ポスト大森靖子!? 〈女性ならでは〉の表現を追い求める広島の女3+男1バンド
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広島を拠点に活動する4人組、ペロペロしてやりたいわズ。が1stアルバム『ローカリズムの夜明け』をリリースする。その名を聞いてバンドを侮ることなかれ。ファンクが大きな特徴となっている彼女たちのサウンドはダンス・ミュージックとしても充分に機能するほどグルーヴィー。ギターのあららぎがトラック制作のすべてを担っているのも納得、キレのあるギター・カッティングが全面にフィーチャーされたものとなっている。そこにメロディ、歌詞をつけていくのがヴォーカルのムカイダー・メイである。
今回は取材のため、彼女に広島から足を運んでもらった。フェイバリットとして名前を挙げた大森靖子、またBiSなどの楽曲を手がける松隈ケンタについて、また20歳まで習っていたというダンスからの影響など、ムカイダー・メイ個人を通して、バンドの実情へと迫ったインタヴューとなった。また広島から音楽を鳴らす彼女たちが“ローカリズム=地域主義”をアルバム・タイトルに掲げているのも気になるポイントのひとつ。これからメイン・ストリームへ打って出ようとしているバンドはいま何を思っているのだろうか。
インタヴュー&文 : 鶯巣大介
写真 : 大橋祐希
ライヴ写真 : MiNORU OBARA
広島発! ポップ&ファンキーな歌もの4人組バンドの1stをハイレゾで
ペロペロしてやりたいわズ。 / ローカリズムの夜明け(24bit/88.2kHz)
【配信形態 / 価格】
24bit/48kHz(ALAC / FLAC / WAV) / AAC
価格 まとめ購入 2,160円(税込)/ 単曲 324円(税込)
【トラック・リスト】
1. city boy
2. Came Sun!
3. 踊り子 -part2-
4. クリーニングデイ
5. フォルマッジ
6. サバイバル・ガール
7. Furico
8. 海で会えたら
9. 暮れる
10. 朝がくるから
高2で出会ったSCOOBIE DOから受けた衝撃
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――まずはペロペロしてやりたいわズ。というバンド自体について話を訊いていきたいんですが、2012年に広島の女子大学で結成されたんですよね。
メイ : そうですね。サークルでバンドを組んで。そこからメンバーが入れ替わって最初からいたメンバーはギター(あららぎ)だけなんですけど、いまのベース(ハナ)は同じサークルの先輩、ドラム(なおきさん)はほかの大学の人です。
――なぜバンドを結成することになったんですか?
メイ : あたしが本当にただただ、あららぎと一緒にバンドをやりたかったんです。実は高校生のときから知り合いだったんですよ。違う学校の軽音楽部だったんですけど、コンテストみたいなものがあったりして、お互いに存在は知っていて。挨拶をする程度だったんですけど、どうやら同じ大学行くらしいぞってことが分かって。当時は9mm(Parabellum Bullet)のコピバンでギターをめちゃくちゃ上手に弾きこなしていて、すごく輝いてましたね。それで絶対この人とバンドやろうって、とりあえず捕まえました(笑)。
――ペロペロしてやりたいわズ。はあららぎさんと一緒にバンドをやりたいという思いから始まったと。ちなみに高校時代、メイさんはどんなバンドを?
メイ : 1曲だけ自分で作ってあとはコピーでもいいよみたいな結構ゆるめの大会とかに出てたんですけど、私は高校生のときから曲を作っていましたね。その軽音楽部が厳しくて絶対曲を作らなきゃいけなかったんですよ。そのときはパワーコード3つだけで演奏するような荒々しい感じのガールズ・バンドをやってました。
――いまのバンドのサウンドには“ファンク”という大きな特徴があるじゃないですか。そこに辿り着いたのはなぜだったんでしょう。
メイ : もともと高校の軽音楽部に入ったときって、ただバンドをやってみたいから入ってみただけで、あんまり音楽を知らなかったんです。でも高校に入って先輩にいろんなバンドをバーっと教えてもらって、そこでSCOOBIE DOに出会いまして。高校2年生くらいだったと思うんですけど「なんじゃこのかっこいいバンドは!!」って思ったんです。ただそのときの技術とかではそういう音楽ができなかったんですね。それで大学に入って、あららぎと曲を作るようになってからそういうファンクの色が出てきたのかな。
――あららぎさんもファンクが好きだった?
