2014/08/10 11:34

同時配信3編から読み取る"その他の短編ズ"――「隣の騒音」 〜2014年の関西インディ・ミュージック・ガイド 第3回

いちライターとして、いちリスナーとして、関西シーンの渦中にいる田中亮太が、すぐ隣で鳴っている騒音――今この瞬間、どうしても耳に入ってきて、耳を奪われてしまうサウンドを月1で紹介する連載「隣の騒音 ~2014年の関西インディ・ミュージック・ガイド」。全国のインディーズ・シーンの最前線を切り取った 生き埋めレコーズの第1回目、そして8月23日(水)(まもなく!)のクラブ・スヌーザー@代官山ユニットに出演する本日休演の第2回目。うれしいことにかなりざわざわとその存在に注目していただいてます!! そして今回は初の女性ユニット、関西へやってきたふたりによる"その他の短編ズ"。つい息を詰めてしまうようなその音、めくるめく世界に引きずり込まれてください。

第3回 : その他の短編ズ

例えばアヴァン、あるいはストレンジ、もしかしたらエクスペリメンタル。その他の短編ズの音楽を、いったいどんな言葉で表せるでしょう。どれも間違ってない、けれどいずれも適切ではないような気がします。歌のようでラップのようでポエトリー・リーディングのようなメロディと言葉のセンス、少し調律のおかしいシンセと無骨な打ち込みのリズム。音楽的な諸要素はいわゆるポップ・ソング・マナーを逸脱していますが、穏やかに爪弾かれるアコースティック・ギターが一役買ったハンドメイドな質感のサウンド、心の奥底でうごめくイメージを童話や寓話のように綴るストーリーテリングに、聴き手は気づけばその世界に招き入れられているでしょう。それはそれは夢を見ているように。たまに悪夢のように。

その他の短編ズは森脇ひとみと板村瞳によるデュオ。2人は今年の3月、ともに福岡から京都に引っ越してきました。OTOTOYでは彼女たちの自主制作アルバムを3枚一挙に配信スタート。ゆっくりとした演奏が穏やかなアンビエンスを醸し出しているファースト『その他の短編ズ』。よりソリッドに削ぎ落とされ、どこかポストパンク期のアコースティック作品との趣もあるセカンド『B』。そして、つい先日リリースされたばかり、これまで以上に音色もアンサンブルも定形から解き放たれ、奔放な創作マインドがさらなる爆発を遂げた最新作『3』の3枚です。『隣の騒音』第3回は、関西に出てきたばかりの"ふたりのひとみさん"に登場いただきました。

インタヴュー&文 : 田中亮太

その他の短編ズ / その他の短編ズ
【配信価格】
WAV / ALAC / FLAC(16bit/44.1kHz) / mp3 :
単曲 150円 まとめ購入 500円

【Track List】
01. ディスコ3 / 02. ベートーベンとアイスクリーム / 03.牧場と宇宙 / 04.ファンクと文章 / 05.カセットテープ / 06.砂漠 / 07.情報 / 08.さいごの曲 / 09.ジャバザハット
その他の短編ズ / B
【配信価格】
WAV / ALAC / FLAC(16bit/44.1kHz) / mp3 :
単曲 150円 まとめ購入 800円

【Track List】
01. 異国の夜 / 02. フー / 03. BBB / 04. 血が止まらない / 05. ワルツ / 06. 島の神様 / 07. さいごの曲 / 08. 暗ーい夜 / 09. 祝日
その他の短編ズ / 3
【配信価格】
WAV / ALAC / FLAC(16bit/44.1kHz) / mp3 :
単曲 150円 まとめ購入 800円

【Track List】
01. 主婦 / 02. プランクエクステンド / 03. 赤いカーテン / 04. 第一工場・第二工場 / 05. ルール / 06. カレー / 07. したらいいじゃない、もうそんなの / 08. あの人 / 09. 初恋

女の子だし可愛らしい感じってのは「なし」だなって

――結成されたのは2012年だそうですね。

森脇ひとみ(以下、森脇) : はじめて会った場所は(福岡の)糸島って場所でした。Kuraってギャラリーがあって、そこの合唱サークルにふたりとも參加してたんです。でも、ゆるいサークルでみんな来たり来なかったりだから、練習では会ったことがなくて。その合唱団が出るイベントではじめて出会いました。

――第一印象は覚えられていますか?

森脇 : なんだか可愛くてお洒落な人だな、仲良くなれたらいいなと思って。最初はみんなでやるバーベキューに誘おうと思ったんです。で、日にちを決めて。でも、みんなに日を聞いてるけど、瞳さんが大丈夫な日じゃないとやらないぞと思ってました。
板村瞳(以下、板村) : それ、はじめて聞きました(笑)。
森脇 : で、瞳さんが働いてたお店にバーベキューの話をしに行ったんですよ。でも話してるうちにバーベキューやってる場合じゃないなって。で、バーベキューをやめてスタジオ入ることにしたんです。でも、板村さんとこんな音楽をしてみたいってのではなくて、最初はただ仲良くなりたいって気持ちでした。

――森脇さんは過去にROSE RECORDSからのリリースもありますし、板村さんは別のバンドのキーボード兼ヴォーカルとして活動されてきました。結成前にそれぞれの音楽は知ってましたか?

