抜群の嗅覚で時代をリーチし続け、時代と共に転身を続けるデヴ・ハインズによるR&Bプロジェクト、ブラッド・オレンジのセカンド・アルバム『Cupid Deluxe』がリリース。世界的な評価を欲しいままにするブルックリン出身の実験的ロック・バンドであるダーティ・プロジェクターズのデイヴ・ロングストレスや、楽曲がiPodのCM曲に使用され日本でもめきめきと知名度を上げているNY拠点のバンド、チェアリフトのキャロライン・ポラチェックらゲストも参加と非常に豪華な一枚となっている。80sの香り漂う、キャッチーで心地よくどこかセクシーな奇天烈ポップ集。いま“柑橘系男子”から目が離せない!
Blood Orange / Cupid Deluxe
【価格】
mp3、WAVともに 単曲 200円 / まとめ購入 1,500円
【Track List】
1. Chamakay / 2. You're Not Good Enough / 3. Uncle Ace / 4. No Right Thing / 5. It Is What It Is / 6. Chosen / 7. Clipped On / 8. Always Let U Down / 9. On the Line / 10. High Street / 11. Time Will Tell
この先まだまだデヴ・ハインズへの期待は止まらない
ミュージシャンでありプロデューサー、漫画家、ウィキペディア書き込み人(ヒップホップの項目)等、デヴ・ハインズという人は調べれば調べるほど多彩で謎な人物である(わが国ではBlood Orangeで検索すると日本を代表する某バンドの記事しか出てこないので、調べる時はデヴ・ハインズで調べることをオススメする)。ネオ・レイブ・バンド、テスト・アイスクルズから始まり、インディー・フォークを奏でる前身のプロジェクト、ライトスピード・チャンピオンの頃のキモ可愛キャラなど微塵も残さず、鮮やかにプリンス・ライクなR&Bへ転身してみせたデヴ・ハインズ。いや、今作のジャケを見る限りキモの要素は存分に残っているが。前作から今作までの間にもスカイ・フェレイラ、ビヨンセの妹であるソランジュ・ノウルズやブリトニー・スピアーズの新曲のプロデュースを手掛けるなど敏腕プロデューサーっぷりをみせている。彼が手掛けたソランジュの代表曲とも言える「Losing You」は、80sにアフリカンなビートを加えたトラックとソランジュの情緒的なボーカルがしっかりハマり最高に心地良いナンバーだ。
さて、本題の今作『Cupid Deluxe』、ピッチフォークで8.5点、ベスト・ニュー・ミュージックも獲得し文句なしの名盤。全体を通して聴くことができるプリンス調のファンクなギターやシンセ・サウンドに漂う80sの雰囲気、そこに幅広い人脈を持つ彼ならではの多彩なゲスト、それをしっかりとまとめあげるデヴのポップ・センスは流石としか言いようが無い。80年代のアーバン・ソウルな雰囲気のM1「Chamakay」はコーラスにチェアリフトのキャロライン・ポラチェックをフィーチャー。二人の浮遊感溢れる歌声が心地良い。M4「No Right Thing」にはヴォーカルでダーティープロジェクターズのデイヴ・ロングストレスが参加。ダーティープロジェクターズの「Stillness Is The Move」をファンクにアレンジしたようなこの曲。ファンの「ウィー・アー・ヤング」にジャネール・モネイが参加するなど、近年のR&Bシーンとインディ・シーンやビート・ミュージックの交流により生まれている新たなR&Bの形をこの曲がしっかりと実感させてくれた。ラストを飾るディープなエレクトロ・ポップ『Time Will Tell』はカインドネスのアダム・ベインブリッジが参加。このようなジャンルの枠を越えたつながりが色々な音楽シーンに新しい刺激を与えてくれるに違いない。
様々な名義で転身を続けるデヴ・ハインズ。次の作品がどのようなものになるかは全く予想がつかないが、きっとまた驚きを与えてくれるに違いない。プロデューサーとしての才能も見逃せない。しかもまだ27歳という若さ。この先まだまだデヴ・ハインズへの期待は止まらない。(text by 吉野敬一郎)
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PROFILE
Blood Orange
ソランジュやスカイ・フェレーラ等話題のアーティストのプロデュースを数多く手がけるデヴ・ハインズのプロジェクト。テスト・アイシクルズのメンバーとして活躍。同バンド解散後、08年にライトスピード・チャンピオンとしてソロ・デビュー。これまでに同名義で2枚のアルバムをリリース。2011年にブラッド・オレンジ名義のデビュー・アルバム『コースタル・グルーヴス』をリリース。