忘却のカラスと記憶をめぐるマウント・イアリの選択──新アルバム『Now Only』配信スタート

昨春、夭折した最愛のパートナーの死をテーマに制作・リリースされ、衝撃と絶賛を浴びた『A Crow Looked At Me』から1年、マウント・イアリから早くもニュー・アルバム『Now Only』が届いた。ジュヌヴィエーヴ・カス トレイ夫人との出会いを綴った「TINTIN IN TIBET」から始まり、前作の続編でありながらも、少年期のエピソードを交えながら、彼の抑制された声と美しいメロディーで奏でられサウンドは、先へと踏み込んだものであるとうかがえられる。OTOTOYでは歌詞対訳デジタルブックレット付で配信します。この1年彼は何を見つめ前へ進んでいったのか、レヴューとともに浸ってみては?

前作からわずか1年で圧巻のニュー・アルバム配信スタート

Mount Eerie / Now Only

【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(16bit/44.1kHz) / AAC

【配信価格】
単曲 250円(税込) / アルバム 1,500円(税込)

【収録曲】
1. TINTIN IN TIBET
2. DISTORTION
3. NOW ONLY
4. EARTH
5. TWO PAINTINGS BY NIKOLAI ASTRUP
6. CROW pt. 2

REVIEW : Mount Eerie 『Now Only』

私たちは過去の堆積の上に生きる。だからこそ、過去の記憶はふとしたきっかけで私たちのもとを訪れる。『失われた時を求めて』にて、紅茶に浸したマドレーヌを口にすることが主人公の記憶のパノラマを開くように。それが無意識的な記憶の再帰であるとするならば、私たちは過去を物語ることで意識的に自らのもとへ記憶を留めようともする。

意識 / 無意識と記憶。マウント・イアリ=フィル・エルヴラムの前作『ア・クロウ・ルックド・アット・ミー』にて綴られたのは、癌で亡くなった彼の妻、ジュヌヴィエーヌの物語。そこでは、極めて個人的な妻との物語が、静謐なアコースティック・ギターとピアノの音色のもと描かれていた。

本作でも、音楽的特徴は前作を踏襲し、エルヴラムは一途に妻との物語を語る。妻との記憶が、時間の経過とともに風化してしまうことへの悲哀と恐怖。それが前作と本作を構築するパーツのひとつだ。さらに、その物語編纂作業の中で、エルヴラムは妻との記憶を呼び覚ます「何か」を探し続ける。かつて妻が住んでいたアパートで食べたオレンジ、妻のレコード、妻とそっくりな子供の目。そこにあるのは物に宿り、偶然・無意識に呼び起こされる妻との記憶だ。この世界に散らばる彼女との記憶の欠片を集め続けることが、この作品を構築するもうひとつのパーツを成している。

本作の最後を告げる曲名は「クロウ・パート2」。前作にて、こちらを見つめていたカラスは、妻との思い出をどんどん忘却の彼方へと連れ去っていってしまう。カラスを止めることはできない。記憶は時間とともに失われゆく。それはこの世界の摂理だ。

エルヴラムも。その忘却のカラスと共に生きていかねばならないことを知っている。だからこそエルヴラムの、物語を作り、記憶を宿す「何か」を探す旅路は続いていく。後ろ向きでは決してない。『ナウ・オンリー』。いましかない。そう、それは過去の記憶の堆積を見つめ、後ろを向きながら手探りでも前に進んでいくという、「いま」を生きるためのマウント・イアリ=フィル・エルヴラムの選択なのだ。(尾野泰幸)

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LIVE SCHEDULE

約5年半ぶりとなる来日ツアー開催!

〈7e.p. presents Mount Eerie Japan Tour 2018〉
2018年4月6日(金)@渋谷 7th FLOOR
時間 : OPEN19:00 / START19:30
出演 : Mount Eerie、テニスコーツ

2018年4月7日(土)@松本 Give me little more.
時間 : OPEN19:00 / START19:30
出演 : Mount Eerie、The End

2018年4月8日(日)@京都 UrBANGUILD
時間 : OPEN19:00 / START19:30
出演 : Mount Eerie、小池喬

2018年4月9日(月)@神戸 旧グッゲンハイム邸
時間 : OPEN19:00 / START19:30
出演 : Mount Eerie、二階堂和美
FOOD : 六甲山系ピカソ

2018年4月12日(木)@名古屋 TOKUZO
時間 : OPEN18:30 / START19:30
出演 : Mount Eerie、Gofish

2018年4月13日(金)@渋谷 7th FLOOR
時間 : OPEN19:00 / START19:30
出演 : Mount Eerie、テニスコーツ

ライヴ情報詳細はこちらから

PROFILE

Mount Eerie/マウント・イアリ
ワシントン州アナコーテスを基盤とするフィル・エルヴラムのワンマン・プロジェクト。1990年代後半からザ・マイクロフォンズ名義で活動を開始。2001年の『The Glow Pt.2』』は、米Pitchforkの年間ベスト・アルバム獲得。2003年以降はマウント・イアリとして活動。夭折した妻の死をテーマとした衝撃的な作品『A Crow Looked At Me』(2017)は絶賛を持って迎えられた。約5年半振り、4回目の来日。

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