2015/02/14 16:01

ヴードゥー・ポップの輝く双子星、この地上に現る——Ibeyiによる魅惑の歌声、そしてフューチャー・アフロ・グルーヴ

声、パーカッション、エレクトロニック・サウンド、この3つを主体にしたソリッドでミニマルな編成。これを奏でるはキューバ系フランス人の双子姉妹によるユニット、Ibeyi(イベイー)。そのサウンドは、彼女たちの遠い出自でもあるヨルバのドラム・チャントをモダンなポップ・ミュージックへとリモデルしたかのようなアフロ・ポップである。しかも、彼女たちは若干19歳。それらのトピック、そしてその音によって注目を集めていた彼女達による、待望のデビュー・アルバムがついにリリースされた。ビョークを引き合いに出すメディアもある、そのミステリアスな歌声、さらにはM.I.A.やアデル、ヴァンパイア・ウィークエンドをトップ・アーティストへと育てあげた〈XLレコーディングス〉の主宰者、リチャード・ラッセル直々のサウンド・プロデュースだ。そういえばFKAツイッグスも〈XL〉傘下の〈Young Turks〉出身であることを考えれば、彼女たちに期待せずにはいられないだろう。その、あまりにも洗練された処女作をご堪能あれ。

Ibeyi / Ibeyi (Bonus Track Version)
【配信形態】
ALAC / FLAC / WAV / AAC / mp3 : 単曲 257円(税込) まとめ購入 1,543円(税込)

【Track List】
01. Eleggua (Intro) / 02. Oya / 03. Ghosts / 04. River / 05. Think of You / 06. Behind the Curtain / 07. Stranger / Lover / 08. Mama Says / 09. Weatherman / 10. Faithful / 11. Yanira / 12. Singles / 13. Ibeyi (Outro) / 14. Chains (Bonus Track) / 15. Fly (Bonus Track)


Ibeyi - River
Ibeyi - River

自身のルーツ、ヨルバ文化とともに、彼女達は力強く進み続ける

作品のどこを切りとっても、必要最低限、かつ洗練された音々。そして、なぜかおどろおどろしさを感じさせない呪術的なコーラス・アンサンブル。この2つを絶妙なバランスで折衷させ、現代ポップスとして消化させたものの正体は、なんと19歳の双子姉妹。その2人、リサ=カインデ(Vo,Pf)と、ナオミ・ディアス(Vo,Per)によるIbeyiは、2013年から創作を始めた、言ってしまえば“新人”である。しかし、そんな彼女達による今作『Ibeyi』は、徹底してミニマルな音数、成熟したアレンジ・センスなど、デビュー・アルバムとは到底思えない仕上がりとなっている。

ピアノのチューニング音で幕を開ける1曲目「Eleggua」では、リサとナオミによる幽玄的なヴォイス・アンサンブルのみで構成されており、まるで彼女達が取り仕切る儀式に誘われたかのような錯覚を覚える。そして息をつかせる間もなく、デビューEPにも収録された「Oya」、「River」に流れ込む。前半と後半で、ドラマチックなリズム展開を見せる「Oya」では、変化と破壊の神について歌い、「River」では、多産の神へ敬意を払っている。特にこの2曲は顕著であるが、彼女達は西アフリカ地方のヨルバ人によるチャント(一定のリズムと節を持った、唱和、儀式)に、大きく影響を受けているようだ。「これ(「Oya」、「River」)は、ヨルバのチャントをもっと知ってもらうための私達のやり方なの。誰にも知られていないのは悲しいから。」とリサが語るように、アルバム冒頭からの呪術的サウンドのルーツは、ここに存在していたことがよくわかる。

Yoruba rhythms,chants&dance
Yoruba rhythms,chants&dance

これまでの土着的な曲調から打って変わり、華麗なストリングスの上で、自身の父親への思いを歌った5曲目、「Think Of You」。そう、彼女達の父親は、ギタリスト、ライ・クーダーが主宰するキューバ音楽バンド、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブなどで活躍していたパーカッショニスト、ミゲル“アンガ”ディアスなのである。また曲のリズムを構成するパーカッションは、アンガ自身の演奏をサンプリングしたもので、世代を越えた共演、と同時にたゆたうようにゆるやかなグルーヴを演出している。さらに曲調は変化し、7曲目「Stranger / Lover」では、R&Bな16ビートと軽やかなメロディーを展開している。姉妹2人ともが、ミシェル・ンデゲオチェオや、エリカ・バドゥを共通して好むというのも納得できるほどハマった出来である。その後「Faithful」、「Signals」と続き、最後のタイトル・トラック「Ibeyi」では、再び、2人のヴォイスのみによる、超ミニマルなアレンジでアルバムは幕を閉じる。この楽曲からは、ヨルバのチャントへの音楽的リスペクトはもちろんのこと、今後も、ヨルバ文化とともに創作をしていく宿命のようなものを感じずにいられない。

ナオミは、Ibeyiの今後の活動について、このように発言している。「私たちはいつも自分たちの聴いた音楽や色々なものからの影響を混ぜているわ、たとえ人に変だと言われてもね。これは私たちが自分自身に正直であるための方法だから。1つだけのものから出来ている人間なんていないもの。」こんな力強い言葉を放った19歳の彼女達は、これからもあらゆる音楽、環境に影響され、それを巻き込み、ますます大きな存在となっていくであろう。自らのルーツである、ヨルバ文化とともに。(text by 浜公氣)

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PROFILE

Ibeyi

19歳のフランス / キューバ出身、ナオミ・ディアズとリサ-カインデ・ディアズの双子によるデュオ。キューバを代表するパーカッショニスト、アンガ・デアズを父親に持つ。英語とナイジェリアなどで使われているヨルバ語で歌い、彼女達のサウンドは自然を愛する彼女たちの伝統的要素とフランク・オーシャン、ジェイムス・ブレイク、キング・クルエルなどパリに住むティーンエイジャーらしいモダンな音楽など幅広い影響を受け、独自のミニマル・サウンドを築き上げている。リチャード・ラッセルをプロデューサーに迎えたデビュー・アルバムを2015年2月にリリース。

>>Ibeyi Official HP

この記事の筆者

[レヴュー] Ibeyi

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