2013/09/26 00:00

ジュークやダブステップ、トラップ、ムーンバートン(注1)など、2010年代以降に登場したミュータント・ダンス・ミュージックのひとつ「Gorge(ゴルジェ)」。タムによって構築されたその硬質なビートは、聴く者に圧倒的な体験をもたらし、“岩”“ゴルい”という謎めいたキーワードと共に、中毒者を増加させ続けてる。そんな増えつつある日本のゴルジェ・ブーティスト(ゴルジェをプレイする者をこう呼ぶ)の中でも、最も早くゴルジェに注目し、その峻険なトラックとライヴで他ジャンルからも大きな支持を得ているのがhanaliだ。これまでにダウンロード配信され話題となったEPからベスト・トラックをセレクトし、再エディット&再ミックスしたトラックに加え、未発表のニュー・トラックを詰め込んだフル“ゴルジェ”アルバム『ROCK MUSIC』が完成した。フィジカル・リリースも伴ったフル・ゴルジェ・アルバムのリリースは日本初。世界でもほとんど例を見ない出来事であり、ゴルジェ・シーンに止まらない重要なマイルトーンとなる事件であることは間違いない。

また、OTOTOY配信限定で、hanaliの10年来の朋友であり、ゴス・トラッドとともにパーティ、バック・トゥ・チルを続けるなど、この国のダブステップ界の重鎮、「DJ百窓」による2曲目「Rebolted Wonder Gorge Ensemble Band」のリミックス音源がボーナス・トラックとして収録!

hanali 『ROCK MUSIC』トレーラー
hanali 『ROCK MUSIC』トレーラー


hanali / ROCK MUSIC
【配信価格】
WAV 単曲 180円 / アルバム購入 1,800円
mp3 単曲 150円 / アルバム購入 1,500円

【Track List】
01. We need “ROCK MUSIC”
02. Rebolted Wonder Gorge Ensemble Band
03. Stop The Night Boldering in Kawai
04. Gorge in to out (Variation)
05. GODGE
06. Hang The Gorge Bootists
07. Survival something
08. The Mytery of Gorge
09. Too Static, Too Dynamic
10. Gazz
11. Harder or Hardness (Variation)
12. Rebolted Wonder Gorge Ensemble (100mado-remix)
※DJ百窓、入魂のゴルステップ・リミックス!

ゴルジェの聴き方“ゴルい”聴き方~hanali 『ROCK MUSIC』リリースを巡って

hanali近影。バックの奇岩怪石がゴルジェの世界観そのもの。ゴルジェ・ブーティストは、神仙の世界と現世をつなぐシャーマンといえるだろう……

2012年夏にリリースされたコンピレーション『Gorge Out Tokyo 2012』(GORGE.IN / GORGEIN-001)を契機に日本国内さまざまなトラックメーカーがゴルジェ・サウンドにトライし、その爆発的なゴルジェトラックの増加はアンダーグラウンドなダンス・ミュージック・シーンの大きなうねりとなった。そしてその別の側面として、“ゴルい”というキーワードと共に「聴き方」としての「ゴルジェ」にも焦点が当てられ、さまざまな試みが行われたことを見逃してはならない。

その中心となって活動するDJが、HiBiKi MaMeShiBa(以下MaMeShiBa)氏である。初期から活動するワン・プッシャー(ゴルジェDJをこう呼ぶ)として、執拗なゴルジェ研究と奔放な解釈により自由自在にあらゆる音楽を接続し続け、そのサウンドは聴くものに衝撃を与えつづけている。

いまだ一般の音楽リスナーにまで浸透したとは言い難いゴルジェという音楽。タムを多用した強烈にパーカッシブなそのグルーヴは一部のコアなリスナーには(”カルト的”と言われるほどの)熱狂をもたらしつつも、その全貌は多くの謎に包まれ、ネット上では存在の真偽も含めてさまざまな憶測が飛び交っている。hanali『ROCK MUSIC』のリリースにあたり、その謎を解くべく本稿ではナビゲーターとしてMaMeShiba氏に話を聞いた。“ゴルジェ”とは何なのか、“ゴルい”音楽とは何なのか。それを解明する一助となることだろう。

