2010/06/15 00:00

大石始氏の執筆によるデジタル・ライナー・ノーツ付き!!

全世界を熱狂させたQuantic and His Combo Barbalo『Tradition In Transition』から1年。Tru Thoughtsを代表する顔であるQuanticことWill HollandがFlowering Inferno名義での待望の2作目『Dog with a Rope』を完成させた。Flowering Infernoとしては『Death of The Revolution』に続く、ラテン音楽とジャマイカン・ダブ、レゲエの邂逅の第2章は、コロンビアの風土により密着し、より自由に、より深く、中南米音楽を謳歌させたトロピカル・ミュージックの楽園。ototoyではアルバムまとめ購入特典として大石始氏によるデジタル・ライナー・ノーツを用意しました!!

タイトル : アーティスト : Quantic Presenta Flowering Inferno
価格 : 単曲 ¥150 / アルバム ¥1500

<トラックリスト>
01. Dog with a Rope
02. Dub y Guaguanco
03. Swing Easy
04. Echate Pa'lla (Version)
05. Portada del Mar
06. Cumbia Sobre el Mar
07. Te Pic el Yaib (Version)
08. No Soy del Valle
09. Echete Pa'lla
10. Te Pic el Yaib

【アルバム購入特典】
Dog with a Rope』をまとめ購入した方に、特典として大石始氏の執筆によるデジタル・ライナー・ノーツをプレゼント。特典は音源と一緒にダウンロードされます。

コロンビアのミュージシャン達との濃密な交流が生んだハイブリッド・サウンド

ここ数年、あらゆる音楽を掘り尽くしたDJ、レコード・コレクター、クリエイターたちが熱い視線を送っているのが、カリブ諸島、ラテン・アメリカ、アフリカや中近東といった地域の音楽だ。Quantic Soul Orchestraで世界中の賞賛を浴びたWillは、イギリス、ロンドンから、コロンビアの第3都市カリへと移住。〈サルサの首都〉とも言われるこの町に自らのスタジオを設立し、現地のミュージシャンと積極的に交流した。豊かなラテン音楽とダイレクトにアクセスできる環境を整え、現地の大御所ミュージシャン達との緻密なやりとりの中から生まれたのが、このQuantic Presenta Flowering Infernoのプロジェクトだ。

まずプロジェクトに参加した多彩な顔ぶれについて触れておくと、ペルー・サルサ・クラシックスの最重要人物で、ベネズエラ・サルサの名門グループにも携わった名ピアニスト、Alfredito Linaresをはじめ、『Tradition in Transition』で存在感をみせつけたNidia GongoraやMarkitos Micoltaといったヴォーカル勢も健在。さらにシャープかつ乾いたリズム・セクションには、Wilson Voveros、Freddy Coloradoに加え、Conrad Kellyが参加しているのも今作の注目すべきところだ。ウエスト・ミッドランズ・レゲエ・シーンのキー・プレイヤーであり、UB40やスティール・パルスとの演奏もコンスタントに行っているConrad Kellyの叩き出すリズムはこの作品の屋台骨を支えている。

このFlowering Inferno名義のプロジェクトについて、Will本人は、他のプロジェクトよりジャマイカン・ダブやレゲエのカラーが強く、それらがラテンの音楽と結びついたものだと語っている。2008年に『Death of The Revolution』を発表しているが、その時は自らも多くの楽器を演奏しながら、サンプラーやループを多用し、打ち込みがベースとなっていた。しかしこの『Dog with a Rope』はそのコンセプトを受け継ぎつつ、コンピューター処理を行っていた部分をも、生音で再現(置き換えた)したものだ。『Death of The Revolution』リリースのあと、現地のミュージシャン達の潜在能力と、彼らが生み出す高いサウンド・クオリティに感銘を受けCombo Barbaroを結成し、冒頭の『Tradition In Transition』の制作へと進んだことからも、翻ってFlowering Inferno名義においても生音での表現にアプローチすることがWillにとって必然の流れだったことは想像に難しくない。前述のConrad Kellyらによるリズム・セクションが全面的に参加したことで、ラテン音楽の芳醇さがより醸し出されたグルーヴ。そこにアルフレッド・リナレスの奏でる流麗なピアノが流れ、それらがぴったりと重なって生音での演奏が全面に押し出されたことで、持ち味でもあったヴィンテージな風合いはより一層、色濃いものとなっている。

