ダンス・ロックはどこへ向かうのか? 噂のシーンを解き明かせ!
音楽シーンを、「ダンス・ロック」という言葉が賑わせている。跳ねるリズムとハンド・クラップで満員のフロアをカラフルに染め上げるthe telephones、MONICA URANGLASS。あるいは中毒性に満ちたリズムと突き刺すようなサウンドで襲いかかるPILLS EMPIRE、The Brixton Academy。さらにはガレージ・ロックをダンサブルに仕立てたBuffalo' 3なども含め、ダンス・ロックと呼ばれるバンドが未曾有の盛り上がりをみせているのだ。 シーンの経緯や動向、これからについて、ライヴ・DJ複合型パーティー"Free Throw"のオーガナイザー兼DJであり、新宿のライヴ・ハウスMARZの店長でもある、ダンス・ロック・シーンの立役者、タイラダイスケ氏に話を伺った。
インタビュー&文 : 榎山朝彦
INTERVIEW
(ニューウェイヴ・リバイバルの)楽しさを、the telephonesが初めてちゃんとポップ・シーンに投げかけた
—もともとタイラさんは、地元である茨城の水戸で、イベンターとして活躍されていたんですよね?
タイラダイスケ(以下 タイラ): 東京でハコを借りてやるとなったらとても呼べないようなバンドも、地方ならツアーと絡めて来てくれる。東京で何かしてやりたいっていう思いは元々あって、水戸のライヴ・ハウスで培ったスキルと繋がりを持って、上京してきたという感じかな。最初はライヴを入れないDJパーティーとして、下北沢で"Free Throw"を開催してたんだけど、MARZで働くようになってから、ライヴを入れてやってみようと。
—"Free Throw"は、the telephonesがそれこそ「Free Throw」ってタイトルの曲を作っちゃうくらい、今のダンス・ロック・シーンを形成している核となるようなパーティーだと思うんです。最初はどんなバンドを呼んだんですか?
タイラ: MARZに入る前からthe telephonesは知ってて、すごく良いバンドだなと思ってた。で、彼らがB.B.LimitedっていうPILLS EMPIREの前身バンドとThe Brixton Academyと対バンしていた時、3バンドとも仲良しで、なんか一緒にやろうぜーみたいな感じがあって、これはオモロいなと思ったので、まずThe Brixton Academyを誘いました。
—バンドを呼んで一発目はどうでした?
タイラ: まだDJだけのパーティーだった頃から、音質の悪いCD-Rで今挙がったバンドの音源をかけたりしていたから、お客さんもThe Brixton Academyの存在は知っている状況だった。100人くらい入ったのかな? The Brixton Academyの持ち込んだCDも50枚ぐらい完売して、オオーっと。まだ流通してないから、そこでしか買えなかったんだよね。
—一夜に1バンドだけ呼ぶっていうスタイルは、最初から変わらず?
タイラ: 一回だけ、イベントに組み込むって形で2バンド出てもらったことはあるんだけど、あとはずっと1バンド。たくさんバンドが出るとライヴ・イベント的になっちゃうし、DJも含めてパーティーなんだよってことが伝わらない。実は、参考にしたパーティーがあって。Erol Alkanがやってた"Trash" (ロックとダンスのクロス・オーヴァーを発信し続けた、ロンドンの伝説的パーティー)。バンドが出て、DJも同じくらい輝いてる。そんな見え方をうまい具合に落とし込んだ場所が"Free Throw"。
—いつ頃からシーンとしての実感が出てきました? 今言われている、ダンス・ロック・シーンとしての磁場ができてきたなと思った時は?
タイラ: 分かりやすいところでは、やっぱりthe telephonesが売れた頃かな。俺らの世代は、ニュー・ウェイヴっていうよりはニュー・ウェイヴ・リバイバル…THE RAPTUREやLCD SOUNDSYSTEMとか、まだディスコ・パンクって呼ばれてた頃の音楽がすごいリアル・タイムだったんだけど、そういった音楽の持っている楽しさを、the telephonesが初めてちゃんとポップ・シーンに投げかけた。サビで四つ打ちになるようなギター・ロックのバンドはいっぱいいたけど、そういうのは全然オモロくないなと。
—ダンス・ロックって一口に言っても、例えば今名前が出てきたthe telephones、PILLS EMPIREだけでも全然違うサウンド。更にThe Brixton AcademyからMONICA URANGLASS、Buffalo' 3…、音楽的な共通項っていうとあんまりないですよね?
