
2014年はどうなる?座談会
飯田仁一郎(以下、飯田) : ここでは〈2014年はなにがくるか?〉という話ができたらと思います。選評会では「今年は女性が強かったとかポップだった」「バンドとアイドルが融合した」などの話がでましたが、じゃあ来年どんな年になっていくかというところで、渡辺くんはR&Bがくるんじゃないかっていうことを話していましたよね?
渡辺裕也(以下、渡辺) : R&Bというか、ブラック・ミュージック寄りのアプローチが日本のインディーにも増えていきそうな予感はしています。つまり日本も徐々にインディー音楽の中心がロックじゃなくなっていくんじゃないかと。そんな兆候が今年の後半にかけて少しずつ見えた感じはしましたね。
飯田 : ロックじゃないってこと? 例えばどういうアーティスト?
渡辺 : 藤井洋平さんとか入江陽さんみたいなソロの人ですね。あと、ceroも新しいシングルで黒っぽい方向に舵を切った感じがあって、その波及効果はきっとあると思う。年明けに出るミツメの新しいアルバムにもそんな展開を少し期待してます。いわゆるインディー・ロック的なところとは少し距離を置いたものになるんじゃないかなって。
河村祐介(以下、河村) : それってビート感的なとこだよね?
渡辺 : そうですね。バンドの編成も管楽器を加えたりしたものが目立つようになったし。オルタナはどうですか?
飯田 : オルタナは来年も苦境の時代が続くと思うけど、多分もっと変なところにいくと思う。やっぱり、ボアダムスとか非常階段、僕ら(Limited Express (has gone?))のような種族は、音楽的なものよりはもっと刺激的なものを求めるので、そういうバンドが増えてくるかなとは思ってる。それとOTOTOY編集長としてはとにかくアニメ。「進撃の巨人」のLinked Horizonが典型的で、10代、20代が音楽シーンを支えてる以上は、そういうのがメジャーでも普通になっていくなあ、と。あとはピンの女の子たちが加速し出すだろうなって思ってますね。小林武史さんがプロデュースしてる桐嶋ノドカさんっていう女の子がいるんですけど、この前観に行った時に新鮮に写ったんです。サブカルチャー好きの僕らが、もっとその匂いがしないような子たち、aikoとかMy Little Loverのような子達を新鮮に感じるようになっている。アイドルはどうですか?
西澤裕郎(以下、西澤) : アイドルに関して見逃せないのは、2014年にするであろうBiSの解散だと思います。解散後に、研究員(BiSファンの名称)がどう流れていくのか。他のアイドルに移るのか、バンドに流れていくのか、はたまたどこにもいかないのか。それは、その後の現場アイドルの流れに影響を与える、けっこう大きな焦点になるかなと思っています。あと、これは今年もそうですけど、アイドルの楽曲がさらに細分化されて作りこまれてくると思うんですね。最近だったら、箱庭の室内楽がゆるめるモ! の曲をプロデュースしましたけど、いわゆるインディー界隈のミュージシャンが、アイドルをプロデュースしていくことが当たり前になった先に、さらにどインディのバンドも加わってくるんじゃないかなと。それくらい、音楽的な部分を強化して、多様性を持つことが必須というか、アイドルを楽しむポイントの中心になってくるんじゃないかと思います。そこで差異化した音楽が、BiSやでんぱ組.incなんかを好きな人たちにもどれだけ突き刺さるのか。そこは注目しています。メジャーなロック・バンドもどんどんプロデュースしてくるかと思います。
飯田 : するかなー?
西澤 : します、します!
飯田 : どうかなー。
西澤 : そこは絶対もっと強くなると思います。アイドル・サイドが楽曲制作をアプローチしていくので、その依頼に対してミュージシャンがどう反応するかだと思うんですよ。そのときにバンドが正面から応えてくるのか、それによって新しいものを生み出せるかっていうのは、その後の双方における盛り上がりにつながってくると思う。
飯田 : 俺はアイドルを離れた層もアニメに向かう! ぐらいの言い方なんですよ。だから、アニソンが、ただでさえでかいのに、さらに巨大化すると。

高橋健太郎(以下、高橋) : アニメって存在的にメジャーでしょ? アニメのほうが産業としてしっかりしてるからさ。アイドルは戦国時代的なこともあるし、インディ・プロダクションが多いから、すごく極端なことでもできるし、音楽的に左に寄ったこともできるような状況。それが上手くいくか、そっちに行き過ぎて人が離れちゃう方向に行くか、というのはあるだろうどね。一方、アニメは、あるいはボカロなんかもそうだろうけれど、音楽のジャンルじゃないからさ。生息する地域みたいなもので、音楽性はそもそも何でもありじゃない。
飯田 : アイドルが浸食したように、アニソンもロック勢やポップ勢を取り込んでいく。
高橋 : でもアイドルは一度、滅びかけるところまでいったものだから、わりと浸食できたのよ。だから、すごいアンダーグラウンドな人とか、まったく経験のない人がプロデュースできる世界になったんだと思うけど、アニメの世界は映像音楽の世界であって、そこでがっちりやり続けている人たちがいる訳だから、音楽的に新しいものが注入できるかっていうと、ガードが堅いような気がする。「OTOTOYがやる!」っていうのは、注入したいからってのいうのはちょっとあるでしょう?
