2014/10/10 18:41

世の中を変えていく名もなきひとりひとりへ捧げる——結成20周年の集大成となるニュー・ アルバムをハイレゾ独占配信!!

ライヴでもおなじみ、風狂の魂たちに捧げた『風狂番外地』のハイレゾMVビデオを観て待ってくれた方、「いや、アルバムを通して聴くんだ!」と待ってくれていた方、お待たせしました! ついにソウル・フラワー・ユニオン、4年ぶりのフル・アルバム『アンダーグラウンド・レイルロード』がリリース。OTOTOYではハイレゾ(24bit/44.1kHz)の配信がスタートしました!!

世界中の子どもたちに捧げる反レイシズム・ソングであり、名曲「地下鉄道の少年」をはじめ、リー・ペリーのカヴァー「アップセッティング・リズム」に榎本健一のカヴァー「これが自由というものか」、"3年半の俺の立ち位置を、一番凝縮した形で示してる曲"と中川敬が語る「世界はお前を待っている」のソウル・フラワー・ユニオン・ヴァージョンなど全14曲。"第二期ソウル・フラワー・ユニオンの始まり"と告げたその変化、そして今作に熱く込められた想いを、ライター・遠藤妙子が訊きました。

ソウル・フラワー・ユニオン / アンダーグラウンド・レイルロード(24bit/44.1kHz)
【配信価格】
ALAC / FLAC / WAV(24bit/44.1kHz) : 単曲 257円 / アルバム 2,499円(各税込)

【Track List】
01. グラウンド・ゼロ / 02. 風狂番外地 / 03. 地下鉄道の少年 / 04. 残響の横町 / 05. マーマレードの甘い風 / 06. 燃やされた詩集 / 07. アップセッティング・リズム / 08. バクテリア・ロック / 09. 福は内 鬼も内 / 10. マレビトこぞりて / 11. これが自由というものか / 12. 必要なことはカラダに書いてある / 13. 踊れ!踊らされる前に / 14. 世界はお前を待っている
【参加ミュージシャン】
ジゲン (MOMONASHI) : Bass (M-1,2,3,5,6,8,9,10,12,13)
木暮晋也 (HICKSVILLE) : Electric Guitar (M-1,2,3,4,6,7,8,11,12,13,14)
山口洋 (HEATWAVE) : Electric Guitar (M-3), Bouzouki (M-3)
赤木りえ : Flute (M-1,2,5,9,10)
大熊ワタル (CICALA-MVTA) : Clarinet (M-3,9,11,12), Percussion (M-11)
太田恵資 : Fiddle (M-5,9)
朝倉真司 : Percussion (M-1,2,4,6,7,8,14)
ヤヒロトモヒロ : Percussion (M-5,9,10)
黄啓傑 (ブルームーンカルテット) : Trumpet (M-1,2,4,6,7,8,10,13)
ヤッシー (BLACK BOTTOM BRASS BAND) : Trombone (M-6,10,13)
イギー (BLACK BOTTOM BRASS BAND) : Sax (M-6,10,13)
花島英三郎 : Trombone (M-1,2,4,8)
武嶋聡 : Sax (M-1,2,4,8)
うつみようこ : Backing Vocal (M-1,5,8,9)
岸田繁 (くるり : Backing Vocal (M-1,4,14)
上村美保子 (MOMONASHI) : Backing Vocal (M-6,13)
知花竜海 (DUTY FREE SHOPP.) : Hayashi (M-4,11)
もも、小春 (チャラン・ポ・ランタン) : Backing Vocal (M-6)

岸田繁 by the courtesy of Speedstar Records / Victor Entertainment
チャラン・ポ・ランタン appears by the courtesy of AMC

>>『アンダーグラウンド・レイルロード』特設ペーシ
ソウル・フラワー・ユニオン / 風狂番外地〈ハイレゾMVシングル〉
【配信価格】
movファイル 309円(税込)

ミュージック・ビデオでも、音質は24bit/44.1kHzのハイレゾ! アルバム先行リリース「風狂番外地〈ハイレゾMVシングル〉」も好評配信中。

INTERVIEW : 中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)

