2022/01/31 17:00

マイケル・マクドナルドとパトリック・シモンズ

今回、進行用にふたりが用意したプレイリストはコチラ、ぜひ聴きながらお読みください

山本 : いずれにしても、今回健太郎さんがつくったプレイリストの音源はすべて今の耳で聴いても素晴らしいと思います。

高橋 : エレピの音とか最高で、「なんだ~このかっこいい音は!どうやって録るんだ?」って思いますよね。

山本 : パトリック・シモンズとジェフ・バクスターの非常にクリーンなトーンのギターも初期のドゥービーズとは質感が変わっていて。フレーズもジャジーなフレーズが満載。このふたりのギタリストは実に素晴らしいですね。

高橋 : こうやって聴いていくと、当時のドゥービーズは実はパトリック・シモンズが肝なんじゃないかなと思います。

山本 : そうですね。『運命の掟』の重要な曲、ジャジーでプログレッシヴな曲って彼が書いていることが多いし。

高橋 : トム・ジョンストンとマイケル・マクドナルドを前面には出しているんだけど、パトリック・シモンズにはバンドとしてのバランスをちょっと一歩引いたところで取り続けているなと感じます。

山本 : ところで、マイケル・マクドナルドは最近復活してソロ・アルバムを積極的に作ってますね。健太郎さんのプレイリストに一曲(“Wide Open”)入ってましたけど、この曲を聴いた後に『運命の掟』を聴いても全然違和感がない。


高橋 : その間には40年以上の時間がありますけど、変わらない質感がありますね。いろいろ今回聴きましたが、それでもやっぱり『運命の掟』はずば抜けて音がいい気がする。スティーリー・ダンはオーディオマニア御用達ですが、彼らの作る音ってスタジオでのオーバーダビングの匂いがするじゃないですか。

山本 : というかオーバーダビングの嵐ですもんね。

高橋 : そこで精密に作り上げられたサウンドですよね。今回紹介したドゥービーズの作品は、この時代ならではのミュージシャンの活きの良さがあります。だからいまはこっちじゃないかなって気がしていて。

山本 : 確かに、バンド・サウンドというのがひとつのポイントなんでしょうね。ドゥービーズの存在ってしばらく忘れていましたが、今回ハイレゾで聴いて改めてその良さが再発見できた気がします。

高橋 : ツイン・ドラムとかラテンのパーカッションが入っているところとか、ギターのカッティングの感じも60年代のアメリカン・ロックから遠く離れたところにある。80年代当時ドゥービーズがディスコでよくかかっていたというのがよくわかるシャープな感覚がある。

山本 : 音質的な違和感が全然なかったですもんね。

高橋 : 歪んだギターがわーっと入ったりしないからね。

ネットワーク・オーディオをシンプルに、LUMIN M1

LUMIN M1

山本 : ということで、そろそろオーディオの話をしますか。今回ぼくが推薦させてもらったのは、LUMINのアンプ内蔵ネットワークプレーヤー、M1です。

高橋 : テスト機材の箱を開けてびっくりしたのが、正面はボリュウムノブのみ、背面にはLAN端子とスピーカーの端子しかないこと。この割り切りはすごい。アプリをインストールしたタブレットで操作するわけですよね。USB端子もついてるんですけど、基本は自宅のネットワークにLAN端子で接続して、あとはスピーカーに繋ぐだけ。

山本 : アナログの音声信号からUSBに直接変換する特殊なケーブルが付属しています。

M1シルバーモデルのフロント・パネル、本文にあるようにごくシンプル

M1のリヤ・パネル、右からUSBが2系統とLAN端子、スピーカー端子のみといたってシンプル

USB接続でRCAとミニジャックに変換するアナログ入力用のケーブル

高橋 : USBメモリに挿してそこから音源を呼び出せる機能もあるようですが、基本はネットワーク経由でストリーミングやNASの音源を聴くという非常にシンプルな考え方。リビングルームにポンと置いて音楽を楽しむというスタイルがフィットしますね。僕もそのコンセプト通りにリビングに小さいセットを組んでみようと試したんですが、ただスピーカー端子のみなので、サブウーファーを直接つなぐことができなくて……そう考えるとちょっと大きくなっても低音がきちんと出るスピーカーと組み合わせようと思って、山本さんが推薦してくれたQ Acoustics 3030iをお借りしました。これはなかなかいい組合せでしたね。

山本 : それは良かったです。Q Acoustics 3030iというのは、ペアで約5万円の安価なスピーカーですが、ウーファー口径が6インチ半あります。このウーファー・サイズは、昔から“黄金のサイズ”と言われていて、特に声を聴くには最高と言われています。5万円前後で6インチ半のウーファーを積んだスピーカーってなかなか買えないですからね。これはちょっと驚きの値段設定なんですよ。低音の満足感も大きいと思います。

Q Acoustics 3030i 機材協力 : EASTERN SOUND FACTORY Co.,Ltd.

