって憧れでしたね。

山本 : ちょうどステレオサウンド社でアルバイトを始めた頃で、編集部の先輩に「キミのはフェライト磁気回路だな、アルニコの初期型のほうが音がいいんだぜ」って言われてガックリしたことを思い出します(笑)。

高橋 : 僕、実はJBLは縁があまりなくて、もちろんLE8Tとか憧れではあったたんだけど。その後、オーディオの指向はブリティッシュ・サウンドに行っちゃったんですよね。ちゃんとしたスピーカーで音楽を聴こうと思った時期に秋葉原のラオックスの壁一面のスピーカーでいろいろ聴いて、「この小ささで、この値段だけど、コレしかない!」的に手を出したのがロジャースのLS3/5A。サンスイのアンプで鳴らしていたんだけど、「なんか違うな」と思って自由が丘オーディオセンターに相談したら「サンスイじゃダメ、ラックスマンのアンプで鳴らさないと」って言われて(笑)。

山本 : そうか、最初がLS3/5Aなんですね。そこが運命の分かれ道(笑)。ブリティッシュ・サウンドに行くのは当然かと。

高橋 : そうなんですよ。ずっとアメリカの音楽を聴いているんだけど、それをブリティッシュ・スピーカーで聴く人生。JBLの4312シリーズとか定番として当時のオーディオ好きはみんな通るんだけど。

山本 : そうそう。

今回の視聴機、JBL 4305P、多彩なデジタル接続と伝統のスピーカー・コンセプト

JBL 4305P Studio Monitor

高橋 : 自分もいつかはやっぱりJBLにいくのかな……と思っていて今日まで来たんだけど縁がなくて。今回JBLの「4」が付くシリーズの最新型がついにうちに来たという。

山本 : 4305P。

高橋 : JBL伝統のホーン・タイプ。サイズ的には結構置きやすいサイズですね。いまどきの日本人の生活感覚では30cmウーファーの大型スピーカーなんて置きづらいですもんね。

山本 : 僕は無理して38cmウーファーの大型スピーカーを使ってますけど(笑)。4305Pは13cm強のウーファーを搭載した2ウェイ機ですね。

W210 × H336 × D235 mmとリビングにもおけるサイズ感(メーカー提供のイメージ図)

JBL 4305Pを構成するスピーカー・ユニット、左が25mm 径リング・コンプレッションドライバー「2410H-2」+HDI ホーン、右に低音部を担う133mm 径パルプコーン・ウーファー「JW130P-4」

高橋 : しかもパワードでワイヤレス、L/R間も無線伝送可能で、コレ1台でどんな使い方にも対応できてしまう。

山本 : 恐るべき多機能性ですよ。どんな接続で楽しみました?

高橋 : いろいろ試してみました。PCとUSB接続して内蔵DACで鳴らしたり、アナログでつないだりとか。ここ最近の新しい機材のスタイルというか、以前この連載で使ったエアパルスのA80と思想的には近いですよね。あれよりも一回り大きくて、ローがぐっと出て、それが土台としてあるような感じがします。

山本 : そうですね。USB接続でハイレゾを聴くと、このスピーカーの実力の高さに驚きます。エアパルスA80よりも一回り大きいし、値段も2倍強しますが。

多くの接続を備え基幹となるプライマリースピーカー(左)とセカンダリースピーカー(右)で構成。それぞれ独立したD/Aとアンプ部を持つバイアンプ駆動。両者の接続は24bit/96KHzまでの無線、もしくは24bit/192kHzまで伝送できるデジタル・リンク(LAN)ケーブルで接続

高橋 : 先ほど話したように、僕はブリティッシュ・スピーカーばかり使ってきたので、ガラっと音楽の聞こえ方が変わるかなと思ったんですけど、現代のサウンドなんかを聴いているとそうでもなかったです。ホーン型だから音が前に飛んでくる傾向はあるけれど、音のまとまりがすごくいい。昔のJBLのように「身構える感じ」はありません。

