2025/02/12 18:00

INTERVIEW : FINLANDS(塩入冬湖)

FINLANDS(塩入冬湖)

FINLANDSの約4年ぶり4枚目となるフル・アルバム『HAS』。ギター・ヴォーカルの塩入冬湖はこの4年の間に結婚と出産をし、新たなライフ・ステージを迎えた。とはいえ塩入は恋人の頃と同じく伴侶に大恋愛を続け、子にも同様の愛情を注ぎ、生きづらさを抱えながらも自分の意思や美学を貫いて音楽活動を続けている。同時に時間の経過や環境の変化により物事への解像度が上がっていたり、同じ感情を抱きつつも以前とは違う角度から事象を捉えたりなど、『HAS』の楽曲群には年齢を重ねたからこその視野の広がりが刻まれていると言っていい。サウンド面でもFINLANDSが追い求めるポップネスが花開くと同時に、彼女の音楽を支えるサポート・メンバーの旨味が色濃くにじみ出た、奥行きのある音作りだ。彼女が塩入冬湖として、FINLANDSとして生きてきた軌跡が宿る12曲。それが生まれた背景を紐解いた。

インタヴュー・文:沖さやこ
写真:梁瀬玉実

「手放せばいい」から「諦めるわけにはいかない」に

──ニューアルバム『HAS』について、塩入さんは公式コメントで「前作から今に至るまでの4年間、形を変え続けた経過を写した作品」とおっしゃっていました。その変化とはどういうものなのでしょう?

塩入冬湖(Vo&Gt):物事の捉え方ですね。この4年で「諦めるわけにはいかない」と思う瞬間がすごく増えたなと思っていて。前作『FLASH』までは恋愛にしろ、人との付き合い方にしろ、最悪の場合は全部手放せばいいと思って生きていて、そう思えていたからギリギリまで粘って諦めないでいられたし、それが生きやすさでもあったんです。でも家族ができたことで、そうはいかない場面が増えたんですよね。

──前作『FLASH』が2021年3月リリース。その年の12月に塩入さんは結婚を発表し、翌年6月に第1子の出産を発表しました。環境の変化は多かったですよね。

塩入:すっごく好きな人と一緒にいることも、子どものことも「無理だからできない」なんて絶対にできないし。諦めちゃいけないことだなと思うことが増えました。そういうなかでFINLANDSに関しても「絶対に諦めるわけにはいかないんだな」と再認識できたんです。だから自分の大切なものに対して、根底から「絶対に何があっても諦めない」と思えるようになったんですよね。

──それを自覚したのはいつ頃ですか?

塩入:ずっと前からぼんやりと思っていたんですけど、こうやって言語化できたのは本当に先週の金曜日ぐらいです。

──この取材の4日前。

塩入:友達とふたりで話しているときですね。わたしは自分の話をするのがすごく苦手で、誰かの話に茶々を入れるくらいの立ち位置がいちばんラクなんです(笑)。でもふたりとなると、自分のことを話さなきゃいけないじゃないですか。そういう状況に置かれて、今の自分が物事や環境に対してどう捉えてるのか言語化できたというか。自分は「諦めるわけにはいかない」「捨て身になったときは全部さらけ出さなきゃいけない」と思って生きているんだなと自覚しましたね。

──そういう思いが集約された言葉がアルバムタイトルやアルバムラスト曲のタイトル“HAS”だと思うのですが、それはもともとあった言葉なんですよね。

塩入:“HAS”という曲自体は『FLASH』のリリース直後には作っていたんですよね。アルバムを作り終えると基本的には別の気持ちで過ごすようになるので、『FLASH』のときの感覚とはまた違って。あの頃はまだリリースツアーを3本だけやって(※2021年4月の東名阪ワンマンツアー〈FLASH AFTER FLASH TOUR〉)、その後はしばらく家にいる日々だったんです。

──2021年の春は、まだコロナ禍の制限が多かった時期でした。

塩入:だから曲をいっぱい作っていて、なかでも突出して好きな曲が“HAS”でした。次のアルバムのコンセプトとか、こういう作品にしたいとか、こういうことをやりたいとか、そういうことよりも、今のわたしがすごくいい曲だと感じるから絶対に次のアルバムに入れようと思っていましたね。最終的には音や言葉はすごく変えたので、この4年間があったからこそ今回収録されている“HAS”にたどり着きました。この4年で「諦めるわけにはいかない」という気持ちを得た。もちろん諦めない、手放せないということは背負い込んだものがものすごく増えたということだから、絶望的でもあると思うんですよ。

──実際『FLASH』までの塩入さんは、それを感じていたから「いつでも手放せばいい」と考えることで自分を鼓舞していたのだろうなと想像します。

塩入:それがこの4年間で、今まで得てきたいろんなものを背負い込めるようになったんですよね。今まで持ってきたもの、携えてきたものという意味を込めて“HAS”というタイトルをつけました。「諦めるわけにはいかない」という意識はずっと制作中もあって。

──「諦めるわけにはいかない」という意識はこの4年間でじわじわと芽生えていて、お友達と話したことで自覚をした。それが結果的に「HAS」という言葉の意味と結びついたということですね。

塩入:アルバムタイトルは語感を重視しているので、文法的に合っているか合っていないかは別として、「HAS」は言葉としてすごく好きなんですよね。コンセプトアルバムではなく、4年間を映し出しているオリジナルアルバム。そういう作品に言葉を充てるなら、「今まで持ってきたものたちです」と表明できることがいちばん正しい気がしたんですよね。

──「持ってきた」は、「生きてきた」とニアリーイコールなのでしょうか。

塩入:この12曲は「生きていくなかでひとりの人間がちゃんと持ってきたものたち」という感覚が強いですね。誰だって持っているものはすごくいっぱいあると思うんです。でもわたしたち世代の人たちは持ったもの一つひとつに構っている余裕がないのも現状だと思うんですよね。自分が生きているなかで起こる事象や出来事、湧き上がる感情を総称するような名前をつけておきたかったんです。

FINLANDS - ナイトシンク (Music Video)
FINLANDS - ナイトシンク (Music Video)

この記事の筆者

[インタヴュー] FINLANDS

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