2025/09/26 18:00

INTERVIEW : オオスカ(Nikoん)

オオスカ

ツー・ピース・ロックバンド、Nikoん。〈FUJI ROCK FESTIVAL '24〉でROOKIE A GO-GOに選出されたほか、後藤正文によって後進ミュージシャンの育成を目的に設立されたAPPLE VINEGAR - Music Awardで、ファースト・アルバム『public melodies』が特別賞に選ばれるなど、いま大きな注目を集めているバンドだ。2,500円という破格のチケット代で全30公演の九州・関西ツアーを完走し、2ndアルバム『fragile Report』をリリースした彼らの足は止まることを知らない。今回OTOTOYでは、デジタル配信についてやカルチャー観についてはもちろん、音楽との向き合いかたや、プロモーションの詳細をたっぷり語ってもらった。

インタビュー&文 : 菅家拓真
撮影 : 伊藤瑠生
撮影協力 : mona records

ライブのために、“演技”をやめた

──セカンド・アルバム『fragile Report』発売おめでとうございます。そして、前作『public melodies』のリリース追加ツアー〈RE:place public tour〉完走おつかれさまでした。ツアー・ファイナルは行けなかったんですが、前日の〈FEVER〉の公演に行かせていただきました。

オオスカ:いつもとやってることは別に変わんないね。準備しすぎて逆にファイナルより前日のほうが良かったんじゃないかって(笑)。

──ファイナル公演は編集部の人間も観に行かせていただいて、とても素晴らしかったと聞いています。話を遡って、2025年1月9日のクアトロ公演〈謝罪会見〉が決まった経緯を教えてください。チケット代が2,025円だったことも印象に残っています。

オオスカ:まず、Nikoんのチームにアラヤさんっていうおじさんがいて、ぺやんぐ(Ba,Vo)と出会わせてくれたのもこの人だったんですよ。業界関係なく、ただバンドやってるときに出会った友達みたいな感じで仲が良くて、そのアラヤさんに相談を聞いてもらうオブザーバー的なLINEがあるんです。そこで公演の3か月前くらいに急に「1月、クアトロを押さえてるんだけどなんかやる?」って言われたんですよ。maximum10の加入もその後くらいから話が本格化してきたって感じですね。

──なるほど。

オオスカ:1月のクアトロは、最終的にちょっと赤字は出たんですけど、アラヤさんが「別に赤字でも俺の方でうまくやるわ」って言ってくれて。だから、1月のクアトロは事務所がついてたからやったって感じではない。俺らとしては飛び級くらいのライブハウスだったんで、ここで退いたら負けやなみたいな気持ちもありつつ、一回クアトロで遊んでみっか、みたいな感じでした。

──自分はちょうどそのライブが発表された時期にFEVERで行われていた、Nikoん、とがる、ANORAK!のスリー・マンに行きました。1年弱が経過して、先日同じ箱で拝見したのですが、前回に比べるとめちゃくちゃ音が洗練された印象で聴きやすかったです。舞台上での音作りやPA的な処理が変わったんでしょうか?

オオスカ:いや、単純にライヴの前にレコーディングをしたっていうのがでかいんじゃないですかね。うちはサポート・ドラムですけど、ファイナルとその前日のライブは、セカンド・アルバムでもレコーディングをしている人がそのまま演奏していて。だから曲の解像度が変わって、単純にライヴも突き詰められるような環境になった。レコーディングすると変わるじゃないですか。

──そうですね。音源として整える前提で曲と向き合う必要が出てきます。

オオスカ:その感じを経て、ライブでどうするかを考えたらすごく変わった。ファイナルのPAは昔からやってもらってる人にお願いしてたんですけど。PAの作業としては、これまで毎回むちゃくちゃにやってる中音を頑張って整えて、それを出してもらうみたいな感じでやってもらって。それで今回は中音や外音がどうというよりも、演奏した3人が持ってる音楽観がだんだんと形になってきたのにつながったという感覚かな。

Nikoん - RE:place public tour final(Live Digest at 渋谷 CLUB QUATTRO 2025.08.27)
Nikoん - RE:place public tour final(Live Digest at 渋谷 CLUB QUATTRO 2025.08.27)

──ありがとうございます。〈RE:place public tour〉では関西、九州移住と題し、2か月で30本のライブを回りました。何か気づいたことはありましたか?

