前作『Gods and Monsters』から5年ぶりとなるジュノ・リアクターの新作がリリース。正式メンバーとして在籍6年目を迎えるSUGIZOが、本作でもギターとヴァイオリンで参加。前回の日本ツアーより、メンバーとして参加するHamsica(ハムシカ)がヴォーカルとして花を添え、ドラマーにはスージー・アンド・ザ・バンシーズのBudgie(バッジー)も参加。「Trans Siberian」では、オリジナル・メンバーのMike Maguire(マイク・マグワイア)も参加。アート・ワークは『Beyond the Infinite』、『Bible Of Dreams』を手がけたBen Watkinsの実兄Simonが担当。結成20年を迎える今年、原点への回帰と進化の融合が、このアルバムで明らかになる。


Juno Reactor / The Golden Sun Of The Great East(HQD ver.)

【価格】
mp3 : 単曲 150円 / アルバム 1,500円
wav、HQD : 単曲 200円 / アルバム 1,800円

【TRACK LIST】
01. Final Frontier / 02. Invisible / 03. Guillotine / 04. Trans Siberian / 05. Shine / 06. Tempest / 07. Zombie / 08. Byculla / 09. Playing With Fire

踊るというおもしろみが消えることに対する抵抗

ジュノ・リアクター、そして事実上その中心となっているBen Watkinsという人は、われわれの期待を裏切り続けている。それは言い換えるならば、彼のクリエイティビティーがわれわれの想像を超えているということである。私がはじめて“サイケデリック・トランスの巨匠”としてジュノ・リアクターを耳にしたのは2004年に発表された『Labyrinth』であり、決して結成当時から聴いているというわけではない。だが、2004年以前の作品を、さらに前作の『Gods and Monsters』を聴いて驚嘆せざるを得なかった。それは、頑固一徹な音の塊とその背景にある音楽の豊潤さももちろんであるが、作品ごとにトランスを無骨に、あるいは過剰に脱構築していくその音楽性にである。そして、前作から5年振りに届けられたニュー・アルバム『The Golden Sun Of The Great East』で、またしてもわれわれの想像力は軽々と吹き飛ばされるに違いない。

まずは冒頭の「Final Frontier」がすばらしい。うっすらと幽玄に立ちあがってくるシンセの音色に導かれながら入ってくる強靭なキックの一発目が鳴る瞬間は本当にゾクゾクする。そのうねるグルーヴに、シタールと正式メンバーとして加わり6年目を迎えるSUGIZO(LUNA SEA / X JAPAN)のヴァイオリンが重層的に絡み合うことで幻想的なメロディを生み出している。それはタンジェリン・ドリームの瞑想性を超高速化させているかのようでもある。こうして聴いていくと、確かに前作では影を潜めていた彼の原点とも言えるサイケデリックなトランス・ビートを1曲目に持ってくることにより、このアルバムは原点回帰、あるいは多くのファンが待ち望んでいたものとして受け止めることも可能であろう。

だが、本作の魅力はそこにあるのではない。このアルバムをリリースするまでにどうして5年という長い歳月を必要としたのかを考えてみよう。それを想像することが本作を紐解く鍵であり、その鍵はアルバム中盤に隠されているように私は感じるのだ。「Shine」で重心の低いダウンテンポにダブ処理を施すことによりどこか怪しい緊張感を漂わす。その緊張を解放するかのように打ち鳴らされる「Tempest」の攻撃的で破壊的なブロークンビーツがわれわれをダンスへと煽動する。まるで残忍極まりないホラー映画のピークタイムを観ているかのような流れ。この流れには圧巻を通り越して圧迫感すら感じる。これは前作の延長線上にあると同時に、ジュノ・リアクターの音楽性の更新というべきではないだろうか。前作を一度解体し、そして多種多様な音楽を吸収しながら生真面目に再構築する。それには膨大な時間を要したのであろう。そこにベン・ワトキンスのストイックな人間性が垣間見られるようでもある。

ダンス・ミュージックは様式化され骨抜きにされた時点で、踊るという決定的な面白みをなくす。ジュノ・リアクター、そして、Ben Watkinsはその様式化への抵抗、もとい、踊るというおもしろみが消えることに対する抵抗を続けてきたと思うし、これからも続けるだろう。それこそが彼にとっての創造的作業なのであろうし、この『The Golden Sun Of The Great East』というアルバムは、その一部を切り取った姿なのである。ああ、早くライヴで踊り狂いたい…。(text by 坂本哲哉)

INTERVIEW : Ben Watkins

——今回のアルバム『The Golden Sun Of The Great East』というタイトルにはどのような意味合いがあるのですか?

