2015/09/28 11:30

2015年の社会を生きゆく我々への15曲──中川敬3rdソロ・アルバムを独占ハイレゾ先行配信

ソウル・フラワー・ユニオンの中川敬の3rdアルバム『にじむ残響、バザールの夢』が完成。OTOTOYでは独占先行ハイレゾ配信開始。カヴァー曲と新曲、セルフ・カヴァーで構成された15曲は、2015年の社会を生きゆく我々が、今聴くべき作品であろう。本人へのインタヴューと共に、じっくりとお聴きいただきたい。

デジタル・ブックレット付き!
中川敬 / にじむ残響、バザールの夢(24bit/48kHz)
【配信形態】
ALAC / FLAC / WAV / AAC(24bit/48kHz)

【価格】
まとめ購入のみ 2,469円(税込)

【Track List】
01.十字路の詩 / 02.地下道の底で夢を見てる / 03.異国に散ったあいつ / 04.にじむ残響の中で / 05.ひとつの小さな名前 / 06.アリラン / 07.愛の人工衛星 / 08.コート・アンド・スパーク / 09.日食の街 / 10.月夜のハイウェイドライヴ / 11.ユー・メイ・ドリーム / 12.デイドリーム・ビリーバー / 13.新しい町 / 14.バザールの夢 / 15.団結は力なり

INTERVIEW : 中川敬

ソウル・フラワー・ユニオンの中川敬が、『街頭筋の着地しないブルース』(2011年)、『銀河のほとり、路上の花』(2012年)につづき3rdソロ・アルバム『にじむ残響、バザールの夢』を完成させた。弾き語りのワンマン・ライヴを今年からスタート。1人で全国各地を廻るという人生初の経験の真っ最中の彼の、そこで歌いたい歌、響かせたい音が、場所を超えとても優しく、時に厳しい表情で、1人1人の胸に届くであろう本作。ゲストを交えながら中川のギターと歌は今までにない新たな一面も見せている。そしてその歌から浮かび上がってくる人々の生きる姿、生きる上での尊厳。カヴァーからはセンチメンタルな輝きも感じられ、人生の中の大切なものを手渡された気持ちになる。
普遍性を帯びながら、確実に2015年の音楽なのだ。

インタヴュー& 文 : 遠藤妙子

今回、名盤を作ろうというのはあった、自分の心持ちとして、ね

ーー3rdソロアルバムが完成しましたが、ソロのライヴもずいぶんやっていますよね。

中川敬(以下、中川) : 今年の1月から弾き語りのワンマンのツアーを始めて。アコースティック編成はリクオと2人でやるスタイルがあるけど、まったく1人でやるワンマン・ライヴは初めてで。弾き語りツアーをこのアルバムの制作のちょっと前から始めたことによって、新曲であれカヴァーであれ、ライヴで1度やった曲を録っていくっていうことになった。そういう意味で、構造的に、弾き語りのシンガーの1stアルバムっぽいところがあるね。

ーーじゃ、ライヴと曲作りが同時進行ぐらいの感じで。

中川 : そう。新曲は今年の2月から6月に作った。ホント自由でね。俺は30年以上、バンドばっかりやってきてるから、新曲を作って、バンドでアレンジをして、ライヴでやって、録音をするという、楽曲の制作期間の長さが当たり前になってたわけ。弾き語りは曲が出来たら次の日でもやれる。で、すぐに録る。当たり前のことに自分でびっくりしてるという。「うわ、自由やん、俺!」(笑)。

ーー曲作りの発想も変わって。

中川 : 弾き語りのライヴがどんどん増えてきたから、「一人でやる」っていうことを前提に曲を作るようになった。コレが新鮮でね。曲作りの作法や構造が、バンドの時とは全然違う。1曲目の「十字路の詩」みたいな曲は、今までは書けなかった。こういう曲調、いわゆるギターのストロークから始まるっていう。