オオスカ:この本数やるんやったら、いろんなものを犠牲にしたほうがいいんだなと思った。打ち上げて酒飲んでどんちゃん騒ぎするとかって違うよなと。やっぱり体との戦いになってくる。お酒もやめたし、この本数やるんだったらやらなきゃいけないことがあるなと。

──体を作るフェーズになってきますよね。

オオスカ:ならざるを得ないんだなって感じ。それこそ大人のパイセンのバンドとか、めっちゃツアーやって全国回ったりしてるバンドとかもいるけど、煙草や酒をやめたとか、走り始めたって聞いても「またまた(笑)」みたいな感じに思ってた。でも実際やってみると、それくらいやんないと自分が納得する演奏をできない。体が言うことを聞かなくなってくる感覚がありました。

──そういった犠牲のうえでこのツアーを完走し、パフォーマンスとしても成長したと。

オオスカ:なんていうんだろうな。逆にパフォーマンスとかについては、あんま考えなくなった。何十本ライブに出て極限に精神も肉体もすり減っていく中で、自分が演じてたらどっかでボロ出るじゃないですか。じゃあ、それを「やらない」「演じない」「嘘をつかず」、それで思ったこと、感じたことが演奏に直結して出るように整えていく。ムカついても、「いいな」って思っても、悲しくても、それがそのまま出る。ごちゃごちゃ考えてたことをやめなきゃいけない。

──ムカついたから音をデカくした、みたいなことをポストしていましたよね。あの日は何があったんでしょうか。

オオスカ:なにかあったっけ? あ~、あれは関西の3、4本目だったんですけど、その日は壊滅的に声が出なくて。それでも逃げたらあかんなと思って今まで通りにやってみたら、思った以上にそれ(SNSでの発言)が取り沙汰されたっていうか(笑)。何かを破綻させたというわけではなくて、普段やってるものをより強く出したくらいなんですけど、別にそういう日もあるし、めちゃくちゃ静かに演奏したい日もある。もちろんバンドが全員で一致してるのがいいんだけど...。

──感情を素直に出力すると。それもライブ感かなと思います。

オオスカ:でもライブがどうとかも、正解をあんま探さないようにしてるかもしれない。探しちゃうと不正解が出ちゃうから。そんなこと考えてやってたら、誰のために演奏してるのかわかんなくなってくるっていうか。そこにいる3人が正しいと思う100%をやり続けてるだけですね。

──なるほど...。自分はライブとしての良さを増幅させながら、スッキリとした、ある種の音源感があるライブをしているなと感じました。それは先ほどレコーディングを経て得たものと言っていましたが...。

オオスカ:はいはいはい。

──逆に音源はファースト・アルバムの時から、イントロやサビ前に感じる高揚感や、最大火力をパッケージングしたようなライブ感があるなと思っていて。ライブと音源がボーダーレスだなと感じたんですよ。

オオスカ:それはテーマにあるかもしれない。割とそういう風に音源を作っていきたくて、録音段階のときは、虚像にしないようにしています。自分たちがライブも音源も楽しいって思えるような形を作りたい。

──やはりそうなんですね。ライブに行くと音源を聴きたくなるし、音源を聴くとライブへ行きたくなるんですよね。

オオスカ:例えば、音源だからって特別にシンセを入れたりもしない。別にシンセが弾けるわけでもないし、音楽の知識が潤沢にあるわけでもないわけで。じゃあ自分たちが混じりっけなしにやり続けてきたものってなんだろうってなったときに、ライブだなと思った。作った曲をスタジオで練習して、ライブでやって、ライブでやったことを考えて録音する。割と普通の流れなんですけど、それを突き詰めた感じはあるのかな。

──できることを全力でやる。これに尽きますね。

オオスカ:まあ素直に。できないことはやんねえっていうことでもある。

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