2012/08/10 00:00

時代を、そしてかけがえのない瞬間を語り継いで来た七尾旅人が、新作『リトルメロディ』を発表した。2010年新たなポップ・ミュージックの到来を印象づけた傑作『billion voices』リリース後に全国各地でライヴを行い、曲を作り続けて来た七尾旅人。今作『リトルメロディ』には、2011年3月11日に起きた東日本大震災の後、すぐに被災地に駆けつけ支援し、その経験を通して作られた曲「圏内の歌」等も収録されている。誰もが忘れられない時を経て完成したニュー・アルバム。七尾旅人が語り継ぐ現代の詩(うた)が聞いてほしい。

デビューから14年。極めつけの傑作

七尾旅人 / リトルメロディ

【販売形式】
mp3 単曲200円 /アルバム2000円

【Track List】
1. きみのそばへ / 2. 圏内の歌 / 3. my plant / 4. Everything is gone / 5. サーカスナイト / 6. 湘南が遠くなっていく / 7. きみがなおるひ ほほえみのひ / 8. 劣悪、俗悪、醜悪、最悪 / 9. busy men / 10. NO HOME / 11. 七夕の人 / 12. 銀河を渡る子供たち / 13. アブラカダブラ / 14. Chance☆() / 15. Memory Lane / 16. リトルメロディ

名盤となった『billion voices』も配信中!

七尾旅人 / billion voices

ほぼノン・プロモーションにも関わらず、多方面から反響が起こり奇跡と言われた七尾旅人×やけのはら名義のシングル「Rollin' Rollin'」から半年。独力で作り上げた3枚組超大作『911fantasia』以降、全国各地の独自の活動で出会った仲間を迎え、新旧問わず七尾ファンが間違いなく心揺さぶられる入魂のマスター・ピース。

表現者としての使命感が生んだ福音たり得るポップス

なぜか懐かしく、曲が進むにつれ子供の頃に還っていくような不思議な安らぎを感じさせてくれる小さなメロディ達。まるで夏休みのある日寝苦しい昼寝から目覚めた夕方の凪の中にいる様な。1曲1曲が終わるごとにカレンダーをめくる様な寂しさを、小さな風鈴のように限りなく優しい七尾旅人の声が包みこむ。

「子供たちだけでも/どこか遠くへ逃がしたい」

去る7月8日に行われた脱原発イベント『NO NUKES 2012』でも坂本龍一と共に演奏され、観客を静まり返らせた「圏内の歌」。東日本大震災後に福島を訪れた際、現地の人たちとの会話を元に作られたというこの歌は切実な人々の想いが彼の声を借りて世の中に訴えかけているようでもあり胸が締め付けられる。ガイガーカウンターの放射線感知音とノイズが緊張感を感じさせる冒頭の「きみのそばへ」から続くこの曲を軸として、シンプルなリズム・トラックに乗せたR&Bとガット・ギターの弾き語りを基本とした構成は非常に耳に馴染み易く、「今歌いたい歌」を過剰なラッピングをすることなく届けたいという意思を感じさせる。その結果現れたのが、珍しくスーツにガット・ギターを抱えたジャケットにも象徴される「シンガー・ソウル・ライター」とでもいうべき七尾旅人の生身の姿だ。都会のビル群を夜景に結びあえない心の糸をたどるようなセンチメンタルなR&Bナンバー「サーカスナイト」、福島で出会った少女が自宅の瓦礫に登って必死に何かを探していた光景を想って書いたという「Memory Lane」という2曲は、このアルバム随一のソウルフルな歌唱とその内容もあいまって、2012年の日本のマーヴィン・ゲイ、いや現代日本の「What’s Going on」といった趣き。七夕にオフィシャル・サイトから先行配信された「七夕の人」や、湘南地区限定先行シングル「湘南が遠くなっていく」は新たなサマー・ソングのスタンダードとして後年まで残るであろう情緒を感じさせる秀作だ。

これらの曲たちには前作『billion voices』で聴かせた朗読もなければ過激なサウンド・アプローチ、攻撃的なフレーズも感じられない。曲間のインターミッションから流れるノイズは、いまだに震災・原発事故の影響下にある現代(いま)を生きる我々への警鐘のようだが、その痛みや不安を共有し生きて行こうという優しさと力強さがこのアルバムには溢れている。

「これから僕らやり直せるさ/どんな壁も越えてゆけよ/小さなメロディ」(「リトルメロディ」)

原発や被災地の問題に触れることに一切の迷い無く、表現者として歌うべき現代を歌う。伝えるべき声を拾い、歌い、あらゆる壁を越えて世の中に届ける。様々なアーティストとの共演や各地での弾き語りを通して磨いてきた感性が今、時代を切り取る鋭さに加えて七尾旅人の歌に大きな包容力を与えた。表題曲「リトルメロディ」(名曲! )のエンディングに収められた子供のつぶやきがこのアルバムのメッセージの全てだ。未来を託す子供たちへの想いが生んだ小さなメロディ。やがてそれは子供たちが口ずさむ大きなメロディとなって時代を創るだろう。七尾旅人という稀有な才能が使命感と必然性を以って完成させたこの上質なポップ・アルバムが多くの人に新時代の福音として鳴る事を願いたい。(text by 岡本貴之)

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LIVE SCHEDULE

七尾旅人 ライヴ&サイン会
2012年08月17日(金)@タワーレコード新宿店

SUMMER SONIC 2012
2012年08月18日(土)@千葉県 QVCマリンフィールド&幕張メッセ

勝井祐二(vln)+U-zhaan+七尾旅人
2012年08月18日(土)@下北沢440

Damo Suzuki's Network Never Ending Tour 2012 in Japan
2012年08月19日(日)@東高円寺UFO CLUB
出演 : ダモ鈴木withテニスコーツ / ダモ鈴木with七尾旅人 / ダモ鈴木withマヘル・シャラル・ハシュ・バズ

七尾旅人 ライヴ&サイン会
2012年08月25日(土)@タワーレコード梅田NU茶屋町店

ホットフィールド2012
2012年08月25日(土)@富山県 宮野運動公園
出演 : 七尾旅人 / 渋さ知らズオーケストラ / 泉谷しげる / 向井秀徳 / COOL WISE MAN / 大西ユカリ and more...

20 th Sunset Live 2012 -Love&Unity-
2012年08月31日(金)@芥屋海水浴場・キャンプ場 特設ステージ

SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER 2012
2012年09月02日(日)山梨県 山中湖交流プラザ きらら

PROFILE

七尾旅人
1998年のデビュー以来、驚異の3枚組アルバム『911fantasia』や『Rollin' Rollin'』そして最新アルバム『billion voices』で旋風を巻き起こす。唯一無二のライヴ・パフォーマンスは必見。自身のライフ・ワークと位置づけ全国各地で開催してきた弾き語り独演会「歌の事故」、全共演者と立て続けに即興対決を行う「百人組手」の二つの自主企画を軸に、各地のフェス、イベント、Ustでも伝説的ステージを生み出し続けている。開発に携わって来た自力音源配信ウェブ・サービスDIY STARSを使って2011年3月17日より「DIY HEARTS 東北関東大震災義援金募集プロジェクト」を開始した。

七尾旅人 official HP

[レヴュー] 七尾旅人

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