俺たちは、一番おいしく食べてもらえるような環境を提供しているだけ
──NikoんはSNSの使い方も印象的です。アカウント名の末尾には「[総意]」の文字があって、言いたいことがあればnoteでしっかり発信していく。今年1月には、キタニタツヤ氏に「和式オルタナ」として他のバンドと一緒に紹介され、大きな話題になりました。
オオスカ:キタニくんからしたら、俺らみたいなバンドを紹介するメリットはないわけですよ。自分の音楽を聴いてくれている人たちに、俺たちを知ってほしいから名前に出してくれただけだと思うんです。彼も虚空に向けて勧めてるわけではないので、勧めるなら、聴いて、感じてもらう必要がある。だからキタニくんは自分のワードセンスとか、手札を使って面白く思ってもらおうとした。
──それがきっかけでサブスクを停止したのは、どういった流れなんでしょうか。
オオスカ:ただ、他のバンドと一緒くたにされたときに、そういうバンドと別に一緒に聴かれたいわけではないなと思って、それが考えるきっかけになったっていう感じ。確かに、サブスクに出してると、こういう風にまとめられちゃったりもするよなと思った。その時に、今のところNikoんってバンドはサブスクに向いてないんだなって思ったっていうか、俺らが享受してほしい環境ではないなと。
──仕方ないですけど、他のバンドとまとめられることで変な先入観が入ってしまいますよね。
オオスカ:究極言うと聴いてもらえるだけいいんですよ。逆に言うと何も思ってなくて、ただそういうことになるんだな、っていう感覚。キタニくんが偉いとかリスナーが偉いとかもないんですよ。俺らみんな一緒だから。どう聞かれたってぶっちゃけいいっちゃいいんだけど、俺らはもう防ぎようがないじゃないですか。世の中、音楽をYouTubeで聴くだけの人も、違法アップロードされたドラマを観る人もいる。でもそれを面白いっていう人のことは止められないわけです。そのうえで、俺らは面白いと思った形で提供してるだけです。俺はどちらかというと枠組みにはめられないほうが、自分の音楽が正当に伝わると思ってる。ギターロックでもノイズバンドでもないし、なんだかよくわからないものに名前を付けたがる自分もいるから難しいんだけど...。
──シーンやジャンルは曖昧なものだし、そのバンドに対して別のバンドで例えたり、別のバンドを並べるのも、一歩間違えると失礼になってしまう。難しいですよね。
オオスカ:でもその人は、それが一番伝わるツールだと思ってるわけで。分かりやすくないものって非常に人は手に取りづらい。そして、勧めるのであれば、聴いて、感じてもらいたいと思ってるわけだよね。それを、より伝わりやすく共通言語として使っている。音楽も音楽でなんだかよくわからないくらいには多様化しちゃってるわけじゃないですか。ジョン・ケージの“4分33秒”(註1)みたいな、これを音楽って呼んでいいのか、みたいなものも存在している。だから、自分が一番正しいと思う形をみんなが考える、でいいんじゃないですか。
註1:4分33秒という時間のみが決められた、聴衆が無音に耳を傾ける作品。
──各々が考える。まさにNikoんが望んでいるスタイルですね。

オオスカ:逆にキタニくんはすごく考えてるんだと思った。こういうバンドを紹介するにあたり、すごく気をつけて喋ってくれたのも伝わってるし。ライターの人だって、俺らが思う何千倍も自分たちの音楽のことについて考えて言葉を出してくれたりするじゃないですか。逆に言うともっとラフでもいいんですよ。そういう人たちも存在していいし、すごく強い熱量の人も存在していい。だから悪口も書いていいよって言ってるし、SNSはそれが自由に言える場であるべきだと言ってる。
──熱量や深さは自由なうえで、考えるということが大事なんですね。
オオスカ:ただ俺たちは一番おいしく食べてもらえるような環境を提供しているだけで。ラーメンだったら熱いうちが一番おいしいから、そういう風にこっちは提供するし、その状態で食べてほしいです、とは言うけど、そう食べてくれない人も中にはいる。熱い飯が食べれないから冷まして食うのが好きなんだって人に、いや熱いまま食えよっていうのも、それはそれでわがままじゃないですか。
