【Save Our Place レポート】小さな遊び場に溢れんばかりの楽しげな音を──下北沢HALFのいま

新型コロナウィルスが感染拡大し、様々なライヴハウス/クラブが営業自粛を余儀なくされている。 そんな中まだ開店から1年経たずながらも沢山の人に愛されている小さなライヴハウス。 今回はそんな下北沢HALFの店長・中村公亮であり、また1人のアーティスト・こっけでもある彼に話を伺う。
INTERVIEW : こっけ(中村公亮) (下北沢HALF店長)
下北沢HALFは昼はライヴハウス営業、夜はバー営業と変わり、それ以外にも様々な企画に取り組んでいる“自由”な遊び場だ。そんな下北沢HALFはアーティストでもあるこっけ(中村公亮)が勤めている。そんな彼が現在行っている企画〈つくってうたお〉は様々なアーティストと共に楽曲制作をし、その工程をすべてYoutubeで公開するという、アーティストとしての1面を持つ彼だからこそできる何とも斬新で面白い企画だ。そんな小さな遊び場には、いつだって溢れんばかりの楽しい音が溢れていた。しかしコロナの影響で未だ通常営業は難しい状況だ。私はライヴハウス / クラブに日常が戻る日を心の底から願っている。
インタヴュー&文 : 安達 瀬莉
〈つくってうたお〉
毎回ゲストを1組招き、ゼロから曲を作りその工程をすべて公開する企画。完成した音源はTOOS WEB STOREのHALF DIGITAL CONTANTSにて投げ銭で購入可能。
【TOOS WEB STORE】
https://toos.co.jp/half/
ライヴハウスはいろんな人が集まってくる場所
──もともとは系列の〈下北沢BASEMENTBAR〉で副店長をされていたんですよね。BASEMENTBARで働くきっかけっていうのは何だったんでしょうか?
そうですね。当時はバンドをやってたので、横の繋がりがあったほうがいいんじゃないかなと思って2011年の11月くらいから働きだしました。忘れもしないんですけど、2011年10月10日に〈下北沢CAVE-BE〉で自分たちの企画があったんですよ。でもトータル30人くらいしか入らなくて(笑)。うわぁってなってた帰りに、いま〈下北沢THREE〉で働いてる元・THEラブ人間のドラムの服部さんとか、いまBASEMENTBARで店長をやってるクックさんとかに呼ばれて顔を出したときに、「ライヴハウスで働かない?」って誘ってもらったのが1番のきっかけですね。
──なるほど。それから去年のいまごろにHALFを任されることになるじゃないですか。その時はどんな感じだったんでしょうか?
もともとHALFの場所には〈MORE〉っていう半分系列のDJバーがあったんですけど、その店長さんが独立していなくなることになって。場所が空くから誰か新しくやるかってなった時に、こっけがいいんじゃないかっていう話を頂けたので即レスでやりますって言いましたね。それが去年の5月下旬くらい。7月にオープンって言われてもう1か月くらいしかない! ってなってたんですけど、その時10日くらいタイに行くのを前々から決めてて(笑)。結局開店までの準備期間は1か月ないくらいでしたね。
──(笑)。店長になって変わったことはありますか?
生活する時間が1番変わりましたね、あとはやっぱり新たに始まった場所だし、色々な人と出会って交友関係がすごく広がりました。BASEMENTBARで働いてたときも広がりましたけど、店長として働きはじめたのもあるし、やっぱりライヴハウスはいろんな人が集まってく場所なんだなあと改めて感じましたね。音楽的な部分で言えば、DJを聴く機会が増えたのでバンド・サウンド以外にもより興味を持つようになったなと思います。
とにかく曲を作るしかないと思った
──コロナ当初、どこのライヴハウスも自粛するってなったじゃないですか。その時HALFでは何をされてたんでしょうか。
やりたいと思ってくれる人に来てもらって収録配信をしました。そんなに毎回人でいっぱいになるわけでもないし、できることから対策していけば正直大丈夫かなと思ってたんですよ。ただやっぱりもしそれでクラスターが起こったときに出演者の気持ちに負担をかけたくないなと思って自粛しました。
──6月1日からはバー営業が再開したじゃないですか、自粛前と比べてどうでしたか?
こんな感じだったわ!っていうのを思い出しましたね。俺も飲んでただけなんですけど、全然できるなと思ったし、なによりお客さんのほうが楽しそうだったのがよかったです。やっぱり顔合わせてがいいよねっていうのを思い出しました。なので曜日限定で時間も短いですけど、積極的に続けていきたいです。