高橋 : 今回のセット、M1との組合せでは低音が豊かなスピーカーを組み合わせたほうがよいと考えたのでまさにピッタリでした。ぼくは超小型スピーカーにサブウーファーを加えるというセットアップが好きではあるんですが。

山本 : 健太郎さんがおっしゃったことは大事なことだと思っていて、このM1にはテキサス・インスツルメンツ製のデジタル・アンプ・モジュールが入っています。公称出力は60Wですが、聴いた感じだと若干、低域から中低域にかけて音が薄い印象があるんですよ。その代わり高域がきれいに伸びている。そんなわけで、3030iとの組合せはドンピシャだと思います。

高橋 : 3030iは中高域もクセがなくていいですね。これで5万円前後って信じられない。

山本 : カールハインツ・フィンクというドイツ人の設計です。彼はフリーランスのオーディオ・コンサルタントで、Q Acousticsの他にTANNOY、Naim Audio、DENON / marantz等のスピーカー設計を手掛けているようです。ミュンヘンのオーディオ・ショーで一度会ったことがあるんですが、70年代ロックとブラック・ミュージックの大マニア。マディー・ウォーターズとかストーンズとかね。そういう人の設計だからか、ヴォーカルの再現がすごく生々しい。彼はスピーカー・キャビネットの振動を抑える技術のパテントをたくさん持っていて、このiシリーズの上にコンセプト・シリーズというのがあって、それはキャビネットを二重構造にして、その間にジェルを入れて振動を吸収するという面白い手法が採られています。

高橋 : ところでLUMINは、どこのメーカーですか。

山本 : もともとロサンゼルスと香港に拠点を持つメーカーで、ものすごいオーディオ・マニアの人たちが作っていますね。X1という電源部別筐体の高級ネットワークプレーヤーがあって、これは200万円を超える値段ですが、力感に満ちたおそろしく精密な音がします。それから、D/Aコンバーターを搭載していないU1 miniというネットワークトランスポートがラインナップされていて、これはぼくの愛用機だったりします。MQA対応機でコンパクトで使いやすい。同社の操作アプリ(編注)もすごくよくできてますよ。

編注 : 「LUMIN App」、詳しくはコチラ、公式代理店紹介ページにて
https://www.bright-tone.com/pages/73.html

高橋 : たしかにとても使いやすかったです。ルーミンの製品の中では今回聴いたM1が一番安いんですね。

山本 : そうです。本機のような手軽にストリーミングサービスやNASのハイレゾファイルが楽しめるネットワークアンプを欧米では最近、ミュージック・ストリーマーと呼んでいて、20万円以下の製品がどんどん増えています。これからのアンプの主流はこういうタイプになるでしょうね。

高橋 : パワードスピーカーを繋ごうっていうタイプもあるんですか。

山本 : 現在はあまりないですね。スタジオ・ユースのモニターだとパワードが多いですが、やはりホームオーディオは、アンプにパッシヴ・スピーカーを繋ぐというスタイルがまだまだ主流だからかな。ただ、以前この連載で採り上げたパワードのエアパルス80とかはすごく売れていて、これからトレンドは大きく変わっていくかもしれません。

高橋 : なるほど。

山本 : で、M1と3030iでドゥービーズを聴いてどんな感じでした?

高橋 : 基本的に明るくて品のいい音でした。この組合せだと、エネルギーバランスも真っ当で、ハイレゾファイルならではのダイナミックでスペイシャルな音の魅力が十全に楽しめました。17万円台というM1の値段が改めて魅力的だと思いました。

山本 : ネットワークプレーヤーとアンプを別々に買うことを考えればお買い得ですよね。3030iを組み合わせて23万円くらい、読者のみなさんにもこういった組合せでぜひハイレゾを聴いて欲しいなと思います。

高橋 : M1自体はWi-Fiでは繋がらないから、有線のLAN接続が基本。このLANケーブルをどうするか、そのあたりが使う時の肝になるのかなと思いましたけど。またオーディオ用のネットワーク・ハブも欲しくなるなとか。

山本 : ネットワーク上流のノイズ対策に手をかけると劇的に音は良くなります。ぼくもDELAのオーディオに特化したハブを入れたり、あとはマニアックな製品なんですけど、エディスクリエーションFiberBoxという光絶線ツールがありまして……これ加えることでネットワークの音が劇的に音がよくなりました。

高橋 : なかなかそこまで手が回りませんが、でも、そうだろうなとは思う(笑)。

山本 : まあいずれにしても手をかければかけるほど音が良くなるのがオーディオ。みなさん忘れがちですけれど、「ネットワークオーディオ」も「オーディオ」なんですよね。

本連載4枚目の音の良い“名盤”