ーーあぁ、確かに。アコースティック・ギターならではかもしれないですね。今作、曲調が1曲1曲にカラーがあって、そのどれもがストレートでシンプル。

中川 : 前2作の場合は、例えば、自分の中にあるトラッド・バンド的なアレンジ指向をサウンドで展開したいみたいなのが先にあった。「こういう曲をこういうアレンジでやりたい」っていうことが先にあった。やっぱり考え方がバンド的やった。今回は曲が出来たらまず弾き語りライヴでやる。で、曲のサイズ等、固まったら、即録る。「にじむ残響の中で」は、ギターを手にしてメロディを紡ぎ出しながら、歌詞も一気に書き下ろして、曲を作り始めてから数時間後には録音が始まった。ここまでのスピード感は、今までにはなかったこと。

ーー歌ありきって感じですしね。中川さんの曲は様々なジャンルを自分のモノにしていくことが1つの個性だと思っていたけど、いい意味でそれが取り払われてる感じだし。

中川 : 「地下道の底で夢を見てる」は、くるりの岸田が「メチャクチャ好きです」っていう嬉しいメールをくれてね。トラッドがうんぬんかんぬんってメールに書いてあったんやけど、確かにブリティッシュ・トラッド的ではあるけど、そんなつもりで書いたわけでは全然なくて、もはや中川節としかいいようがない世界というか。

中川敬

ーーにじみ出てるんですよね、そういうジャンル的な要素は。培われてきたものなんでしょうね。じゃ、ホントに自然に作れたっていう?

中川 : 今回は前2作よりも、よりアコースティック・ギターの音にこだわった。弦も太くしてね。その効果ははっきりと出てる。あと、今回、名盤を作ろうというのはあった、自分の心持ちとして、ね。それが後世どう思われるか、人にどう思われるかはさて置き。前2作は1曲1曲「作る」ということが一番のプライオリティにあったけど、もう3作目なんやから、ひたすらいいアルバムを目指そうと。そういう客観性が芽生えてきた。その差は大きい。ニューエスト・モデルのときもそうやったね。初めの2枚は作ることに喜びを感じていて、人がどう思うかとなんて全然考えずに作って、3作目の『ソウル・サバイバー』の制作で初めてそういう客観性が芽生えた。ソウル・フラワー・ユニオンもそう。3作目の『エレクトロ・アジール・バップ』の際にその感覚があった。今回、名盤を作るということを自分に課したというか。そういう意気込みの中に自分を置いてみた。

ーー今作は新曲が6曲、カヴァーが8曲、セルフカヴァーが1曲。まず新曲が並び、カヴァーは後半で。

中川 : A面B面みたいな感じがちょっとあるかな。実は、新曲は今作が1番多い。まあ、カヴァーも、もはや自分の曲やと思ってるけど(笑)。

いきなり自分の中で大事な曲になってしまったんよね。

――各々のカヴァーの選曲の理由は? まず「ユー・メイ・ドリーム」に驚きました。

中川 : 中学3年ぐらいやったかな、ラジオから流れてきて気に入って、ラジカセでエア・チェックしてカセットに録音して。そのカセット・テープには「ユー・メイ・ドリーム」や「トランジスタラジオ」やらが入ってるっていう、俺らの世代ならわかるわかるっていう選曲。あと毎作、女性が歌ってる曲、「女唄」っていうか、そういう曲を1曲は入れたいなと。前作はニカちゃん(二階堂和美)、前々作は浅川マキさんの曲を歌って。で、シーナさんが亡くなったときに、中学生の頃に聴いてたこの曲を思い出して、即レコーディングした。

ーー「デイドリーム・ビリーバー」は?

