ダメだったらまた配信のリリースし直せばいいやという。在庫抱えなくて済むしね。
──いまDJの話ででましたけどダウンロードで買い回ってます?
BeatportとBandcampが多いかな。ダンスもののシングルはそのふたつ、あとiTunesもあるかな。でもいまCDの宙ぶらりん感あるよね。アナログは復活したけど。2015年の自分のアルバムはCDのブックレットというのがひとつ力を入れているところだったから、CDってフォーマットを生かせて作るのが楽しかったけど。でも、なんかそうでもしないとCDって作らないというか。CDのブックレットの、印刷物としての存在感もいいんだよね。だからまたCDが作りたいというタイミングはどこかで来るかもだけどね。いまアルバム作ってるけど、そちらはいまはとりあえずダウンロードかなっていう。そういえばサブスクでミックスCDみたいにつながっているヴァージョンって聴く?
──あんまり聴かないかも……。あ、でも『DJ KICKS』の新作とかとりあえず聴いてみるかもというぐらいですかね。
それってなんでだろう? ミックスCDって買わない? なにで聴く?
──いややっぱりサンクラとかミックスクラウドですかね。
2020年に出した「Goodie Bag」、CDがミックスになってて、ダウンロードはトラックとして使ってほしいからバラ売りにしたのね。「聴かせたい」プライオリティはCDでミックスされた音源にあって。単品はデジタルで、っていう。ただその考えもちょっと変わってきて。サブスクだけはミックスで繋がってるってのもアリかもなと思ってて。サブスクでおもしろがってもらうための、いまやれてない可能性は試してみたいなとも思ってて。
──そのレスポンスというか、スピード感はデジタルならではですよね。
そうそう。ものを作るわけではないから、ダメだったらまた配信のリリースし直せばいいやという。在庫抱えなくて済むしね。段ボールの山を前に「これどうすんの?」って家族に言われなくて済むしさ、ボソっと横通るときに「減らないね」とか言われるのも忍びないしね(笑)。
──肩身が(笑)。フィジカルのリスクってインディとか個人でやっているとやっぱり大きいですよね。もちろん納得して出すことが大事だと思いますが。ひとつあるのが規模の問題というか。別にみんながみんなでかいチャートアクションを目指して音楽やっているわけじゃないというのはありますよね。それこそサブスクとダウンロードの話に戻ると、やっぱり規模感ってそれぞれのジャンルとかアーティストのライフスタイルによって全然違うじゃないですか。アヴァンギャルドなミュージックとかは、サブスクで大量に聴かれないから存在価値がないなんてことは絶対ないわけで。でもサブスクでの収益を目指せば、なにがなんでもある程度ポップでそれを聴く層の規模がものをいうと思うので。だから数百〜数千人の人が数千円分のデータをコンスタントに買ってくれれば、そのアーティストとしては制作費をまかなえて音楽生活を継続できるみたいな人もいるわけで、流行ったら流行ったで売り切れるものでもないから転売の餌食にもならずにちゃんとアーティストにお金が入るというか。
その収益で活動自体はまわっていくというね。音源を自分で買ったり、買われたりで再確認したことがあって、例えばBandcamp……って、OTOTOYでBandcampの話ばかりごめん(笑)。
──いやサブスクとダウンロードがインディとかDIYで自主でやっている人にどういう影響を及ぼすのかという話なんでどうぞ(笑)。
そこで買われているのを見てて、感じるのはやっぱりサポートされてい……サポートって言葉がこそばゆいけど、特に自分がBandcampはじめたのがコロナの初期の時期で、DJの現場もなくてという時期。でも、地方の昔の知り合いが買ってくれたりするのがわかったり、あとはBandcampに、買ったときにメッセージも書ける機能があるんだけど、その一言が実はすごい励みになるというか。あとはやっぱり売り上げは「あなたが活動を続けている方が世の中おもしろいと思っている」代がもらえるということじゃない? それを感じると、次もやろうって思うよね。自分が他の人の音楽を買うときもやっぱりそうだよね。「あなたはおもしろいから音楽活動を続けて」ということにベットしているんだよね。たぶん、そういうことなんじゃないかなというのは改めて感じる。サブスクももちろんそういう気持ちで聴いてくれていると思うんだけど、ちょっとそれぞれアーティストが目指すところによって違って見えるかなという。さっきの「サブスクは閲覧されている数」に感じる話じゃないけど。
──当たり前の話ですが、「買う」は、音楽家に対するシンプルなサポートですよね。サブスクも使いつつ、活動を続けてほしい人には作品も買うという。
そうそう「買う」ということが「今後もやってね」という、わかりやすいメッセージというかさ。
