2013/08/02 00:00

昨年、エレクトロニック・ミュージックの名門、PROGRESSIVE FOrMからのセカンド・アルバム『Prays』がスマッシュ・ヒットを記録したFugenn & The White Elephants。それから約1年という短いタームで、実質のサード・アルバムとなる1枚の作品をはさんで4枚目のアルバム『B A BEACON』が完成し、8月8日に、同じくPROGRESSIVE FOrMからのリリースとなる。この作品は前作『Prays』の続編でありながらも、また新境地を開拓した意欲作となっている。この1年の間にHome Normalより『Archetype Zero』(前述の実質サードとなるアルバム)をリリース、青山CAYでのリリース・パーティを成功させるなど、過去にない濃密な時間を過ごしたFugenn & The White ElephantsことShuji Saitoに、環境の変化と新作に込められた思いを訊いてみた。

インタビュー&文 : 小野寺徹


Fugenn & The White Elephants / B A BEACON

【配信形態】
【左】HQD(24bit/48kHz)、【右】MP3

【配信価格】
HQD(24bit/48kHzのwav) 単曲 200円 / まとめ購入 2,400円
MP3 単曲 150円 / まとめ購入 1,500円
【Track List】
1. Rainbow / 2. Future Beacon / 3. Breath / 4. Tears / 5. Silent Night / 6. Stone Steps feat. Shintaro Aoki / 7. Running Water / 8. Ring / 9. Mist with Kan Sano / 10. Timeless / 11. Sun / 12. Turbulence

■ 今回見つけた発見のひとつが「レイヤー」ですね。

  ーー今回は前作から約1年でのリリースとなりますが、製作はいつ頃から行っていましたか?

Fugenn & The White Elephants(以下、Fugenn) : 作りはじめたのは去年の6月頃ですかね。(前作『Prays』の)リリースが5月だったのでそのあとからすぐですね。

ーー今作はやはり前作からの流れというのを冒頭から感じると思うのですが、やはりそのへんは前作の製作からの流れというのもあったのでしょうか。

Fugenn : それは意識してましたね。前作からの自分のカラーをハッキリさせようかな、というのはありました。

ーー前作『Prays』から今作の間にHome Normal(傘下のNomadic Kids Republic)からアルバム『Archetype Zero』がリリースされましたが、あれはいつごろ製作した作品なんですか?

Fugenn : 2009年から2010年くらいの曲が中心ですね。たまたまリリースがセカンドのあとになっただけで、実際はセカンドがあって、今作がある感じですね。

ーー前作までとの違いとして今回唄モノがないのですが、その分ヴォーカルの上ものを使った、ちょっとハウス・テイスト的な要素がとても印象的でした。そのへん、ちょっと色気が増した気がします。

Fugenn : そうかもしれません。

ーー3曲目の「Breath」とか、イイ意味でチルウェイヴ感を感じました。

Fugenn : あの曲はちょっと自分でもそういった曲が作ってみたいなと思っていたフシもあるので。今までにない組み合わせを試したいというのは常に意識してますね。今作は唄はないですけど、ヴォーカルのサンプルを使って声を重ねる事によって音の広がり方が変わるというのを試しています。

ーー元々空間系の音作りが得意ですが、今回それにレイヤー感が加わったと言うか。

Fugenn : そういっていただけるとありがたいです(笑)。まさにその通りです。今回見つけた発見のひとつがそのヴォーカルのレイヤーですね。

ーー8曲目の「Ring」はまさしくIDMという感じで、前作からの新しいFugennサウンドの流れのなかでありながら、どちらかというと以前からのFugennの音のようにも感じたのですが。

Fugenn : その曲に関してはなにも考えずに作ったというか(笑)。自然な自分のカラーが出てるかなあと思いますね。そのカラーというのも自然と変わってゆくものだと思っています。

ーー9曲目の「Mist」ではorigami PRODUCTIONSのKan Sanoさんとの共演という曲ですが、以前からのお知り合いですか?

Fugenn : いや、今回はレーベル・オーナーのnikさんに紹介していただいたという形ですね。

ーー6曲目「Stone Steps」のShintaro Aokiさんとは前作から引き続きの共演ですが、同じピアノのKan Sanoさんとの共演はまた新しい側面が出てますね。

Fugenn : Sanoさんのピアノはまたなんと言うか、「色気」があると言うか。自然と音を重ねていくうちに曲ができあがったという感じですね。いい経験ができました。

ーーAokiさんとはお互いの色を出し合っているのに対して、Sanoさんとはお互いがいい意味で中和されて交じり合っている感じがしますね。

Fugenn : そのへんはアルバムのクレジットでもAokiさんは「featuring」で、Sanoさんは「with」になっている所以ですね。

ーーなるほど。あと個人的には11曲目の「Sun」がまた新しい側面を感じられる曲だと思ったのですが。今までにない昂揚感というか。

Fugenn : まさに「Sun」みたいな(笑)

ーーそうそう。この曲に限らず、今作はビートも自由ですよね。

Fugenn : 意識はしてないんですけど、自分の中のビートのヴァリエーションが広がったというのはありますね。あと、コード感や音色で曲を構成する事で、ビートが変わっても世界観は変わらないと思ってたので。        ーーいい意味でナチュラルというか、ビートに頼らない感じ。

Fugenn : それは意識しましたね。あと合間にCMなどの製作をやっていたので、その影響もあると思いますね。少し器用になってしまったというか、多分ですが(笑)。

ーーあと、新作をリリースということで、今後これらの曲もライヴで披露されると思いますが。

Fugenn : ライヴは音源とは違うスタイルを作っていけたらと思ってますね。改良したり、プラス新曲も入れたらと。セット自体はわりとミニマルな感じになると思います。その辺は11月のイベント(詳細はインタヴュー記事の最後に記載)に向けて作っていけたらイイなと。

ーー前作のリリースの前後でだいぶ各所でライヴをやるようになって、なにか変わる所はありましたか?