ナビゲーター : HiBiKi MaMeShiBa
取材・構成 : GORGE.IN編集部

「これはゴルジェかもと思った瞬間、それはゴルジェになる」

かつては覆面DJユニットOL Killerの立ち上げメンバーとしてビッグ・イベントにも多数出演し、フレンチ・エレクトロ、ダーティ・ビーツ、ダブステップなどさまざまなジャンルのDJとして活動してきたMaMeShiBa氏。現在はゴルジェのDJをメインにしてさまざまな場所でプレイしているが、ゴルジェDJを開始した当初についてこう語る。

「ゴルジェが日本に紹介され始めたとき、最初は皆戸惑ったんです。ネパール~インド発祥という噂だけど、あまりにも謎が多いし、情報が極めて少ないし。そのうち、これを満たせばゴルジェと名乗ることができるGorge Public License(GPL)(注2)というのがあることが分かって、作るのはタムを使えばいい、ということが分かったんですけど、聴くにあたっては”これってゴルジェなの?”ってさまざまに憶測がされていて。そのうち、オリジネーターと言われるDJ Nanga(注3)の言葉として”これはゴルジェかもと思った瞬間、それはゴルジェになる”ということが伝わってきて。あ、これはどんどん勝手に解釈していけばいい音楽なんだ、ということが分かって、一気に世界が広がりましたね。」

DJプレイ中のHiBiKi MaMeShiBa氏。ミキサー脇にノンパワー・ストーン(パワーが一切無い)が置かれている。

有志によって運営されているPinterestの「Roots Gorge Archives」では、その「ゴルジェ的解釈」によってゴルジェとされたさまざまな過去の音源が紹介されている。初期から影響が指摘されていたMoebius, Plank & Neumierの『Zero Set』を始め、This Heat、The Pop Groupというニュー・ウェーブ/ポスト・パンクのアーティストから、ブランキー・ジェット・シティ、CHARA、チャクラなど日本の音楽、果てにはゲーム音楽や芸能山城組、エジプトの路上音楽、現代音楽など、良く言えば横断的、はっきり言ってメチャクチャななセレクトの音楽が並ぶ。これを貫くのが“ゴルい”という聴き方であるとMaMeShiBa氏は言う。

「“ゴルい”というのは最初はhanaliさんが言い出した言葉で、単純に”ゴルジェっぽい”という感覚を言葉にしたのが最初のきっかけのようです。本人によれば、”タムがドコドコ鳴ってる音楽”という単純な括りだったみたいなのですが、この言葉によって見出された音楽がさらに“ゴルい”という言葉を更新し続けて、今ではさらに大きなくくりで捉えられていますね。レアグルーヴを掘る感覚と“ゴルい”という感覚はすごく近い。今まで見捨てられていた音楽が新たな輝きを発し始めるんです。」

2013年4月4日にDommuneで放送されたゴルジェ特番『The Mystery of Gorge』のトークではMaMeShiBa氏によるゴルジェ研究の一部が明かされ、驚きをもって迎えられた。詳細はここでは省くが、ネパールに1960年代からゴルジェが存在していた証拠と語る『The Folk Music of Nepal』の紹介をはじめ、芸能山城組が結成以前にゴルジェに出会ったかもしれない可能性、さらには伊丹十三監督の映画のゴルジェとの親和性など、音楽に留まらない”ゴルジェ”にまつわるさまざまな研究結果が報告された。

今までの価値観だと見捨てられていたような音楽に、“ゴルい”という方向から焦点を当てる

「最初は自分もゴルジェは存在しないんじゃないかと思ってた時期もありました。でも試しに自分で”存在している”という前提で調べるとさまざまな情報が見つかるんですよ。次第にそれを積極的に掘っていく行為自体が面白くなってきて、これこそが“ゴルい”ということなんじゃないかと。存在するかどうかは大した問題じゃないんです。それにどう自分が向き合っていくか、ということが重要じゃないかと。まあ結果として今では99%は存在するという結論になりましたけど(笑)」

Dommuneでは「あらゆる場所にゴルジェが存在する」とまで言い切ったMaMeShiBa氏。さまざまな音楽に“ゴルい”」を見出していくその感覚は、以前に「レアグルーヴ」という言葉で過去の見過ごされていた音楽を再評価して掘り起こしていくDJの先達のスタンスに非常に近しいものを感じると言う。

「レアグルーヴというのは今では確固たるジャンルとなっているように見えますが、過去に見捨てられたレコードからレアグルーヴとしての価値を見出していくという、すごく先鋭的なスタンスなんですよね。イベントに呼ばれて小林径さんとも話したんですが、小林さんはそういうスタンスをずっと持ち続けて本当に凄い。小林さんも共感してくれたんですが、ゴルジェは切り口は違うものの、やっていることはレアグルーヴを掘る感覚と凄く近いと思います。今までの価値観だと見捨てられていたような音楽に、“ゴルい”という方向から焦点を当てることで新たな輝きを発し始めるんです。そういうことに気づかされました」

