INTERVIEW : 松下マサナオ(Yasei Collective)

ライヴの空気感、音圧、そして演奏技術。彼らが音を出した瞬間に、そのすべてがほかのバンドとは一線を画した一級品であるとわかる。そんなバンド、Yasei Collectiveのリーダー、松下マサナオは、大学卒業後に音楽を学ぶために渡米。在米中からその実力が認められ、帰国後にYasei Collectiveを結成、Zildjian、BonnyDrumとエンドーサー契約を結んでいる。現在は、自らのバンド活動のかたわら多くのセッションにも参加し、ドラムの講師としても活躍している。そんな輝かしい経歴の裏には、音楽のみとがむしゃらに向き合ってきた松下の真摯な姿勢があった。

今回は、そんな松下のアメリカでのエピソードや、Yasei Collectiveの活動、ドラムやバンドに対する思いなどをうかがった。このインタビューを読み、いまのヤセイが詰まったライヴ音源を聴いて、彼の生き様を感じてほしい。1人のミュージシャンとして自立するためには、これだけの覚悟と努力が必要なのだ。

取材 & 文 : 前田将博

松下マサナオ

お金なくなってもいいからやりたい人と演奏した方がいいなと思って

——大学卒業後に渡米して音楽の学校に行かれたということですが、大学時代はどういった活動をしていましたか?

大学1年生のときには音楽でやっていこうって決めていたので、めっちゃ練習しました。和光大学っていう、すごい変わりものがいっぱいいる学校のジャズ研に入ったんですよ。そこで本格的に音楽をやりはじめた感じですね。ほんと、学校は音楽を練習しにいくだけでした。

——音楽活動はジャズをメインに考えていたんですか?

ジャズ・ドラマーになろうと思ったわけではないんですけど、うまくなるためにジャズを練習しました。その後、LA Music Academyっていうアメリカの音楽の学校に行くんですけど、それもジャズ寄りの学校でした。

——アメリカではどのような活動を?

本当に学校しか行ってなかったです。学校はロサンゼルスにあるんですけど、グランドキャニオンすら行かなかったですもん。日本人の生徒って、みんな行くんですよ。日本人で固まって。日本人で固まったら絶対に終わるなと思ったので、いきなりベネズエラのやつとニューヨークのやつと一緒に住みはじめました。それのせいで毎日日本に帰りたかったですけど、おかげで英語もすぐ覚えて、日本人とつるまずにジャムッたり練習したりできました。1日のなかで授業が朝9時から夜6時まであるんですけど、それ以外の時間の8時間は個人で練習して、2時間くらいはジャムってたから、ほとんど寝ないで1年間やってましたね。

——他のアーティストのライヴは観にいきましたか?

超観にいってましたね。練習するかライヴ行くかってくらい、夜学校にいないときはライヴに行ってました。こっちだとブルーノートとかビルボードでしか観られないようなアーティストが、1000円プラス、ドリンクとかで、しかも近い距離で2ステージ観られたりするんです。いつ行っても良いアーティストが出てるところがあったので、そこに毎週2日くらい行ってましたね。

——アメリカ生活を経て、ご自身のなかで変わったと思うことはありますか?

やっぱり音楽に対する見え方とか角度は、すごい変わりましたね。好きだったアーティストも変わりました。生徒のなかにも規格外の連中がゴロゴロいたので、そういうすごいアーティストを近くで観て、根本が崩されました。根本を変えてアメリカで新しいなにかを体に刷り込んでいくか、それを拒否して日本に帰って日本的な価値観に磨きをかけていくか、どっちかしか自分のなかに選択肢がない状態だったんですよ。だから、いままで習ってきたことは全部捨てて、ゼロからもう1回自分という容器に知識とかテクニックを入れ直した感じですね。

——そのままアメリカで音楽を続けようとは思わなかったんですか?

すごい思ってたんですよ。実際、その学校で僕が一番お世話になったラルフ・ハンフリー氏に、日本人の生徒が増えてきたし先生が足りないから、個人レッスン用の講師として残らないかって言われて。それで弁護士をとおしてビザの申請までしたんです。でも、クリントン政権のときは海外からの労働者がすぐに入れたんですけど、そのときのブッシュ政権はすごい閉鎖的になってて、最後はクジ引きだったんですよ。

——クジでビザがとおるか決まるんですか!?