メイ : ファンクが好きっていうよりは、彼女はずっとバンアパ(the band apart)が好きだったみたいです。だからいまの音楽はバンアパ好き要素がバーンと出てきた感じですかね。曲作りはあたしが引っ張っていくというよりも、あららぎ発信なんで「ちょっとできたんじゃけど…」って持ってきたものが、そういう曲だったんです。あたしはそのとき「あ、ついにこんな曲がきたか」って嬉しくて。そういうファンクみたいな音がちょっと匂いはじめたのは「high wave」っていう前のアルバムの曲くらいからですね。そのあたりから完全に完全に曲作りが彼女発信になっていって。それまで結構セッションで作るみたいな感じが多かったんですけど。
――今作のクレジットを見ると作曲はメイさんとあららぎさんの2人になっていますよね。具体的にどういう流れで制作してるんですか。
メイ : 今回のアルバムに関してはほとんどあららぎが歌以外を作ってくる感じですね。ベースもドラムも入ったトラックを持ってきて、そこにあたしが歌を付けるっていう流れです。あららぎからは途中段階の相談はなにもなく、完成したものがポンって出てきて。
――そこにメイさんはメロや歌詞を付けるわけじゃないですか。そのトラックを渡されるとき、あららぎさんから曲のイメージとか、なにか説明を受けるんですか?
メイ : 仮タイトルが付いた音だけを渡されるんです。よほどのことがない限り私もあんまり内容については訊かないですね。でも例えば今回の「クリーニングデイ」って曲には「お掃除」ってタイトルが付いていて(笑)。これはどういう歌にしたらいいのか分かんないし、気になっちゃったんで「これは何?」って訊きました。そうしたら「かわいい女の子がお掃除したり、料理してるイメージ」って返ってきて(笑)。
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――あははは(笑)。それって音とまったく関係ないですよね。
メイ : そこから「すごいかわいいイメージ」っことで、それじゃあちょっとらしくないなと思って、切なさやちょっとひねくれた要素を入れていって。私が完成させたものに対して、あららぎは基本的に文句は付けないですね。そういう注文は一切なくて、そこは全部任せてくれるというか。お互いに出してくるものをおもしろがってる感じですね。
――めちゃくちゃクリエイティヴな関係ですね。ちなみにほかの曲にはどういう仮タイトルが付いていたか教えてください。
メイ : 「サバイバル・ガール」は「ラテン」って書いてありました。曲調のことだと思うんですけど。あと「Came Sun!」は「亀さん」っていう仮タイトルで、亀がのそのそ歩いているイメージだったらしいです。でも私がこの曲を作るときに音楽に対してすごくイライラしてたんでしょうね。なのでそのときの気持ちを表しました。
宇多田ヒカルは神様だと思うんです
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――メイさんはほかのインタヴューで、影響を受けたアーティストとして「宇多田ヒカル、大森靖子、松隈ケンタ、SCOOBIE DO」の名前を挙げていましたよね。音源を聞くとたしかに歌詞や歌い方から、少なからず大森靖子さんの影響を受けているなという気がしました。
メイ : そうですね。めちゃ影響受けてますね。バンドをそのまま続けるか、それとも就職するかみたいなタイミングで、あららぎもバンドを辞めるって言ったときがあって。それでわたし1人になっちゃうと思って、弾き語りを始めたんですよ。そのときに大森さんをめちゃくちゃ研究したんです。結局バンドは続くことになったんですけど、そのときに1人でも戦えるっていうのはわたしがバンドにいたとしても必要だなと思ったり。あと大森さんは「女の子だからできること」を表現してる人だなと。そういう部分とか、精神的な面、言葉選びも影響は受け続けてると思います。
――なるほど。松隈ケンタさんはBiSから知ったんですか?
