
新しい遊び方を皆覚えてきた(マキノ)
——風俗営業法違反(風営法)でクラブが摘発される事例が相次いでいます。マキノさんが務めるKieth Flackも摘発を受けましたね。
マキノ : 大阪や京都が厳しくなってきてるっていう話は去年、一昨年くらいから聞いていましたが、その流れで摘発を受けたのは、九州ではKieth Flackが最初でしょうね。ある時からKieth Flackにもやたら警官がくるようになったんですよ。まさかとは思っていたら…。
ボギー : 実は風営法の話は何年か前からあったよね。
マキノ : あったあった。あったけど実際に摘発を受けて店がしまってるのは大阪とか京都の話なのかなと思ってたから、本当に来るとは思わなかった。最近はツアーで大阪とかにいくと、この件でKieth Flackが有名になっちゃって、ハコの人と「大変でしたねえ」なんて話ばっかりしてる。
——その後、Kieth Flackはどのように対応しましたか?
マキノ : 風営法の許可を取りました、あとは「深夜1時で絶対終了」を徹底してますね。
——「深夜1時で終了」ってことでなんとか営業できるんですね。
マキノ : そうですね。あと営業面積の申請も必要なんです。ステージがどれくらいで、オーディエンスのいる場所がどれだけっていう最低限の面積が決められているから。
——Kieth Flackはなんとかそれで許可が取れたってこと?
マキノ : はい。許可をとって、営業してます。
——今、福岡のクラブというかオール・ナイトのイベントの現状はどういう状況ですか?
中村 : いやぁ、オール・ナイトとうたってやっているイベントはほぼないですね。
マキノ : 親不孝通り(脚23)もほとんどやっていないですよ。

——じゃあ、金曜日、土曜日の夜にガンガン踊る感じはないんですか?
マキノ : いや、ガンガン踊ってはいるんですけど、深夜1時で終わっちゃうから皆そこで帰らなきゃいけないっていう。
ボギー : それはそれでどこに流れていくんやろうって思う。ウエストうどんとか(笑)。
中村 : お客さんもなんとなくそういう状況を知ってて、帰らなきゃ、イベントを終えなきゃっていう気持ちがあるんですかね。
マキノ : どうだろう。でも、ネガティブな事ばっかりじゃなくてね、けっこう、新しい遊び方を皆覚えてきたっちゃね。
——というと?
マキノ : 大人は次の日に仕事があるし、朝5時まで遊びきらんて人も多くなってきている。若い子はクラブが怖いっていうイメージがあるのかな?
ボギー : 朝まで遊ぶっていう文化自体がなくなってきている?
マキノ : まだどうなっていくかは、わからないけれど、今回のことをポジディブに考えるしかない。朝5時までやるんじゃなくて、ハコが早い時間からお客さんを集める努力をしなきゃいけない。
——なるほど。
マキノ : 前はずっとハコの中にいて、例えば、土曜のイベントが終わって、掃除をして、日曜の朝6時、7時に外に出ると、親不孝通りは誰もおらんやん。けど、最近は深夜1時に終わる。掃除をいれても2時には店を出られる。それで親不孝通りを歩くんやけど、ようやく最近の親不孝の週末の夜の空気が分かった気がする。何年もずっとクラブの中にいたから、逆に外の風景を知らなかった。
——そんな現状に対して、福岡のバンドマンなり、クラブ関係の人たちが結束してなにかをしていますか?
マキノ : 福岡の話ではないんですけど、大阪・心斎橋のドロップでライヴをやらせてもらった時に、リハ終わってアメリカ村のど真ん中を歩いてたんですよ。そしたら、どうみてもクラブ関係者とか洋服屋の人たちが、揃いの服を着てゴミを拾ってるんです。皆でアメリカ村を綺麗にしようって。ちょっと感動した。皆すごい気合入ってるから道端でもうタバコを吸えないですもん。そういう流れをこっちでも作った方がいいのかなと思っていますね。
ボギー : 法律を変えるっていうのが最終的な目標じゃないとね。
マキノ : 条例じゃないけん、法ってばりばり時間がかかる。上までいくのに相当ね。

——大阪、京都のクラブ関係者は、もう動き出し始めました。まだ福岡には、そういう動きはありませんか?
