止まらない〈表現したい衝動〉――滝沢朋恵『a b c b(アベコベ)』ハイレゾ配信&インタビュー公開

滝沢朋恵

滝沢朋恵がアルバム『a b c b(アベコベ)』を〈HEADZ〉よりリリース。テンテンコとのユニット「フロリダ」としての活動、演劇ユニット「バストリオ」の公演に参加するなど、彼女はシンガー・ソングライターとしてだけではなく多岐に渡る表現活動を行っている。

『a b c b』では丁寧に紡がれるアコースティック・ギター・サウンドを基調とし、彼女のもの寂しい声によって不思議な世界観の歌詞が展開される。今回のインタヴューで浮かび上がったのは、少し特異な滝沢の音楽制作方法だ。すべては彼女は頭のなかに浮かんだ言葉の一片が元になっており、そのイメージの断片をひとつの“作品”として立体化する過程で音楽が生まれていくのだという。では『a b c b』の世界を紐解くために、滝沢朋恵の頭のなかを少し覗いてみよう。

インタヴュー : 飯田仁一郎
文・構成 : 鶯巣大介
写真 : 石塚俊

滝沢朋恵 / a b c b(アベコベ)

【配信形態 / 価格】
【左パッケージ】24bit/44.1kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
価格 2,000円(税込)※まとめ購入のみ
【右パッケージ】MP3
価格 1,800円 ※まとめ購入のみ

【トラック・リスト】
1. 星の砂
2. 終点
3. 夜更け
4. おままごと
5. 宇宙旅行
6. 列車の記憶
7. 水平線
8. 傘
9. ダンス
10. SELF AND OTHERS
11. 戻らない


即興で宅録をして、変な音楽をたくさん聴いてた高校時代

――今回の作品『a b c b(アベコベ)』は、HEADZからのリリースとなります。まずはこのレーベルに決まった経緯から教えてください。

滝沢 : ちょっと前の話になるんですけど、武蔵美(武蔵野美術大学)在学中にレーベル・オーナー(HEADZ)の佐々木敦さんが大学で授業をやっていたんです。私はその講義にずっと通っていて、そのときに音源を佐々木さんに聴いてもらったんですね。その時はリリースの話にはならなかったんですけど、真剣に面談してくださって。それから4年くらい経って、私が出演していた昨年の演劇(2015年8月に開催された演劇ユニット「バストリオ」の公演『海ではない陸ではない』)を観て気に入ってくださり、次に出演した『SELF AND OTHERS』(同じく「バストリオ」の2016年2月の公演)の際に、CDリリースの声をかけていただきました。このタイミングしかないなと思って、そのときにすでに決まりかけていたほかのレーベルがあったんですけど、HEADZへの思いが強かったのでリリースすることにしました。

――滝沢さんはシンガー・ソングライターとしての活動以外にも、テンテンコとのユニット「フロリダ」などもやられています。元々音楽をやりたいという気持ちが強かったんですか?

滝沢 : するつもりでいたんですけど、どういう形でするかは決めていなかったんです。クラシックギターを買ったのも本格的に歌を作り始めたのも大学に入ってから。高校生のときは家でピアノとか、おもちゃみたいな楽器を使って即興的に宅録をして、全然弾き語りとは違う音楽をたくさん作っていました。札幌にweird-meddle recordっていうレコード屋さんがあって、そこでそういうヘンな音楽を買ってばかりいました。

――あぁ! 僕も知っています。残念ながらいまは、実店舗はなくなってしまいましたよね。

滝沢 : そうなんです。いまはオンラインだけ。私も中学生のときは普通の音楽を聴いていたんですけど、そこに行ったらヤバイ音楽がいっぱいあった。それでノイズがあればあるほどいいみたいな、急にそういう音楽が好きになっちゃったんです(笑)。お芝居も好きだったんで、札幌にいたころから小さな劇場に観にいって、そこで流れている音楽も面白いなと思ったり。

――そこから上京して大学に入って、急にギターを買って歌を歌い始めたのはなぜだったんでしょう?

滝沢 : うーん… 弾き語りってみんなやってるしやろうかなみたいな軽いノリですね(笑)。柴田(聡子)さんが同じ大学だったから、よくチラシとかを目にしていて。それで、弾き語りってなんかいいかもしれないと思って始めたところはありました。佐々木さんに初めてCD-Rを渡したときは、昔やっていた音楽といまの歌モノになる真ん中あたりの感じだったと思います。

――大学卒業のタイミングで1st『私、粉になって』を発表しました。これ以降からフロリダとしての活動が始まったり、バストリオとのコラボがあったりと、滝沢さんの活動が活発になった印象があります。それには、なにか理由があったんでしょうか?

滝沢 : フロリダに関しては、元々高校2年生頃から(テンテンコと)組んではいたんです。彼女とは中学から友達で、お家に行って遊ぶ感覚で一緒に録音したり。でも大学のときは向こうがBiSをやっていたり、私もずっと忙しくて、全く一緒に音楽ができていなくて。私が大学を卒業し、彼女もBiSが解散とタイミングが合ったので、フロリダは自然に活動がもう一度始まった感じです。そろそろやるかみたいな感じで。


滝沢朋恵「傘」MV

――じゃあ滝沢さんが演劇ユニット「バストリオ」とコラボをすることになったのは?