森脇 : わたしは聴いてなかったです。
板村瞳(以下、板村) : わたしも。でも、Kuraで森脇さんが人形劇をやってるのは見たことがありました。

――おたがい白紙の状態で、どんな音楽をやろうと話されてたんですか?

森脇 : 最初にちょっと言ってたのは、女の子だし可愛らしい感じのは「なし」だなって。例えば木琴とか。
板村 : 鍵盤ハーモニカとか持ち出したらもうね。
森脇 : やっぱりなって思われるから、やめましょうと。最初は全部インストでした。板村さんがエレキでわたしがベース。とにかく「あー可愛い!」みたいなのは避けようって。
板村 : そこは一致しましたね。

――今は歌もあるし、キーボードや打ち込みのリズムも使われてます。サウンドが追加されていった過程は?

森脇 : 最初にインストで1回目のライヴをしたときに、みんなの想像と違いすぎたみたいなんです(笑)。
板村 : わたしはもともとバンドで歌いながらキーボード弾いてたし、森脇さんもソロで歌ってたから、やっぱり歌がないのが変に思われたのかもしれないですね。
森脇 : しかも、ひたすら抑揚のないやつをずっとやってて。弾き終わって「ありがとうございました」って言った後の雰囲気と言ったら。
板村 : あれはうわーってなりましたね。
森脇 : その後も誰にも感想とか言われずに。そこから3ヶ月くらい空いちゃうんですけど、2回目のライヴすることになって、「まあ歌いますか」って。
板村 : 「歌ったり喋ったりしますか」って。
森脇 : キーボードも取り入れてみました。

B.B.B(ビーボーイバラード)
B.B.B(ビーボーイバラード)
プランクエクステンド
プランクエクステンド

――最初期の名残がある曲はありますか?

板村 : 『その他の短編ズ』に収録されている「砂漠」や「ジャバザハット」あたりは近い雰囲気のように思います。

何も試行錯誤はしてないです

――とてもひとつに形容できない音楽性ですが、深めていくまでに苦労や苦心はあったのでしょうか?

板村 : 何も試行錯誤はしてないですね。
森脇 : その時その時、思いついたことをやってます。

――森脇さんのアルバムなどを聴く限り、ソロではもう少しオーセンティックなフォークをやられてる気がします。ご自身で線引はありますか?

森脇 : ソロの曲と短編ズの曲では、湧いてくる時点で違います。短編ズのほうがより自由にでてくる。それを出てこさせてくれるのが板村さんじゃないかって思います。ひとりだと出てこないものが短編ズの曲だと出てくるし、それを瞳さんがこういうのが良いんじゃないですかって音や構成の案を言ってくれるので、自分が知ってる範囲から出られます。
板村 : 森脇さんが短編ズの曲で出してくるものはソロよりも気を遣ってない気がする。それを誰かが見たりとか誰かが触れるってことに対して。

――森脇さんは、ソロ活動以外にもジンを作ったり絵を描いたりと様々な表現に取り組んでいますね。つい先日にも東京・千代田のギャラリーisland MEDIUMで個展「立体ポエム」が開かれていた。

森脇ひとみ個展「立体ポエム」の中でのパフォーマンス (東京・island MEDIUM にて)

森脇 : 展示をやる前とやった後では結構世界が違った気がしています。なんとなく最初は音楽をメインでやってる人が絵も描いて展示もしてって気持ちがあったんですけど、でも絵は描いててすごくのめりこめるし、自分でここはこうだってのがわかるんだなと思って。ここに塗る色の正解があるはずだって思えるし、これだろう! って思うのを塗って、よし! ってなる。でも、それは音楽を作るときにはそこまでない感覚なんです。だから、音楽はそこまで自信がないんだなってのもわかったり。

――それは良い意味でも悪い意味でも?

森脇 : でも、それで音楽やめようとかは思わなくて。ソロでやってる音楽と短編ズでやってる音楽の違いにもつながるけど、板村さんの音の感覚のことをよく考えました。自信があることとないこと、わかる部分とわからない部分がわかってこそちょうどいいんじゃないかなって。
板村 : 展示を見たとき、いつものひとみさんだなって思いました。ひとみさんのなかで解放されてるものたちに思えた。わたしはいつも、ひとみさんの最大限が出ることを考えていて、自由にさせたいって気持ちプラス自分も自由でいたいって気持ちがある。だから、ひとみさんはより描いたり作ったりしてるほうがいいと思ってて、だから展示も大賛成だし、いいぞ! って思いました。

京都の生活は、神様とのコミュニュケーションがよりフレンドリー

――今年の3月に福岡から京都に越してきたのはどうしてですか?