マキノ : 現在は深夜1時までの時間帯の中で、僕らも店を回すのに必死な状況ですね。
ボギー : 今のところは目立たずに風営法を守って、自分の店が潰れんようにするしかないっていう、今はまだそこ。
——なるほど。そんな状況下で、ライヴ・ハウスに行く人の数に変動はありましたか?
ボギー : 実際、ずーっとブッキングをしてイベントを組んでて感じるのは、出演者の組み合わせとかイベントのコンセプトで大体これくらい集まるって予想するけど、最近はどうしてもそれを下回る。「このテーマはすごい面白い! 絶対わくわくする! 」というのにそんなに食いつかなくなった。震災以降それをすごい感じる。逆に、仲のいいバンド同士でイベントをすると安定して集まる。安心感を求めてるのかな? それはこの一年ですごい感じるね。
——企画の面白さでお客さんが入らなくなっていると。
ボギー : うん。で、それは東京でブッキングやってる知り合いも同じこと言ってた。
——高倉さん達はどうですか?
高倉 : 僕らは告知の仕方を気にしてて、福岡の街全体に向けて告知しているイメージですね。
石井 : そうすると、ほぼ毎回違うお客さんがきてくれて。それまでは「あ、あのお客さん、前も来てくれてたよね」なんて話をしてたけど、最近は初めてのお客さんばっかりになりました。
——福岡の街全体に届けるというのは、例えば。
石井 : 普通の福岡の情報メディアとかに載せたりしています。僕らの活動形態がライヴ・ハウスを主体とした活動じゃなくて、カフェだったりギャラリーだったり、これまで関わることのなかった人たちと関わることで広がったのかなと思いますね。
——現在の福岡のバンドたちの横のつながりは、強いものなんでしょうか?
中村 : 前半の話でもあったけど、チェルシーQ以降はバンドがそれぞれで活動してるけど、仲が悪いとかは感じないです。福岡の音楽業界は狭いから、福岡で活動してたら絶対に誰かと繋がって、誰かと繋がれば友達を紹介されるし、ライヴを見に行けば「あの人、バンドやっててイベントやってるよ」なんて話は当たり前に起こりますね。
ボギー : ただ、それの規模がどんどん小さくなってる気はする。昔は縦の繋がりがすごい強烈で、今は良い意味で縦も横もある気がする。ただ、それが大きくなくて、小さな縦横が無数に沢山あるけど、それ自体の結びつきはあまり強くないかなと思う。それが福岡だけなのかは、わからないですけど。
長い目でみると全体の音楽の底上げとしては良いと思う(松浦)
——なるほど。今後、福岡音楽シーンはどうなって行くと思いますか?
中村 : 福岡音楽シーン全体でみたら、若い人が音楽で夢を見られる状況には決してなっていないですよね。バンドを始めたりDJとして活動をして有名になって、という夢を見られる状況にはなくて、それに追い討ちをかけてクラブの風営法の摘発があったりとかで、たぶん若い人が音楽シーンに入って行きたいと思うモチベーションが湧かないんじゃないかな。
マキノ : 報道だけでテンションが下がっちゃうもんね。
高倉 : 実際そうだと思います。ただ、wood/water recordsの活動としては、今僕らが良いと思っている音楽を福岡の街に対して届けるようにしています。さらに、親から子へ、例えば両親が聴いてるビートルズとかビーチ・ボーイズを聴いて育った子供たちが、20歳くらいになって音楽を始めてすごい面白い音楽が生まれて、というような街をとおして長いスパンを考えて、今をやれたらいいなとは思っていますね。
ボギー : ライヴ・ハウスでない所でいつもしようやん。あれがすごい面白いなと思う。なんかビルを使ってやったり、美容室でやったりね。この間、京都の小学校(元・立誠小学校)でやったフェス『スキマアワー』に出たら、若い音楽ファンから年配の音楽ファン、あと地元の人が親子連れで遊びに来てたりしてすごく良いなと思った。普段から出入りしているような所で開催された方が普通の人は行き易いんじゃないかな。間口を広げるにはそこから始めたら良いのかなと思って。福岡でもそういうのができる場所があると面白いなと思う。
高倉 : お客さんの居心地が良さそうだなというのは、やってて思いますね。
ボギー : 友達同士が集まりすぎてるというのも、ひとつの空気を作っちゃっているかも。店員とバンドとその友達のお客さんがワイワイやってる中で、パッと音楽を聴きにきた人は取り残されちゃう気分になる雰囲気が今のライヴ・ハウスにはあるのかもな。
