2025/02/12 18:00

今抱えているものも忘れないでいたい

──“HAS”は『FLASH』のリリースツアー後にできたとのことですが、ほかのアルバム曲はいかがですか?

塩入:だいたいこのアルバムに向けて書いた曲ですね。“ララバイ”や“わたしたちのエチュード”は最後のほうにできて、“シルエット”は“HAS”よりも前に書いた曲です。もともとはかなり昔、友人の結婚式に向けて書いたもので。でも当時のわたしは結婚なんて考えたことがなかったし、まったく別次元の事象だったので、取ってつけたような歌詞になってしまって。でも楽曲としてはすごくいいのでストックしていたんですよね。時間が経って家族ができたので、もう1回着手したら自分なりの家族に対する歌になったのかなって。こうして歌詞を見てみると、子どもに宛ててるような気持ちになりますね。

──“シルエット”は家族愛と恋愛が溶け合っているような印象を受けました。

塩入:子どもに対して、大恋愛してる相手に対する気持ちになることが多いんです。帰り路は「早く会いたいな」と思いますし、ライヴで遠征してるときにテレビ電話をしようとしたときは「今かけたら迷惑かな……!?」と悩みますし。恋愛してる相手がひとり増えたっていう感じなんですよね。昔も今も変わらず夫のことがこの世でいちばん好きで、その隣にもう1個特別枠で好きな人が増えたというか。

──お子さんは塩入さんのことを「ふゆちゃん」とお呼びになるんですよね。それも恋愛関係っぽいなと。

塩入:夫がわたしのことを「ふゆちゃん」と呼ぶので、子どもも自然とその真似をするようになって。わたしも「お母さん」と呼ばれる感じの人間でもないので、「ふゆちゃん」呼びでいくことにしました。保育園でも「ふゆちゃん、ふゆちゃん」と言いすぎてるみたいで、先生に「ふゆちゃんというお友達がいらっしゃいますか?」と聞かれるという事件も起きますけど(笑)、それもあって相棒みたいな気持ちを抱けていますね。

──『HAS』は信念を貫いて生きることにスポットが当たった曲も多い印象がありました。“わたしたちのエチュード”や“CLASSIC”、“VS”などは、それに立ち向かっていくようなニュアンスというか。久しぶりに塩入さんの怒りに触れたような感覚もありましたが。

塩入:今もちょくちょくキレてはいますけど(笑)、新鮮な怒りは最近あまり感じられなくなってきていて。文句を言っている人間を見ていても、腹が立つというよりは冷めてしまうことが増えてるんですよね。SNSには文句が溢れすぎていて、4、5年ぐらい前から怒り以外のエネルギーの放出をしたいなと思うようになりました。だから挙げていただいた3曲も、あざ笑うというニュアンスのほうが強い気がします。「どうぞご勝手に」っていう気持ちですね。それこそ“CLASSIC”は、高校時代から22歳でFINLANDSを始めるまでの間に、地元で感じていた憤りなんですよ。

──2007年から2013年くらいのこと。“わたしたちのエチュード”の歌詞にも《2009年を未だ生きている人》という文言がありますね。

塩入:同じ題材ですね。当時抱えていた生きづらさや苛まれていたこととか、「絶対にこれは正しいことではないのに、なぜこれが正しいとされているんだろう」と感じる風習がたくさんあって、そのときのことを思い出しながら作りました。新鮮な怒りではないけれど、今もあのときに感じたことを鮮明に思い出せるんですよ。

──なぜそれを今、曲にしようと思われたのでしょう?

塩入:地元に帰る機会がすごく多かったからだと思います。建物の雰囲気や駅の造りを見ながら「こんなに変わったんだな」「ここは変わってないな」と思ったり、「あの頃の自分はなんであんなに生きづらかったんだろうな」と考えたり。思い出すきっかけが増えたのと、思い出したときに「やっぱりあのときのあの人たちは正しくなかった。わたしはそれを真に受けて腐らなくてよかったな」と思えるんですよね。だから当時抱えていた怒りというよりは、「当時の自分よくやったぞ。よくNOと言ったぞ」という気持ちを書いているんです。この10何年で、やっぱり人生は自分が何を選ぶかで変わっていくものだなと感じるので。

──よく「自分で選んだものを持てているほうが幸せだ」とおっしゃっていますよね。

塩入:いろんな選択をミスってるんだろうけど、やっぱり自分が決めたという自負がある選択を「間違っていた」と思いたくない。あのとき感じた気持ちに素直に従ってよかったと思いますし、あのときに感じた憤りや生きづらさはほぼ解消されてはいるけれど忘れてはいなくて、それもよかったなと思うんです。今は今で別の生きづらさがあるので、今思っていることは10年後の自分はどう思ってるんだろうなという興味がある。だから今抱えているものも忘れないでいたいんですよね。

──“VS”のサウンドには今語っていただいたような小気味よさも出ていると感じました。ちょっと歌謡曲テイストなリフもインパクトがあります。

塩入:“VS”のアレンジは曲のテーマに合うと同時に、ライヴをしていて自分がテンションの上がるサウンドでもありますね。この何年間このサポートメンバーと一緒にたくさんライヴをさせていただいて、「メンバーにはこういう曲でこういうふうに活きてほしい」「そのなかでこんなふうに歌いたい」というイメージがありましたね。もともとあったフレーズを織り込んで、歌詞とアレンジ同時進行で作っていきました。作っているときは気持ちいいんですけど、歌ってみたらめちゃくちゃ大変でしたけど(笑)。

この記事の筆者

[インタビュー] FINLANDS

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