とはいえ、Willが描く音楽像はただの懐古主義に終わることはない。そこには70年代のリー・ペリーを彷彿させるダブ・ワイズが施されるなど、あくまでも現在進行形だ。レゲエの古典的トラック「Swing Easy」や、数多のアーティストやバンドにカバーされてきたクンビアの名曲「Cumbia Sobre el Mar」のカバーもありつつ、キューバ、ジャマイカ、コロンビアという離れた国々の音楽を繋ぎ、未知なる音像を紡いでいる。Flowering Infernoが解き放つのはアフロ・コロンビア音楽の未来像なのだ。いまだかつてないほど注目を集めるこのシーンは、まだまだ今後も新たな音楽的邂逅を呼び覚まし、それがやがて世界中へと伝播していくのも、もはや時間の問題だろう。そしてその中心には確実にこのWill Hollandがいるのは間違いない。夏の熱気とトロピカルな雰囲気がプンプンと漂っている本作だが、同時にラテン音楽特有の哀愁たっぷりな心情風景が描かれたダビーなサウンドは、コロンビアから遠く離れたここ日本でももちろん広く受け入れられるに違いない。(text by 蓑島 亘司)

PROFILE

Will Holland a.k.a. Quantic

QuanticことWill Hollandは、ジャズのセンシティビティやフューチャー・ダンスのグルーヴ、そしてディープ・ ファンクの躍動感を併せ持ち、タフなドラム・サウンドを鳴らしながら自由自在にジャンルを横断していく、 (Tru Thoughts)の看板アーティスト。イギリスでその才能を高く評価されながらも、更なる飛躍とより自由なサウンドを求めて、活動の拠点をコロンビアに移し、制作を続けている。 Will Hollandは今のオルタナティブ・ダンス・ミュージック界で、最も才能に恵まれた多作なアーティストの1人であり、Quantic、Quantic Soul Orchestraなど、様々な名義で作品をリリース。2001年6月にファースト・アルバム『The 5th Exotic』をリ リースすると、Richard Dorfmeister、Mr. Scruff、LTJ Bukemら、アンダーグラウンド・ミュージック界で活躍するビッグ・ネーム達の間でも一躍話題の的となり、収録された「Common Knowledge」と「Life In The Rain」 はヨーロッパ中のダンス・フロアを熱狂させた。ジャズ、ファンク、そしてアフロのエレメンツをブレイク・ビー ツとブレンドさせ、Willのオリジナリティを存分に表現した『The 5th Exotic』は多くのリスナーを魅了し、賞賛を集めることとなる。その1年後にリリースした『Apricot Morning』でも評価をさらに高め、続く『Mishaps Happening』では、前作で共演したAlice Russellの他、伝説的シンガー、Spanky Wilsonともコラボレーション。 4作目の『An Announcement To Answer』では、「21世紀のQuincy Jones」とまで言われるほど、各方面で 絶賛されている。
2007年、コロンビアに眠る素晴らしい音楽を自らの手で掘り出したいという情熱に突き動かされ、コロンビア第三の主要都市カリに移住。この地で、世界中から賞賛を集めたThe Quantic Soul Orchestra名義での名作『Tropidelico』(2007)、トロピカル・ダブ・プロジェクトQuantic Presenta Flowering Inferno名義『Death Of The Revolution』(2008)を制作。

この記事の筆者

[レヴュー] Quantic Presenta Flowering Inferno

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