そうなんです。1次審査はとおって、次はクジみたいな。それで落ちて、マジかよって思いましたね。内定もらってた会社には申し訳ないけどって。ビザ申請するのに会社や学校から書類ももらって、日本からも資料を取り寄せて、弁護士とおして全部やったんですけど、それでもダメでした。

——クジで落とされたとなると、かなり悔しいですよね。

最初はすごい落ち込んで、超飲んでダメになったんですけど、仕方ないと思って帰りました。でも、学校でもう1年とかやれば向こうにいられたんですよ。でも、ダラダラいるのもよくないなって思って。中西(道彦 / Ba、Synth)は同じ学校の半期先輩だったんですけど、彼は僕が帰る直前に船で演奏する仕事をアラスカの方でやってて、日本に帰ったら一緒にバンドやろうって言ってたので、時期が来たのかなって。それで、日本に帰って半年くらいでYasei Collectiveを作ったんです。

——日本に戻ってバンド活動をしようと決めたと。

そうですね。もともとはセッション・プレイヤーになりたかったので、ピンでの活動もしますけど。最初はジャズ畑に足を入れて、ピークのときは月に25本くらいライヴをやってて、それが収入源でした。ヤセイをはじめて1年くらいは、そういう活動も平行してやってましたね。でも、これは音楽じゃないなって馬鹿らしくなっちゃって。譜面もらって伴奏みたいな演奏をするんですけど、なんの刺激もないライヴで全然つまんないなって思って。これだったらお金なくなってもいいからやりたい人と演奏した方がいいなと思って、それで組んだのがヤセイでした。そこからいろいろ派生して、ほかのバンドだったりセッションだったりに呼ばれるようになりましたね。

売れる売れないは別にしても絶対に食いついてくれる人はいるだろう

——ヤセイのプロフィールを読むと、「エレクトロ、ジャズ、ロック、ヒップホップなどが融合されたNY音楽シーンのサウンドを国内で体現するべく結成」とありますが、ニューヨークにも行かれたんですか?

実はニューヨークには1回も行ったことがないんですよ。ずっとロサンゼルスにいたので。ロサンゼルスはフュージョンが一般的に根づいていて、みんな聴いてるんですけど、僕はフュージョンがすごく嫌いなんです。それゆえに、ニューヨークの音楽にすごく憧れていて。ライヴに行くときも、ニューヨークのミュージシャンがLAに来てるときに行ってました。だから、ニューヨークにいなくてもニューヨークの音楽ってだいたいわかるんですよね。いまはYouTubeがあるので、こっちにいても向こうでどんなことが起きてるかっていうのはわかります。3日前の向こうの超小さいバーのライヴ映像とかも観られるんですよ。そういう意味で、僕の思い描いていたニューヨークのかっこいいバンドっていうのは日本には絶対にいなかった。こういうのを国内でやれたら、売れる売れないは別にしても絶対に食いついてくれる人はいるだろうっていうイメージのもとに、中西と2人でヤセイをはじめたんです。中西とは同じイメージ、同じ思想で音楽に対して動いていますね。

——具体的には、ニューヨークの音楽シーンはどのようなものだったんですか?

当時は、ドラムンベースとかハウス、テクノとかを人力でやるっていうのが流行りはじめていました。

——それは、ヤセイでやろうとしていることの1つですよね。

そうなんです。今度夏に僕らが招聘するKneebodyっていうバンドも、当時LAでデビューしてすごい影響を受けたんですよ。彼らもジャズとエレクトロ、ヒップホップとかを融合したバンドで、ニューヨークに移り住んでからは爆発的な人気が出てグラミー賞にもノミネートされました。彼らの影響はすごくでかいかな。あと、僕の1番好きなMark Guilianaっていう、今度OTOTOYの講座でも取り上げるドラマーがやってるBeat Musicっていうバンドとか、Louis ColeっていうドラマーのGenerativeってやつとか。そのへんが僕のなかで代名詞的なバンドですね。

——バンド名には、「一人でも歩いていける集団」という意味が込められているそうですね。そういう意味では、松下さんと中西さんはミュージシャンとしてアメリカでもある程度認められていたわけですが、他のメンバーに関してもそういう方を選んだんですか?

斉藤(拓郎 / Gt、Vo、Synth)に関しては、大学の後輩ってだけです。僕は帰国してから行くところがなかったので、大学のジャズ研に行って練習してたんですよ。勝手に入って。あいつは3つ下でジャズ研の現役生だったから練習してて、「最近こういうエフェクター買ったんですよ」って持ってきたのがLINE6のマルチのいいやつだったんです。で、「どんな音出るの?」って訊いたら、僕がやりたいエレクトロ系のギター・シンセみたいな音が入ってた。なので、「ジャムってみようよ」って楽しげなことをやるように誘って、俺と中西でボコボコにいじめにいじめぬきました(笑)。崖から這い上がってきたところを、何度踵落とし食らわせたか。

——鍛え上げたと(笑)。

長野の山奥の山小屋に機材を運んで、1週間あいつができるようになるまでやるみたいな(笑)。「俺らは飯を食ってくるからお前は練習しとけよ」って、野球部みたいな感じで。あいつなにも弾けなかったんですよ。麻雀ばっかやってるやつだったので。それを僕らが抜擢して鍛え上げた。いまがあるのは俺のおかげですよ(笑)。