——京都ではライヴ・ハウスのブッキングがまた力を持ち出したと聞きました。
ボギー : それ、すごい大事と思う。ここ何年か、バンド企画がめちゃくちゃ増えたけど、ハコが自主企画をうって、もっとハコのカラーが出てきた方が良い気がする。

——ハコの人が一人で来たお客さんをフォローできますよね。バンドマンは出演もあってそこまで気が回らない。
ボギー : バンドマンがなんか営業マンみたいになっても格好つかないし。ハコがお客さんと雰囲気を作るっていう方が健全やし。「なんか面白いバンドありますか」なんてライヴ・ハウスの店員から聞いたりとかね。
高倉 : カフェでやってたらそれをすごい感じるんですよ。カフェの店員さんがすごいエスコートしてくれたり、あとカフェ自体がパワーをもってるから、「そのカフェが好きだから、そこでやってるイベントなら楽しいだろう」ってお客さんが来たりとか。
——松浦さんは、カフェや飲み屋等で演奏されていますよね。そういう場所とライヴ・ハウスでやる場合の違いを感じますか?
松浦 : 福岡の音楽が細分化したって話に繋がるかもしれないですけど、僕は細分化自体は悪いことだとは思わないんです。要は、昔はひとつのところにしか熱量がなかったのが、今は全体としての熱量は増えてるんだけど、細分化したことでパッと見たときに少なく見える。例えば、前はチェルシーQだけが真っ赤になってたのが、今は全体の熱量が減ったわけではなくて色んなところが薄い赤というかオレンジというか。なにが分散したかというと、それこそ音楽をやるといえば前はライヴ・ハウスだったのが、演奏する場所がそこ以外にも出来たというのがあると思う。短い目でみたらライヴ・ハウスからお客さんがいなくなったという事になるのかもしれないけど、長い目でみると全体の音楽の底上げとしては良いと思う。
ボギー : 生活のほうに根付いてきたってことですかね?
松浦 : そうそう。例えば、Autumnleafはカフェでもやるしライヴ・ハウスでもやるじゃないですか。自由に活動しながら、どんな場所でも出来るっていうスタイルの人たちが増えたんじゃないかな。ライヴ・ハウスとカフェは別に対立するものじゃないんだろうなと、彼らの活動を見てたら思いますね。
——なるほど。
マキノ : ちょっと話が戻るけど、京都のclub METROとか行ったりすると、ハコが頑張ってるのを感じるよね。スタッフがバリバリ気合入ってる。Kieth Flackも色々やるけど、アーティストとかイベントじゃなくて店にお客さんをつけて、何をやってても人が来るという状況にしないといけないと思う。だからハコのスタッフは気合をいれなきゃいけないと思いますね。METROに行って、改めて本当にプロだなと思いましたね。
——それはどんなところが?
マキノ : 大阪のDROPなんかもそうだと思うんですけど、バー・カウンターの人はバーしかしないんですよ。ブッキング担当のスタッフはブッキングしかしないで、当日はお客さんと話たり、お酒飲んだりフロアで遊んでるんです。完全に分かれてて、それぞれがプロの仕事をするんですよ。僕が行った時に感じたことやけん、実際は若干違うのかもしれんけど、これすげーなと思って。
ボギー : それ大事やと思う!
マキノ : うちらは人がいないから1人で色々やらなきゃいけないけど。あれはちょっと憧れたね。
ボギー : 理想やと思う。それやったら飲む楽しさとか遊び方も伝えられるし。
マキノ : バンドで行ってもハコの人が「ようこそ! 」みたいな感じなんよ。「来て頂いたんですね」なんて言われてハコの人と遊べるから、いつも関西行くと楽しいけん(笑)。打ち上げまで来るけんね。この前DROPの人と朝まで飲んでました。
ボギー : これからはハコが頑張らないといかんのはすごいある。風営法も考える1つのきっかけだと思う。
マキノ : だけん、 お客さんにも「こんな早い時間に来てくれてありがとう」って思う。前は深夜2時とか3時にお客さん集まりだしたけん。19時とか20時に来てくれると泣けるよね。

——仕事を早く切り上げてって事ですもんね。
マキノ : そうそうそう。前はお客さんくるのが当たり前やったけど、少なくなってもいいけん、今はもう本当に感謝せんとね。やっぱりポジティブに考えなきゃいけないって思っています。
2012年4月30日 cafe and bar gigiにて。
中村信一朗、ボギー、高倉知温による
『イマ福岡デ ナッテイル音楽』の解説はこちら!