フル・アルバムとしては2010年の『キャンプ・パンゲア』以来4年振り。ソウル・フラワー・ユニオンのニュー・アルバム『アンダーグラウンド・レイルロード』がいよいよリリース。アホみたいな言い方だが、本作はまさに「ロック」な作品。60年代のブリティッシュからソウル・フラワー・ユニオンの中に脈々と流れるロックが、新たな音像で響き渡っている。受け継がれてきたロックは同時に明らかに今のロック。

東日本大震災、原発事故、沖縄の基地問題、右傾化とレイシズム。この激動の時代とコミットするソウル・フラワー・ユニオン。そんな中で動き、考え、怒り、笑い、涙し、そして戦うあまたの人々の思いを掬い上げたような本作を聴くと、ロックは時代を超えられる、そして時代を撃つことができるのだと強く思う。

ゲストにヒックスヴィルの小暮晋也、くるりの岸田繁、チャラン・ポ・ランタン、ヒートウェイヴの山口洋、シカラムータの大熊ワタル、ブルームーンカルテットの黄啓傑などを迎えた本作。昨年、結成20周年を迎えたソウル・フラワー・ユニオンが、新たな章への突入を実感させる傑作を作るとは。本当にタフなバンドだ。

インタヴュー&文 : 遠藤妙子

いざソウル・フラワー・ユニオンに立ち返ると、やっぱりそういった、明快に怒りを出せる場所はここやなと

――凄くロックなアルバムだと思います。ソウル・フラワー・ユニオンの中の本流をグイッと押し進めたような。

中川敬(以下、中川) : 新たな章に突入した感じはあるね。第二期ソウル・フラワー・ユニオンの始まり(笑)。

――「グラウンド・ゼロ」と「バクテリア・ロック」はライヴで盛り上がりそうな。

中川 : この2曲は完全にライヴのために書いた。「グラウンド・ゼロ」は中川敬と奥野真哉のオハコって感じの曲やし、「バクテリア・ロック」は「祖先を辿るなら中途半端はやめろ。40億年ぐらい辿れ」っていうタイプの曲(笑)。

――ザクッとした質問ですが、ロックなアルバムになったのは何故でしょう?

中川 : そうやね、まず、俺自身が2011年以降、アコースティック・アルバムを2作作ったことは大きく関係してる気がする(『街道筋の着地しないブルース』『銀河のほとり、路上の花』)。以前からあった、俺の表現のアウトプット、ソウル・フラワー・ユニオンとソウル・フラワー・モノノケ・サミットに加えて、「中川敬」という、いわばもうひとつのバンドをやり始めたようなところがあって、また新たな表現のアウト・プットができたという。そう考えると、ソウル・フラワー・ユニオンにいざ立ち返ったとき、やりたいことが以前より明確になったんよね。アホっぽい言い方で言うと、「ロック」をやる、ということやね。喜怒哀楽を内包する、大音量のダンス・ミュージック。以前はソウル・フラワー・ユニオンに俺の表現欲を全部詰め込もうとしてた。その辺の変化はあるやろうね、無意識的に。あと、怒りの表出を一番すんなりとやれる場所っていう。アコースティックの世界ではなかなか出し切れないところがある。怒り。アコースティックはアコースティックで自分の感情を総動員してるようなところもあるけど、やっぱり物理的な限界もある。で、いざソウル・フラワー・ユニオンに立ち返ると、やっぱりそういった、明快に怒りを出せる場所はここやなと。漠然とそういう感じはあるね。

――私も昔は、バンドならやりたいことを全部そこに詰め込んだほうが面白いんじゃないかって思ってたんですけど、今は、いろんなスタイルでやっていいし曲が一番いい形になればいいって思います。じゃ、曲を作ってるときはソウル・フラワー・ユニオンの曲として作っていったんですか?