メイ : BiSが好きで、アイドルが好きで。それも大森さんからの影響なんですけど「この人は何が好きなんだろう」っていうところから、いろんなものに触れていって。大森さんもアイドル好きじゃないですか。そこからいまのアイドルの幅広さやばって思ったんですよ、モーニング娘。でアイドルの情報が止まってたんで(笑)。それでBiSに興味を持って、調べたら松隈さんが曲を作ってるんだって知って。メロがとにかくすばらしいですよね。あと宇多田ヒカルは… 神様だと思うんですよ(笑)。小学生のときとかにずっと聴いていて。いきなり歌詞に突拍子もない単語が出てきたりするのも、感性がすごいおもしろいなって。
――いま歌詞の話が出ましたけど、ペロペロしてやりたいわズ。の歌詞は満たされていない女性みたいなものが主人公になることが多いなと思ったんですよ。
メイ : あはは(笑)。そうなんですよ。その好きなアーティストに影響も受けてるし、多分わりと実体験ベースなんだと思います。あと結構本も読んだりするんですけど、本の言葉と自分の記憶がバチッと合ったときの勢いで書くところもありますね。私は本は西加奈子さんがめっちゃ好きで。あの人も女性の言葉というか、女性ならではの物の見方をすごくされてるなと思って。大好きなんですよ。
――いま話を聞いてると、メイさんは「女性ならではの表現」みたいな部分に惹かれることがすごい多いんですね。
メイ : ありますねぇ。女の子が好きなんですよ、すごく。アイドルのライヴとかも最近観たりするんですけど、そこから強さも弱さも感じるというか。なんか美しいなと思うんですよね。私は幼少期から20歳くらいまで、ずっとダンスを習ってたんです。バレエとかジャズ、コンテンポラリーダンスとか。やっぱりダンスの世界って女性が結構主役なんですよ。でも女性は数が多いので、ステージに立つためには狭き門をくぐっていかなくちゃいけなくて。選ばれし者しか立てないというか。だからステージの上に立つことに対する憧れが、人一倍強いかもしれないです。ずっとそういう世界で育ってきたので。まぁそこには同じくらいの強さで嫉妬もあるんですけど。
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――なるほど。ではアルバムについての話も訊かせてください。今作のために作った新曲はどれになりますか。
メイ : 「city boy」「クリーニングデイ」「サバイバル・ガール」「Furico」「朝がくるから」が新しく作った曲ですね。なにかのコンセプトに合わせて作るというよりか、がむしゃらにいまやりたいことをやったって感じかもしれないです。あとは元からライヴで演奏していた曲だったり、昔作ったまま封印していた「海で会えたら」を掘り返してきたり。
――「海で会えたら」って昔の曲なんですね。ほかのものと曲調が全然違ってすごくポップだったので、最近作った曲なのかなと。
メイ : 大学1、2年生のときに作ったんですけど、それこそ本当にポップ過ぎて、当時はこれはできない、らしくないなぁって思っていて。でもいま聴いたらめちゃくちゃいい曲だなってこれをやろうかなと。
広島はお家だなって感じるんです
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――今回のアルバムって前半はまさにファンキーなギター・カッティングが全面に出ていて、テンポも抑えめでグルーヴィーな曲が揃っているじゃないですか。ただ最後に近づくなかでストレートなギターロックやポップな楽曲が出てきて、ちょっと違う印象になっていますよね。
メイ : そうですね、結構曲順はわりと作戦というか。だんだん丸くなっていくというか、気持ちよく終われたらいいなと思って。あとは「暮れる」っていう曲を入れることを決めていたので、その曲に照準を合わせたい気持ちがあったんです。でもそれを最後の曲にするのはちょっと違うなって思って、この次になにか希望のある曲がきたらすごく綺麗だなって思ったんですよ。だから曲順は「暮れる」を基準に考えたところがあります。
――「暮れる」は結構バンドにとって重要な曲だった?
