INTERVIEW : Mel

2021年にリリースした“彗星と街”のバイラルヒットを追い風に、次世代チル系シンガーとして活躍するMelが2ndフルアルバム『LIFE』をリリースする。 Melの代名詞でもある夜とラブソングを掛け合わせた繊細な感情表現が堪能できる楽曲もあれば、彼の人生観や哲学が色濃く反映された楽曲も多い。サウンド面ではYAJICO GIRL、Shun Maruno、Rikuto Nagira(lo-key design)、Ren Ogiwara(BLACK BERRY TIMES)といったアレンジャーを迎えると同時に、Mel自身でアレンジを手掛けた楽曲が増え、初めて制作したインタールードも含むなど、アーティストとしてさらに表現の幅を広げた作品となっている。様々な変化を迎えた2024年を経て、彼は現在どのようなモードで音楽と向き合っているのだろうか。『LIFE』収録曲を通じて、Melの音楽家としての現在位置を探った。
インタビュー&文 : 沖さやこ
僕はこういう人間なんだよと、みんなに知ってほしくなった
──今作『LIFE』は『ノンフィクション』以来、約1年5ヶ月ぶりのアルバムリリースとなりますが、まず『ノンフィクション』はMelさんにとって転機となる作品でしたよね。
Mel:『ノンフィクション』は自分の身に起きた出来事を曲にした、まさにノンフィクションな作品になりました。それよりも前は空想やファンタジーから生まれたものがほとんどで、事実に基づいた曲は作ってこなかったんです。というのも、僕は曲にスポットが当たってくれたらそれで良かったんですよね。自分のことを曲にする気恥ずかしさもありました(笑)。
──どんな心境の変化が?
Mel:今の事務所に入って「もっと自分のことを曲にしてみるやり方はどう?」と打診してもらったり、ライブをやるようになったのが理由ですね。最初はそんなことができるのか不安だったんですが、自分のことを曲にしてみたら意外と自分にしっくりきて「胸の内にはこんなにたまっていたものがあったんだな」と気づいたし、いい歌詞だなとも思えたんです。あとステージからお客さんの表情を見て、お客さんは作品だけでなくそれを作っている僕にもスポットライトを当ててくれているし、自分の思っていることはお客さんに伝わっているんだなと実感できたんですよね。そこから「僕はこういう人間なんだよ」とみんなに知ってほしくなりました。それが結果的に今のMelや今作『LIFE』にもつながっている気がしています。

──となると『ノンフィクション』から約2ヶ月のインターバルでリリースされた“東京ナイトロンリー”も、ドラマ主題歌の書き下ろしでありながらもMelさんのリアリティが反映されているのでしょうか。
Mel:北海道生まれの自分が東京で書いた曲だから、こういう仕上がりになったのかなとは思っています。この曲は東京のホテルに泊まっているとき、体調が悪いなかこっそりギターを弾いてデモを録ったんですよね。東京という街はキラキラとした光の中に、せわしなさや若干ドロドロとしたものを含んでいるように感じるんです。その光もあたたかさやオレンジというよりは、少し無機質であったりブルーのイメージで、でも離れてみるとすごくキラキラしていて。体調が悪かったぶん直感や手癖で書いたところも多くて、そういういろいろが重なって生まれた曲だと思います。アレンジをしてくださった春野さんも、デモから僕の意図を汲んだうえですごく綺麗に仕上げてくださって、とてもうれしかったです。
──夜の東京はその場の空気に流されたり、直感的に動き出したくなる魔力みたいなものがあるので、Melさんの直感で生まれた曲が東京のそういうムードとも合ったような気がします。この曲然り、Melさんには夜とラブソングを掛け合わせた楽曲が多いことも特徴的ですよね。
Mel:自分がもともと夜行性で、「自分だけの世界」というものを感じられたり、感受性が豊かになる感覚は夜が一番鋭くなる気がするんですよね。あと恋愛は最も人の感情が揺れ動く瞬間だと思っているんです。僕自身、感情を揺れ動かされる曲が好きなので、そのふたつを掛け合わせたら最強なんじゃないかと思っているんですよね。『ノンフィクション』以降そこに自分の実話の要素が加わったことで、共感性や物事の解像度が高くなったし、言葉の重みも出てきた気がしています。