中川 : 曲作りの最初の段階ではあまりそういうことは考えないね。俺のカラダから滲み出てきたものに心血を注ぐだけ。ただ、曲作りがある程度の段階にいくと、「コレはソウル・フラワー・ユニオンやな」、「コレはソロやな」って徐々に見えてくる。まあ、極めて単純化して言うと、アコースティック・アルバムはドラムを使わないっていうコンセプトでやってるから、最初からドラムが頭の中で鳴ってる曲はソウル・フラワー・ユニオンの曲になっていく。

左から伊藤孝喜(Dr)、奥野真哉(Key)、高木克(Gt)、阿部光一郎(Bass Gt)、中川敬(Vo, Gt)

――曲が完成に近づくうちに方向が決まってくる。曲が自ずと道を作っていくような…。

中川 : そうやね。あとはタイミング。今、何を作っているかっていうところで、たまたまその作品に入る曲もあったりするからね。

――ソロ・アルバム『銀河のほとり、路上の花』(2012年)に入っていた「世界はお前を待っている」は、本作にも収録されていますね。

中川 : 「世界はお前を待っている」は、この3年半の俺の立ち位置を、一番凝縮した形で示してる曲やからね。

――この曲がアルバムの最後なのはとてもいい。ホッとする(笑)。

中川 : 4年ぶりのフル・アルバム、しかも3.11以降、初のソウル・フラワー・ユニオンのフル・アルバムっていうことになってくると、「世界はお前を待っている」は入らなあかん。バンド・ヴァージョンで。

――この曲をライヴで初めて聴いたとき、本当にグッときました。震災と原発事故からちょっと時間が経って複雑な問題も出てきて。ちょっと迷ったり疲れたりしていた時期に感じたし、私もそうだった。そういうときにこの曲を聴いて安心したし元気が出た。

中川 : この曲を書いたのが2012年の3月11日で、震災のちょうど一周年の日。そのあと、弾き語りのライヴでは必ず歌う曲になっててね。たぶん最初にライヴでやったのは、大飯原発再稼働の2012年6月、7月のころかな。

――反原発の運動などですでに動いている人だけにじゃなく、動けないでいる人たちにも向けている曲で。

中川 : 分断的なことが起こり始めた頃でもあった。瓦礫広域処理反対運動が出てきたころ。東北の被災した仲間たちはもちろん、色んな立場の人たちと連日語り合ってたころで。でもこのタイトルは、たまたま数年前、「満月の夕」のエンディングの「ラララ」のスキャットをお客さんに歌わせようとしたときにポロッと出てきた言葉で。なかなかお客さんが歌わなくて、「世界はお前を待っている!」って囃した(笑)。

――それで「お前を持っている」って(笑)。

中川 : おお、パンチライン来たやん、いつかそういう曲を書こうって(笑)。

世の中を変えていく名もなき一人ひとりの顔が立ちのぼってくるようなアルバムにしたいっていうのはあったな

――見事に使えましたね(笑)。カヴァーの「アップセッティング・リズム」、「これが自由というものか」を含むこの14曲、どのぐらいの時期に作った曲ですか?

中川 : この3~4年間にベーシック・トラックを録った曲たちやね。唄録りに関してはほぼこの半年か1年ぐらいの期間に録って。録音の古い曲に関しては、歌詞は推敲を重ねた。最終的に2014年のアルバムとしてガツンと出したいっていう思いがあったからね。新たな気持ちで歌詞を書き直した曲もある。

――変わっていった歌詞があるのは、世の中の状況の変化によるもの?