──いいですね。音楽活動についても聞きたいんですけど、自粛中に何か活動はありましたか?
わりと早い段階で、「会いたい人に会えなくなる」みたいな曲は1曲作ってました。とにかく曲作るしかねえなって思って。〈つくってうたお〉もそうですけど、結局俺らは曲を作って歌うしかないかなと。普段より頻度は早いですね、リリースをどういう形でするとかはまだわからないですけど、でも今やってる〈つくってうたお〉のコンピみたいなのはレコーディングし直して出したいなと思ってます。発展性が高い企画はたくさんあるから、実際にお客さん入れられるってなった時にもやればいいし、どんどん発展できる企画でよかったなとは思いますね。
──〈つくってうたお〉はそもそもどうやって生まれたんですか?
そもそも弾き語りは生で見た方がいいし、30分、40分のライヴを映像だけで見せても飽きるだろと(笑)。どこのライヴハウスもやるし、出演者も被るじゃないですか。今でさえまたかよ! とかっていうのは正直あると思うんですよ。バンド側にも出られる出られないがあるし。それで何か収録以外で音楽番組みたいなことをやったら面白いんじゃないかなと思って。もともとバー営業のときも俺が曲作ってるところをみんなで見ながら飲むっていうのもやってたんで、それをうまく使えたらなって感じでしたね。タイトルはいろいろありましたけど〈つくってうたお〉がわかりやすいかなと。
──毎回ゲスト・アーティストがいるじゃないですか。そのアーティストを選んだ理由ってなんでしょうか?
本能的にいいなっていう感覚的なものとタイミングですね。やってみてわかったんですけど、お互い音楽的にちゃんと好きで理解してないとできない企画だと思います。今は高田風(Deges Deges)、カリんちょ落書き、三輪卓也(アポンタイム)の3人が出てくれてるんですけど、外に出ずらい状況での頼みやすさとかを考えると付き合いの長い順かなっていうのもあります。
──実際に公開してみて反響はどうですか?
反響がないと思って期待してなかったんですけど、思ったよりあって嬉しかったです(笑)。これは個人的な話ですけど奥田民生さんが好きなんですよ。民生さんが宅録をしてる姿を公開とかしてるの見てて、憧れるというかパクリからのスタートで(笑)。自分は有名なミュージシャンでもないので大きく跳ねるみたいなのはないと思ってたけど、やっぱり曲がいいんですよね。大勢というよりは見てくれてる人にちゃんと届いた実感があります。
──いいですね。最近新しい企画〈シモキタスター養成所〉も始まったじゃないですか。あれは音楽番組的なことをやろうっていう意図ですか?
そうですね。始まった当初のスペースシャワーTVみたいなミュージシャンが大喜利やるとか、見る人によっては”痛い”かもしれないけどミュージシャンは音楽やってればいいじゃんっていうのではなく、俺らインディーでもできたら面白いじゃんと思って。あとインディーのバンドマンってHALFに来れば誰かいたり、会いに行けるバンドマンが多いじゃないですか。でもメジャー・アーティストってなかなか会えない。
──そうですね。
そういう構図だったのが自粛期間中に人に会えない、外に行けない、バンドを生で見れないしってなったときにインディーのバンドマンもなかなか会えなくなって。街で見かけて「えっ、あの人じゃない?」みたいな感じになるんじゃないかなと思ったんですよ。だからちょっとそういう芸能人ぽい見え方をインディーのバンドマンもしていいんじゃないかなって思いましたね。それもあってこの企画のゲストはああいう馬鹿なことやることに対して理解があって、明るくて、映像映えしそうな人を集めてます。我ながら名キャスティングだなと(笑)。
──そうやって収録配信もされてますけど、お店のを運営しているTOOSが映像のプラットホーム〈Qumomee〉を作ったじゃないですか。あれはどういったものなんでしょうか?
〈Qumomee〉は、ミュージシャンがYoutubeは持ってるけど生配信ができない、でも活動したいっていう人たちが配信環境さえあれば利用出来て、収益化の利益もほかより大きくしました。それは俺たちがやってて思ったことだったのでみんなにはやりやすく届けばいいなと思ったので。
──配信戦国時代ですよね。被りがすごくてなに見ればいいんだろうとか、投げ銭だから逆に全部見れちゃうのも困りますね(笑)
なんか、いままで音楽を買ってなかったんだなって思いましたね。例えばYoutubeでバンドがMV公開するじゃないですか。何万回再生されて何いいねついてる、けど全部タダで楽しんでるけどいのかなっていう疑問を全く抱いてなかったなと。本当にこれでいいのかなと思いました。音楽に限らず、アーティスト活動をしてる人に対してちゃんとお金を使って楽しむようになってほしいし、ちゃんとお金取るようにもなってほしい。だって曲を作って発表できるっていうのは良し悪しや好き嫌いはあるけどすごいことで、誰でもできることじゃないじゃないですか。だからそこにちゃんとお金が発生するべきだと思ったから〈つくってうたお〉に関しては工程は見れるけど曲は買わないと聴けないようになってます。音楽に対してお金を払ってみようよっていう気持ちを込めてて。コンテンツの多くがなんでもかんでも無料になってしまっていくっていうのは、ちょっと悲しいなと。
──そうですよね。お金が発生することでわかりやすく「これをすばらしいと思ってますよ」っていうのを提示できるというか。
作ったものに対して時間とかいろいろかかってて、それに対してお金を払うのは大事だなと思ってほしいです。
──こっけさんはBASEMENTBAR以外の配信を見たりしますか?
映像とか音とかチェックしてますよ。でもうちが一番いいですね。間違いなく(笑)。
──(笑)
そう思ってやってないと、いいものできないですからね!
暮らしてて暗くなりたくない
──そうですよね。ちなみに本格的にライヴ・イベントを再開する目処はまだ立ってないですか?
そうですね。下北沢はいろんなライヴハウスで横の繋がりもあるので情報を交換しながらいろいろ話はしてますけど、僕は長い目で見て、年内の通常営業は難しいかなと思ってます。
──人数制限などをしてやるみたいなことも考えてないですか?
そうですね。まだ不確定なんでなんとも言い難いですけど、そういう中途半端な形ではやんないようにしたいねって話はしてます。それこそ人数制限したときにチケット代の単価が上がっちゃうとか、やるとしても来れる人たちをどうやって決めるのかとか。たとえば4バンド出てて、20人しか入れられないってなったら1バンド5人しか呼べないとか、なんなら5人呼べないとかもあるだろうし。平日に小箱のライヴハウスで20人入ったら結構人いるなって感じだから。普段10人来たらいいくらいの感じでやってるから人数制限してもっていうのもあるし。どういう形で営業するのがいいかっていうのは、まだ全然見えてないですね。
──なるほど。では、今の状況が落ち着いて普通に営業できるようになったとき、まず初めになにがしたいですか?
逆にもうめちゃくちゃ人入れて、出演者50人みたいなのやりたいですね(笑)。めっちゃ密で、何人まで入れるか。
──(笑)
基本的に暮らしてて暗くなりたくなくて。もちろんこのコロナで超ヘコんだし、会いたい人に会えないし嫌だなと思ったけど、なんかちょっと茶化しておきたいって気持ちが根底にあって。だから全てがオッケーってなったらとことん、めちゃくちゃハグするイベントとかやれたらいいなと思ってます。真面目なのはもっとできる人がやって、うちに求められてるのはそういうちょっとふざけれる、気抜いて楽しめるところかなって。
──いいですね。最後に、HALFの好きなところってどこでしょうか?
バー・カウンターから全部見えるところが1番好きかな。全部把握できるというか、物理的にもだし、誰が何してるのかとか。逆もだけどね、どっからでも俺見られてるなっていう。距離感かな。遠くないけど近すぎもしないから中立的な立場でいろんなこと判断できるみたいなのはもしかしたら1番好きかも。天井が低くて落ち着くからこういう家にめっちゃ住みたいと思ってますし(笑)。
──なるほど。
すごい家っぽいんですよ。初めてお店にきた人も来てくれてるお客さんと繋げちゃえば友達も増えてくし、そういう感じで友達の輪が広がっていくような場所でありたいですね。