滝沢 : バストリオの演出家をやっている今野(裕一郎)さんが、安永哲郎さんと2人組でminamoとして活動している杉本(佳一)さんに音楽制作を頼んでいたんです。それで今野さんが「次はほかの音楽家の人と一緒になんかやりたいんです」ってminamoに相談したときに、安永さんが私の名前をあげてくれました。私は大学でテキスタイルを学んでいたり、ドローイングもしていたり、なにかをやる、どんな形でもいいからとにかく何かを作ってみたいっていう思いがあったので、とても嬉しかったです。

ノートに書いた物語から抽出した言葉が膨らんで音楽になっていく

――元々、創作へのモチベーションが強かったんですね。今回の『a b c b』は前作と比べて歌詞もサウンドも変化したなと感じました。いろんな活動で得てきたものが今作に反映されているのかなと。

滝沢 : 私は前にやっていたことをじっくり煮詰めて出すタイプなんです。例えば、思春期の女子が書くようなお話、長編の物語みたいなものをずっと書いていて。自分のなかにいままでのそういう物語、文字っていうストックがたくさんあったんです。それで演劇に参加したときに、文字や文章が発声される言葉としてまとまっていく、戯曲としてまとまっていくっていう体験を通して、自分のなかにあった文字として表現したいものがちょっとずつ整理されて、歌詞を作るのが楽しくなってきたことは、『a b c b』にも強く反映されています。

――いまの話だと、曲のために歌詞を書くという流れではないということですか?

滝沢 : そうですね。ノートにバーっと書いた物語があるんですけど、そのなかからまず言葉を抽出するんです。さらに明るいとか、こういう色だなぁってことが、その言葉のイメージとして、同時に浮かぶんです。私はコードをまだちゃんと覚えてないので、その最初に浮かんだイメージを大事にして、音を鳴らしながら「さっきの言葉、フレーズに近いのは、この色かな、この明るさかな?」ってその言葉に合う音を探していきます。逆に音に合わせて言葉の方を削っていくっていうこともあるんですけど。

――それはかなり面白い音楽の作り方ですね。だとすると滝沢さんの音楽は、頭のなかにある言葉や物語から曲が作られていくってことになりますよね。その音楽に先行して作られる言葉や物語について詳しく説明してもらいたいんですが、言葉や物語をノートに綴るって作業は日々の創作活動として行っているもの?

滝沢 : うん、そうですね。まぁ作りたいっていう気持ちが最初にあるんですけど、そう思ったときにその言葉や物語が出てくる感じですね。内容はかなりフィクションですけど、詩と小説の中間みたいなものなんです。

――まずは言葉のフレーズが出てくるんですか、それとも物語?

滝沢 : 言葉のフレーズですね。例えばひとつのフレーズが浮かんだら、それを思いついた瞬間に、その1行の前にあるものとか、どういう背景でそれがあるんだろうって考える。つまりそれは、そこから物語を考えていくってことになるんです。でもきっかけは一点の言葉のフレーズを思いつくことですね。

――なるほど。浮かんだ言葉のフレーズを起点にそこから前後の物語を考えていくと。そういったものを普段貯めていて、それを詩としてギュッとまとめるということですよね?

滝沢 : そうですね。そしてあるタイミングでストックしていたものを出すんです。そのタイミングは演劇であったり、今回のアルバムであったり。制作はそういうストックしていたものを一気に形にしていく作業になります。

――そのストックを“形にする”、つまりサウンドを付けるという工程についても詳しく教えてほしいです。

滝沢 : その浮かんだ言葉のフレーズから最初に受けた印象って必ずしも言葉だけで表現できないこともあると思うんです。例えば“冷たい温度”とか。それは言葉だけだと、伝えるのに少し足りない部分があるので、それを音で表現する、音で補うって感じです。絵を描くときも最初にイメージがあって、そこに形を与えていくじゃないですか。そうして徐々にひとつの形にしていきます。

思いついたものを磨いて、形にすることが面白い

――その言い方からすると、滝沢さんは曲や音楽を作ろうとしているというよりも、想像したものを形にした結果、音楽になったってことですね。つまり浮かんだ言葉のフレーズをひとつの完成形、作品にするという作業がある意味で音楽制作だったと。

滝沢 : そうですね。多分、形にするっていうことが面白くて、歌モノをやりたいって思いがあったんです。即興を家でやっているのも面白いんですけど「思いついたものをどんどん磨いていったらきれいなものができました」っていうことがやりたかった。そういうものが曲として集まって、さらにそれをアルバムとしてまとめる。だから、今回のアルバム作りはとても楽しかったんです。

――『a b c b』というタイトルにした理由を教えてもらえますか?