中川 : まずもって自分の気分が変わるし。日々あまりにいろんなことが起こるからね。今までも、短いスパンなら、俺はずっとそういう作法でやってきてる。作品化まではひたすら推敲を重ねる曲もあるね。あとは、俺はシンガーでありソングライターでもあるけど、プロデューサーでもあるから、ひとつのいいアルバム作品にするための客観的な視点の自分もいる。いつものことではあるけど、アルバム制作の最終仕上げに近付くと、ほとんど「プロデューサー中川敬」になってる。そういう中で2014年の濃密なアルバムにしようっていう意識は働くよね。もちろんそのへんが、反レイシズム度が高くなったということとも関係してると思う。なかでも頭4曲はレイシズムとの切り結びが楽曲に少なからず反映してる。曲順もこの4曲はすぐに決まった。ただ昔から、コンセプト・アルバムを作っているつもりはまったくなくて、いつもその時期の気分や「居場所」が反映するということやね。3.11以降のどの楽曲も、出会った多くの人たちのことを思い描きながら書いた。東北での多くの出逢い、反原発運動の現場での多くの出逢い、反レイシズム運動の現場での多くの出逢い…。そこには、名もなき一人ひとりがいて。今作は、そういう、奮闘してる一人ひとりの顔が立ちのぼってくるようなアルバムにしたいっていうのはあったな。世の中を変えていく名もなき一人ひとり。今作のタイトルの『アンダーグラウンド・レイルロード』も、3曲目の「地下鉄道の少年」が2年ぐらい前にできて、その段階でアルバム・タイトル候補に浮上したんやけど、世界中の名もなき子どもたちが行進しているようなイメージが重なってある。世界中で頻発する子どもの受難。地下鉄道っていうのは、18世紀から19世紀にかけての、アメリカ南部の奴隷黒人たちを北部へと逃がす秘密結社の名前なんやけど、今でも地下鉄道は続いていて、世界中の子供たちが自由を目指して行進しているようなイメージが浮かんできた。

――小さき者、弱い立場にいる者に光をあてたような…、

中川 : でも実は弱くなんかないんやな。全然一人ひとりは弱くない。

――あ、そうですよね。名もなき人だけど弱くはない。だからこそ、こういうロックなアルバムができたんだし。

中川 : 物理的な意味でも精神的な意味でも、本当に弱いのは安倍晋三とかああいった連中やな。強いのはこちら側。「パワー・トゥ・ザ・ピープル」じゃなくて「ピープル・ハヴ・ザ・パワー」で行く。

――今作は怒りがモチベーション?

中川 : それはあるけど、それだけじゃない。日々、命を祝福し合うような出逢いもあるしね。

生命力に溢れたやさぐれた素敵な連中全般に捧げるオマージュみたいなニュアンスが、最終的に加味された曲でもある

――サイケデリックなロックン・ロールの「グランド・ゼロ」からファンキーでラウドなブルース歌謡ロック「風狂番外地」。「風狂番外地」は亡くなった先人たちを思って作ったんですよね?

中川 : 作り出したきっかけはそういうことやね。俺が個人的に一緒に仕事をしたことがあるパイセンたちが立て続けに亡くなってね。セイグワー(登川誠仁)、バタヤン(田端義夫)、若松孝二さん、フジオちゃん(山口冨士夫)、小沢昭一さん…。ルー・リードも同じ時期やった。レイ・マンザレックも死んじゃったからドアーズ風のオルガン・ソロで曲を縁取ったり。あと、小学校4年の時にリアルタイムで単行本化されて俺の人生に大きな影響を与えてくれた漫画「はだしのゲン」の中沢啓治さん。隆太って出てくるでしょ、ゲンの弟と瓜二つの孤児。書いてる時に隆太の破顔と泣き顔が思い浮かんでね。いわゆるピカレスクロマン的な心象風景が混ざってきた。あと、曲を書いてる時期にレイシズム問題が吹き上がってきて。「レイシストをしばき隊」を野間君(野間易通)が立ち上げて、新大久保の排外デモに対して大規模なカウンターを起こし始めたころ。で、「どっちもどっち論」みたいなのがTwitterで流れてきて。人間として、アカンもんはアカンと、毅然と叱りつけることができる野郎たちに花を添えたくなった。ヘイトスピーチの定義は相変わらず勘違いされてて、当然のことながら罵詈雑言自体を指すものじゃない。ヘイトスピーチというのは、人種や性別のような、変えようのない生得的属性に対しての憎悪表現を指す。下劣な差別主義者と、それに対してカウンターをかけるプロテスターが、どっちもどっちであるわけがない。で、これは漠然とではあるけど、生命力に溢れたやさぐれた素敵な連中全般に捧げるオマージュみたいなニュアンスが、最終的に加味された曲でもあるんよね。

風狂番外地(Trailer)
風狂番外地(Trailer)

――まさしくタフな人たちですね。今作は反レイシズムの現場での出会いが反映されているわけですが、中川さんが差別デモのカウンターに行くようになったのは?