BEN : 私たちはこれまで深く考えもせずに、天然資源を消費し、環境破壊を行ってきました。そして多くの人々が物質主義に否定的に疑問を持ちはじめるなか、『The Golden Sun Of The Great East』というのは、世界を輝かせる天然資源を象徴するタイトルとして名付けています。これは、1959年に中国のチベット侵攻時に逃れて西洋に来たチベット仏教の僧侶と教師によって明らかにされた“TERMA”というテキストに綴られているシャンバラ王国の「われわれは、私欲にとらわれない愛と思いやりを生成したとき、私たちの惑星を助けるための途方もない力を発揮するであろう」という物語にヒントを得てもいます。

——本作はアルバムのアート・ワークも意味深な佇まいを孕んでいます。日本人としては放射能を防護しているような風にも見えてしまうのですが。

BEN : このアート・ワークは僕の実兄が手がけています。彼はつねに僕の頭のなかにあるイメージを作品として創りあげてくれるのですが、今回も、瞬時に僕のイメージを察知してくれました。この作品では「あなた自身、そしてあなたが愛するものを守るため、怯えることなく現状を受け入れ、前に進んでいきなさい!」というメッセージが込められています。

——1曲目に収録されている「Final Frontier」は疾走感あるアルバムの顔ともなるリード・トラックのようですが、どのようなイメージで制作されたのですか?

BEN : 初期の構想では映画『ブレードランナー』へのオマージュとして作りました。しかし、製作中に思い描いていた都市はムンバイです。この都市にもブレードランナー的な近未来都市と、スラムのような旧市街が混在しており、共存、既存のSF感が感じられますよね。そして「Final Frontier」のFrontierは特別な場所を設定せず“希望”を意味しています。また、この夏に始まるTOYOTAのFACTORY TUNE 86キャンペーン・プロモーション・ビデオ・クリップのサウンド・トラックにも起用されています。公開時期がわかり次第、ジュノ・リアクターの関連サイトでも情報をアップするので、ぜひFACTORY TUNE 86の特設サイトに訪れてみてほしいです。今回このFACTORY TUNE 86用に起用された「Final Frontier」は特別ヴァージョンとして新たに編集を施し、オリジナルとは違った、パッションを感じてもらえるテイストにしあがっています。

——2曲目の「Invisible」とは「目に見えない」という意味のタイトルです。これもやはり日本人としては「放射能=目に見えない」という解釈でメッセージを捉えてしまうのですが、そのようなメッセージを含んでいるのでしょうか?

BEN : 福島の震災以降、日本の友人たちが直面しているこのことは、つねに頭の片隅に認識していますので、勿論、そういう意味合いも含んでいると言って良いでしょう。でも、この曲の最初のインスピレーションはインドのムンバイを訪れた時のものなんです。ヴォーカルのパンジャビ語は「失われた愛」をテーマに詠われており、この歌に「Invisible」というタイトルがついていたことも、歌詞の内容もあとから知ることになります。

——今回は「Final Frontier」、「Shine」と2曲のSUGIZO参加楽曲がありますが、彼とのアルバム・レコーディングのエピソードなどありましたら教えて下さい。

BEN : SUGIZOにはブライトンにある僕のスタジオに来てもらいました。今回は普段彼が愛用しているギターではなく、普通のアコースティック・ギター、トルコのサズという撥弦楽器、ドブロ・ギターを渡して弾いてもらっています。流石、偉大なギタリストです。僕のこのような無理な要望にもミュージシャンとしてきちんとこたえてくれました。SUGIZOと一緒にアルバム制作をするのはとても楽しいし、もっとこうした時間を多くとりたいのだけれど、多忙な彼にそうした時間を作ってもらうのは容易なことではないのですが… 。

——3曲目に収録されている「Guillotine」では、ひさしぶりに旧友であるJohann Bleyが参加しています。これまでトランスをあえて避けてきた行動や発言がありましたが、彼のトランス・ライクなアプローチを再度起用しようとしたきっかけはなんだったのですか?

BEN : たしかにこれまでトランスというスタイルからは遠ざかっていました。これは、ジュノ・リアクターのサウンドがジャンルに捕われず、どこまでさまざまな音楽を取り込み、追求出来るか? を模索したかったということもあります。そして20周年を迎えるいま、ジュノ・リアクターを愛してくれるファンたちの静脈に再度ジュノのサウンドの根底に流れるトランスの血を流し込みたいと思いました。Johannとは長いこと一緒にスタジオに入る事が無かったのですが、今作ではぜひ一緒にやりたいと思ったのです。更に「ジュノ・リアクター名義では最後のアルバムになるかもしれない」という思いもあったので、参加アーティストも含め、本作ではこれまでの集大成的な要素を盛り込んでいます。

——このアルバムがジュノ・リアクター最後の作品になってしまうのですか?

BEN : そういうわけではないのですが、私の場合、毎回アルバム制作に取りかかる為の準備や構想にもの凄く時間がかかるのです。新作を仕上げ、すべてを出し尽くしたいま、次のジュノ・リアクターの活動がいつになるのか見当がつきません。この欲求は周期的に訪れるので、そのときがくるまではなんともいえません。

——最近はDJとしても活動を開始されているようですが?