(脚注22)O/D : 福岡の代表的なクラブ。東京や海外から大物ゲストを迎えたイベントなども多い。近年、親不孝通り(後述)から福岡都心の南側の地区へ移転。
(脚注23)親不孝(親富孝)通り : 福岡都心の北側にあるクラブやライヴ・ハウスが集まっている通り/エリア。インタビュー中に登場するLOGOS、Be-1、Kieth Flack、graf、VooDoo Loungeなどはこのエリアに位置している。
(脚注24)西通り : 前述、親不孝通りの南に繋がる道路。洋服・雑貨などのショップが多く立ち並び、買い物スポットであると同時に飲食店も集中するエリア。
OTOTOYローカル・コンピレーション・シリーズ!
第1弾 : 京都『ゆーきゃんと巡る京都音楽百景』
第2弾 : 名古屋『名古屋音楽シーン 徹底解剖』
第3弾 : 埼玉『 埼玉音楽の未来会議』
PROFILE
マキノショウ(Kieth Flack / step lightly)
2000年結成。MINOR THREAT、BAD BRAINS、GORILLA BISCUITS等のUSHC、S.O.B、OUTO等の日本のHC等に誘発される。と同時にxグラインドサアフx、U SPAN D等の博多ローカル・シーンのバンドにも多大な影響を受ける。2005年位より自主イベントGENTLE THRASHERZを主催。国内外の様々なバンドを招聘。例を挙げるとcapitalist casualties、Vetsek、MUKEKA DI RATOやDUB 4 REASON等、多種多様なバンドと共演し刺激を受けていく。
>>>step lightly official web site
>>>Kieth Flack official web site
ボギー(ヨコチンレーベル、nontoroppo、MOA)
福岡を拠点にお祭り生活をおくる日々。1993年、親不孝通りの路上にてデビュー。1994年、ライヴ・ハウス照和で歌い始める。1996年、三味線や玩具太鼓を駆使したニュー・ウェイブ・バンド「ひまわり」結成(2001年解散)。1996年に福岡にてヨコチンレーベル設立、主催イベント「ハイコレ」は1997年から始め現在111回を数える長寿イベント。現在はトロピカル&ダンサブルなバンド「nontroppo」を活動のメインにしつつ、最近はルーツである弾き語りでのライヴも増えている。名前の「ボギー」とはボーカル/ギターの略。今年、7年ぶりとなるソロ名義のアルバム『青い春』を発表。
高倉知温(wood/water records、Autumnleaf)、石井勇(wood/water records、Autumnleaf)
06年10月結成。福岡を拠点に活動するUSインディー・ベリー・ライクなバンド。wood/water recordsをメンバー自ら立ち上げ、自身の作品(EP1枚・album2枚・remix1枚)をリリース。また、レーベル活動の一環として、定期的なWOOD/WATER MUSICという音楽イベントの開催、WOOD/WATER ZINEの発行などその独自の活動が注目を集めている。2012年秋に新譜リリース予定。
>>>Autumnleaf official web site
>>>wood/water records official web site
松浦浩司(とんちピクルス)
福岡在住の松浦浩司によるソロ・ユニット。ウクレレの弾き語り、自作のバック・トラックにのせてラップなど奔放なスタイルで人生のわび、さびを歌い上げる。警備員、映写技師などを経て、今は鈍行列車に揺られながら演奏旅行を続けている。
中村信一朗(TIME MARKET)
福岡・九州を中心とした情報を毎月お届けしているフリーペーパーTIME MARKETを毎月発行しています。発行1万5000部。音楽・アート・映画・ショップの情報などなど。福岡以外も、九州各県、東京方面にも置いています。フリーペーパーTIMEMARKETを定期購読をしたい人は半年単位で受け付けます。