ドゥービー・ブラザーズ『運命の扉(Livin' on the Fault Line』)のハイレゾ版購入コチラから

今回の機材──LUMIN M1 A LUMIN Streaming System

LUMIN M1には上記に掲載したシルバー、そしてこちらのブラックの2色が展開されている

ここ最近、ネットワーク・オーディオやデジタル・オーディオを楽しむためのひとつの選択肢として定着してきた感のある、いわゆる“ミュージック・ストリーマー”。多くがネットワーク・プレーヤー+プリメイン・アンプ一体型の機器で、コンパクトにデジタルの高音質のネットワーク・オーディオ環境を構成。LUMIN M1もまさにそうした機材で、多くのストリーミング・サービスやネットワーク・オーディオ規格に対応、さらに再生面ではDSD 5.6MHzやMQAなど、いま流通するほとんどのハイレゾ・デジタル・ファイル形式の再生にコンパクトな機体で対応している(幅×奥行き×高さ : 361×323×58mm / 重量は4.5kg)。ネットワークを介したさまざまなスタイルのデジタル・オーディオの楽しみ方で基幹となってくれる機器である。 もちろんこうした機能面もさることながら、フラッグシップ機X1などで培った同ブランドの技術力によって、18か月に渡る継続的な開発が行われ、特大のスイッチング電源やスピーカー出力までの完全デジタル信号パスなど、独自の効率設計を実現、クラスDアンプを搭載するなど、音質の向上が図られている。カラーはシルバーとブラックの2色展開となっている。(編集部)

LUMIN M1のその他詳細は、輸入代理店ページにて

https://www.bright-tone.com/pages/249.html

LUMIN M1販売ページ

http://brighttone.shop14.makeshop.jp/shopdetail/000000000172

A LUMIN Streaming System コンパクトオールインワンオーディオシステム(M1)
価格 : Silver 160,000円(税込176,000円)、Black 176,000円(税込193,600円)(代理店販売ページより)

主な仕様
DSDサポート
DSD 128 5.6MHz,1bit サポート
再生対応
UPnPプロトコル(OpenHome), Roon Ready, Spotify Connect, ギャップレス プレイバック(曲間の音切れを発生させません), オンデバイス プレイリスト(操作アプリケーションを停止させても、再生が途切れません)
サポートフォーマット
DSD Lossless : DSF (DSD), DIFF (DSD), DoP (DSD)
PCM Lossless : FLAC, Apple Lossless (ALAC), WAV, AIFF
Compressed (lossy) Audio : MP3, AAC (in M4A container)
MQA
対応サンプリング周波数及び対応bit数
PCM : 44.1khz - 384kHz, 16 - 32bit, Stereo
DSD : 5.6MHz, 1bit, Stereo
サポートコントロールデバイス
iPad(2014年モデル以降): iOS8.0以上推奨, Retinaディスプレイ完全対応
Android:Android 4.0以上推奨
Lumin APPサポート
TIDAL, MQA, Qobuz TuneIn Radio ネイティブサポート,ハイレゾリューションアートワーク対応, AirPlay対応, マルチタグ対応('Composer'タグ含む), 検索機能を用意
ストリーミングプロトコル
UPnP (OpenHome), Roon Ready, Spotify Connect , AirPlay-compatible Gapless Playback, On-Device Playlist
インターフェース
Ethernet Network 1000Base-T
USB flash drive,
USB hard disk(シングルパーティション FAT32, exFAT, NTFSのみ対応)
出力
ステレオ 4mmバナナプラグ対応
≧4 ohm
60W @ 8 Ohm Speaker / 100W @ 4 Ohm Speaker
入力
RCA及びミニジャック(同梱のUSBアダプター使用)
電源
オーバーサイズ
100–240V AC オートレンジ
フィニッシュ
Silver、Black
寸法及び重量
LUMIN本体 361mm (W), 323mm (D), 58mm (H), 4.5kg

『音の良いロック名盤はコレだ!』過去回

第1回ニール・ヤング『ハーヴェスト』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

第2回ジャクソン・ブラウン『Late For The Sky』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

第3回ポール・サイモン『Still Crazy After All These Years』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

著者プロフィール

高橋健太郎

文章を書いたり、音楽を作ったり。レーベル&スタジオ、Memory Lab主宰。著書に『ヘッドフォン・ガール』(2015)『スタジオの音が聴こえる』(2014)、『ポップミュージックのゆくえ〜音楽の未来に蘇るもの』(2010)。

山本浩司

月刊「HiVi」季刊「ホームシアター」(ともにステレオサウンド社刊)の編集長を経て2006年、フリーランスのオーディオ評論家に。自室ではオクターブ(ドイツ)のプリJubilee Preと管球式パワーアンプMRE220の組合せで38cmウーファーを搭載したJBL(米国)のホーン型スピーカーK2S9900を鳴らしている。ハイレゾファイル再生はルーミンのネットワークトランスポートとソウルノートS-3Ver2、またはコードDAVEの組合せで。アナログプレーヤーはリンKLIMAX LP12を愛用中。選曲・監修したSACDに『東京・青山 骨董通りの思い出』(ステレオサウンド社)がある。

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