──意外とそういう言葉がアーティストさんが出ることってないなかなというのはあって。
そう? 俺ツイッターとかで新作が売れたときに「このお金でソフトシンセ買える」みたいなことつぶやいている(笑)。
──たしかに(笑)。いやそれぞれのスタイルでいいとは思うんですよね。いまはもちろんライヴが再開されたので現場にチケット代なりフィーを払っていくのもそうですが、例えばグッズとか物販で収益をあげられるタイプのアーティストもいれば、そうではないスタイルの活動のアーティストもいるっていうことなんですよね。単純に音だけ売ってシンプルにしたいという。
そうね。「買ってくれてありがとう」って、シンプルだよね。ただサブスク論争で、不毛なのは、なんというかさ、もともとモノを売っている側があえて意を決して「買ってください」っていかなきゃいけないのがなんか不自然じゃん(笑)。買ってくれた方がいいんだからさ。なんか変だよね。
──そうですよね。さらにライヴやフィジカルのコストを考えるとダウンロード販売が収益として重要になってくるアーティストやレーベルの層は意外といると思うんですよね。
最初に言っていたダウンロードがすっぽり抜けているって話ね。俺みたいな規模じゃなくて、もっと大きな規模で「ダウンロードが売れたから、コロナのなかでもスタッフが維持できた」みたいな話、Bandcampとかであるのかな。日本だけの規模だと難しいかもだけど世界だとあるんだと思うけど。そういえば2年前にBandcampをはじめていろいろ見てて思ったのは、若い人たちの動きに感化されたところあってさ。「なんだ、こんな自由にやっていいんだな」というのは目に見えたよね。例えば、TREKKIE TRAXのCarpainterくんが『SUPER DANCE TOOLS』みたいな名前でサラっとできた作品を15曲を並べて、Vol.1とかVol.2って出てて、あの感じはデジタルならではだよね。できたからただ並べますみたいなの、それはそれで刺激的だよね。
──最近、現場的にもわりとそういった世代との共演が増えている気がして。
そうそう、そういう感覚の交流も生まれているし、そういうのが楽しくて。
──そういえば、エンジニア的なところで、クラブものでおもしろい鳴りの傾向とかありますか?
最近のクラブものは、ハイハットの高域に関してこだわっている音作りが多い気がする。あと一時期に比べるとキックが小さい。なんというかそこにいるんだけど小さいというか。昔は、俺とかキックがいかにでかく出せるのかみたいなことばっかりやってたのに(笑)。昔のレコードを録って、一昔前にマスタリングしたレコードとかちょっといまのセットでハマらないなっていうときは、マスタリングし直してたりするからね。そういうトレンドはやっぱりあるよ。それはVOIDみたいなシステムがが出てきたから、別にこっちが低音を無理に出さなくても、。ちゃんとそこにキックがあればちゃんとした低域がでるというか。
──なるほど、ある種の解像度とかの問題ですね。
そうそう、なんでもいいから低域がでかく鳴っていればいいみたいなことでは今はないよね。でも、この前、新宿のBRIDGEでファースト・エディの1988年の曲かけたら「音いいなぁー」みたいな(笑)。もちろん、BRIDGEの音がそういうアナログの音に向けてチューンされているのかもしれないけど。細かいこと言ってないで1988年当時で正解だしてますねっていう。だからさっきの話と矛盾するけど、トレンド研究して反映したところで、「だからなに?」ってことにもなることもあるし(笑)。
──いまは新しいアルバムに向けてという感じですかね。
そう12月2日に、またBandcamp Fridayにあわせて先行を考えてて。去年出して勢いついてEPを連続で出して、やっぱりこのままやってもいいんだけど、アルバム作らないとと思って。シングルをBandcampだけで完結してしまうのも広がりを考えるとちょっとな、というところがあって。EPはサブスクとかに出す気がなかったから、もっと広く、大型店の棚にも置きたいよなというところ。でもそうなるとやっぱりアルバムとして出さないといけないな。
──フットワーク軽くEPは出して、アルバムはもっと広く出していくという。
今年はコレです的な、山を作るというかさ。
DJ TASAKAのニュー・アルバム『FILTERMAN』、OTOTOYでも配信中
自身のレーベルから作品が積み重なるごとにそのファンキーなエネルギーを増してく、「らしい」野太いグルーヴがジャッキンなアシッド〜ディスコ・テクノが駆け巡る、自身のレーベル3作目となるフル・アルバム作品。
シリーズ『音楽とダウンロードの現在』
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