BEN : ジュノ・リアクターのサウンドとして「どうアプローチしてゆけば良いのか」と言うテクニックを習得するのにも、DJという行為は、曲作りのための勉強の場でもあり、必要な経験となることに気付かされました。また、昨今リミックス・アルバムをリリースしたことも、こうした流れの後押しになっています。

——昨今のインドでは古典音楽だけでなく、とくにエレクトリック・ミュージック・シーンの進化は目覚ましいものがあると感じます。さきほどいわれていた、Juno楽曲のリミックス・アルバムにも、JitterやMidival Punditzといったインド人アーティストを起用していますよね。

BEN : インドのエレクトリック・ミュージックは僕に言わせれば世界トップ・レベルにあると思います。Jitterの美しいタッチは素晴らしいと思う。Midival Punditzのサウンドは、彼らが手がけた映画『モンスーン・ウェディング』のサウンド・トラック以来の大ファンです。昨年デリーでMidival Punditzに逢った際、彼らがエレクトリック・ミュージックに転身したのは、ジュノ・リアクターの「Conga Fury」を聴いたのがきっかけ。というエピソードを知って、光栄かつ驚きました。

——「Final Frontier」冒頭の人の声、微かに聞こえる歌声、バイクのエンジンの音など、雑踏の音がさりげなく入っていながらも、非常に印象に残ります。また、2曲目「Inbisible」の冒頭でも雨音と落雷の音が聴こえます。さらに、5曲目「Shine」の後半などでも、オートリクシャーのクラクションのような音が聴こえてきます。全編を通して曲中にこのような音が鏤められているようですが、このフィールド・レコーディングはインドでおこなったのですか?

BEN : 渡航中、ZOOMのHandy Recorder H4nを持ち歩いていました。今回のフィールド・レコーディングは、ムンバイとデリーの他、一部スリランカでも録音しています。こうした自然の音を楽曲に入れ込んだことに特にコンセプトやテーマは無いのですが、楽曲にしっくりと馴染んだと感じています。

——今回OTOTOYでは、24bit/96KHzのWAVデータという高音質で配信されます。デジタルは音質が良くないという時代はもう過去の概念のように思うのですが、こうしたデジタルでの音楽配信環境に関してどのように考えていますか? また、今後どのようになっていくことを望みますか?

BEN : テープやレコードが持つ暖かみや、優しいアプローチはなくなってしまいましたが、デジタル・サウンドはリスニングに最適で、クリアかつ正確な再生手段だと思っています。この超高音質での配信という取り組みは、音楽業界の次なる革命に繋がるきっかけになり、家庭用機器でも本来のサウンドを体感できる時代になることを願っています。デジタル配信はミュージシャンの誰もが、世界中に容易に音楽を届けることができるすばらしい仕組みだと思っています。それを24bit/96khzで配信するという将来の音楽シーンを導いていく取り組みを応援します。

——ありがとう御座います。8月には東京と大阪で来日ツアーも控えてますよね。楽しみにしています。

BEN : SUGIZOは勿論、新メンバーやスペシャル・ゲストを迎え入れた壮絶なライヴを企画しているので、是非会場に足を運んで体感してもらいたいと思っているよ。こうしたライヴの経験だけは、どんなに便利になったデジタル時代でも音楽を楽しむ極上の手段だからね。

Juno Reactorの過去作も要チェック!!

LIVE INFORMATION

Juno Reactor FINAL FRONTIER TOUR 2013
2013年8月3日@ageha
OPEN : 18:00

詳細はこちらから

Profile

Juno Reactor

1993年、Ben Watkinsを核にAlex Paterson(THE ORB)らと共に結成。その後も発表するアルバム毎にメンバーを入れ替え、実験的なアプローチで毎回新しい音像世界に挑戦し続け、常にシーンのパイオニアとして君臨し続けている、ダンス・ミュージック・シーンの重鎮。その活動範囲は広く、南アフリカのトライバル・バンド、Amampondoを始めとする他アーティストとのコラボレーションや楽曲提供およびプロデュースを行っている。1995年日本でのライヴ活動を開始。トランス、テクノ・ファンのみならず、ロック・ファンをも魅了し続けるサウンドは、映画関係者からの信頼も厚く、様々なサントラに起用されている他、2003年ウォンシャスキー監督から直々の依頼で、「マトリックス・リローデッド」「マトリックス・レボリューションズ」「アニマトリックス」のサントラを製作。2006年7月、この夏話題のアニメーション映画「ブレイブストーリー」でサウンド・トラックの製作指揮を担当。80名規模の大オーケストラを起用、大迫力と重量感をもたらす楽曲を製作し、話題となる。

official HP

この記事の筆者
坂本 哲哉

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