山本 : 健太郎さんがLS3/5Aを買った頃、当時のJBLとブリティッシュ・スピーカーって驚くほど音が違いましたけど、やっぱり世の中インターナショナルになって、ドーム・ツィーターとホーン型の違いも昔ほどなくなりました。とはいえ、4305Pを使ってみて思ったのは、ステレオのスウィート・スポットから外れた場所で聴いても周波数特性的なバランスがほとんど変わらない。それも最新ホーン型の良さだなと。ドーム・ツイーターってやっぱり指向性が狭いから、ちょっと外れるとハイが急に落ちたりするんですけど。それからJBL伝統の、パルプコーンの軽くてキレのよい低音も健在です。

高橋 : レスポンスが速いですよね。

山本 : そうなんです。その感じがこの頃のウェストコースト・サウンドに絶対合いますね。

高橋 : 僕もそう思いました。今回のプレイリストにピッタリだし、以前取り上げたドゥービー・ブラザーズのプレイリストもすごくよかった。

第4回ドゥービー・ブラザーズ『Livin' on the Fault Line』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

山本 : それは間違いないですね。やはり当時の音源に特定して聴くと、JBLサイコーって感じになると思います。それからBluetoothでペアリングしてスマホの音源とかを手軽に聴くことができるというのも魅力です。その音質もエアパルスA80などと比べても別格でしたね。

高橋 : それから前面にセレクターとボリュウム・スイッチがあるのがいいですね。

山本 : 背面でバスとトレブルの調整もできるので、これも便利です。.

プライマリースピーカー前面にボリュウムと入力ソースが視認できるインジケーターとセレクターを搭載

高橋 : セッティングもやりやすいし、そのあたりの使いやすさもありますね。

山本 : LAN入力もあるので、ネットワーク経由でストリームサービスの音源もこれだけで聴けてしまいます。

高橋 : これ自体はスタジオ・モニター的な設計思想の機材なのかしら? でもリビングに置くようなコンシューマー・モデルとしても成立していると思うし。

山本 : JBLとしては、アタマに「4」を付けたブルーバッフル・モデルということでスタジオ・モニターを謳っていますが、実際はスタジオ・モニターで使われるケースは少なくて、家庭で使われるケースがほとんどだと思います。最近、30代のインテリア・コーディネーターと仕事をする機会があったんですが、彼によると、ミッドセンチュリー・テイストのインテリアが好きな若い人がどんどん増えているそうです。そういう人たちに、このブルーバッフルがすごく受けているみたいですね。この無骨な感じ逆によいと。

高橋 : なるほど。ブルーバッフルといえば、昔からカフェとかにも置いているイメージ。山本さんの話にもありましたけど、中央に座って聴くというよりも、リビングなんかに置いて、遠くから聴いても気持ちよいというのもありますよね。

山本 : そうですね、ホーン型ならではの遠くに音を届ける力がありますからね。

高橋 : 伝統的なブリティッシュ・スピーカーって好きなんだけど、ちょっとコンプレッションがかかる。それがよいときはよいんだけど。相性が悪いとき、特に遠くで聴いたときにやっぱりちょっと物足りないということがあって。

山本 : わかります。ニア・フィールドでLS3/5Aが表現する独特の奥行き感とかは、わりかし日本人が好きなんでしょうけど。対してJBLは前に音が出てきますから、遠くで聴いてもよいというのはそういう部分での利点かもしれませんね。まあいずれにしてもBlutooth対応でしっかりステレオ再生したいという方にとって、これは見逃せない優れたスピーカーだと思います。僕は近年のJBLの中でこのスピーカーがいちばん好きですね。

本連載6枚目の音の良い“名盤”