中川 : 去年の夏、あるイベントの最後のセッションで、出演者全員でこの曲をやって。そのときの楽屋でみんなでいろんな話をして。そこで、この曲は清志郎さんがお母さんに捧げた曲やっていう話になってね。清志郎さんは生みのお母さんを3歳で亡くして、叔母さんである育てのお母さんが亡くなったときに、お父さんに実は自分達は本当の親じゃないということを告げられた。その辺の経緯を知って改めてこの曲を聴いてみたら、全然違うふうに響いてきたんよね、歌詞が。この曲を歌っている動画をネットで探したら、大会場でウクレレ1本でひとりで歌う清志郎さんの動画があって、凄くいい顔をして歌ってる。で、去年の10月にリクオと2人でやってる「うたのありか」ツアーで、候補曲として歌詞とコードをプリント・アウトしてバインダーに入れて。そのツアーの初日、札幌に向かうとき、俺、家にアコースティック・ギターを忘れてさ(笑)。手ぶらで北海道に一体何をやりにいくんやっていう(笑)。伊丹空港で気づいて。家族に電話して持ってきてもらって、飛行機が予定より遅い便になって。ツアーの初日やから札幌の会場に早めに入ってリクオといろんな曲を練習するつもりやったのに、リハも出来なくなって。それで、その日は1人でやる曲を多くして。その場で何を歌うか決めていくっていう流れで。そのときに、バインダーにある「デイドリーム・ビリーバー」の歌詞とコードが目に入った。「ちょっとコレやってみようか」って、MCで清志郎さんがお母さんに捧げた曲やっていうことを言って、歌ってみたら、大合唱になってね。泣きながら歌ってる人もいる。歌い終わったときに、ああこれはもう俺の大事なレパートリーやな、って。いきなり自分の中で大事な曲になってしまったんよね。

ーー仲井戸麗市さんの「月夜のハイウェイドライヴ」は?

中川 : 去年、チャボさんと一緒にやる機会が何回かあって。チャボさんと2人でやるコーナーでやった曲。

月夜のハイウェイドライヴ
月夜のハイウェイドライヴ

ーー1部、歌詞を変えてるんですよね。

中川 : 「何処へも行けないさ」を「何処へでも行けるのさ」に。せっかくいい曲やのに、この部分は違うなと思って(笑)。この曲は1985年の名盤『THE 仲井戸麗市 BOOK』に入ってる曲で、チャボさんに、カヴァーをしたい、歌詞を1部変えたいって連絡したら、チャボさんから、「あの頃は俺、暗かったんだよ。今の俺だったらそういうふうに歌うと思う。中川、ありがとう!」って、これまた素敵な返信。

ーー力を抜いた歌い方が珍しいですよね。

中川 : 完全にチャボさん流に歌ってる。カヴァーはヴォーカリストの自分をいろいろ試せるのが面白い。

ーーカンザスシティバンドの「新しい町」は東日本大震災以降、いろんなバンドによってライヴ・ハウスで歌い継がれていますよね。

中川 : 知ってる人も多いよね。リクオもこの曲を持ち曲にしてて。シンプルなのがいい。これは後世に残っていく、下田卓くんの名曲やね。

ーージョニ・ミッチェルの「コート・アンド・スパーク」をインストでカヴァーしてるのも意外です。

中川 : ジョニ・ミッチェルが闘病生活で、喋るのも困難になっているという情報が春ぐらいに入ってきて。カヴァーしたいなとは昔から思ってたんやけど、今こそやりたいな、と。でも日本語に歌詞を変えて、日本語の歌詞の許諾をとるために英語に戻してっていうやりとりをやらなあかんから、今作には間に合わないかもしれない、それならインストもありなんじゃないかと。彼女の書く旋律の1番美しいポイントを押さえたいと思った。ずばり、ジョニへのエール。

ーー「愛の人工衛星」は、ルー・リードの「サテライト・オブ・ラヴ」を日本語にしてカヴァー。

中川 : 日本語の歌詞を書いて、2月に許諾をとろうとアメリカの許諾会社に連絡をして。ところが、許諾会社が権利所有者に全然連絡がつけられない。デザインの入稿の段階になって、OKなときとダメなときと2種類のデザインを作って。入稿の数時間前にやっと連絡がきた。ギリギリで許諾とれて。これは奇跡的やったね。半年待って、最後の数時間で決まるという(笑)。

ーー追悼の思いも?