タイラ: ダンス・ロックってざっくり分けられてるけど、The Brixton Academyは完全にUKのインディー、それこそ7inchで切られてるような文化に傾倒してる。MONICA URANGLASSはどっちかというとthe telephonesに近くて、洋楽と邦楽の融合…でもバランスが違う。the telephonesは軸足が洋楽なんだけど、MONICA URANGLASSは軸足が邦楽だし、日本語で歌う。あとBuffalo' 3は、ダンス・ロックというよりは、ダンスの要素を持ったガレージ・ロック。
今はシーンってものを幅広く捉える、自覚的なバンドが増えた気がする
—今、日本でロックンロール・リバイバルが起きた! みたいな言い方もされているじゃないですか? 2000年くらいに海外で、THE WHITE STRIPES、THE STROKESとかバーッと出てきた時の感じが起こりつつあると。例えばThe Cigavettes、QUATTRO、それにTHE BAWDIESなどを指して。でもその切り口はとてもつまらなくて、海外で起こったことが遅れて起こっただけ、って思う。けれどダンス・ロックっていう切り口は、サウンドは全然違っても「ダンス」だけで繋がっている。それは面白いなと。タイラさんはロックンロール・リバイバルっていう切り口に関して、どう思いますか? the telephonesとか、ダンス・ロックにカテゴライズされてるバンドの一部も含めて、そう呼ばれてるわけですが。
タイラ: 日本のシーンが洋楽に影響を受けるタイム・ラグが、どんどん狭まってきているような気がしてるのね。ロックンロール・リバイバル、ガレージ・ロックの復権みたいなところから、いわゆるニュー・ウェイヴ・リバイバル、ダンスの要素が強いものへ…っていう洋楽の流れがあるじゃないですか。タイム・ラグの狭まりによって、もうロックンロール・リバイバルとニュー・ウェイヴ・リバイバルが一緒に来ちゃった! みたいな感じは、確かにあるのかなと思う。
—実際に、一見共通点のないようなガレージ・ロックとニュー・ウェイヴのバンドが、すごく交流を持っていたりしますよね。
タイラ: 今はシーンってものを幅広く捉える、自覚的なバンドが増えた気がする。昔でいうと、ハイスタ(Hi-STANDARD)がサウンドは全然違っても志を同じくするようなバンドを集めて、シーンとしてまとめていったじゃない。その頃のパンク・シーンと同じような匂いを感じる。それは大人も放っておかないよね。コンピレーション・アルバム(今年3月にavexのレーベル"Cutting Edge"から発売された、『UNDER CONSTRUCTION ?rock 'n'roll revival from Tokyo!!!?』というアルバム。PILLS EMPIRE、The Cigavettes、THE BAWDIES、MONICA URANGLASSなどが名を連ねている)がCutting Edgeから出たくらいだし。
—ハイスタは、それまでアンダーグラウンドなものだったパンク・ロックを、メジャーなものしか聴かないような人の耳にまで届けた先駆者ですよね。しかも、パンク・ロック・シーン全体を引っぱっていった。その活動は、ほんとに大きな影響を与えたと思うんですよ。今のバンドって、ちょうどハイスタが先陣を切ってシーンを動かしていた時に、中学生くらいだった世代ですよね。いわゆるハイスタ世代が、10年くらい経って、シーンという発想を再び持って出てきたんだと思います。海外からの影響をストレートに感じさせる、ボーダーレスなサウンドという点でも、共通していると思うし。
タイラ: 実は自分もすごくハイスタに影響を受けていて、"Free Throw"の個人的な最終目標も、現代の"AIR-JAM"(Hi-STANDARD主催の音楽フェスティバル)をやりたい、っていうところにあるんだよね。the telephonesにも、かつて"AIR-JAM"でハイスタが上の世代のMAD CAPSULE MARKETSを呼んだみたいに、世代を超えた音楽の繋がりを自分達のシーンから発信していく、そういう野心がある。彼らだったら上の世代のPOLYSICSもいけるし、同世代の竹内電気だって、the chef cooks meだって、Avengers In Sci-fiだっていける。もちろん下の世代とも繋がってる。だから、もしかしたら現代の"AIR-JAM"がやれるのかなーって。 あとTHE BAWDIESも、ハイスタが持っていたシーンという発想を今に活かそうとしている。"KINGS"(THE BAWDIES、the telephones、The Brixton Academy、QUATTRO、PILLS EMPIREのバンド勢と"Free Throw"チームが共に主催するパーティー)に一番そういうロマンを持ってるのは、THE BAWDIESだからね。
—"KINGS"は各バンドが全然違う音なのに、すごく一体感がありますね。"AIR-JAM"の時に「パンク」っていう共通項のもと、いろんなバンドが一堂に会したように、今のバンドやDJが「ダンス」って共通項のもとに集えたら、表面的なジャンルや世代を超えた、幸せな交流が生まれるかもしれない。あと、"AIR-JAM"の時って、お客さんの志がすごく高かったと思うんですよ。DIYマナーを持って、音に対して偏見もなくて。すごく統一感があったというか。今、ダンス・ロック・シーンを賑わせているお客さんはどうなんでしょうか?
タイラ: the telephonesのライヴに行くと、クラブ・ミュージックが好きって人も、首にタオル巻いてダイブしちゃうような、パンクが好きって人もいる。そのカオスな感じも面白いんだけど、統一されたコアなものはまだないかな。
将来的には本質的なバンドだけが残って、他は淘汰されていくと思う
—このバンドとこのバンドが面白くて、こういう部分で繋がってるんだよ、って紹介していく側のパフォーマンスが必要じゃないですか?