中川 : 関西で一緒に反原発運動をやってる若い連中からずっと排外デモの状況報告を聞いててね。土日が多いから、なかなかスケジュールが合わないんやけど、行けるときは行くようにしてる。デモ同様、頭数やね。ただ今まで、俺が行けるとき、行こうと思ったときって、排外デモ自体が中止になることが多くて。俺が行こうとすると中止率が高くなる。だから俺は、行こうと思わなあかん(笑)。俺が甲子園球場に行くと阪神の勝率が高い、みたいな(笑)。

――私もカウンターには何度か行ってますが、なんの躊躇もなく行きました?

中川 : 躊躇も何も、日本人の、力を持て余してる、差別を許さないおっさんはみんな来るべきや。この前、京都タワーの前で差別主義者たち10人ぐらいの街宣があって、カウンターは150人ぐらい集まって、カウンターの声で奴らの差別街宣の声は完全にかき消されてた。あのあたりは観光客が多くて子供連れも多い。外国人、日本人関係なく、子どもたちは怖がっててね。ほんま最悪や。でも、カウンターの女性たちが状況説明のチラシを話しかけながら配ったり。てんでばらばらに、差別煽動に怒りを持った人たちがやってきて、各々が各自やれることをやってる。アカンもんはアカンっていう当たり前のことをみんなが毅然とやってるだけ。運動とかイデオロギーとか以前の問題やね。人として、「何々人を殺せ!」みたいな下劣な暴言を許さないっていうこと。

――「地下鉄道の少年」の歌詞、「てんでバラバラにやって来た」のような感じですよね

中川 : 一人ひとりがバラバラにやって来る。で、てんでバラバラに帰って行く。そしてそこを自分の「居場所」にしようとも思わない。早く終わらせたい。反原発運動と一緒やね。早くこんなことを終わらせたいと思ってるんよ、みんな。反原発も反レイシズムもここまで大きくなったのは、やりたくないけど早く終わらせたいっていう一念も大きく関係してる。最近よく次世代のことを思う。子どもたちの世代。社会をすぐに変えることはできなくても、自分たちの子供が大人になったときに、日常的に街頭で異議申し立てをするのが当たり前な世の中ぐらいにはしておきたい。全体主義国家以外の世界の国々をみてみれば、普通にデモがデモクラシーの装置として機能してる。デモをやったり抗議に行ったりするのが当たり前の社会ぐらいにはしておきたいよね。それこそ俺らの世代がやれることじゃない? 実際、原発は1年以上止まってて、反原発運動の街頭抗議は効力を発揮してる。

――無力なんかじゃないし、弱き者じゃなかったってことですもんね。

中川 : 反レイシズム運動も国連にまで響いてる。名もなき一人ひとりが力を発揮してる。全然無力じゃないよ。若い世代もどんどん街頭に出てきてる。

一人ひとりの力の集積が巨岩を動かすよ。ピープル・ハヴ・ザ・パワーやね

――今の話を聞いて、今作のボ・ディドリーばりのファンキーな曲「必要なことはカラダに書いてある」が浮かんできました。なんていうか、怖れることはないっていう。で、本作は、最初にも言ったけど、ソウル・フラワー・ユニオンの本流をグイッと押し進めた作品で、新しさと同時に得意技がガンガン入ってる。

中川 : 中川節全開。「燃やされた詩集」とかね。1年半前、大雪の石巻で書き始めて、自分の旅の道中に、ありとあらゆる情景が入り込んでいった曲。構造が「そら」なんかと似てる。いわゆるニューエスト・モデル的なモッズ・マナーを守りつつ今のソウル・フラワー・ユニオンの音になってる。ちょっとジョニ・ミッチェル風のクリシェも入ってるし。「マーマレードの甘い風」は、ディランの「シェルター・フロム・ザ・ストーム」風のラヴ・ソングで、ベッシー・スミスやニーナ・シモンが歌うイメージで書いた。ソウル・フラワーによくある、自分で作ってて何ものかわからない感じになっていったのは「マレビトこぞりて」(笑)。どこでもない民謡。「もののけと遊ぶ庭」のあの感じがやね。宇宙民謡(笑)。