Fugenn : ライヴは正直難しいと感じてますね(笑)。課題は多いです。今までお客さんを気にしないでやっていたほうなんですが、最近は気にするようになりました(笑)。ビートで圧倒するということもできるのですが、それで引かれちゃうことも出てきたので(苦笑)、そこらへんは気をつけるようになりました。加減がよくわからなくて(笑)。多少突き放す部分もあったし。

■ ファーストのような作品を作りたいとは思わなかった。

ーー全然また違う質問を。最近よく聴いている作品とかありますか?

Fugenn : メタルですかね(笑)。あとはAOKI Takamasaさんの新作をよく聴いてますね。やっぱり隙がないと言うか、音ひとつひとつのクオリティと、その空間の配置の仕方とか、作ろうと思っても作れないなあと思っちゃいますね。さすがだと思いました。

ーー他に自分に近しい所で意識するアーティストは居ますか?

Fugenn : Geskia!さんですかね。エディットが細かかったり、細部に詰まっている感じが凄いなあと思ってます。尊敬しますよね。

ーーなるほど。海外では?

Fugenn : やっぱりAphex TwinやSquarepusher、Clarkとかですね、やっぱり。あとFlying Lotusも聴きますし。LapaluxやThundercatとかもチェックしてますね。そのへんのビートものも好きですけど、わりと作品には反映されてない感じですね。あっても2、3曲ぐらいですかね。

ーーその面はFugennとしての名義ではあまり出してない部分ですよね。

Fugenn : 自然とそうなってますね。ファースト、セカンドとFugenn的な音というのは決めていて、ビートの動きとメロディが同居していて展開を作っていくという。けどそれは以前から理想として作りたかった音なので。

ーーそのへんはいい意味で見えてきた感じがありますね。

Fugenn : けどそれだけになっちゃうのもダメかなというのもあって、なんだろ、奇抜なこともやらなきゃなあとか(笑)。

ーーそれはやはりリリースを重ねて、作品を作るということで意識できた部分ですよね。

Fugenn : それは大いにありますね。もともと、そういった形での両立をしたかったというのもあって。そういう意味ではファーストのような作品を作りたいとは思わなかったですね。

■ 自身の変化が音に表れてきた。

ーー新作について話を戻しますと、今作『B A BEACON』というタイトル(BEACON : かがり火、指針)にも表れているように、前作『Prays(祈り)』から進んで、曲名にも象徴的な言葉が並び、何か目指す物が見えてきた感じを受けました。この辺は意識されましたか?

Fugenn : 意識はしてないんですが、心境の変化はありましたね。姪っ子が生まれまして(笑)。

ーーそれはまた意外な(笑)。

Fugenn : いきなり話が飛んじゃうんですが(笑)。赤ん坊を見る機会が増えたんですよ。そういうピュアなところというか、そこに希望を感じたんですよね。

ーー前作はシリアスというか、少しコンセプチュアルな部分があったから、今作はその点明るいし、希望に溢れている感がありますよね。

Fugenn : そこはやっぱり環境もありますし、自分の精神状態の変化が大きいですね。ファーストの頃の反動もありますけど(笑)。

ーーでも前作で見えた「希望」からの自然な流れですよね。

Fugenn : まさしく自然な流れで、自身の変化が音に表れてきたというか、内面が音に出てると言えますね。暗い作品を作るという心境ではなかったですね。

ーーその点、イイ意味で短いスパンでリリースできたというのもありますよね。

Fugenn : そうですね。前作からの流れで来れたと言うか。近況報告的なものができましたね(笑)。

ーー今作でまた音の幅が広がったんじゃないですか?

Fugenn : 僕の中でビートは楽曲を引き立たせる要素でしかないということを感じました。あとは、なんだろう… もうちょっと理論を学びたいというのもありますし。まだ雰囲気重視でしあげているところもあるので、そこをもうちょっと理論的になって習得できれば、幅広い作品が作れるんじゃないかと思ってます。頑張ります(笑)。

PROGRESSIVE FOrM作品

>> PROGRESSIVE FOrM

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PROFILE

Fugenn & The White Elephants

Fugenn & The White Elephants Shuji Saitoによるソロ・プロジェクト。疾走感溢れるビートと美しいメロディーを混在させた楽曲を得意とする電子音楽家。2004年よりトラックメーカー兼DJとして活動を開始。2008年よりFugenn & The White Elephants名義でSymbolic interactionやKoenParkのリミックス他国内外の多くのプロジェクトに参加、2011年2月10日発売となるPleq『Good Night Two』に参加する。そして同4月15日にPROGRESSIVE FOrMより1stフル・アルバム『an4rm』をリリース、『Narcissus』『Phonex』という2楽曲のPVと共に大きな好評と非常に高い評価を得ている。また8月にはYMOのカバー・アルバム『YMO REWAKE』、2012年1月発売の『坂本龍一トリビュート』、また4月発売の『ジョビン・トリビュート』に楽曲を提供するなど、活動を幅を着実に広げ、更なる注目を集めている逸材である。4月22日にはSonarSound Tokyo 2012に出演。そして2012年5月5日、スマッシュヒットを記録した傑作2ndアルバム『Prays』をリリース、2012年6月21日、初期音源集 『Archetype-Zero』をリリース。その他『docomo AQUOS PHONE EX SH-04E』『NOTTV サムライ篇』『mobage』等数多くのTVCMも手がけている。そして2013年8月8日、待望の4thアルバム『B A BEACON』をリリースする。

>> Fugenn & The White Elephants official website

[レヴュー] Fugenn & The White Elephants

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