滝沢 : 「傘」とか「SELF AND OTHERS」って曲から影響を受けて付けたんです。この作品の内容は自分が一回も経験したことがないようなことばかりを書いているんですけど、でもそれなのに自分も生き生きと書いているし、その世界で生きているような感じがあったというか。だからこの作品のなかの世界は、いま自分やみんなが普通に生活しているところ、そういうものとは別の世界ですよ、あべこべの世界ですよって意味で付けたんです。作品のまとめ方としては、1曲1曲が主張しているので「短いお話がいっぱい入っている本は面白いよね」みたいなアルバムの作り方です。だから今回のアルバムのデザインも本みたいにしたくて、一緒にデザイナーさんと考えたんです。

――じゃあ言ってみれば“滝沢朋恵短編小説集”みたいな感じ?

滝沢 : わりとそうですね。例えば本で表題作があって、B面みたいな感じでほかのお話が入っているものがありますよね。その2つは全然関係ないけど1冊の本になっている、最初のお話のタイトルで作品としての名前が付けられちゃっているみたいな、そういうアルバムです。

――今作には1stに引き続き、佐藤優介(カメラ=万年筆)さんがサウンド・プロデュース/ミックスとして関わっていますね。

滝沢 : 佐藤さんは前作でもそうだったんですけど、とってもフラットに意見を言ってくれる人。自分が作ってきたものの意図を説明しなくても理解してくれて、そこに合った音を加えてくれるんです。そういうふうにアレンジをしてくれるので、いつも頼んでいます。アレンジの頼み方としては「この曲は誰々のこういう曲の雰囲気で、あとこういう感じのドラムが入ってきたらいいかなと思っています」って伝えるものと、私がベースとかドラムとかパーカッションを打ち込んで持っていって、それを整えてもらうという2パターンで作業してもらいました。自分だけが見ていた作品をほかの人が見てもわかりやすくするためにも、佐藤さんと一緒にやれて心強いです。

――ここまで主観だけで制作を進めてきたものに、この段階で客観性を持たせようとするのはなぜなんでしょうか?

滝沢 : 産地直送するより、綺麗に店頭に並べてもらったほうがいいみたいな感じです(笑)。飾りつけというか、台を用意して、そこにどう作品を置くかとか、どう照明を当てるかみたいなものです。それって作っている人とは別の人にパスしてもいい作業だと私は思っているんです。できた作品をどういうふうに置いたら綺麗に見えるか考えるって作業は、やっぱりほかの人に見てもらえるように、いろんな人と関わってやっていきたいなって思っています。

作品を作りながら、自分がなにをやりたいのかを探している感覚

――わかりました。滝沢さんの今後についても訊きたいんですが、音楽以外の活動でなにか予定はありますか?

滝沢 : 直近でいうと7月に三野新さんっていう写真家の方がやっている舞台に参加するので、いまはそこに向けて全力になっています。

――舞台での活動と音楽は滝沢さんにとっては同じものという感覚?

滝沢 : 別だったんです。でも詩を詠むのと、詩を歌うのは、言葉っていうところが共通しているっていう意味でそんなにやっていることは変わんない気はしますね。

――滝沢さんの活動は、 “言葉”がキーになってくるのかなと話を聞いて感じました。滝沢さんがいろんな活動の形態を通して、言葉で表現したい、伝えたいことってなにかあるんでしょうか?

滝沢 : 言葉で表さないと伝わんない感覚もあるから、こういう感じとか感覚を伝えるために一生懸命いろんなことをやっているんですけど、伝えたいこと、表現したいことはなにか一言でまとまっているわけじゃないんですね。でもそれはあるんです。その言葉の周りを曲や作品は恒星みたいに廻っているっていうイメージ。その真ん中にあるものに近づこうとするために私は作品を作っているというか。最初に「こういうことがやりたい」ってものがあるっていうよりも、「私はなにを言いたいんだろう」っていうことを自分の作品作りを通して探しているみたいな感覚です。

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LIVE INFORMATION

滝沢朋恵『a b c b』(アベコベ)発売記念コンサート
2016年8月7日(日)@KREI SALON
時間 : 開場 16:00 / 開演 16:30
出演 : 滝沢朋恵 with 佐藤優介(カメラ=万年筆)、イトケン、minamo
チケット : 前売り予約 2,300円 / 当日 2,800円
※6月15日(水)より8月6日(土)までHEADZ (info@faderbyheadz.com) にて前売りメール予約受付

KREI SARON
港区西麻布2-24-2-B1F(東京メトロ表参道駅、乃木坂駅、広尾駅よりそれぞれ徒歩約10分)
KREI SALONオフィシャルサイト

PROFILE

武蔵野美術大学テキスタイルデザイン学科卒、2013年度卒業制作優秀賞受賞。2014年春1stフルアルバム『私、粉になって』をリリース。ユニット「フロリダ」では2015年6月に1stミニアルバムをリリース。2015年と2016年にバストリオの野性シリーズvol.1 & vol.2に音楽と役者として参加。

>>滝沢朋恵 オフィシャルサイト

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インタヴュー

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