中川 : もちろん。俺、ヴェルベッツは折に触れて聴いてたんやけど、ルー・リードは長い間聴いてなくてね。彼が亡くなったときに久しぶりに時代順にルー・リードを聴いてみたら、ああ、俺は結構この人に影響受けてるんやなと思って。俺は、ヴァン・モリソンなら「クレイジー・ラヴ」、カーティス・メイフィールドなら「ピープル・ゲット・レディ」をずっと歌ってる。ルー・リードも自分の持ち曲がほしいと思ってね。で、「サテライト・オブ・ラヴ」がスラッと日本語に出来たからライヴで歌い始めて。で、許諾も取れてないのに録音を始めて、曲の後半、浪速のデビットボウイの声が重なってくる…。

ーーえ?

中川 : オリジナルのコーラスはデビッド・ボウイやね。浪速のデビッド・ボウイ、つまり俺(笑)。

ーーコーラスも中川さん? すごく綺麗な声じゃないですか! (笑)

中川 : あったりまえやん(笑)。今作の声関係は全部俺。

人間の数だけ人生あるねんなって、当たり前のことを再認識させてくれる

ーー最後の「団結は力なり」はビリー・ブラッグの「ゼア・イズ・パワー・イン・ア・ユニオン」を日本語詞にしてカヴァー。

中川 : 今年公開された映画「パレードへようこそ」で、最後のクレジット・ロールでこの曲のこのギターのイントロが流れてきて、ズルい! みたいな(笑)。「パレードへようこそ」は内容はもちろん、作り自体が好みのタイプの映画でね。

ーー80年代半ばのLGBT運動と炭鉱ストライキを描いた映画ですね。

中川 : 笑いも入ったリアリズムもの。イギリスのそういう映画は昔から好きでね。で、20数年前にビリー・ブラッグとミュージックマガジン誌上で対談したことがあって。そのとき、「そのうち日本語でカヴァーしたいと思ってる」って言ったら「是非やってほしい」って。ビリー・ブラッグはカヴァーについて面白いことを言ってたよ。「歌詞は変えてもいいけど、メロディは一切変えないでほしい」って。俺もそうやね。同意見。で、「パレードへようこそ」を観て、いよいよカヴァーするときが到来したなって。日本語詞の許諾の返事もすぐにきた。

ーーそして「アリラン」。

中川 : 阪神淡路大震災以降、ソウル・フラワー・モノノケ・サミットで被災地で歌って以来、ずっと歌ってる曲。多分「満月の夕」に次いで、俺の人生で最も回数多く歌ってる曲やね。俺にとって、この20年の大事な邂逅が詰まってる曲。ルー・リードの許諾が下りなかったときのために何曲か予備曲を録っておいたんやけど、今回のコンセプト、特に新曲群の流れの中に「アリラン」はバッチリ合うなと思って入れることにした。

ーー改めてオリジナルの新曲ですが、今年3月以降に作った曲ばかりだそうで、やっぱり世の中の動きが曲の背景にはあると思うんですが。

中川 : 日常的な出会い以外でも、本を読んだり映画を観たりSNSをやったりする中で、いろんな人生の澱みたいなものが見えてくる。人間の数だけ人生あるねんなって、当たり前のことを再認識させてくれるような出来事がホントに多いし。子供達がつい今しがた殺されまくってる、しかも飛行機で12時間ぐらいで行けるような場所で。別世界のことではないよね。自分の生活に関わっていること。スルーはできない、絶対。

