2023/03/01 18:00

音楽ライターが選ぶ今月の1枚(2023年2月)──HoSoVoSo『春を待つ僕ら4』

『Quick Japan』や『Rolling Stone Japan』など幅広いメディアで活躍するフリーライターの坂井彩花が選んだ作品は、HoSoVoSo『春を待つ僕ら4』。三重県桑名市在住のシンガーシングライター、HoSoVoSoの最新作はシンプルなアコギの旋律と環境音が穏やかに混ざり合う1枚。本作のレビューをお届けするとともに、“HoSoVoSoとあわせて聴きたい”をテーマにセレクトしたプレイリストも掲載。ぜひチェックを!

音楽ライターが選ぶ今月の1枚(2023年2月)──HoSoVoSo『春を待つ僕ら4』


文:坂井彩花

カラカラの喉へ染みこむ水のように浸透力のあるギターの音色と柔らかく寄り添いながらも過剰に侵食してこない歌声を耳にした途端、表面張力のごとくギリギリを維持していた私の心は限界を迎えた。嘘でも冗談でも比喩でもなく、『春を待つ僕ら4』を聴きながら私は泣いていた。

火葬する瞬間を描写した“いまわの”こそセンチメンタルではあるが、地元三重県にある三休の湯をテーマにしたキャッチーな“三休さん”や新たな日々のはじまりを照らす“よろこびのうた”などポップな楽曲も収められた今作。イマドキな映像作品にありがちな「ここが泣きどころですよ~」と感情を先導するアプローチは、HoSoVoSoの音楽にはもちろん出てこない。それにも関わらず、『春を待つ僕ら4』がどうしようもなく泣けてしまったのは、彼のスタンスがしっかりと音楽に乗っているからなのではないだろうか。

かつて「どのように音楽が出来上がっていくのか」と訊かれた彼は、「誰にでもしんどい時ってあるじゃないですか。訳もなく悲しかったり、寂しかったりするときにできますね」と答えていた。また、「人間として生きているなかで、出来事は違っても、出てくる感情は共通なものがあると思うんです」とも語っている。

楽曲を生み出す起点になった感情が音楽にきちんとこめられているからこそ、体に流れこんだとき自分のなかにある似たような感情に響き、ひとりで気持ちを抱えこむ孤独からリスナーは解放される。素直で嘘のない想いが、音楽を聴く人を癒すのだ。

そんなHoSoVoSoゆえに、飾り気のない言葉たちがグッと胸を打つ。“わからぬ”では昔を懐かしみ揺れ動く気持ちを「大人になればわかる 子供のままでもいい」と掬いあげ、“春は何処か”では「春はどこかと教えてくれたあなた」と大切な人に想いを馳せる。 さらに“冬と夏の間”では、「冬と夏の間」や「夏と冬の間」を「恋と愛の間」と並べ、恋愛に呆けていたり祈りをこめていたりする様を詩的に描く。日々の生活で触れている言葉を用いて歌詞を綴り、日常の些細な出来事にそっとスポットライトを当てる作風は、時代の流れに左右されぬ強さがあり美しい。「未来の人にまで愛される音楽を生み出したい」という彼の思いに、一役買っていることは間違いないだろう。

ヒットチャートが、めまぐるしく移り変わっていく現代。時代を追いかけていく楽しさを否定する気はないが、『春を待つ僕ら4』のように時を選ばぬ作品へ浸る時間も大切にしていきたいものだ。

HoSoVoSoと一緒に聴きたいアーティスト10組

プププランド「きみの春になれたら」
andymori「1984」
eill「2025」
Chara「世界 (JEWEL ver)」
YAJICO GIRL「NIGHTS」
キイチビール&ザ・ホーリーティッツ「世の中のことわからない」
ベルマインツ「Call」
石崎ひゅーい「花瓶の花」
NakamuraEmi「雨のように泣いてやれ」
戸渡陽太「世界は時々美しい」

HoSoVoSoの歌や楽曲に「時代で色褪せぬ美しさ」を感じたので、過去に同じような気持ちを呼び起こしてくれた曲たちをセレクト。曲調や声質、ジャンルなど、彼と結びつかないイメージの方もいますが、HoSoVoSo同様に体内へ音楽が染み込んでいく感覚を味わっていただけるはず。日頃の生活のなかで自分の感情を抱えきれなくなったときには、ぜひこのプレイリストに耳を委ねてみてほしい。

WRITER PROFILE:坂井彩花

1991年、群馬県生まれ。ライター、キュレーター。ライブハウス、楽器屋販売員を経験の後、2017年にフリーランスとして独立。『Quick Japan』、『Rolling Stone Japan』、『Mikiki』などで記事を執筆。エンタテインメントとカルチャーが好き。

■Twitter:https://twitter.com/ayach___

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