このような“ゴルい”に焦点を当てた聴き方。その最たる例が、「ドラマーのドラムソロがいま一番面白い」というMaMeShiBa氏の聴き方だ。

「よく昔のバンドのライブDVDやLPがレコード屋で中古で叩き売られてるんですよ。それこそ100円とかで。それのトラックリストを見て、”ドラムソロ”というパートがあったら取り合えず買ってみてます。またこれが面白いんですよ(笑)。全然これまでの流れとは関係なく、タムを叩きまくっている最高の“ゴルい”音楽があったりするんですよ。テリー・ボジオのドラムソロとか最高ですね。こういうのをいろいろ掘ってエディットし、DJで使ったりしてます」

かつてこのようなドラマーのドラムソロをクラブでプレイしようというDJがあっただろうか? それだけでもゴルジェの特異性が伺えるようなエピソードである。さらにそれに留まらず、あらゆる森羅万象にMaMeShiBa氏は“ゴルい”という接し方を適用しようとしている。

テリー・ボジオのドラムソロ。異常な数のタムとシンバル。
テリー・ボジオのドラムソロ。異常な数のタムとシンバル。

あらゆる場所にゴルジェが存在する

「たとえば、ちょっとでも”山”とか”岩”っていう単語があったら、とりあえずゴルいんじゃないかと思って掘ってみるんですよね(笑)。たとえば、『万葉集』の山上憶良とか、ゴルそうと思って一通り読んでみた結果、特にゴルくは無かったんですけど(笑)。でも、今まで触れてみたことの無かった文化にそういう切り口で接してみる、ということによって、結果として見つけられなくても凄く楽しかったり。そういう風に接してみることこそ“ゴルい”、ということなんじゃないか、というのが最近の結論です。これこそ”あらゆる場所にゴルジェが存在する”ということなんですよ」

そんなMaMeShiBa氏のプレイは、日本唯一のゴルジェ専門レーベルGORGE.INからのリリース『Dommune Gorge One More Push』で聴くことができる。 トラックリストだけを見ればなぜこれらの音楽が1つのミックスにまとめられてるのか意味不明に見えるかもしれない。だがミックスをまとめて聴けば、奇妙な説得力を感じることができるはずだ。これこそがMaMeShiBa氏の語る“ゴルい”ということだと。

だがそれがすべてではない。MaMeShiBa氏はこう語って締めくくった。

「DJ Nangaの”これはゴルジェかもと思った瞬間、それはゴルジェになる”という言葉は面白くて、それをそのまま解釈すればhanaliさんの『ROCK MUSIC』も聴いた人がこれはゴルジェじゃない、って思えばゴルジェじゃないんですよ。すべて聴いた人の解釈に委ねられてる。だからhanaliさんの音楽も自分の音楽も、まったく権威ではない。これを聴いた人が自分のゴルジェを発見していくのが面白いと思うし、我々もそういうことを期待してます。ゴルジェで良く言われる”Enjoy Your Gorge!”ということです。」

実際、ゴルジェのDJとしてHiBiKi MaMeShiBa氏を筆頭にさまざまなDJが独自の“ゴルい”を追求して各所でプレイしている。Dommuneに同じく出演したGORGE.INのdubstronicaを始め、関東ではBlackMamba、広島のDJ RINN、長崎のyuko lotusなど、全国各地でディープなゴルジェディグが活発に行われている。また、ダンス・ミュージック・シーンの最前線で活躍するMoodmanなどのDJもゴルジェにチャレンジしている。それぞれの出自やモチベーションはまったく異なるが、独自の“ゴルい”という定義を元に音楽を再構成しようとする試みは刺激的なものであることは間違い無い。ぜひ現場に足を運んで体験してほしい。

現在進行形で行われているゴルジェというさまざまな現象。これを読み終えた貴方も、その一部であることは間違いない。ぜひこの記事を一助として、さらにもう一歩深遠へと踏み込んでいただければ幸いだ。

付録としてMaMeShiBaによる“ゴルい”名盤10選を紹介する。MaMeShiBaの語る“ゴルい”音楽が聴こえてくることだろう。
Enjoy Your Gorge!