ーーそういう背景があって、私はどの曲も人間の尊厳ということがテーマになっていると思った。

中川 : まさに人間の尊厳を歌いたいと思った、より今作は。ソウル・フラワー・ユニオンの『アンダーグラウンド・レイルロード』の「残響の横丁」って曲は、関西の鶴橋や御堂筋や京都の排外デモに対するカウンターに参加する中で出来た曲で。在日の友人とのやりとりや、彼らが身を引きちぎるような思いでSNSに書いた言葉にインスパイアされた曲。あの曲はアルバム制作の最後に書いた曲で、ちょっとやり残した感があったんよね、自分の中で。勿論、そういうテーマは終わりがあるわけではないし続くんやけど、もうちょっとやりたいなと。それが今回のソロに引き継がれた感じはある。

ーー直接的な表現ではないし、怒りを前に出しているわけでもない。サラッとしつつ染み入る曲ばかりで。

中川 : 感じてることをどんどん曲にしていったから、後から大きな形が見えてくるんじゃないかな。あまりに具体的過ぎて、その具体的事象から距離がある人は共有することができないっていうような音楽にはしたくないところがある。

ーーうん。今を歌いながら、今という時間を飛び越えていける普遍性があると思います。ただ中川さんはデモや抗議の現場に行っているわけで、そういうリアルな経験を音楽として表現するときに、どういう意識なのか…。なんていうか、どういう音楽が今は必要かとか、そういうことは考えるのかな? って。

中川 : 反原発デモとか、今だったら安倍政権打倒のデモとか、そういう場所にいってると希望しか感じない。

ーーそう思います。怒ってるからデモにいくんだけど、希望を感じて帰りますもんね。

中川 : 以前なら、いわゆる音楽のポップ・カルチャーの中で、現場に入り込んで社会と切り結ぶような表現をするミュージシャンってソウル・フラワー・ユニオン以外そんなに沢山はいなかった。だから以前はある種の孤立感もあった。でも今は、AKURYOくんみたいなラッパーもいるし、タサカくん(DJ TASAKA)みたいなDJ / ミュージシャンもいる。ブラフマン、イースタンユース、ECD…。音楽やってる奴、デザインやってる奴、カメラやってる奴、クリエーターがいっぱい現場にいる。こんなに素晴らしい連中がいっぱいいるんやったら、俺は俺の仕事をしっかりやったらええねんなっていう気持ちにさせてくれる。4年前、反原発のデモのTwit No nukesが始まって俺もいくようになって、あの頃から少しづつ自分の意識が変わり始めた。それまでは、極端なことを言うと、全部自分でやろうという気負いがあった。多分に観念的な世界なんやけど、全部自分の音楽に詰め込もうと。それが例えば、AKURYOくんが新曲をネットにアップした。昨日聴いてたんやけど、なかなかカッコいい。そういうのを聴いたら、俺はそのスタイルではやらんでええということになる。ガチでしばくスタイルはAKURYOくんがやればいい(笑)。これは例え話ね。たぶん10年前、15年前やったらアルバムの中に1曲は直接的なメッセージの曲があったほうがいいんじゃないかとか、いろんなことをやらなあかん、全部やらなあかんっていう気負いみたいなものがあったと思うけど、今はそういうのは全くない。面白い人がいっぱいいるっていう実感が日常にあるからね。そういう中で、俺は俺流に、シンプルに自分のことを深く掘り下げながらやれるようになったんじゃないかな。

ーー社会と向き合うことと自分の音楽と向き合うことに、なんの矛盾もないというか。

中川 : より自分のやりたい表現に向かっていけてる。こういう曲を作らなきゃっていう使命感みたいなものはない。

ーーこのアルバム、それ、すごくわかる。同時にやっぱり2015年のアルバムだし。

中川 : まあ、俺が作ってるからね(笑)。

ーーあと面白いのがパーソナルでありながら、普遍性と誰が歌ってもいいような無記名性があるところ。

中川 : 新曲を書いていて、中川敬という大型新人フォーク歌手に曲を提供してるっていう感覚(笑)。今まで、バンドのメンバーの演奏を想定して新曲を書くようなとこがあったから、自分に対しても他者に提供する、他者に曲を書くみたいな感じはあるかもしれない。だから普遍性や無記名性を感じるのかもね。それでいて中川敬のコアな部分が出ているなと。

ちょっと俺の自伝的な作品かなとは思った

ーー作り終わってどんな感覚でしょう? やりきった感じ?