編集 : 安達 瀬莉
PROFILE

こっけ(中村公亮)
シンガーソングライターとして活動中。2019年7月より下北沢HALFで店長を務める。
『おしりたたいてねEP』配信中
【下北沢HALF公式ツイッター】
https://twitter.com/HALF_toos
編集 : 安達 瀬莉
『Save Our Place』

OTOTOYは、音源配信でライヴハウスを救うべく、支援企画『Save Our Place』をスタートさせました。『Save Our Place』では、企画に賛同していただいたミュージシャン / レーベルが未リリースの音源をOTOTOYにて配信します。その音源売り上げは、クレジット決済手数料、(著作権登録がある場合のみ)著作権使用料を除いた全額を、ミュージシャンが希望する施設(ライヴハウス、クラブ、劇場など)へ送金します。
詳細はこちら
https://ototoy.jp/feature/saveourplace/
『Save Our Place』レポート
現在、新型コロナウィルスの影響を受けて、いまライヴハウス / クラブではどのような変化が起き、どのような状態に立たされているのか。小岩BUSHBASHのオーナー、柿沼実に話を伺った。
〈日程未定、開催確定 TOUR〉という新しい挑戦を行うMOROHAのインタビュー。いつこの状態が戻るかもわからない。間違いなく新しい世界になっているだろう。そんな中、我々は必死に頭を使い、変化していかなくちゃいけない。アフロの言葉を読んで、外には出れないけど、何か皆様のヒントになれば幸いだ。
京阪神のクラブやイベントはこの状況とどう向き合っているのかをお伝えするべく、関西で活動するライター石塚就一 a.k.a ヤンヤンによるレポートを掲載。前編ではコロナ禍と戦うラッパーたちのリアルな現場の声をお届けした。
関西で活動するライター石塚就一 a.k.a ヤンヤンが「京阪神のポップ・カルチャーはコロナ禍とどう向き合っているのか」をテーマにお届けしているレポート、〈for the future〉。ラッパーたちに焦点をあてた前編に引き続き、中編ではクラブ、イベンターたちに焦点を当てた。
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