タイラ: こういうインタヴューを受けてて言うのもあれだけど、俺はもうダンス・ロックって括りに飽きてきちゃってる感じもあって(笑)ガーっとダンス・ロックって言った中で、興味のあるバンドなんて、半分いるかいないかっていうところなんだよね。要は本質的かどうか、っていうところになってくる。"AIR-JAM"の後にもパンクっていう洋服だけ着せられたみたいな、精神性も何もないようなバンドが出てきた。今も、必要性に迫られてそういうサウンドになっているバンドと、なんとなくその波を他のバンドより早めに感じて乗っかったバンドと、両方いる。特にシーンとしてよちよち歩きみたいな時期だから、ふるいにかけられてない。しかもレコード会社が、いいバンドを早めに押さえたいから、いいバンドもよくないバンドも一緒くたにしている感じがある。
—そういう、波に乗っかったみたいなバンドもいる状況になって、はじめてシーンとして見られるのかもしれないですね。
タイラ: シーンとして過渡期なんだよね。今のところダンス・ロックとか、ロックンロール・リバイバルみたいな器があって、それにバンドが乗っかっているような感じだけど、将来的には本質的なバンドだけが残って、他は淘汰されていくと思う。器が消えて残ったバンドの繋がっているキー・ワードは、もしかしたら「ダンス」じゃないかもしれない。後々に、こういうバンドがいたよねっていう時代の空気感は、もっとざっくりした感じで出てくるんじゃないかな。今のシーンがそのままの形で大きくなるかっていうと、俺はそうじゃないと思う。要素のひとつとしては残ると思うけど、変化していく中で、そういう切り口が一回見えただけっていうか。例えば、ダンス・ロックって言い方をした時に、なんでTHE BEACHESが入ってこないのか? あれほどロックでダンス・ミュージックを体現しているバンドはいないのに。今のダンス・ロック・シーンっていう器がいかに小さいかってことだと思う。
—ライヴでも、the telephonesは元々交流のないバンドとガンガン対バンしていると思うんだけど、他のダンス・ロック・バンドは、畑の違うところでもやっているような印象がないんですよ。それこそ器の中というか。それが取っ払われた時に、初めて見えてくるものがあるかもしれないですね。
タイラ: そうだね、俺もその器を取っ払っていきたい。どういう形であれシーンに携わっていって、新しい"AIR-JAM"を作れたらいいなというロマンがありますね。"AIR-JAM"は、あれはあれで完成なんだけど、本当はもっと先があったと思っているから。2000年から2010年の間に、シーンが死ぬほど変わったわけじゃん。それをこれからやっていけたらいいなと。
DANCE MUSIC RECOMMEND!
The Brixton Academy
80年代のニュー・ウェイヴ / マンチェスター・サウンド、海外の最新のインディー・サウンドの洗礼を受け、そこに東京のインディー・カルチャーを絶妙にミックスしたサウンドやパフォーマンスで、現在を注目を集めている。
Buffalo'3
2007年結成。ヴィンテージ感漂う尖ったサウンドと野太いビートに疾走するグルーヴ。さらにその上に2000年代以降のUKロックを感じさせるリズミカルなギター・サウンドとカオティックな爆音ノイズを乗せ爽快にぶっ飛ばす。70'sから00'sの洋楽オルタナティヴ・ロックと日本のインディー・ロックからの影響が交差した東京のNEW ROCKを鳴らす3ピース・バンド。都内を中心に各地LIVE HOUSE / ROCK BAR&ALL NIGHTのCLUBシーンで精力的に活動し、現在進行形で急成長中。
MONICA URANGLASS
モニカ・ウラングラス。80'sダンス・ミュージックやNEW WAVEの要素を取り入れた、ロッカトランス(ロック+トランス)という音楽を奏でる3人組。ライブ・ハウスのみならず、クラブ等でもライブを行うなど、活動は多岐にわたる。強烈な魅力を放つダンサブルなロックで、着実にファンを増やしている
THE BEACHES
ディスコ、ニュー・ウェイヴ、レゲエ、パンクなど、あらゆるジャンルを飲み込んだロック。ライブ・ハウスやクラブ、更には各地のフェスに至るまで、そこにいるオーディエンスをダンス・ピーポーに変え続る、とってもファンキーなバンド。
Veni Vidi Vicious
バンド名はTHE HIVESのアルバム・タイトルから。FUJI ROCK FESTIVAL '06 ROOKIE A GO-GO出演やBritish Anthemsへの参加など、その活動の勢いは止まらない。圧倒的な演奏力を武器に、The Strokes、The Libertines、THE HIVES、OASIS、JET、The Vinesなどのサウンドを消化し、独自の色に染め上げたロックンロールを繰り広げる。
80Kidz
世界が大注目する日本発00年代型3ピース・エレクトロ・ユニット。BOYSNOIZE、SPACE COWBOY、TEENAGE BAD GIRL、HOT CHIP、JUSTICE、BUSY P、DIGITALISMなどのエレクトロ・シーンの大物達との共演経験や、「disdrive」「Fxxk Fox」といったシングル曲のヒットなどで話題の彼ら。待望の1stアルバム!
SPECIAL : ニュー・オルタナティヴ・ミュージック特集