メイ : わりと初期に作った曲で、いままでライヴではバンバンやっているのに「音源化してないの?」ってお客さんの声もあったりして。これは松隈さんのメロディ・ラインに通ずるような誰が聴いてもいいと思う曲で、宝だなと思っていて(笑)。純粋に良い曲なんですよ。
――ラストの「朝がくるから」も「海で会えたら」に通ずる明るくポップな曲ですが、昔はできないと思っていた種類の曲がいま演奏できるようになったのはなぜなんですか。
メイ : 多分昔はとにかく男の人に負けないぞみたいな気持ちが結構強かったんですよ。ギラギラしていて。だからこんなバンド名にしたんだとも思うし(笑)。でもだんだんとその気持ちも変わってきて、いまの自分なら歌えるかもしれないなと感じたんです。どちらかと言うと、音楽の幅を広げるとかそっちで勝負しようと思えるようになったのかも。
――なるほど。アルバム・タイトルについても伺いたいんですが、みなさんはいま広島を拠点に活動されていて。それを考えると、この『ローカリズムの夜明け』からは強いこだわりを感じるんですよね。東京ではない場所で活動していく意思というか。
メイ : そうですね。実は広島がめちゃくちゃ嫌いだった時期があって。それはほんと1年前の大学を卒業するタイミング、就職活動をするまいと思い始めたときだったんですけど。そのときバンドをちゃんとやろうってことで、広島を出ようかなと思ったんですよ。
――でもいまみなさんは…
メイ : ドラムだけ休学中でまだ学生なんですけど、あとの3人はバイトとかしながら、広島でバンドに軸をおいた生活をしてますね。
――あえて訊きますけど、いまも大阪や東京など全国各地でライヴをしてますよね。今日もわざわざこの取材のためだけに広島からバスで来ていただいたり。それって大変じゃないですか。東京のほうが活動がスムーズにできるとか思いませんでした?
メイ : 移動時間長いですよね。それだけお金もかかっちゃうし。バンドの数もライヴハウスの数も全然違うので、毎回違う人とライヴができることが、もう広島県民からしたら考えられないですね。東京とか行ったら全然別の世界なんですよ。でも私達が広島にいるからこそ愛してくれる人たちとか、助けてくれる人たちとかがたくさんいることに気が付き始めて。あとやっぱり、広島はお家だなって感じるんですよ。ライヴをして帰ってこれる場所があるのは世界が2つあるって感じで、これは大事にしないといけないなと思ったんです。それにYouTubeもあるし、情報も全国に行き渡りますから。いまみたいにCDを出す前に、北海道の人が私達のことをツイートしてたこともあって「なんで知ってるの?」ってこともあったり。だから探してる人は探してるんだなと気づいたんです。だからいまは広島を出るつもりはないかも。
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――活動拠点を移さなくてもやっていけるっていう実感があったんですね。
メイ : だから『ローカリズムの夜明け』って言葉は広島の人に向けた部分が大きいかもしれないです。広島ってほんといいバンドが多いんですよ。それにウサギバニーボーイっていうバンドが、広島のバンドだけを集めたサーキット・イベントを5、6会場使ってやっていたりとか。それはもう5、6年続いていて、そういう魅力的なイベントもあったり。でも表立って外に出ることが少なくて、バンドをやめちゃう人とか、私たちみたいにバイトをしながら続ける人たちもあまりいなくて。だからタイトルには「これが私達のやり方ですよ」っていう気持ちも込めています。
――あぁ、広島のバンドに向けて地方にいながらも輝ける方法があるぞって示したものだったんですね。
メイ : でも最近は私達の下の世代も出てきて、東京とか大阪でもライヴをするようになったんですよ。私達の世代まではあんまりそういうふうに活動する道もあんまりなかったんですけどね。
――ペロペロしてやりたいわズ。がきっかけとなって広島のシーンが盛り上がったらすごくおもしろいですね。
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LIVE INFORMATION
〈ペロペロしてやりたいわズ。 夜明け前に会おうよツアー〉
2016年9月10日(土)東京 新宿SAMURAI.
2016年9月11日(日)名古屋 池下UPSET
2016年9月15日(木)北海道 COLONY
2016年9月21日(水)大阪 CONPASS
2016年10月28日(金)福岡 Queblick
2016年10月30日(日)広島 4.14
PROFILE
クセになるメロディ、キレのあるカッティング、ポップだけどファンキーでユニークな展開をみせるサウンド、ペロペロ史上初のフル・アルバムがついに完成! ジャンルの枠を超えて、破天荒な言葉とサウンドで翻弄させる。
>>ペロペロしてやりたいわズ。 オフィシャルサイト