板村 : 私たち2人で出ようって決めたわけではなくて、京都に行こうってのも決めてたなかったですね。でも、なんとなく京都に住みたいなあと思ってたら、京都に住んでる方と良い縁があって。それで、ひとみさんも京都に来たらいいのになーって思って。そう伝えたらそうなっていました。
森脇 : 私は最初、箱根の温泉宿に出稼ぎに行くつもりだったんです。でも瞳さんが「京都に行きます」って言ってるのを聞いて、そしたら私の口が「いいなぁ」と言っていて。

――今は一つ屋根の下に暮らし始めたことで、創作面での変化はありましたか?

森脇 : やり方にあんまり変化は無い気がします。でも、1人でいるとすぐ落ち込むけど、瞳さんがいるとわりと立ち直りが早いです。あと、瞳さんがよくシュークリームや八つ橋をくれるので嬉しいです。
板村 : 私も変化はないと思います。でも近くに居ることで、沢山の作品が出来たのは事実で、それは新しく知った面白さに満ちていると思ってます。

――京都の街の雰囲気は自分たちにあっていますか?

板村 : はい。神社が多いのも関係してるのかもしれません。2人ともすごく神社が好きなんですよ。東京にライヴしに行く時も、ライヴ場所の近くにある神社に行ったりしてて。そういうのが身近にあるのは全然違いますね。
森脇 : 神様の存在が近い感じがします。京都に来てから神社にしょっちゅう行くようになって、神様とのコミュニケーションが前より密になった感じがしました。よりフレンドリーになってきた。またきました~みたいな。私は結構考えがすぐブレるんですけど、神社に言って神様のこと考えると元に戻る。あ、そうなんだってところに戻れる気がする。物事がよりシンプルにスムーズにダイナミックにスピーディになる気がします。
板村 : 見えている世界や見えてない世界のものがより立体的になってくる。とにかく楽しくなっていってますね。

――おふたりで次はこういうことを表現したいって話はされるんですか?

森脇 : (声をひそめて)ないです。出てきちゃったものをやってる。
板村 : それしかないです。
森脇 : 意思はない。たぶんソロの時はちょっとは意思があるんです。でも短編ズはでてきたやつ。

――じゃあ、アルバム3枚ごとにコンセプトを考えたりも。

森脇 : なし。
板村 : なしです。
森脇 : たまって出して、たまって出してです。

――振り返ってみて3枚のアルバムはそれぞれどんな作品に思えますか?

板村 : あんまり時がたってるようにも思えない。もうちょっとたったらわかるんですかね。まだ、近いです。でも、今聴き返すと嬉しくなります。何も知らなさが嬉しい。今のこと、今の自分達を知らない人たちがやってて、でも間違ってないって嬉しさ。「ぶれてないよ」ってその時のわたしたちにいいたくなる。これで良かったよって気持ちが嬉しい。

――あの時の自分たちにしか作れない音楽?

板村 : あんまり変わってない(笑)。
森脇 : まったくうまくなってない。
板村 : 私はコードも未だにわかりません。
森脇 : 最初から知識が増えずに。最初はエレキとベースだったから、毎回アンプににささないといけなくて。でも、ライヴで毎回どこにさしたらいいかわかんなくなってたんですよね。今はアコギで機械にささなくていいので、あのころは大変だったなと思います。

――プロフィールにも"We play music and words and puppet show and more."とあるように、音楽だけじゃなく人形劇や演劇もされてますね。様々な表現形態も自然となっていったものなのでしょう。

森脇 : もともと音楽をやろうっていう気持ちではない気がします。でも身近なのが楽器だったから音楽の形になってて。でも詩や絵も身近だし、それも取り入れたって感じ。そうしてやった結果、劇っぽくなったとか、これは音楽っぽいなとか。でも、技術が足りない、まだまだ固いから、ぽいものにはなりますけど、もっと自由にできるようなったら、もっとなんて言えばいいのかわからないものができるんじゃないか、そういうアプローチって感じです。わけて考えずにやってます。

――枠にはまらないものをやるのが目標ですか?

板村 : それは目標ではないですね。
森脇 : 目標の形はないです。ただ解放したい。
板村 : 空っぽになりたい。パフォーマンスや、演奏をしている時は、ほぼ無意識の中で空になっている状態だと思います。感覚や体は嘘をつかないなーと感じています。

「隣の騒音 ~2014年の関西インディ・ミュージック・ガイド」Archives

第1弾 : 生き埋めレコーズ

第1弾は京都で暮らす若干20歳過ぎの男の子たち3人が始めたインディ・レーベル"生き埋めレコーズ"。彼らにとって初のリリースとなるコンピレーション『生き埋めVA』(左)と、主宰の1人が率いるTHE FULL TEENZのファースト・アルバム『魔法はとけた』(右)を配信中。


第2弾 : 本日休演

第2弾は現役京大生の4人バンド"本日休演"。"猥雑なパワーと前衛的な音作り、歴史をふまえての豊穣さをもったポップ・ソング。そこにボ・ガンボスからくるりにいたるまでの、京都ならではの濃ゆいブルースが息づいている"――そのサウンドを収めたセルフ・タイトル・アルバムとなる『本日休演』を配信中。

[連載] その他の短編ズ

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