——当時はまだ3人だったんですね。

そうです。僕は中央大学のビッグ・バンドにも入っていたんですけど、別所(和洋 / Key)とはその頃から友だちで、たまにセッションとかもしていました。拓郎は当時アドリブ力というか、インプロビゼーションする能力が全然なかったので、そういうジャズっぽいこともできる鍵盤を探していて、連絡したら「やるやる」って。あいつもうまく騙されて入ってきたところに、ガチャッて鍵を閉めてボコボコにしました(笑)。いまではあいつはポップス関係の仕事もやってるし、バンド兼サポートとかいろんなところでやってるんですけど、それも全部僕のおかげってことで書いといてください(笑)。

難しいことをやろうとは思ってないです

——ヤセイに入ることで、みんな自立したプレイヤーになっていったんですね(笑)。ヤセイは1stアルバム『Kodama』を出したあとに、2012年から2013年にかけてライヴ盤の4部作をリリースしました。1年間で4枚のライヴ盤を出すのは、かなりハードな企画ですよね。

すごいですよね。僕がはじめにライヴ盤出したいって言ったんですけど。当時はいまより全然知名度もなかったので、安いライヴ盤を1枚出したら気軽に配れるしいいんじゃないかと思ったんです。当時1stアルバムをMine's Recordsから出したばかりだったので、ボス(Mine's Records代表、石塚信孝)に相談したら、「せっかくだから4枚出しなよ」ってわけのわからないことを言われて、1年間に4枚リリースすることになったんです。ライヴ・レコーディングって録る方もやる方も苦痛じゃないですか。ひたすらミラクルが起きるのを待つわけですよ。それが滅多に起こらないわけです。演奏してるけど機材を回してるしっていう、入り込めないライヴが続きましたね。超苦痛の1年間だった。でも、それですごいバンドは成長しましたね。ボスはきっとそこまで考えてたんですね。

——では、今後もコンスタントにライヴ盤を出していこういうわけではないんですね。

しばらくはいいかな。あのレコーダーを見たくないですもん(笑)。ライヴ盤を4枚出して、今回OTOTOYでベストを出すので、今度は映像ですかね。なにかの折りにライヴDVDとかを出せたら面白いと思います。なんだかんだでライヴが好きなんでしょうね。ベストも、超いいですよ。

——松下さんは今度オトトイの学校でドラム講座の講師をやりますが、こちらはどんな内容になりそうですか?

変拍子に関しては、深く掘り下げられたらと思っています。みんながやってるカウンティングとは違う、自由な形で変拍子をとる。4/4(拍子)みたいな感じで、7とか9とか11とか13とかをとれるようになる方法論があるので、それについて触れたいです。あと、海外のすごいドラマーっていうのは、本当だったら俺らがすぐに見つけられるところにあるんだけど、なかなか見つけ方がわからなかったりすると思うので、それを見つける手段。YouTubeだったりサウンド・クラウドだったり、そういうところにも触れたいですね。でも、難しいことをやろうとは思ってないです。今回は初心者の方も多くいるみたいですし、知りたいことがあれば教えます。今回はmabanua君(Ovall)と2人でやるっていう面白い企画なので、楽しみです。スタイリッシュにエッジーな感じでやりたいですね。

——松下さん個人として、一番伝えたいことはなんですか?

日本では、技術的に綺麗に叩くことや正確に叩けることがうまいっていうふうになりがちなんですけど、そうじゃないかっこよさっていうか。僕がアメリカで観てきたかっこいい人たちっていうのは、クリエイティブなことをやっている人なんです。だから、クリエイティビティに長けたミュージシャンになるための基礎技術みたいなものを伝えたいですね。人それぞれ違うと思うんですよ。ロック・ドラマーになりたいって人にジャズを教えてもしょうがないですし、その逆もあります。でも、そういうものを全部含めて、こういうことをやるとすごいかっこよくなるっていうものが、僕のなかにあるんです。今回はうまいこと反響があってすぐに定員になってしまったので、シリーズ化できればいいですよね。

——ほかに今後の予定はありますか?

8月22日にやるKneebodyとの2マンを観てもらいたいですね。あれを成功させることが、いまはなによりの目標なので。Kneebodyは本当にすごいですから。今度出すスタジオ盤もすごく良い出来だし、それを持ってヤセイのもとになったメンバー全員リスペクトしてるバンドとやるわけですからね。

LIVE SCHEDULE

2013年7月6日(土)@名古屋 CLUB ROCK'N'ROLL
doesn't レコ発 「否定が肯定に変わる。」

2013年8月3日(土)@恵比寿 BATICA
Urban Francu~SOUR×Yasei Collective~

2013年8月22日(木)@青山 CAY
Kneebody x Yasei Collective 「Wリリース・パーティ」
詳しくはこちら

>>お腹が痛い vol.4のライヴレポートはこちら

 
 

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筆者について
前田 将博 (純三)

V系生まれハロプロ育ち、aikoは俺のファムファタル。 Twitterは @junzo99 です。

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