【MaMeShiBaが選ぶ“ゴルい”名盤10選】はこちら!!

(注1) ムーンバートン
Silvio Ecomo & DJ Chuckieの「Moombah(Afrojack remix)」のBPMを108まで下げたことがそもそもの始まりであり、そのBPMがレゲトンと酷似しているため、ムーンバートンと命名された。

(注2) GPL
以下の条項を満たせばゴルジェと呼ぶことができるというGorge Public License。
音について言及しているのは1)の「タムを使え」ということだけである。

1) タムを使え(Use Toms)
2) それをゴルジェと呼べ (Say it “Gorge”)
3) それをアートと呼ぶな (Don’t say it “Art”)

(注3) DJ Nanga
ゴルジェのオリジネーターとされるトラック・メーカーだが、国籍・年齢・本名は不明。日本で会ったことある者は居ない。DJ Nangaを初めとするヒマラヤン・ジャイアンツと呼ばれる集団が初期ゴルジェ・シーンを形成したと伝説的に語られる。『Gorge Out Tokyo 2012』に提供した「Thema of Gorge Public License」はゴルジェ・アンセムとして引用されることが多い。

RECOMEND


Brian Eno / Small Craft On A Milk Sea
アンビエント音楽の創始者であり、近年ではU2、COLDPLAYのプロデュースを手掛け、音楽シーンに多大なる影響を与え続けてきた巨匠ブライアン・イーノ。「このアルバムに収録された楽曲のほとんどは、インプロヴィゼーション(即興)から生まれている。それらの即興は、曲としてではなく、むしろ風景として、ある特定の場所から抱く感覚として、あるいはある特定の出来事が示唆する提案として完成させようと試みられている。」とイーノは本作について語っている。ある特定の場所とは「山」、ある特定の出来事とは「クライミング」を示してているのでは? ゴルいい話。


Björk / Nattura
ビョークとシガー・ロスが参加したアイスランドの自然保護を訴えるイベント「Nattura」のためにレコーディングされた本作。曲名「Nattura」はアイスランド語で“自然”という意味を持つ。トム・ヨークはバッキング・ヴォーカル、マシュー・ハーバートはシンセとベースで、ライトニング・ボルトのブライアン・チッペンデールがドラム、マーク・ベル(LFO)はエレクトロニック・ビーツでそれぞれ参加。制作陣、ジャケットともに完全にゴルジェ。打ち鳴らされるタムの響きに耳を傾け、アイスランドの大自然に思いを馳せていただきたい。(※アイスランドは、大西洋中央海嶺とアイスランド・ホットスポットの上に位置している火山島である。完全にゴルジェ。)


Lorn / Debris
Ninja Tune所属のビートメーカー、Lornによる確信犯的ハード・ゴルジェEP。タイトルの「Debris」は、山や絶壁の下に積もった岩くず、堆積物の意味。地鳴りのように鳴り響くドラムは岩そのもの。荘厳な音の響きに耳を傾け、北アルプス立山連峰を思い浮かべていただきたい。

PROFILE

hanali
Toki Takumiによるソロ・ルーツGorge(ゴルジェ)・プロジェクト。また国内唯一のGorge専門レーベル「GORGE.IN」の運営の中心メンバーの一人であり、Gorge普及活動に尽力するGorgeエヴァンジェリスト(伝道者)でもある。2000年頃から音楽活動を開始し、テープMTRによるテープを使わない即興演奏を中心に活動。その後、テント泊縦走、沢登り、フリー・クライミング、クラック・クライミングなど山に関わる活動に軸を移していたが、タムによる呪術的なリズムワークを特徴とするビート&クライミング・ミュージック「Gorge」の思想とダイナミズムに衝撃を受け、2010年頃よりルーツGorgeスタイルでのトラックメイクを開始。2012年夏、日本初のGorgeコンピレーション・アルバム『Gorge Out Tokyo 2012』に参加すると同時にhanaliによるフルGorgeアルバム『Gorge is Gorge』をリリース。2013年には2度インターネットメディア”Dommune”に出演しトークとライブを行い、7月に幕張メッセで行われた音楽フェス”FREEDOMMUNE 0<ZERO>2013”に参加。その後も次々とトラックリリースを行うと共に、ライブハウスやクラブ、野外イベントなどでライブ活動を重ね、そのダイナミックなタム連打サウンドは様々なシーンのリスナーから賞賛を受けている。

gorge.in

この記事の筆者

[レヴュー] hanali

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