中川 : やりきった感はないねんな、全然。さっきも言ったけど、『アンダーグラウンド・レイルロード』で「残響の横丁」の続きがすぐに書きたくなってる。それが今回のアルバムになって。まだまだ続く感じが今もある。

アルバム『アンダーグラウンド・レイルロード』Trailer
アルバム『アンダーグラウンド・レイルロード』Trailer

ーー「残響の横丁」から今作に特につながっている曲は、「地下道の底で夢を見ている」ですよね。

中川 : 今回、実は大きなテーマがあって。去年、加藤直樹さんのブログ「九月、東京の路上で」が本になったでしょ。関東大震災のときの朝鮮人・中国人大虐殺の具体的詳細を調べ上げた1冊。あの本を読んで、たった90年前に市井の人々が朝鮮人を殺せって東京の街中で叫び、実行した。あそこまで凄惨なことが、この日本で、たった90年前にあった。今も現場の地名も変わってない。しかもこの本は、現在のその場所の写真も載せてる。読んだ後に、これはもう1回ちゃんと近代史を知らなあかんなと思った。「知る」というのはどういうことか? 俺みたいなタイプは、ちょっと知ったような気になってたりしてるわけ。知ったような気になって、実のところ脳裏で記号化してるんじゃないかと。そこには1人1人の名前のある人間がいたのにもかかわらず。で、次は戦中戦後の上野の浮浪児のことをまとめ上げた本を読んで。浮浪児のことはなかなか文献として残ってない。当事者があまりに辛い過去を振り返りたくないということがあるから。あと、ちょっと話が飛ぶけど、俺の父親が、去年重い病気になってね。まあ、ガキの頃から関係が悪かった父親ではあるけど、1932年生まれで少年時代は皇国少年、戦争が終わったら教科書は黒塗り、大人になると高度成長を支えた自負のど真ん中、特異な時代に生きた自分の父親の世代のことを考えてた矢先でもあったから、よくよく考えると上野の浮浪児たちとまったく同世代。で、今。日本会議がのさばって、安倍晋三みたいなのがゾロゾロ出てくる酷い状況の根本的なところに、官製の戦後処理が関係してたり。全部リンクしてる。人間というのは戦争と戦争の狭間に生きてる。その中で、どういうふうに小さな個々の尊厳を守って共生していくのか。そういった諸々は自分の作品の中に反映させなあかんというのがあった。そういうことを考えさせる日々が片方にあったということやね。で、片方には自分が中学生、高校生ぐらいの頃にラジオから流れてきたヒット曲との再会。そういう意味では、ちょっと俺の自伝的な作品かなとは思った。

ーーシリアスでもあるけど、ロマンチックでセンチメンタルでもある。日常の日々ってどっちも大事ですしね。最後に、アルバムのジャケットは関西の鶴橋ですよね?

中川 : 排外デモのカウンターで最近しょっちゅういくようになった街なんやけど、実は10代の頃にこのへんでよくたむろしてて。カウンターで行って、ふと喫茶店に入って、内装をよくみたら、30数年前にデートできた店やん! みたいな(笑)。学ランでこそこそタバコ吸いにきたサテンや(笑)。