──オオスカさんが個人アカウントを削除して、バンド・アカウントに[総意]をつけたのはなぜなんでしょうか? 鑑賞のノイズになるからかなと邪推してしまっていたのですが...。
オオスカ:あれはお客さんが引用リツイートで、サブスク停止に関して、「こういうのっていちいち思いついたかのように活動してるけど、ぺやんぐの確認とか取ってんの?」「バンドの総意じゃなくてお前の独断で動いたりしてんじゃないのか?」みたいなことを言われたことがあって。でも、二人でバンドやってたら、「こう思ってんだよね」とか「こういう風にしたいと思ってんだよね」みたいな話はするじゃないですか。もちろんNikoんでも「それおもろいね」とか、「私もそう思うわ」みたいな話をしてるんだけど、それをいちいちツイートするときに説明したりしないじゃないですか。だから[総意]をつけて、ぺやんぐも俺もスタッフの人もあのアカウントつぶやくっていう形にした。だからSNSはノイズでもなんでもなくて。あれはトイレの落書きとかチラシの裏って言ったりするけど、それにしては目に入る。だから飲み会とかと近いんだと思う。一緒にみんないて隣の席がうるさかったら聞こえてくるしイラッとすることもあるけど、トイレの落書きにイラっとしないと思うし。
──SNSが飲み会...。確かに、しっくりきますね。
オオスカ:SNSに対してはそれくらいしか思ってないっていうか、俺がなにか言って軽くボーンって燃えても、俺はこうしたいって言ってるだけで。でも全く自分が100%正論も言ってると思わないから、そういう価値観もおもろいなって思えることがあったら、SNSっていう媒体はすごいいいものだなって実感できるんだろうし、ライブが終わってNikoんって名前で調べたら俺らのことを考えてくれた人たちの言葉がすごくダイレクトに伝わってくる。それはいいことだし、結局道具は使いようですよね。
──取材日の今日が締め切りで、限定予約会で販売した、アルバムの先行視聴ができる白盤のレヴューが届いていますよね。もう読まれていますか?
オオスカ:多分100件くらいは送られてきてて、全部読んでます。みんなちゃんと書いてくれてて、それがすげーよかった。めっちゃ嬉しいです。本当に1曲ずつちゃんとレヴューしてくれる人もいて、匿名だからもっと批判的なことも来るかなーって思ったんだけど、別に意外とそんなこともない。リリース前にそういう声をもらえたっていうのは嬉しいですね。このレヴューが特設サイトにも全部載るわけで。それは逆に、SNSとかネットが普及したから良かったことでもあるよね。
──誰の意見にも左右されていない、鮮度の高いレヴューを読むことができるのは貴重ですよね。NiEWに設立されたBBS「Nikoんを語る掲示板」はどうでしたか?
オオスカ:もっとアンチがいっぱい増えて欲しかったんだけど、意外とみんな優しくて。
──まだできたばっかなので、これからですよね。
オオスカ:そうですね。あれは存在し続けることが大事だと思っていて。フラッと見に来たらインフォメーションがあって、俺たちも発言するし、誰でも自由に発言できる。そういう場があることに価値があるのかなと。SNSのオープンチャット、5ちゃんねる、Yahoo!のコメントみたいな感じで、より便所の落書きに近い。なので、もっと雑に動いていいんだよなって感じだけど...。
──今回の〈アウトストアで47〉は『fragile Report』を購入すると特典でツアーへ招待されるという、前代未聞の施策が行われています。さらに友達を1人連れて来ることができると。前回のツアーに引き続き、とてつもない労力がかかっていますが、どんなことが起きてほしいですか?
オオスカ:これで大きなムーヴメントを起こすとかよりも、俺らがそれを実際に体験してみてどう思えるかってことが大事かな。全国回って、各地で見てきたものをどう吸収するのか。あるいは、知らない人にライブを観てもらって、その人たちがどう受け取るのかとか、自分たちのCDを買った人がどういう人たちか知りたい。ライブに来たくてCDを買った人たちががっつり可視化される機会ってないじゃないですか。
──かなり貴重な機会ですよね。今回の販促方法やツアーを経て、業界を変えたいみたいな気持ちはありますか?
