音楽ライターが選ぶ今月の1枚(2022年9月)──ヨットヘヴン『健康快樂』

今回は番外編として、音楽ライターではなく、アーティストが登場。TWEEDEESのヴォーカル、清浦夏実にヨットヘヴンの新作『健康快樂』をアーティスト視点でレビューしてもらった。コロナ禍に結成されたポップ・バンド、ヨットヘヴンのファースト・アルバムは、一体どんな作品なのか。また“ヨットヘヴンとあわせて聴きたい”をテーマにセレクトした10曲入りのプレイリストも掲載している。ラブリーサマーちゃんやパソコン音楽クラブらの楽曲が収録されているので、レビューと共にぜひ楽しんでもらいたい。
ヨットヘヴン『健康快樂』
文:清浦夏実(TWEEDEES)
人生に苦味はつきものだ。そして苦味に対する答えがあるかどうかも、図中にいる時には分からないこともしばしば。ヨットヘヴンのファースト・アルバム『健康快樂』は、そんな人生のほろ苦さを、明るさと大らかさで包み受け入れていくような、懐深い1枚だ。
東京を中心に活動するポップ・バンド、ヨットヘヴン。「途方もなくて最高」な音楽を作るため集まったミュージシャンで結成。2020~2021年にかけて5曲の配信シングルをリリースし、今作『健康快樂』がファースト・アルバムとなる。
作詞・作曲はヴォーカル・安延沙希子とギター・のすけが担当。筆者の個人的な印象ではあるが、安延はファンタジックで、のすけはドラマチック。作風の違いはあれど、同じ方向を向いていることが楽曲から伝わってくる。また全収録曲の編曲がヨットヘヴン名義であることも、アルバムをバラエティ豊かに聴かせる要因のひとつだろう。M1“毎日がサンドイッチ”にはじまり、日常と心象風景をユニークな切り口で展開していく。キーボードの藤木コージ、ベース高橋鐘(ドラム岡田悠也はサポート・メンバー)の織りなすバンド・サウンドを軸にしながらも、M3“100日ちょっとの”ではマンドリン、M5“きっとさ”ではスティールパン、M7“手のなか”では多重コーラスにファズ・ギターを組み合わせるなどアイデアが光り、聴き手の意表を突いていく。
カントリー調のM5“きっとさ”など、一聴すると明るい曲に、哀愁ある歌詞をのせていく。全体に言えることだが、このバランスが絶妙で、曲も詞も一層切なく感じるのだ。そしてヴォーカル安延沙希子の歌声が、コーヒーの苦味をマイルドに仕上げるミルクのように、味わいとコク深い存在で、更なる相乗効果を生む。
M6“風街ブルース”、M10“浪漫飛行”と名付けられた曲は、ノスタルジーを描きつつも、懐古的なわけではない。現代に活動するバンドだから鳴らせる音だと感じだ。普遍的な良さを追求する姿勢が頼もしい。
誰しも、日当たりの良い方へ枝葉を伸ばす草木のように、健康で楽しく日常を過ごしたいはずだ。『健康快樂』というタイトルがいかに尊く大切なことか、コロナ禍に結成し、活動を続けてきた彼らだからこそ説得力があるように思う。ジャケットは安延のラブコールにより、イラストレーターのさぶが担当。ヨット乗り場の前で麗しい令嬢が瞳を閉じ、優しく微笑む(そのように筆者には見えた)。この船出を祝福し、彼らなりの楽園を目指して欲しい。
ヨットヘヴンと一緒に聴きたいアーティスト10組
・ザ・なつやすみバンド『風を呼ぶ』
・南壽あさ子『フランネル』
・T字路s『涙のナポリタン』
・中納良恵『濡れない雨』
・ラブリーサマーちゃん『LSC2000』
・パソコン音楽クラブ『KICK&GO(feat. 林青空)』
・畠山美由紀『夜の庭』
・RYUTist『心配性』
・加藤いづみ『空飛ぶカウボーイ』
・TWEEDEES『ルーフトップ・ラプソディ』
今作がファースト・アルバムということで、ヨットヘヴンをまだ知らないリスナーの方にも、10組のアーティストをお好きな方にも、お互いに刺さるのではないか?とお見合い形式で選曲した。共通項は女性ヴォーカル、素描の良いメロディ、懐古的ではない、繊細さと強さを併せ持っている、といったところだろうか。みんな違ってみんな良い。筆者がヴォーカルを務めるTWEEDEESの最新作「ルーフトップ・ラプソディ」もこっそり混ぜ込ませていただいた。ぜひ。
WRITER PROFILE:清浦夏実(きようらなつみ)
歌手。1990年7月4日生まれ。12歳より女優として活動開始。2007年にFlying DOGよりシングル『風さがし』でCDデビュー。これまでに5枚のシングル、アルバム1枚をリリース。
2015年より沖井礼二(ex.Cymbals)と共にTWEEDEESを結成。2015年日本コロムビアよりデビュー。これまでにアルバム3枚、ミニアルバムを2枚リリース。
2022年12月3日に4th Album『World Record』をリリースする。ボーカリストとしてCM、映画、ドラマ、アニメ、ゲーム作品に参加。作詞家として楽曲提供も行う。趣味は登山とバック・ギャモン。
■Twitter:https://twitter.com/kiyouranatsumi
■楽曲:https://ototoy.jp/_/default/a/112650
FRIENDSHIP. × OTOTOY 『音楽ライターが選ぶ今月の1枚』とは?
カルチャーの前線で活躍するキュレーター達が厳選した音楽をデジタル配信し、アーティストの音楽活動をサポートするサービス〈FRIENDSHIP.〉の新譜から、ライターがおすすめ作品を毎月セレクトし、レヴューするコラボ企画。過去記事も要チェック!
・ Makoto Nagata 『Winter Mute』by 小野島大
・Mercy Woodpecker 『光をあつめて』by 兵庫慎司
・BROTHER SUN SISTER MOON 『Holden』by 今井智子
・YUNOWA『What a mess』by 石井恵梨子
優河『言葉のない夜に』by井草七海
大石晴子『脈光』by 黒田隆憲
VINCE;NT『VAPID』by 石角友香
blondy『noise and you』』by 峯岸 利恵
paranoid void『travels in my universe』by s.h.i.
FRIENDSHIP.

──世界に届く音楽は 君のまわりにいる
FRIENDSHIP.とはカルチャーの前線で活躍するキュレーター達が厳選した音楽を世界187か国へデジタル配信し、アーティストの音楽活動をサポートするサービス。 キュレーターは、届いた楽曲を審査し、通過したアーティストの楽曲を配信するほか、デジタル・プロモーションのサポートも担う。
リスナーは自分の知らない音楽、心をうたれるアーティストに出会うことができ、アーティストは感度の高いリスナーにいち早く自分の音楽を届けることができる。
■FRIENDSHIP.公式Twitter:https://twitter.com/friends_hipland
■FRIENDSHIP.公式HP:https://friendship.mu/
■FRIENDSHIP.公式プレイリスト:https://open.spotify.com/playlist/6SzuvuggD8pIIWglRxmjyf?si=NzeaQH9QTBWSpBcbUGVXVg