リンダ・ロンシュタット『Prisoner In Disguise』のハイレゾ版購入はコチラから

今回の機材──JBL 4305P

JBL 4305Pには便利なリモコンも付属、LRの無線接続も可能なので、電源以外、まさにワイヤレスな環境構築も可能だ

ワイヤレス / 有線デジタル接続とアナログ・オーディオ入力を備えたDAC内蔵のパワード・タイプのスタジオ・モニター。最も手軽な方法としては、スマフォとこれさえあれば、Bluetoothでつないでお好みのサービスで音源を再生すれば、まさにワンランク上の音楽環境をすぐに築くことができる。各種ストリーミング・サービスや直接USBや光ケーブルをPCなどと接続して、ハイレゾ環境も簡単に構築できる。XLR/フォンのアナログ入力も完備で既存のシステムのアウトプットにも。ちょっとした接続に意外と便利な3.5mmミニジャックも搭載するなど、お手軽からハイエンドなこだわりの環境構築まで、まさに全方位な入力に対応している。例えばサブウーファー出力もあるので、サブを足し、DJミキサーと接続して、アナログ・レコードを聴く、ホームパーティ用の簡易なPA的な使い方なんていうのも良いかもしれない。
また付属のBluetoothリモコンと独自の「MusicLife」アプリ、機器前面にあるソース・セレクターとボリュームなど、ちょとした利便性への配慮が日々の音楽生活をスムースにしてくれるのではないだろうか。これだけ利便性を詰め込んだ上に、本文にもあるようにJBL伝統のブルーバッフルを継承、そして進化したユニットを搭載。まさに伝統と、最新鋭のデジタルが統合された機体となっている。(編集部)

その多機能性を指し示す背面入力

JBL 4305Pのその他詳細はこちらのJBLページにて

JBL 4305P製品ページ
https://jp.jbl.com/4305P-.html

JBL 4305P Studio Monitor
・価格 : ¥ 220,000 (税込) / ペア
主な仕様
・外形寸法(幅x高さx奥行、グリル含む): W210 × H336 × D235 mm
・重量 : 6.6kg(プライマリースピーカー)/6.4kg(セカンダリースピーカー)

・タイプ : コンパクト・ブックシェルフ型パワードスタジオモニター
・低域用スピーカー : 133mm径パルプコーン・ウーファー「JW130P-4」
・高域用スピーカー : 25mm径リング・コンプレッションドライバー「2410H-2」+HDIホーン
・アンプ出力 : 総合300W(LF:125W×2 / HF:25W×2)Class-Dパワーアンプ
・クロスオーバー周波数 : 1750Hz
・周波数特性 : 45Hz – 25kHz(-6dB)
・入力 : XLR/フォン、AUX(φ3.5mm)、USB-B、光デジタル、Ethanet/Wi-Fi、Bluetooth(version 5.1)
・出力 : サブウーファー出力(RCA、オートセンシング/80Hz HPフィルター自動添加)
・対応フォーマット : AAC/AIFF/ALAC/DSD(DoP)/FLAC/MP3/OGG/ MP4/WAV/WMA
・対応サンプリングレート : USB/ストリーミング:32kHz SPDIF 32kHz~192kHz

『音の良いロック名盤はコレだ!』過去回

第1回ニール・ヤング『ハーヴェスト』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

第2回ジャクソン・ブラウン『Late For The Sky』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

第3回ポール・サイモン『Still Crazy After All These Years』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

第4回ドゥービー・ブラザーズ『Livin' on the Fault Line』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

第5回ダニー・ハサウェイ『Everything Is Everything (Mono)』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

著者プロフィール

高橋健太郎

文章を書いたり、音楽を作ったり。レーベル&スタジオ、Memory Lab主宰。著書に『ヘッドフォン・ガール』(2015)『スタジオの音が聴こえる』(2014)、『ポップミュージックのゆくえ〜音楽の未来に蘇るもの』(2010)。

山本浩司

月刊「HiVi」季刊「ホームシアター」(ともにステレオサウンド社刊)の編集長を経て2006年、フリーランスのオーディオ評論家に。自室ではオクターブ(ドイツ)のプリJubilee Preと管球式パワーアンプMRE220の組合せで38cmウーファーを搭載したJBL(米国)のホーン型スピーカーK2S9900を鳴らしている。ハイレゾファイル再生はルーミンのネットワークトランスポートとソウルノートS-3Ver2、またはコードDAVEの組合せで。アナログプレーヤーはリンKLIMAX LP12を愛用中。選曲・監修したSACDに『東京・青山 骨董通りの思い出』(ステレオサウンド社)がある。

[連載] Linda Ronstadt

TOP