飯田 : うん。
高橋 : そうじゃないと“OTOTOYでやるアニメ”っていう匂いが出ないし、その辺をちょっと崩せたらおもしろいんだけど、崩せるような業界かどうかっていうのは僕にはよく分からない。ボカロは自然発生的なものだから、そこは全然違うよね。
洋楽の影響を重視する動きはでてくるのか?
渡辺 : あと、僕は来年ぐらいでやっと「え~、みんなまだ洋楽聴いてないの?」と大声で言えるような雰囲気になるかなって。というか、なったらいいなと(笑)。
高橋 : それはどの辺りで感じてる?
渡辺 : 単純に大物アーティストのリリースで盛り上がってる感じが例年より大きかったなって。それこそデヴィッド・ボウイとかダフト・パンク、ポール・マッカートニーあたりの話ですけど、その盛り上がりがもう少し若い世代のアーティストにもつながっていくといいなっていう、すごく淡い期待ですけどね。
高橋 : でもさ、2000年代以降、日本の音楽に影響を受けて日本の音楽をやってるアーティストが多いでしょ。だから、ファンもそこまでしかさかのぼらないみたいな。
渡辺 : ゼロ年代以降の話ですよね。
高橋 : それが行くとことまで行っちゃったんで、もうガラコパスな世界になってて。それが悪いって言ってるわけじゃないんだけど、ふと気がつくとアメリカのチャートで普通にベストテンに入ってるのって、俺でも知らないんだよね。昔は洋楽で流行ってるのって、だいたい知ってたわけ。いまは俺でもテレビでアメリカのトップ10で見ると半分ぐらい知らないもんね。それくらい洋楽と離れちゃってて。ロックだとバンパイア•ウィークエンドとかは分かるんだけど、本当にアメリカで売れてるのは分からないです。ジャスティン・ティンバーレイクだってある意味“マニアックに受けてるメジャーなもの”って感じじゃない? だから逆に洋楽ロック聴いてる人はジャスティンは聴いてないよ。「知らない!」、「俳優でしょう?」みたいな世界だったりして、その辺のギャップ感ってすごくピークにあると思う。だからそこがピークにあるから変わるのかなってなんとなく思ってたりする。
金子厚武 : そこに付け加わせてもらうと、オーバーグラウンドな日本のロック・シーンで今年盛り上がったKANA-BOONは、2000年代の日本の音楽を基にしたロックの総決算だったイメージがあって。今はあれがある種の仮想敵になっていて、そこに対する反発が出てきたのが2013年だった印象はすごくあります。だから来年以降日本のオーバーグラウンドのロックが少しずつ多様化していく可能性は十分にあって、その中で、洋楽の影響を重視する動きもでてくる気はしてます。
飯田 : なるほど、洋楽か…。全然気がしないなぁ(笑)、若い子たちを見てると。
西澤 : インターンの人たちでもフランツ・フェルディナンドすら知らないですもんですね。
河村 : あれびっくりするよな。実際、おっさんだけど、オレもおっさんになったつうか。若者の音楽だと思ってたら…… まぁ、でも彼らもそろそろ十年選手ですもんね。
2014年はロック以外のものがくる?
飯田 : ダンス関係は?
河村 : ダンス系はジュークの主要なアーティストがアルバムを軒並みだして、一般化して、そのへんでハウス的なBPMがまたまたご破算になったていうか。ベース・ミュージックのある部分がハウス化してて、結局そこに落ち着くのかなと思ったけど、違う流れも出てくるというか。来年は、そのBPMとからめて、具体的に言うと1993年のダーク・コアあたりのドラムンベースがリヴァイヴァルするんじゃないかと。レイヴな感じは抜け出しつつも、まだアートコアまでは言ってないころの。
高橋 : なんとなくしてる。
河村 : そう、なんとなくはしてるんですけど、それこそフォー・テット、こんどのブリアル、あとはDJラシャドもそういうリズムを取り入れてて。それが加速するのかって思って。さっきのジューク的なBPMもそうなんですけど、ダーク・コアのブレイクビーツの音質って、最近のアンダーグラウンド・シーンのひとつのタームになっているインダストリアルとかダーク・アンビエントの荒涼とした雰囲気にも実はあうような感覚があって。そう、そのインダストリアル・リヴァイヴァル的なものはさらに大きくなるんじゃないかな。今度のブリアルなんかそっち路線だったし。
渡辺 : ブリアルみたいなオリジネイターがそっちにいってるんだ?
河村 : ブリアルはそっちにいってるかな。言ってしまえば〈Modern Love〉とかそっちに近い。ダーク・アンビエント、インダストリアル・ダブにジャングルみたいなところにいってて。ダークなインダストリアルとドラムン的なブレイクビーツみたいなのってなんかあるかなと。
高橋 : あの暗い方向。カット・ケミストがやったコンピあったじゃない? あれとかね。
河村 : 象徴ですよね。まさに。なのでちょっとさっき言ったブラック・ミュージック的なとこもそういう音質なものが出て来たりってのがおもしろいかなと。
渡辺 : そのへんが折衷してくるんだ。
高橋 : だってカニエのアルバムもインダストリアルだったよね。
河村 : そうそう!