中川敬 / ソウル・フラワー・ユニオン DISCOGRAPHY

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ソウル・フラワー・ユニオン 特集ページ

新→古
『アンダーグラウンド・レイルロード』配信&中川敬インタビュー
『アンチェイン』配信&レヴュー
『踊れ! 踊らされる前に』配信&中川敬インタヴュー
「キセキの渚」ミュージック・ビデオ配信&レヴュー
『キセキの渚』配信&中川敬インタヴュー
2011年9月28〜29日 みちのく旅団 被災地ライヴ・ツアー レポート
『REVIVE JAPAN WITH MUSIC』特集 第2回 中川敬
『キャンプ・パンゲア』配信&中川敬インタヴュー
ソウル・フラワー・ユニオン ミュージック・ビデオ一斉配信
「死ぬまで生きろ! 」ミュージック・ビデオ配信&中川敬インタヴュー
「アクア・ヴィテ」ミュージック・ビデオ配信&レヴュー
「アクア・ヴィテ」ハイレゾ先行配信&中川敬インタヴュー

LIVE SCHEDULE

ソウル・フラワー・ユニオン中川敬 ニュー・アルバム発売記念ツアー
2015年10月4日(日)@函館「喫茶想苑」
2015年10月6日(火)@札幌くう
2015年10月9日(金)@横浜サムズアップ
2015年10月11日(日)@那覇Output
2015年10月12日(月・祝)@沖縄市 中の町 Live&Gallery アルテコザ
2015年10月17日(土)@加古川ダイニングカフェ・セシル
2015年10月23日(土)@金沢もっきりや

うたのありか2015ツアー リクオ×中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)
2015年10月31日(土)@仙台センダイコーヒー
2015年11月1日(日)@石巻La Strada
2015年11月3日(火・祝)@盛岡すぺいん倶楽部
2015年11月7日(土)@京都磔磔
2015年11月8日(日)@京都磔磔
2015年11月10日(火)@名古屋得三
2015年11月11日(水)@静岡Freakyshow
2015年11月14日(土)@東京Zher the ZOO YOYOGI
2015年11月15日(日)@東京Zher the ZOO YOYOGI
2015年11月19日(木)@高松Bar RUFFHOUSE
2015年11月20日(金)@徳島寅家
2015年11月22日(日)@高知喰人ーCuisinー
2015年11月23日(月・祝)@高松Bar RUFFHOUSE
2015年11月19日(木)@高松Bar RUFFHOUSE
2015年11月19日(木)@松山OWL

PROFILE

中川敬

ロック・バンド「ソウル・フラワー・ユニオン」のヴォーカル / ギター / 三線。前身バンド「ニューエスト・モデル」に始まり、並行活動中のチンドン・ユニット「ソウル・フラワー・モノノケ・サミット」や、アコースティック・ユニット「ソウル・フラワー・アコースティック・パルチザン」と、多岐にわたるバンド / ユニットのフロントマンとして、ライヴを通じて多くの人々を魅了している。また、トラッド、ソウル、ジャズ、パンク、レゲエ、ラテン、民謡、チンドン、ロックンロールなど、あらゆる音楽を精力的に雑食・具現化する、これらバンドの音楽性をまとめあげる才能をして、ソング・ライター / プロデューサーとしての評価も高い。

ソウル・フラワー・ユニオン

80年代の日本のパンク・ロック・シーンを語るには欠かせない存在であったメスカリン・ドライヴとニューエスト・モデルが合体する形で、'93年に結成。'95年、阪神淡路大震災を機にアコースティック・チンドン・ユニット「ソウル・フラワー・モノノケ・サミット」としても、被災地での演奏を中心に精力的な活動を開始。'99年には、韓国にて6万人を集めた日本語による初の公演を敢行。トラッド、ソウル、ジャズ、パンク、レゲエ、ラテン、民謡、チンドン、ロックンロールなどなど、世界中のあらゆる音楽を精力的に雑食、それを具現化する祝祭的ライヴは、日本最強のオルタナティヴ・ミクスチャー・ロックンロールと評される、唯一無二の存在として、国内外を問わず高い評価を得ている。

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[インタヴュー] ソウル・フラワー・ユニオン, 中川 敬 (ソウル・フラワー・ユニオン), 中川敬

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