――だからニューエスト・モデルの後期やソウル・フラワー・ユニオンの初期の頃のような雰囲気もある。

中川 : そのころの、10代のころに夢中になって聴いてた、いわゆる60年代後半のサイケデリック・ソウルやブリティッシュ・ロックの感触が、今回また復活してるね。「グランド・ゼロ」あたり、特にそういう感じやね。まあ、自分にとってのルーツ・ミュージック。俺にとってのロックの原風景なんやろうね。俺民謡っていうか。

――ここ数年で作り上げてきたソウル・フラワー・ユニオンのカラーがありましたけど、変えたいっていう気持ちがあって?

中川 : 『ロロサエ・モナムール』(2006年)、『カンテ・ディアスポラ』(2008年)、『キャンプ・パンゲア』(2010年)は俺の中では三部作的なイメージがあるんやけど、ゼロ年代の俺の作風みたいなものを、いわばやりきった感はあるね。世界中のいろんな音楽に影響受けて咀嚼して吐き出すっていう。今回は「ここの音を出す!」っていう感じが強いかもね。ルーツに立ち返りながら、今までとは全然違う手応えを感じるし、新たな章に突入したよ。

――ホントそう思います。では『アンダーグラウンド・レイルロード』に込めた思いを。

中川 : ここ数年、リクオと2人でアコースティックで各地を廻るでしょ。リクオの音楽ってゴスペル・ベースのメロディーやコード進行が多くて。で、今一度、ゴスペル・ミュージックについてちゃんと調べたくなって、いろいろ本を漁り始めた。そうすると、ゴスペルの前身のニグロ・スピリチュアルの最初期、18世紀、19世紀前半あたりの話に辿り着いた。その頃のニグロ・スピリチュアルの歌詞には、隠喩や符丁が多く隠されていて。例えば「北斗七星」は北の方角に逃げろ、北を目指せって意味であったり。「停車場」は、さっき出て来た秘密組織「アンダーグラウンド・レイルロード」の、黒人たちを逃がす手助けをしてる人の家であったり。「車掌」っていうのはまさにその協力者。「ヨルダン川」はオハイオ川であったり。白人にはわからない、奴隷黒人同士の間だけで分かる暗号めいた形で歌詞が表現されていたんじゃないかっていう説がある。そこから深みにはまっていって、南北戦争の頃の話であったり、ジム・クロウ法時代の話であったり、公民権運動であったり、まあ、どんどんアフリカン・アメリカンの歴史を知りたくなっていってね。ここまでブラック・ミュージックから沢山のものを貰ってきてるんやから、ここらでちゃんと知っておきたいというのもあった。一方で、『九月、東京の路上で』という本があって、関東大震災のときの朝鮮人大虐殺に関して、具体的に虐殺の場所、殺され方、その日時などを事細かに調べあげた本。その本を読んだときに、自分の中で歴史が記号化されてることに気づいた。関東大震災のときに朝鮮人大虐殺があったことは知ってても、そこには名前がある一人ひとりがいたんやっていう事実がどうしても記号化してしまうという。知識として消費されてしまうんよね。奴隷制度下に置かれた、名前がある一人ひとりに思いを馳せたかった。で、現在の問題として、一人ひとりを自分に引き寄せたいって思った。そんなアルバムにしたいと思った。

――うん。「九月、東京の路上で」は私も読みました。ページをめくるときの重みというか…。

中川 : 間違った情報を与えられるだけで、人間は何故ここまで残酷になれるのか…。絶句するよね。いまだに世界中で同じようなことが起こり続けてるし、関東大震災の朝鮮人大虐殺にしても90年程前の、つい最近の日本の話なんよね。今一度、そこには名前のある一人ひとりがいた、ということに思いを馳せたい。