渡辺 : なんか、そういう黒人のヒップホップが逆に黒くなくなってる感じはありましたよね(笑)。
高橋 : フレッシュなんだよね。いままで自分の視界になかったから。
河村 : おそらくメジャーなとこにインダストリアル感は出てくるんじゃないかなって、ロックも含めてね。なんかありそうってのがなんとなくおもってます。
渡辺 : それこそジャスティン・ティンバーレイクあたりがあんなに黒っぽいことをやってた一方で、カニエとかはむしろ黒さがなくなってるっていう。

河村 : そうそう(笑)。さっきの補足だけど、でも結局なんだかんだ言ってテクノ、ハウスのBPMはずっと続くのでそこは変わらないと思うけど。
渡辺 : EDMはどうなっていくんですか?
河村 : EDM、俺はちゃんと理解はできてないんだけど。完全にスタジアムロックというか。アメリカ向けっていうか。日本のダンス・シーンはなんだかんだ言ってヨーロッパ型に特化してるから、あのクソでかい会場でビッキビッキのダンスで踊るっていうのはちょっと実感がないのもあるけど。
高橋 : あれもさ、ニューウェイヴの頃のブリティッシュインベージョンみたいな、ヨーロッパの逆襲って感じだよね。元はクラシックだったりするポップスの様式をエレクトロダンスに当てはめてるという。そういうのヨーロッパ人は得意だから。
河村 : それで売り込んだっていう。
高橋 : そうそうそう、アメリカのマーケット用に上手く作って。
河村 : そうですね、パフォーマンスとかも含めて。
高橋 : それで何万人単位の観客動員できるものにした。あと機材の進歩も相当あると思う。結局みんなソフトウェアだけで作るようになったじゃない。もうキーボードとかシンセのラックとかほとんど使ってないと思うよ、EDMの人達は。完全デスクトップで、しかもプリセットでばんばん作るみたいな。だけどあれ、確かにそそる音してるんだよね (笑)。
河村 : 「やっぱり、合成添加物うめ~!」ってやつですよね(笑)。
高橋 : そうそう。おれもNative Instrumentsのコンプリート買えばできるんだって思えちゃう(笑)。今のソフトウェアは音がよく出来てるのよ。
河村 : だからその逆でやっぱヨーロッパの真ん中のハウスのシーンとかは逆に機材化が進んでてロウ・ハウスって言って要は昔の808(はちまるはち)をそのまま使ってライブで録るってパソコンなしで。でも、そのあたりの音質はこれまたインダストリアル・リヴァイヴァルにもつながるっていう。ファクトリー・フロアーはUSだけど、そういうところがちょこっとあって。
高橋 : だって今アップルのLogicって1万5000円で買えるんだよ! 1万5000円で買えてサンプルソフトウェアも50GBの音源がついてくるわけ。しかも音いいのよ、普通に。それが1万5000円で買えて、しかもMac miniのパワーはいまはすごいから、昔ラックでやってたようなことが、楽々できちゃう。だから、一般的にはもうDTMなんかはラック使わないほうがかっこいい。プリセットでこんなに良い音がとれちゃうなら、となってきているような。
飯田 : アメリカのインディーに関してはカトマンさんが、チルウェーヴが終わって、けっこうヘビーになってきてるって話はしたんですよね。実はまたガレージぽいのがアメリカ・インディ・ロックではキテる。他はどうですか、ワールド・ミュージック的なのは。
高橋 : まだOTOTOYでは取り扱ってないからね。
河村 : 2013年の感覚で、国内だとワールドものに連なって大石始くんあたりが紹介してるような動き、例えばアラゲホンジとか馬喰町バンドとかTURTLE ISLANDとか、日本のもともとのルーツ_リズムを追いかけてもうちょっとミクスチャーにロックやファンクに援用していくみたいな動きは、これからって感じですよね。すでに形になってるけど、もっとおもしろいことになるような気もする。
渡辺 : ピラミッドスとかもそういう感じ?
河村 : ちょこっとあると思います。さっき渡辺さんが言ったインディのブラック・ミュージック化じゃないですけどそれのまた別バージョンで、インディー・ロックがいままでと違うところに手を伸ばしてて、その別バージョンかなって思いますよね。
飯田 : 今年はインディー・バンドが多く出る某イベントも開催しないかもって噂を聞いた。
渡辺 : あ、そうなんだ。あんなにお客さんが集まってるのに。
飯田 : だからちょっと退屈にはなってきてるんですよ。インディーのいまの動きにね。なので、「来年はロックじゃなければなんでもいい」年になるのかな? あと、やっぱりこんな情勢だし、ミュージシャンは堂々と平和を歌ってほしいと願っていますね。そういう音楽の力も必要になってくると思います。