オオスカ:会社でやってる以上、業界にはルールがあって、それはちゃんと理由があって成り立ってるはずなんだけど、音楽って難しいんですよ。カップラーメンだったら売り上げでデータを取れるかもしれないけど、音楽ってすごくナマモノなんで、そんな単純じゃない。なのに全部そのルールで勝負しちゃうから、結局同じやり方になってくるんですよ。
──やり方たくさんあるけど、そう簡単ではないですよね。
オオスカ:難しいからしょうがない面もあるんですけど、音楽でお金を儲けたりとかする人たちはそういうやり方を好んでやってる。なぜかっていうとそれは考えてないからなんですよね。もちろん彼らは売るのが仕事で、その気持ちは大事なんだけど...。ライブハウスの人、CDを卸すレコ屋の人、ライターの人、バンドマンも、現場の皆はそれはわかってるんだけど、市場を担って、手綱を引いてる大人が何も考えないままやってたら、バンドが続いていかなかったりするわけじゃないですか。だから、柔軟に活動できるように業界の風通しが良くなるといいなと思って、我々はこんな感じのことをやっていると。
──avexというメジャー資本のバックアップの下でやるということに意味がある?
オオスカ:メジャーだからこそ面白いって思いたいし、思ってほしい。インディーズがやってるから面白いとか、資本金がめちゃめちゃあるところがやってるから面白いんじゃなくて、メジャーの中で、こういうやり方もあるんだよっていうことを言いたくて。メジャー、インディーズでも関係なく、いろんな形がいろんな所で起こっていればいいはずって思っちゃう。それで俺らが起点に何か変わればいいなとは多少は思ってます。
──ありがとうございます。〈アウトストアで47〉に向けて意気込みはありますか。
オオスカ:まあ楽しく回れたら。面倒くさいおじさんとか、打ち上げで絡んでくるやつがいっぱいいたらいいなと思います。
編集 : 菅家拓真
RELEASE

2nd Album「fragile Report」(CD ONLY)
2025年9月24日(水) リリース
※ 前代未聞の初回限定封入特典「47都道府県ツアー招待券」付き!
EC予約:https://nikon.lnk.to/fragile_report
特設サイト「バンドって、なあに?」
https://fragilereport47.jp/
8/27の渋谷クアトロ公演会場とHOLIDAY! RECORDS限定で実施の「限定予約会」の特典CD(アルバム全曲を先行試聴できる白盤)を入手した方々から届いた『熱血レビュー』を批判も含め全文掲載中!!
収録曲:
01. fragile report
02. bend
03. nai-わ
04. 靴
05. dried
06. さまpake
07. とぅ~ばっど
08. グバマイ!!
09. (^。^)// ハイ
EVENT INFORMATION

2nd Album「fragile Report」購入者特典LIVEツアー「アウトストアで47」(全49公演)
※ 各会場、定員に達し次第〆切 / 先着申し込み順
※ 申込方法などの詳細は、CDの封入チラシに記載
「Nikoん × Apes presents『Risorgimento』 Nikoん Re:TOUR -チッタ360 -
2025年10月30日(木) at 神奈川・川崎 CLUB CITTA’
OPEN 18:00 / START 19:00
出演:Nikoん / Apes
先行チケット販売(先着順)
期間:9/30(火) 23:59まで
URL : https://eplus.jp/nikonxapes/
INFORMATION
【公式X】
https://x.com/Niko_n_band
【公式Youtube】
https://www.youtube.com/@Niko-bp6ix
【Nikoんnote】
https://note.com/brainy_lilac61
【Nikoんを語る掲示板】
https://niewmedia.com/bbs_nikon/
【撮影協力:mona records】
https://www.mona-records.com
PROFILE:Nikoん

東京ローカル育ち、暗黒舞踏家の息子で嫌われもののギターボーカル「オオスカ」と、鹿児島生まれ、原石のまま三十路を越えた歌姫ベーシスト「マナミオーガキ」の2人からなるロックバンド。仲良くやってます。