――そうですね。ロックな本作、私にとっては「なめんなよ」ってアルバムだと思いました。「一人一人の声をなめんなよ」って(笑)。

中川 : そう。一人ひとりの力の集積が巨岩を動かすよ。ピープル・ハヴ・ザ・パワーやね。

中川敬 / ソウル・フラワー・ユニオン DISCOGRAPHY

ソウル・フラワー・ユニオン MUSIC VIDEO

【asfファイルとmp4ファイルについて】
・ Windows標準のWindows Media Playerをご使用の方 → asfファイル(WMV8)
・ mac標準のQuickTime Playerをご使用の方 → mp4ファイル
※Windows環境で、mp4を再生出来る環境の方はmp4をおすすめします。

ソウル・フラワー・ユニオン 特集ページ

新→古
『アンチェイン』配信&レヴュー
『踊れ! 踊らされる前に』配信&中川敬インタヴュー
「キセキの渚」ミュージック・ビデオ配信&レヴュー
『キセキの渚』配信&中川敬インタヴュー
2011年9月28〜29日 みちのく旅団 被災地ライヴ・ツアー レポート
『REVIVE JAPAN WITH MUSIC』特集 第2回 中川敬
『キャンプ・パンゲア』配信&中川敬インタヴュー
ソウル・フラワー・ユニオン ミュージック・ビデオ一斉配信
「死ぬまで生きろ!」ミュージック・ビデオ配信&中川敬インタヴュー
「アクア・ヴィテ」ミュージック・ビデオ配信&レヴュー
「アクア・ヴィテ」ハイレゾ先行配信&中川敬インタヴュー

LIVE SCHEDULE

リクオ×中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)『うたのありか2014』
2014年10月11日(土)@仙台市 サテンドール2000

うたのありか2014~そうま・かえる新聞 presents リクオ&中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)LIVE IN 朝日座~
2014年10月12日(日)@南相馬市 朝日座
2014年10月13日(月・祝)@福島市 風と木
2014年10月25日(土)@高岡市 カフェ・ポローニア
2014年10月26日(日)@金沢市 もっきりや
2014年10月28日(火)@名古屋クラブクアトロ
2014年11月1日(土)@京都磔磔
2014年11月8日(土)@広島市JIVE

ライヴイン旧国鉄大社駅「うたのありか」
2014年11月9日(日)@出雲市 旧国鉄大社駅
2014年11月15日(土)@代々木Zher the ZOO
2014年11月16日(日)@代々木Zher the ZOO
2014年11月20日(木)@宮古島Bar&Cafe Pisara
2014年11月21日(金)@石垣島Jazz Barすけあくろ
2014年11月23日(日)@那覇市 output

第41回 赤旗まつり
2014年11月3日(月・祝)@夢の島公園 野外ステージ

年末ソウルフラワー祭 2014
2014年12月5日(金)@名古屋 CLUB QUATTRO
2014年12月7日(日)@仙台LIVE HOUSE enn 2nd
2014年12月12日(金)@umeda AKASO
2014年12月14日(日)@恵比寿LIQUIDROOM

PROFILE

ソウル・フラワー・ユニオン

80年代の日本のパンク・ロック・シーンを語るには欠かせない存在であったメスカリン・ドライヴとニューエスト・モデルが合体する形で、'93年に結成。'95年、阪神淡路大震災を機にアコースティック・チンドン・ユニット「ソウル・フラワー・モノノケ・サミット」としても、被災地での演奏を中心に精力的な活動を開始。'99年には、韓国にて6万人を集めた日本語による初の公演を敢行。トラッド、ソウル、ジャズ、パンク、レゲエ、ラテン、民謡、チンドン、ロックンロールなどなど、世界中のあらゆる音楽を精力的に雑食、それを具現化する祝祭的ライヴは、日本最強のオルタナティヴ・ミクスチャー・ロックンロールと評される、唯一無二の存在として、国内外を問わず高い評価を得ている。

>>オフィシャル HP
>>ソウルフラワー震災基金
>>オフィシャル Twitter
>>オフィシャル Facebook

[レヴュー] ソウル・フラワー・ユニオン

TOP